第8話 ペンダントー光の国カーライル王国編
私に女王様が一つの機会が与えられる、それは有翼人との接触。僅かな希望に賭ける私達、その横に佇む女王様の意思は揺るがない物だった。
それをを一変させたのは風の精霊王様の顕現。不明慮な部分が残し、盟約と女神様に纏わる古き慣習を終わらせると風の精霊王様は宣言する。
こうして、人の世に戻った私達を待っていたのは、ライラさんからの厳しいしごきと不可解な騎士達の歓迎だった。
「ダリル・・・此処は抑えて。此処で下手に攻撃を仕掛けたら、不利になるのは私達よ」
本物か成済ましか判断は難しいが、相手は国に仕える騎士。
然し、そもそも騎士が街中で外套などを纏い、身分を隠す必要は無い筈。
事情は不明だが、広く公に明かせない事情が有るのだろう。
「ちっ、そうだな・・・」
ダリルは苦虫を噛み潰したかのように険しい顔をすると、渋々と言う感じで後退する。
相手は退避するダリルを気に留めず、間合いから退くも、此方へ探りを入れる様に視線を動かすと、得物を鞘へと収めた。
気のせいか、大剣使いの騎士から私の顔に鋭い視線が突き刺さる。
それに怖気を感じ、避ける為に外套の頭巾を深く被ると、ケレブリエルさんが騎士に向かって歩み出す。
「・・・うちの子に何か様が有るのでしたら、其方から話して下さらないかしら?」
ケレブリエルさんは止めようとする私を片腕で制すると、臆す事無く騎士達へ詰め寄り、目前で立ち止まると、大剣使いの騎士を見つめ微笑みかける。
三人の騎士の内の二人は動揺を見せたが、大剣使いの騎士だけは眉を一つも動かさず凄むと、ゆっくりと語りだした。
「我々は、そこな御人を保護し、お連れする様に仰せつかっている。今ならお前達の罪を目を瞑ろう、どの様な手を使ったのか知らんが、如何か民衆が集まる前に其処の者を引き渡して貰おうか」
あくまで仲間達が私を誘拐した体で語る乱暴な物言いだ。
突然に現れて勝手に言掛りを付けたうえに、人を連れ攫おうなんて礼を欠いていないだろうか。
「誤解では・・・むっ」
皆の名誉を傷つけられた事に堪えかねた私の口をフェリクスさんの指が塞ぐ。
黙す事しかできなく眉根を寄せるも、フェリクスさんの囁きにより私達は円陣を組んだ。
「不明な部分が多すぎる。あれは完全に、アメリアちゃんが目的だよな?此処は相手に退散して頂こうじゃないの。デコ助・・・お前、そう言うの得意だろ?」
フェリクスさんはダリルを見てニヤリと笑う。
相手の望まぬ方向、つまりは人を集めると言う事か。
「何でだよ!俺が無駄に咆えているみたいな言い方するな!でも、乗ってやってもいいぞ」
フェリクスさんの要求を跳ね除けると思われていた為、これは意外やいがい。騎士達を悪い笑みを浮かべながら見ると、それを快諾した。
「あ、あの、本当に大丈夫ですか?」
ソフィアは不安そうな顔を浮かべ、二人の顔を見ながら心配そうにする中、ファウストさんは二人の思惑より早く斥候をかってでた。
「突然、人を引き留めて誘拐犯あつかいとは・・・。それでも国を護る立場の人間か?」
「・・・・」
大剣使いは眉をピクリと不快そうに吊り上げるも、仲間と顔を合わせては肩を竦めてはほくそ笑む。
周囲はぽつりぽつりと商品を運び入れる商人があつまり始めており、あと一押しと睨んだダリルが第二陣を飾る。
「おい!おっさん!こんな公の場で場所を問わず、子供を攫おう何てイカれた趣味してんな?!」
ダリルは粗暴な言い方に加え、顔まで悪い表情を浮かべると、つかつかと大剣使いに歩み寄り、相手の淡泊な反応に勢いづいてか、胸当てを軽く小突いて見せる。
然し、十分に人が集まった所で、それは一変した。
「我々は国の命による任務の妨害及び誘拐、我々への著しい名誉棄損。よって、身柄を確保し、事情を訊く為に此の者達を連行する」
大剣使いの低く良く通る声が辺りに響き、周囲の人々の視線は一気に私達へと降り注ぐ。
誰もが私達を怪訝な表情を浮かべ、此方の狙いをすっかり逆手に取られてしまったようだ。
気付けば、憲兵まで集まり、すっかり動きを封じられてしまった。
「此処は・・・大人しく従いましょう」
私は悔しさから絞り出す様に声を掛け、皆が観念する中、ダリルだけは怒りの中に後悔の混じる表情を浮かべていた。
皆が手を後ろ手に縄で縛られる中、私だけが拘束されず、騎士達は壁の様に周囲を取り囲む。
大剣使いの騎士は残りの騎士二人に何かを言づけると、慌てた様子でその場を去り、私は残る二人に挟まれながら幌馬車の前へと連れて来られた。
