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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第7章 世界への接触
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第6話 盟約ー妖精の国ティルノナーグ編

何度も繰り返される悪夢、それが自分の過去だと思い始めたのは何時からだろう。

それは幾つもの記憶の断片、始めは現実かどうかもつかず、それでも頭に残り、ただ私の心に(わだかま)りを生む。

そして、其れが現実の物だと確信できたのは、精霊王の裏切りの目の当たりにすると言う衝撃的な一場面。

理解しきれず困惑する中、気付けば自分を助けてくれた一人とレックスの姿が重なって見えていた。確信がある訳では無かった、然し疑問は衝動的に口から漏れ出た。

賭けともいえる其れは、今も彼等が傍にいた事を私に気付かせる。喜ばしい再会が(もたら)したのは兄妹や恩人との再会だけでは無く、自身の出生とその経緯が神話になぞられた悲劇に全てが起因すると言う事実だった。

気付かずに過ごす私を近くで見ていて、レックスとフェリクスさんは黙ったまま何を思い、何を考えて私達に同行していたのだろうか?私が口にしなければ、隠されたままだったのかも知れない。

未だに明かされない秘密は在れど、緩やかに温かな感情は芽生え始めれいた。

それを、自らを殺して欲しいと願う兄の言葉に踏み躙られるまでは。


「な・・・何て事を条件にするの!解くのが困難って・・・有るかも知れないじゃない!何で諦めてるのよ!」


こんな交換条件をのむだなんて、初めから聞かせずに事後申告何て身勝手だ。

自己満足かも知れない、私はただ真実を知りたかった。思えば盗聴防止の魔道具が用意されていた時点でレックスの気持ちは固まっていたのかも知れない。

本人の覚悟は固まっていても、此れはあまりにも唐突で残酷すぎる。

焦り捲し立てる私を見たレックスは辟易と言った顔で溜息をつく。


「これは、慢心していた俺の失態。自身でケジメを付けよう俺も努力した。けれど、妖精のどの医師も、両陛下すら打つ手がないと仰っていたんだ」


「そんな言い訳・・・何で私なのよ・・・」


妖精の国を治め、女神様を支える力を持つ王様と女王様まで対処できない何て・・・

打ちひしがれる中に諦めたくないと言う気持ちが膨らみ、悲しみと怒りから握り締める拳が震えた。

レックスは頭を掻きむしり眉根を寄せると、苦しげな表情でベッドへ拳を叩きつける。

食い下がる私の腕へ、必死の形相で掴み掛かった。


「我儘を言わないでくれ!この魔物は邪神の呪詛だ頼む!お前にしか頼めない、どうか俺を・・・人間として死なせてくれ・・・」


「・・・・っ!」


あまりの気迫に気圧され、私は言葉を失ってしまう。

然し、僅かに生じた静寂は、空を切りレックスの頬を打つフェリクスさんの拳によって破られた。


「やはり、オレは納得いかないね!先に伝達を聞いていたが、何を一人で勝手に絶望してる?言いたくなかったが、大切な妹に自分を殺させようなんて、最低の屑兄貴だ!」


フェリクスさんは殴った拳を突き上げたまま見た事も無い形相で怒り、両者は其のまま睨みあう。

殴られたレックス自身は直ぐに俯き黙り込むが、やりかえそうと上げられた拳はベッドに沈んだ。


「ははっ、最低だって解っているさ・・・」


レックスは怪しく笑うと、杖を具現化させ、自らの喉元に突きつける。

何が兄を突然に卑屈にしたのだろうか、何だか逆に怒りが沸々と湧き上がって来た。


「私も義理とはいえ妹がいる、味覚音痴で暗黒物質を作る様な妹だけど大切な家族よ。目上の者としての気持ちは解る、だからこそ私は心配を掛けたり悲しませる様な事はしないし、させない。此処にないなら探してあげる!」


光を灯す杖先に私とフェリクスさんが手を伸ばした次の瞬間だった。

眩い閃光が走ると同時に、レックスの杖が部屋の隅へ弾かれ床に転がる。

カラカラと乾いた音をたて転がる杖に気を取られていると、すらりと長い足が目の前に飛び込んで来た。

何者かと怪しむ私達の耳に聞き覚えのある女性の声が響く。


「愛し仔よ・・・其方は本当に嘘が下手だな。このまま、生涯の別れをしようなど妾は許可せぬぞ」


「・・・嘘?!」


輝く美しい一対の青緑の翅、白いドレスに栄える青銀の髪が風も無いのにふわりと揺れる。

見上げると其処には釣り目気味の銀の瞳を愉快そうに光らせ、口元で弧を描く女王、ティターニア様の姿が在った。



*************



想像もしていなかった突然の来訪者に私とフェリクスさんは息を飲むと、ゆっくりとレックスへと視線を向ける。


「レックス・・・嘘とは如何言う事?」


「・・・・・」


本人の口から事情を訊きたくて問うも、レックスは無言のまま気まずげに顔を背けるのみ。

どんな嘘をついているのか、正直に話して欲しいだけなのに。

何とも形容しがたい空気が狭い病室に漂う。それを女王様は一笑に付した。


「はっ、たかが人が作った魔道具で謀れると思ったのか?妾の眼や耳は此の国の何処にでも存在する。お前の(はかりごと)など妖精達を通じて筒抜けよ、成功する事など初めから有り得ぬのだ。そして、察するに事の要因は奴の肩に憑いた分霊の事だろう?」


「分霊・・・は、はい!」


魔物では無く霊?


