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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第72話 無邪気な狂人ー闇の国テッラノックス編

闇の精霊王様の裏切りを知っても尚、おいそれ言われるままに退却した事はやはり悔やまれてならない。

闇の精霊王様が何故に邪神へと寝返ったのか、知る事が出来ればと悶々と繰り返す事に嫌気が差し振り切る為に頭を左右に振る。

勝手に自問自答を繰り返していた為か、流石に隣に座っていたダリルに怪訝な目で見られてしまった。

如何にか必死に誤魔化しダリルから目を逸らす。ふと、レックスの姿が目に止まった。

その仮面から覗く銀の瞳を見ている内に、祭殿で垣間見た素顔を思い出す。

繰り返し夢で見た過去の一部分、その中で見た一人の人物に不思議と姿が重なって見えた。


「・・・何を見ている?」


レックスは私の視線に気付き、長く見つめ過ぎたのか、怪訝そうな表情を浮かべ訊ねて来た。


「えーっと。実は私、記憶が無いんだ。でも、無いのは十年以上前の記憶なんだけどね」


「あー、何で今更そんな・・・痛ぇっ!」


ダリルの横やりを無言で足を踏みつけた私の様子を見てレックスは苦笑する。


「記憶が無いのは解ったが、何でそんな話を俺にする?あまりその手の事に詮索する気はないが・・・」


正直、如何でも良いと興味無さげなレックスに躊躇したが、こんな風に向き合って話せる機会は少ないだろう。私はかまわず話を続ける事にした。


「ごめん、如何しても聞いて欲しくて・・・。幼い私は山賊の襲撃に遭い家族を一人失い、必死の思いで二人の少年に連れられ逃走し、私は闇の精霊王様の力に捕らわれ谷底に転落したの。その時の二人の内、一人が貴方にとても似ている気がするんだ・・・」


