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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第18話 思わぬ扇動ー有翼人の国アルビオン編

凍り付いた空気に誰もが言葉を失い、静寂が部屋を包み込んだ。

痺れを切らした誰かの足音を切っ掛けに緊張の糸は切れ、私達を現実に引き戻す。

ウォーレスさんは此方の出方を窺っているのか、怪訝そうな顔のまま無言を貫いていた。

此のままでは埒が明かない、聞かれていたとしても閉口したままで解決する訳がないのだ。


「あの・・・!」


相も変わらずの無表情のままのウォーレスさんに意を決して声を掛けると、間も無くして彼を押しのけて見知った顔が背後から飛び出す。

深く頭巾を被ってはいたが、私達の顔を視認すると両手で其れをずらし、ソフィアは不思議そうに目を丸くした。


「如何かされたのですか?」


状況が呑み込めていない様子のソフィアを見て、ウォーレスさんは不愉快そうに眉を寄せ、混血を忌避してか、ソフィアから自然と距離をとると嫌悪の眼差しを向ける。

ウォーレスさんはソフィアが怯えるのを見ると目を逸らし、困り果てた様子で頭を掻いた。


「一度、身に沁みついた物を覆す事が出来る程、我も若くないのだ。それと、此度はこの娘を長の命で送り届けに来たのみ。魔獣は悪いが、直前の解放となる。そこで出立時に二頭を迎えに来て貰いたいのだが・・・」


ウォーレスさんは背を向けたまま、状況が飲み込めずに困惑するソフィアへ、一度築かれた固定概念は崩し難い物だと語ると、他を気に留める事無く命令に添い淡々と用件を述べて行く。


「まあ・・・そうだったのですね。それは、ソフィアが大変お世話になり、有難うございました。ガーランド様にも宜しくお伝えください」


ケレブリエルさんは笑顔を浮かべソフィアを手招きすると、ウォーレスさんに丁寧に礼を伝える。

まるで保護者の様と言うか、暗に早く帰るように言っている気がした。

ソフィアは私達とウォーレスさんを交互に眺めると、戸惑いながらも此方へと歩いてくる。

然し、私がダリルと言い合いをしていた時には扉は開いた、考えてみればみるほど一言も無いのが逆に不気味だ。


「・・・何か聞きませんでしたか?」


私の言葉にウォーレスさんは眉一つ動かさず無言を貫く。

暫くにらみ合いを続けていると、ウォーレスさんが突如、低い笑い声を漏らす。


「くくく・・・アメリア殿は本当に生真面目なのだな。そして、とても頑固だ。此方の気遣いが無駄になってしまったじゃないか」


何か知っている様な語り口に、聞き流そうとしてくれていた事に気付いた。

色々と図星をつかれて反論できずに悔しさで言葉に詰まる。

横目でダリルを見ると、静かに笑いを堪えて肩を震わせていた。


「うっ・・・墓穴掘った」


「まったく・・・黙していれば良いものを」


ウォーレスさんは懐から一つの魔結晶を取り出すと、拳を硬く握り締め、何かを念じる。それは青白く光り、部屋の壁に魔法陣が浮び上がらせた。


「これは、精霊避けと盗聴防止の紋を配した陣だ。記録石を形成する精霊は、我等との誓約により、世界に(まつ)わる物のみを記憶する事になっている・・・」


何とも都合が良いものが世の中に有ったものだ。


「迂闊でした・・・」


「いや、俺が悪い。それより、こんな大そうなモンを使うって事は、アンタ何か知ってんのか?」


悔やむ私の横で無言で腕を組んでいただが、罰が悪そうに頭を掻くと、ウォーレスさんを真っ直ぐ見て訊ねる。


「ああ、我も世界の観測者であり有翼人。長い年月を経てる故、現在の長より多少は力になれると思う。何といっても奴の教育係であり師であるからな」


そう言うと、何時ものむっすりとした顔が何処か誇らしげに見えると同時に意地悪な物に見える。


「は、はあ・・・」


教育係であり師匠?