「レックスは魔物と言ったが、神霊を分け与えたもの。要は邪神の魂の一部を分けた物だよ」


困惑をする私にフェリクスさんはこっそりと教えてくれた。

例え邪神が関わっていようと関係ない、私に自分を殺す様にと条件として差し出した意図が全く解らない。レックスは只管に沈黙を続けていたが、再び背中を丸め肩を掴み、苦し気に息をする。


「・・・レックス」


「ふん・・・馬鹿め、お前を妾達はソノ日まで決して死なせはしない。此処で話さずとも何れは妾か王の口から、此の者にお前を救う命が下っていたであろう」


全てを悟った女王(ティターニア)の言葉に、レックスは悔し気に顔を上げる。

私は息を飲み、僅かな希望の兆しに縋るように声を絞り出した。


「それは、彼を救う道があると言う事でしょうか?」


思いあまって発した問いかけに返って来たのは、女王様の冷たい視線だった。

暫しの沈黙の後、溜息をついたかと思うと少しだけ表情が緩んだ。


「まあ、良いか・・・質問をする事を許そう。此の者を救う方法ならある、その方法なら既にお前達に話した筈なのだがな」


「それは・・・ぐ・・・っ」


レックスは女王様の言葉を聞くなり慌てた様子で肩を押さえ、呻きながら体を起こそうとする。

然し、女王様は僅かにレックスを見るも、あまり気に留める様子も無く、眉一つ動かさず淡々と話しを続ける。


「剣よ、全ての精霊王との盟約を結ぶのだ。女神の力を得れば、奴の分御霊など露ほどでも無い。それに暢気に構えている場合では無いのは判るだろう?」


やはり、レックスの体蝕む者に対抗しうる力は女神様の御力が必要なのね。

女神様に体をお貸しするのは問題ない、しかしその目前には大きな壁がある。

盟約を結んだところで、間に合うか如何かだけど・・・


「・・・はい」


私は山の村を出て、光の精霊王様に出会い、本来の日々を捨てて女神様から啓示を受けたのは、義務感でも英雄への憧れでもない。私を育ててくれた人々、何も顧みずに共に戦う皆とこの世界で生きて行きたいからだ。


「ま・・・待てっ!全ての精霊王様と盟約を結び、依代となると言う事はお前が・・・お前自身が消えるんだぞ!」


レックスは苦痛に耐え、必死に叫ぶ。

徒ならぬ様子に女王様へ視線を移すと、くだらないと言わんばかりに其れを嘲笑した。


「やはり・・・動機はソレか。お前は個の情で世界を亡ぼせと言うのか?既に世界は甘えた考えを許す程、余力はない。選ぶ道は限らている。当然、お前の命運もな」


「それはっ・・・」


其処まで、この世界が危うい状態にあるとは想像以上だ。

女王様の言葉を受けても、未だに自信を犠牲にしようとする兄に呆れつつ、私は二人の間に立った。


「女王陛下、少し・・・発言よろしいでしょうか?」


「・・・ふむ、申してみろ」


「全ての精霊王様と盟約をと仰いましたよね?」


「ああ、そうだ。まさか、できぬと言うのではあるまいな?」


「その、まさかです。何故なら、闇の精霊王様は自らの御意思で邪神側へと就かれた今、兄の容態を鑑みて、とても間に合うとは思えません」


時間稼ぎでも、怖気ついた訳でも無い、あの闇の精霊王様を取り戻し、レックスを救うにも猶予は無いと感じたからだ。此処にて初めて女王様の表情が崩れる。

一瞬だけ眉根を寄せたかと思うと、掴み掛からんばかりに私へ許へ詰め寄って来た。


「剣よ・・・お前、闇の精霊王が奴に(くみ)したと言うのか?!」


如何やら、闇の精霊王様が邪神の使徒達に見方をしている事には気付いていたがらしいが、自らとは知らなかったらしい。


「ええ、此処を訪れる以前、私達は闇の精霊王様の裏切りに遭い、闇の国を追われて命からがら逃げ伸びる事が出来ました。そこに居る、レックスのおかげです・・・」


女王様は私越しにレックスを見ると、眉根を寄せながら黙考する。

凍り付く空気の中、女王様は深い溜息をついた。


「・・・妾は不安要素は潰すべきと考えている。然し、それが難しいのならば固執するのは愚策だな。然し・・・剣よ」


「・・・はい」


「光の国カーライルへ急げ、女王の眷族であり光の地の守護者である有翼族に会うと良い、手掛かりが有れば知識を貸すよう、妾が計らおう。ただし、それはあくまで腹案、盟約を結ぶ事を第一と考えている。その時はフェリクスを頼り妾達の許へ訪ねると良い」


解決への答えは変わらないが、如何やら私達の為に可能性を一つ与えてくれたらしい。

それならばl私も精一杯応えよう。


「承知致しました。必ずや期待に応え、レックスも護って見せます」


「ふっ、護る?これでは形無しと言う物だな。なあ、愛し仔よ」


思わず向いた矛先に目を白黒させ、悔し気に顔を顰めるレックス。

必ず救って見せよう出来得る限り、望みが失われない限り。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真にありがとうございます!

まだまだ続きますので、宜しければ此れからもお付き合い頂けると幸いです。

***********

次回も無事に更新できれば、10月3日18時に更新致します。

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