レックスは予想に反し静かに最後まで耳を傾けてくれた、私の返答を待つ姿に呆れたのか肩を竦めて失笑されてしまった。


「そう・・・か・・・。悪いが、憶えが無いな」


気を使ってくれたのか、レックスは困った様な目で此方を見た。


「そ、そうだよね。突然、変な事を言ってごめん!気にしないで!」


「・・・・・」


勘違いや思い込みだった、そう思うと急に恥ずかしさと気まずさが込み上げてきた。

レックスは此方を少しだけ見ると、何も言わずその場から離れていく。

ダリルに励まされながらふと思う、如何してレックスにあんな事を訊いたのだろうと。



**************



溜息を一息ついて空を見上げると、突き上げるような振動の後、光の柱が雲を貫き閃光が空一面を覆い尽くした。

森が一瞬で真昼の様に明るく照らされたかと思うと、光が退くと同時に雲も流れ、霞がかった星空が姿をのぞかせた。

思い返せば光の柱が出現は王都方面、そうなると大本は祭殿で間違いないだろう。


「おい、アメリア!」


「・・・解ってる」


何が起きたのかは知る由は無いが、今は自分が出来る事をする為に動くしかない。

誰もが空に釘つけになる中、ケレブリエルさん達だけは目を逸らさず、枯葉の上で横たわり静かに寝息を立てるクロエへと視線は注がれていた。


「最初は何かに怯えて混乱している様だったけど、ソフィアのおかげで落ち着いたみたいよ」


「そう・・・さすがソフィアね」


「い、いえ・・・その当然の事をしたまでですっ」


ソフィアはもじもじと嬉しそうにはにかむ。

私達が遣り取りをする最中、フェリクスさんはクロエへと視線を落とすと目を逸らし何か考えに耽っている様だが、私達の視線に気付くと口角を僅かに上げた。


「ソフィア、警戒だけは忘れないでね。確かに治療は正解だと思うけど、此処は大怪我をした女の子一人が治療も受けないまま、歩いてこれる場所とは思えないもの」


傷ついた者に等しく手を差し伸べる精神は素晴らしいと思う、ソフィアも長く世界を旅をして来たからこそ、その危うさに気付けるはずだ。ソフィアは私の言葉に顔を曇らせる。


「確かに過信は判断を鈍らせます。然し、カルメンは彼女に利用価値があると言いました。もし、それが今なら彼女には冤罪になると思います」


「そうだね、そう言う可能性は無い訳じゃないし、だから私は否定しない。ソフィアは如何なの?」


「それは・・・」


ソフィアは否定をしようと口を動かすが、何か衝撃を受けた様に静止すると俯いた。

フェリクスさんは私達の間で視線を泳がせ苦笑すると、ソフィアの肩をポンと優しく叩いた。


「何方が正しいか解らない、それなら如何すべきと思う?論より証拠ってやつさ。まあ、一番にやるべきは仲直りだとお兄さんは思うな!」


フェリクスさんは私達二人を見比べるように見ると満面の笑みを浮かべた。

喧嘩と言う程じゃないけど・・・

そう思いつつ私とソフィアは顔を見合わせる。


「ごめんなさい、言い方がきつかったかも・・・痛っ!」


「いえいえ!アタシもムキになってしまって・・・。その、ごめんなさ・・・きゃっ・・!」


お互いに謝り、頭を上げた所で額どうしが衝突、じんじんと来る痛みに互いにしゃがみ込みながら頭を抑える。フェリクスさんの笑い声が聞こえる中、ケレブリエルさんの咳払いが響く。


「見張る気が無いなら、二人の手伝いをしたら如何かしら?」


ケレブリエルさんの醸し出す冷気にフェリクスさんだけでは無く、私達まで凍りついた。



***************



「それじゃあ、散策に行きますか!」


「はい!」


ソフィアは小さく頷く、そして再びのフェリクスさんの満面の笑顔である。


「ほ・・・ホクホクね」


「あー?何時もの病気だろ?ほっとけあんな奴・・・!」


ダリルはフェリクスさんを塵を見るような目で見ると、面倒くさそうに吐き捨てた。


「何でお前が来るんだよ・・・」


フェリクスさんは無表情のまま、恨めし気にダリルへにじり寄る。


「あ?仲間なんだから当然だろ?それよか、変な音がしねぇ?」


ダリルにつられ、森へ耳を澄ませていると、草木を掻き分けながら此方へと近付く足音が響いてきた。

そして、フェリクスさんの思惑は完全に粉砕するのである。


「付近を調べたが血痕が幾つかと魔物すら見なかったな・・・」


レックスがファウストさんを引きつれながら木の枝を掻き分け姿を現した。

二人ともどこか気だるげな様子で切り株に目を付けると、ドカリと腰を下ろす。


「森は何処も同じ風景だ。迷いやすいが、如何にか海への方向の見当がついた。所で、僕達が偵察

に行っている間、クロエの様子は如何だ?」


ファウストさんはクロエを意識しつつ、小声で私達に向けて訊ねる。


「如何・・・ですか。時折、うなされている様ですが今は眠っています」


「そうか、ありがとう。ソフィア・・・」


問題なく過ぎた事にファウストさんが安堵の息を漏らす中、レックスだけは未だに杖を握り、緊張した面持ちで森を警戒している。


「闇の魔法の主な物は魅了、幻覚に死霊術に人や魔物問わず作用する傀儡術。どんな事が起きようと、躊躇してはならない。最良を選べ」


そう告げると、レックスは黙々とクロエの許へと歩いて行く。

然し、その歩みは一点を見つめたままピタリと止まる。


「これは・・・?」


珍しくレックスの声に困惑の色が見える、気になり駆け寄るとクロエの代わりにケレブリエルさんが魔物の糸に絡み取られ地面に転がっていた。ケレブリエルさんは私達に気付くと、目を見開き必死にくぐもった叫び声をあげた。


「・・・う・・・上っ!」


何のことか解らずとも直感的に剣を引き抜き振り返る、すると巨大な蜘蛛が此方に糸を伸ばし垂れ下がって来た。鋭く硬質な顎を私は剣で受け止め、腹部を勢いよく殴り飛ばした。