「何処へ連れて行くつもりですか?」
想像がつくが、わざと訊ねると、二人の騎士はキョトンと不思議そうな顔で私を見た。
何かを思案する様な表情を二人は浮かべると顔合わせ、ヒソヒソと何か小声で喋り出す。
「あれ?此奴、声が高くないか?」
「・・・まあ、何だろうと民衆の前でうちの副隊長がやった事だしな。俺達、新入りには関係ねーべ。さっさと運んで酒でも飲みに行こうや」
「いいねぇ!」
そう言うと一人がジリジリとにじり寄り、二人の様子に戸惑う私を強引に馬車へ押し込もうと手を伸ばす。その粗暴な態度に、私は反射的に相手の手を跳ね除ける。
「そんな事、必要ない・・・うっ」
鈍い衝撃を背後から当てられ頭が激しく揺れる、視界が次第に滲み、目の前の景色がぐるぐると回転し、交じり合う。
騎士同士のいざこざが聞こえる中、それすら遠のき、私の意識は静かに暗闇へと沈んでいった。
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美しい花々に高級そうな精密な刺繍が施された、柔らかく品のあるソファ、天上には豪奢なシャンデリアが垂れ下がっており、どこもかしこも普段の生活では決して目にする事の無い代物ばかりだ。
「これは間違いなく・・・尋問室ではないね」
腰に手を伸ばすと、下げていた筈の剣が無い。
如何やら、此処に連れて来られるまでに取り上げられてしまったらしい。
私を連れて来る様に命じたのは、何処の御貴族様なのかしら。
大人しくその煌びやかな部屋を眺めていると、数回のノックが響き、返事を待とうともせずに扉はゆっくりと開け放たれた。
白髪交じりの灰色の髪に茶色の瞳の老人は大剣使いの騎士を引き連れ部屋に入るなり、品定めをするかのように眼鏡の奥の氷のような鋭い目を光らせ怪訝そうに眉を顰めると、手に握った木製の杖で床をついた。
静かな部屋に低く短い音を響かせ、ずかずかと詰め寄ると、急に私の胸倉を掴みあげ、大剣使いの騎士を睨みつける。
「どういう事だ、マイク・ウェイマス副団長!此の者は女ではないか!しかも瞳の色も違う!お前達の眼は節穴か」
「・・・セルデン宰相殿。真に申し訳ございません・・・」
ウェイマス副団長は脂汗を流し苦し気に俯くと、言い訳などせずに謝罪の為、深々と頭を下げる。
セルデン宰相様は深く溜息をつくと、今度は私の方へと顔を向け、外套の襟を掴んだま睨みつけ揺さぶる。
「何故、その場で否定しなかった?さすれば、其方も連れ来られずに済んだと言うのに」
「それは、否定する余地も与えられなかったからです・・・!」
「ほう・・・真なら遺憾な話だな。まあ、下手な風評を流されては困る、不都合の無いよう取り計ろう」
セルデン宰相様の手が緩み、締め付けから解放されると鎖が跳ね、ペンダントが胸元へ引きずり出される。すると何故か、セルデン宰相様の視線がペンダントに止まり、その顔を青ざめさせた。
「お前が何故・・・それを?何処で手に入れた?」
明らかな動揺がみられるが、その瞳はぶれる事無く私に向けて突き刺さったままだ。
セルデン宰相様はペンダントを凝視し、手に取ろうとにじり寄る。
「これは幼い頃から持っていました。唯一の手掛かりだからと・・・!」
慌てて取られまいとペンダントの鎖を引くと、途端にセルデン宰相様の手は引っ込められたかと思うと固く握り締められた。
「儂は急用が出来た・・・此奴を牢に入れろ」
先程までの感情の昂りは何処へやら、セルデン宰相の感情の熱は急激に褪せ、私の事を侮蔑するように一瞥すると、ウェイマス副団長へ命令を残し部屋を去って行った。
何を考え、何を思ったのか。あまりの変わり様には疑問と共に異様だ。
如何やら彼の屋敷でも、それ以外の貴族の物でも無いらしい。そうなるとやはり、此処は王城か。
何にしろ、武器も所持していない状態ではダリルでもない限り、力づくで逃げ出すのは得策ではないだろう。
「おい、そこの娘。勘違いしておいて悪いが、宰相様の命令だ。大人しく牢まで付いて来て貰うぜ」
ウェイマス副団長自身もセルデン宰相の変わりように呆気にとられていた口を閉じ、目が覚めたような顔をすると、両手首を掴みあげる。
「・・・私を誰と見間違えて私達を捕らえたのか知りませんが、此方に抵抗する意思はありません」
今、優先すべきは仲間との合流。