あの大樹で啖呵をきった時に言っていた若輩がガーランドさんなのだろうか。

それにしても、助かるのだけれど魔道具を用意している何て用意周到すぎる気もする。


「ところで、邪神と言う言葉が聞こえた。よもや、正道を踏み外そうとしておるまいな?」


ウォーレスさんからも嫌疑の籠められた言葉がかけられ、正直に話すべきか自身の中に戸惑いが生じる。

私は世界を救う為に、新たな救いの道を求めて来た、此処で見つからなくとも邪神に膝まづく気などさらさらない。うん、はっきり言おう。


「私は一人の命を贄に保たれる世界の因果の輪を止めたい。それには二つの道の内、本来の姿に世界を戻す選択をする事が正しい感じたのです」


「策は無いのだろう?それは、ただの見苦しい命乞いでは無いか?」


策も無く、ただ不透明な希望に縋るのはやはり、ただの生への執着からの死から逃れようしているだけかも知れない。それでも、私を突き動かしているのは別にある。


「私達は身を挺し、私達へと世界を残してくれたヴェロニカとルーファスの願いに応えたいんです。彼女達の悲願をかなえたい。救う為なら、今までと同様に世界中を奔走してでも探して救って見せる!」


無鉄砲だとは思う、それでも世界を救う方法は一つじゃないと信じたいから。

私の必死の訴えに思う所が有ったのか、ウォーレスさんの眉が僅かに動く。

そうかと思うと、再び難しい顔をした後、何かに気付いたかのように目を見開き頬を引きつらせた。


「ははっ、奴め・・・あの記憶石を見せたか。それで我を使いに・・・」


一頻り笑うとウォーレスさんは悔しそうに顔を歪め、何やらブツブツと呟き出す。

挙句、其れを見る私達の視線などお構いなく何かを考え込んでしまった。


「何だ?ぶつぶつ・・・記憶石が何だってんだ」


ダリルは眉根を寄せると、怪訝そうな顔でウォーレスさんを睨むように覗き込む。

すると突如として顔を上げた為、ダリルは頭突きをくらい後退すると、痛がる様子も無く怪訝そうに片眉を吊り上げる。

如何やら何かに気付いたらしく、変わらない様に見えるウォーレスさんの顔が何処か得意げに見えた。


「本来であれば邪神の話をするなど、我等の間では禁忌の一つ。ましてやその力を利用するなど思う事すら許されぬ。その故に・・・長の口からは現状の解決策以外は提示できない。然し、妖精の両陛下から知恵を貸す様に求められている。解るか?」


やっと返事が来た事に驚いた様子のダリルだったが、何処か引っかかるらしく腕を組み首を捻り黙り込む。大人組は何かに気付いたらしく、置いてきぼり状態のソフィアに説明をしだしたようだった。

邪神の脅威を封じる際の記録、長であるガーランドさんすら話をする事を(はばか)られる程の禁忌。それを魔道具を使用しているとはいえ、平然と口にする辺りは、最初の態度から矛盾している。


「私達に闇の精霊王様を取り戻し封印を命じたのは建前で、此方を取る様に仕向けて下さったのですね」


然し、ウォーレスさんは私の答えに首を振る。


「半分正解で半分不正解だ。世界の為にも闇の精霊王を邪神側に就かせる事は早急に対処しなくてはならない。要するに今あげている策は腹案と言う訳で、両方とも必要と言う事だな」


「え・・・?」


「つまりは、闇の精霊王様を取り戻し、封印の準備を整えつつ、世界の神の力を完全な物にするようにと仰っているのよね?」


「ふ・・・流石はエルフか」


戸惑う私より早く、ケレブリエルさんが予想外の答えを導き出す。

世界の危機が進む中、双方大掛かりになるうえに、何方も無策な状態だ。

何方を選ぶかで世界に大きな影響を及ぼす。

考えが煮詰まり、深く刻まれた眉間の皺をフェリクスさんが突っつく。

距離を取り眉間を手で抑えると、フェリクスさんは微笑ましそうな表情を浮かべ、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。