嫌な感触に怖気を感じながらも拳を相手の体に沈み込ませる、聞くに堪えない悲鳴が上がり、それは近くの木の幹に追突し、見るも無残な骸と化す。

改めてみると、その背面には仮面の様な不気味な人の顔がついていた。


「見た事も無い魔物ね・・・」


ふと、祭殿で戦った気味の悪い合成の魔物の姿が脳裏に浮かぶ。

屍を魔物を組み合わせ、自らもその一部として襲い掛かって来た狂人の姿を思い出した。

敵が生き延びた可能性がでて来た事で頬が引きつる。

魔物を操り、逃亡したクロエを取り戻しに来たと考えも無くはないが、相手側からすれば私達も殲滅すべき相手だ。何故、拘束のみで済ませたのだろう?


「・・・おい、ケレブリエル。何を見た?」


ダリルは嫌悪感を特に隠さず、その死骸を蹴り飛ばすと、ケレブリエルさんを拘束する意図を引き千切った後、ゆっくりと訊ねる。ケレブリエルさんは私達を見た後にソフィアを見て逡巡するが、戸惑いを振り払い意を決した様に襲撃犯の名を告げる。


「魔物を影から呼び出し、私を襲ったのはクロエよ・・・」


その一言に対する反応は千差万別、驚く者に確信を得る者と反応は様々だ。

ダリルは苛立ったように舌打ちをする。


「これで決まりだな!仲間を連れて来られる前にとっとと移動しようぜ。こんな動きが制限される場所で囲まれたら敵わねえしなっ」


「うむ、君にしては尤もな意見だ。僕も此処ではあまり役に立てそうにないしな」


ダリルの意見にファウストさんは何度も頷く。


()()()()()だとぉ?」


苛立つダリルを無視して受け流すと、ソフィアは気合の入った顔で私達を見て杖を強く握り締めた。


「皆さん・・・クロエさんを探しに行きましょう!」


ソフィアから力強く発せられた言葉に一同、目を丸くする。


「ソフィア、おっめぇ・・・意外と根性あるんだな!」


ダリルはづかづかとソフィアに駆け寄ると額の角を指先で弾き、睨みつける。

ソフィアは圧倒され(おのの)くも、怯えながらダリルの顔を見て頷く。


「そ、そうですか?」


「デコ助!そんな立派なデコなのに、か弱い女性を乱暴に扱ってはいけないと解らないのか?」


「うっせ!デコ言うな!」


フェリクスさんが仲裁に入るが、余計な面倒を増やす結果になってしまった。

あまりこの状況で騒がれても、此方の位置を報せたり、魔物を呼び寄せかねないかねない。

此処は強引に決めて、二人の気を散らすしかないかな。


「はい!終了!状況的に此処を通る事を特定されていると思って間違いないわ。それと行先もよ。だから、こんな所で喧嘩している場合じゃないからねっ」


「つまりは戦闘に備えておけと言う事だ。他に案が有る者はいるか?」


然し、レオカディオさんの誘導では無いとは言い切れない、しかし思い返せばクロエを連れ去ったのはカルメンだ。闇の精霊王様へ執心する彼女だが、例え何かあろうと主として背後に邪神が存在する。