城を抜け出し今、船に戻れば関係者とライラさんも共謀者と見做され、終には他の商会の面々にも悪影響を与えてしまう。もう仕事を放置した時点で既に、多大な迷惑をかけているきもするが・・・
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せめてもの温情なのか、地下に連れて来られた私は仲間の許へ戻る事が出来た。
当然、居るのは冷たい地下牢な訳なのだけど。
私は皆と合流し、此れまでの過程や事情を話すと、安堵や心配とそれぞれの反応が返って来た。
「・・・はぁ、なるほどな」
てっきり何の抵抗も交渉もせずに牢に入れられた私を何時もの調子でどやすと思いきや、ダリルは不貞腐れた表情のまま壁を見つめている。
「何あれ?如何したの?」
皆に問いかけるも、反応はそれぞれ。
フェリクスさんはニヤニヤと意地悪く笑い、ケレブリエルさんは呆れ切った表情で肩を竦める。
「あ、えっと・・・ダリルさんにも色々と悩み事が有るみたいで・・・」
ソフィアは困った様な表情を浮かべ、私とダリルを交互に見る。
一人を除き、皆がダリルを気遣うような様子を見せる中、ファウストさんは失笑する。
「ああ、あれは彼なりに責任を感じているんだよ。自分のせいで捕らわれたのではないかとか、君が酷い目に遭わされているのではないかと思ってね」
「ち、違う!牢に入れられた事だけだ・・・アメリアの心配なんてこれっぽっちもしてねぇよ!」
ダリルはファウストさんに揶揄われ、赤面しながら捲し立てながら抗議する。
反省して大人しくなったと思いきや、やはりダリルは変わらないままだった。
元気なようで安心したけど、何故か周囲からの目線が生暖かい。
「それじゃあ、看守も居ない事だし、当面の目標として大人しく国側の裁定が下るのを待つかだけど」
「ただ待つだけでは埒が明かない。勘違いをして強引に連行し、牢へ入れたのは彼方だ、冤罪な訳だし僕はそれを盾に釈放を願い出る準備をし、挑む事を薦めるね」
ファウストさんの考えは堅実だ、ただふつふつと沸き上がって来た憤りも不安要素も拭えなかった。
冤罪を擦り付け無実の人間を投獄した挙句、謝罪も取り計いも口だけで一切ない。
セルデン宰相様達とのやりとりを思い浮かべ、異様な反応を示したペンダントを思い出す。
私は壁にもたれ掛り、襟元から鎖を引き出すと、ペンダントトップを指先で転がしながら眺める。
私からすれば、変わった模様がついているが何の変哲の無いペンダントなのだけど・・・
「・・・それが一番安全かもしれませんね。ただ、相手は交渉どころか会話が成立するかが怪しいですけど」
「俺はさっさと、こんな牢を出た方が良い気がするけどな。いっそ、ソフィアに歌をうたって貰って、その隙に逃げちまうか?」
ダリルは牢屋生活に辟易したらしく、胡坐をかきながら苛々と指先で自身の膝を叩く。
「えっ、あ・・・アタシですか?そんな事したら脱獄犯として追われる身になってしまうじゃありませんかー!」
ダリルの冗談交じりの提案にソフィアは真剣に豹所を浮かべ、顔を青褪めさせると、慌てた様子でダリルに反発した。
そんな二人を眺めつつ、進展の見えない現状は自分達以外の人の気配は在らず、待てど静まり返り、確かに手持ち無沙汰だ。
掌でペンダントトップを転がしながら眺めていると、遠くから足音が響いて来る。
看守か、それとも・・・
牢屋に居る誰もが無口になり、自然と視線が鉄格子の先へと向く。
蝋燭の小さな暖色系の灯りが灰色の地下牢をぼんやりと照らし、その正体を薄明りの中に晒す。
長い深緑の外套に目深まで被った頭巾、宰相様で無ければ看守でも無く、何やら大きな袋を重そうに引き摺っているようだが、騎士団員の誰かでも無いようだ。
私達の牢の前でその人物は立ち止まると、ゆっくりと頭巾を捲り上げる、黒髪に仮面と何処か覚えのある特徴が見えてくるが言い知れぬ違和感が込み上げて来る。
「・・・貴方は誰なの?」
私がそう疑問を投げかけると、外套を纏った人物の口元がゆっくりと弧を描いた。
本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます。
そして新たにブックマーク登録までして頂けて本当に感謝の極み!
今後も精進して行く所存ですので、宜しければ今後もお付き合い頂けたら此れ幸いです。
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来週も無事に投稿できれば、10月17日18時に更新致します。