「アメリアちゃん、可愛い顔がだいないしだよ。それに、長も妖精の両陛下も無理を言う方がたじゃない、はっきり言って現状は何方か一方で良いんじゃないかい」


「え、うーん、そうだとしても・・・えぐっ?!」


今度は激しく背中を叩かれる、誰かは予測がついていた為に仕返しをしようと振り向くと、ダリルに腕を掴まれた。

ダリルは私がやり返す事を想定していたのか、見抜いたと自慢するかのように得意気な顔をする。

私が何でもかんでも拳や足で反撃すると思っているのだろうか?失礼極まりない。

腕を振り払うとダリルの表情が呆れ顔から怒りへと変わった。


「馬鹿か!?お前が焦ってその場で決める事なんて碌なもんじゃねぇに決まっているだろ!」


「だ、ダリルさん、その言い方は良くないと思います・・・」


何を言いたいのか整理がつかず、感情の昂りのままに訳も無く怒鳴りつけるダリルをソフィアが脅えながらも仲裁に入る。勿論、同郷である私が此の位で縮こまる訳がない。

ダリルはソフィアの言葉に自身の間違いに気づき、気まずげに目を逸らす。

此方をチラチラと顔色を窺い見ると、最初はポツリと呟きつつも徐々に何時もの調子を取り戻す。


「あー、要はその・・・判断するより策を両方話し合おうってんだよ」


途中まで神妙な面持ちであったが、ダリルは徐々に感情が昂ったのか指を突き出し、何時もの口調でへと変える。すると、何処からともなく「馬鹿だな」と言う呟きが聞こえて来た。

此方は取り敢えずで考えていたので、間違ってはいないと思おうが、理不尽に聞こえるのは気のせいだろうか。


「考え無しって・・・無策で突っ込むほど野蛮では無いわ。当然、考えるつもりよ?」


思わず感情的になり、冷静に勤めているつもりが、少し良い方がきつかったと口を噤む。

自責にの念に駆られていると、そこで一際大きな声があがる。


「策を考えるにも、道筋をたてるにも、先ずは我の話を聞いては貰えぬかな?」


慌てて振り向いた後、私達が視線を向ける先に心底あきれたと言う表情のウォーレスさんが立っていた。



**************




そして私達は有翼人が長命なのは既に知っていたが、それを証明する驚くべき話を耳にする。


「死の間際、僅か一年であったが先代の妖精の盾である、ルーファス殿には幼少のみぎりに色々と世話になってな・・・」


過去を思い出したのか感慨に耽るようにウォーレスさんは目を細める。

僅か一年?数千年前の人間と知り合い?

色々と私達との感覚のずれに私達は目を白黒させられるも、間接的とはいえ同じ立場にあり、封印の時を間近で見た人物から聞いた話を聞けると思うと否応なしに期待が高まる。

ウォーレスさんにとっての瞬きをする一瞬の事でも、未だに記憶に残っており、こうやって語る事が出来るのだから。


「それは、魔法か武術の師事を受けていたのでしょうか?」


(はや)る気持ちを押さえ、私はウォーレスさんに話をきりだす。

ウォーレスさんは私達の顔を眺め苦笑すると、何度も首を振り大きな溜息をつく。


「いや、そんな関係では無い。酔う度に愚痴交じりの逸話を聞かされていただけだ」


まさかの事実に、記憶石で見た人物像が音を立てて砕けて行く。


「なるほど・・・どの様な話を聞かせて貰ったのでしょうか?」


「自身の英雄譚に姉の話に雑談だな。あ、然し・・・その中には深い悲しみと後悔の声も何度も混じっていたな!アメリア殿、其方と同じく、ルーファス殿も人の命の犠牲の上に立つ世界を忌み嫌っていたぞ」


「ルーファスがですか?」


ウォーレスさんは驚く私に対し、少し驚いた表情を浮かべながらも今度はゆっくりと頷く。


「だから、此れが長の仕組んだ命でなくとも、言葉を聞いて協力するつもりだった。良く出かけるので、行先を訊ねた所、彼は自身の恩恵をつてに神域に赴いているのだと教えてくれた」


「神域・・・其処に何をしに?」


神様の住まう場所、まさかルーファスは神様自身の許へと思いを叶える為だけに通っていたのだろうか?


「さあ?ただ、探求と言っていただけだ。ふむ、改めて考えれば、其方と同じ物を探していたのかも知れないな」


「そっ、其処にはどうやって?!」


「さあな、我は同行した訳では無いのでな・・・」


ウォーレスさんは残念そうに眉尻を下げるが、チラリとお腹を掻きながら堂々と眠るパックを見ると眉を吊り上げ、鼻から呼吸に合わせて収縮する気泡を割った。

パンッと破裂音が響くと、体が大きく跳ね、素っ頓狂な悲鳴がパックの口から漏れ出る。


「ほげぇっ?!」


「なるほど、女神様に最も近い存在がいる、妖精界なら神域への行き方を訊ねる事が出来るかもしれませんね」


ウォーレスさんは私の反応に目を見開くも、何か納得したような顔をして失笑する。


「意外やいがい、妖精の両陛下に気軽に訊ねるとは、其方は真に豪気な女子(おなご)だな。我は妖精界の識者にでも知恵を借りると想定していたのだが・・・」


ウォーレスさんは疑問を持つでも反対する訳7でも無く感心している。

直に何度か招かれ話をしたり、こうやって監視も付いていて、手段がある為に忘れていたが、考える必要も無く普通であれば姿を見る事も難しい存在と私達は何度も接触していたのだ。

良く考えるまでもなく、驚くのも無理はないだろう。


「パック、私達の事を報告するついでに妖精の両陛下に取り次いでもらえるかしら?」


ケレブリエルさんはしゃがみ込むと、二度寝をしようとするパックの頬を抓りながら訊ねる。


「なっ、なにひゅんだ!それが妖精に物を頼む態度なのらぁ!オイラは・・・・!」


「あら?ごめんなさい」


ケレブリエルさんがパックの頬から指を放すと、良く伸びる柔らかな頬に紅い痕が残る。

半泣きになりながらも怒りは収まらないらしく、指を立てながらケレブリエルさんを罵倒する。


「駄目だね!オイラが妖精王陛下の側近とはいえ、陛下はお忙しい方だ。早々、謁見など通せる訳ないだろ」


強引に起こされたのに加え、頬を抓られた事を根に持ってか、頬を膨らませパックは顔を逸らす。


「そこを何とかしてくださいよ、妖精の両陛下に最も信用を置かれる側近殿だからこそ、お願いしているのです」


フェリクスさんは困り果てる私達を見て唇に指を立てると、気色悪いほどの猫撫で声でパックを持ち上げる。すると忽ちパックの機嫌は治り、まんざらでもない様子で胸を張り照れ臭そうに鼻の下を指で擦った。


「オイラが・・・両陛下に?へへっ、しょうがねぇな!オイラに任せろ!代わりにコレを立ての奴に渡しておいてくれよ」


そうやって気軽に投げ渡されたのは、邪神の干渉を防ぐ鉱石が入った小箱。

ありがたいけど、もっと丁寧に扱うべきだと思う。


「ありがとう・・・頼んだからね」


腰の小型鞄から棒付きの飴を代償として、念を押す為に差し出すと、パックはさっそく口に運び、カラカラと音を立てながら舐める。其れを見て、フェリクスさんは何かを呟き、口元を抑え肩を震わせていた。


「大きく出たわりに大した助けに慣れなくてすまないな・・・」


ウォーレスさんは申し訳なさそうに私達を見る。


「いえいえ、ガーランドさんの意図を理解できたのも、神域の事を知ったのもウォーレスさんのおかげですよ」


本心からの言葉をウォーレスさんに向ける。


「そうか、この耄碌(もうろく)爺でも役に立てて幸いだ」


そう言うとウォーレスさんは魔道具を収め、私達に背を向けて手を振り去って行く。

答えはやはり探さなくてはいけないが、これで進むべき道が出来た。

翌日、私達はヒッポグリフ達を引き取り、お世話になったガーランドさん達へ色々とお礼を述べる。


「本当に多くの知恵を貸して頂き感謝が尽きません・・・」


「ふふっ、僕は妖精の両陛下の命に従っただけですよ」


ガーランドさんは素知らぬ態度をとるも、何処か不敵な笑みを私に返してくる。

然し、その背後で嫉妬の炎を燃やし、悪魔の形相を見せるクラリスさんの表情は何よりも怖かった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます!

此処の所、長めの話が続いていますが大丈夫でしょうか?

これからも当作品を見捨てずに頂ければ幸いです。

****************

次週も無事に投稿できれば12月26日18時に更新致します。

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