どの事態にも対応できるように備えておくべきね。

私達は野営地を片付け形跡を消しつつ地面を眺めると、挑戦状の様に残る魔物とクロエの足跡を発見できた。

誰もが其れを疑い眉を顰めるも覚悟を決め、迷いなく海を目指し歩き出した。



**********



日が完全に落ちきり、森はますます闇の支配を強めて行った。

簡易的な作りの松明を手に、弱々しい明かりを頼りに草木を掻き分け森を進む。

緊張と静寂の中、その得も言われぬ違和感に気付く。草木の騒めきおろか、動物や魔物気配すらない。

耳にするのは私達の土や枝葉を踏みしめ歩く足音と息遣いのみ。

ファウストさんは半獣人ゆえか音だけでは無く臭いにも敏感らしく、風に鼻を鳴らすと、潮の香りがすると知らせてくれた。


「少し広くなりましたね・・・」


そうは言っても広場と言うより大通りと言った所だ。

木も草も無く、何か大型の魔物が這った後のようにも見える。


「ああ、これは丁重なお誘いだねぇ。お兄さん、そう言うの嫌いじゃなよ・・・うぐっ!まさかのデコ助・・・」


緊張感漂う空気の中、ダリルがフェリクスさんの背中を蹴り飛ばす。フェリクスさんは脛と手を激しく打地面に打ち付け四つん這いになった。


「馬鹿かてめぇは・・・」


緊張感を解そうとしたのにと言い訳を聞かされるが流石に喧嘩は起こらなかった。フェリクスさんは土を掃い、のろのろと起き上がろうとして動きを止めた。


「足跡が消えているね・・・それに・・・」


フェリクスさんの言葉に視線の先を松明で照らすと、明かりの中にぼんやりと一人の少女の姿が浮かびあがる。


「ひっ・・・!」


いっさい気配は無かった、それにも拘らず間近に少女は、クロエは立っていたのだ。

たじろき後退り、剣を構えるが彼女は微動だにしない。

クロエの目には光がなく、魔族の命と呼べる片方の角がどろりと溶け落ち、体を木の葉のように揺らすと、脱力し崩れ落ちるように倒れ込む。

咄嗟に抱き留めると僅かだが体温が伝わる、一応は生きている様だが呼吸が弱い。


「誰か!クロエを連れて後方へ!ソフィア、治療をお願い!」


辺りを警戒しつつ、慌てて叫ぶように呼び掛けるとダリルは奪う様にクロエを抱き寄せた。

あんなにクロエを警戒していたわりに、率先して助けてくれてなんて意外ね。


「俺が引き受ける!アメリア、頼んだぞ!」


ダリルはクロエを抱き上げると、術技で飛び跳ねる様に後退して行った。

もう此処まで来れば、誰が黒幕か確信が持てる。人、しかも生きている人間にも規制の様な事が出来るのは予想外だったけど。

目の前には融けたクロエの角、私が剣を其れに突きつけると、何処に潜んでいたのか、大量の奇妙な魔物が這い出て来た。


「・・・ルシアノ」


名前を呼ぶと融けた角が泡立ち膨張する、触手の様に伸ばし森から這い出てきた同胞を絡めとり、人と魔物を合成した様な奇妙な姿を取る。

周囲の魔物も一瞬はたじろぐが、主が姿を現した事を歓喜の声を挙げた。

その消魂(けたたま)しい鳴き声に呼ばれ、魔物は数を増やし私達を包囲する。


「よく、僕とわかったね。上手く死を偽装できたと思ったんだけどなー。ちなみにその剣で僕を切り刻もうと、無駄だよ?予備は幾らでも作れるしさ」


ルシアノは何処か残念そうにしたかと思うと私達を見下し、したり顔を浮かべる。


「・・・そう。悪いけど、貴方の実験に付き合う暇は無いのよ」


不気味な空の下、こんな正気の沙汰とは思えないものを見せ付けられるとはね。

闇の精霊王様の気配も力も感じられない。

ただ、ルシアノの無邪気な態度が不気味だった。


「えー、つまんないじゃないか!カルメンは闇の精霊王につきっきりで遊んでくれないしさ。ねぇ、部品(おもちゃ)になってよ!」


やはり体が替わろうと、ルシアノの自身に変わり無い。

ルシアノが物欲しげに手を伸ばしたかと思うと、其の手は金属の鉤爪となり、顔を目掛けて飛んできた。

私が其れを剣でいなすと、魔物達の殺気は濃くなり、目を赤く光らせながら狂ったように咆哮を上げる。


「断るっ!」


拒否の言葉もルシアノには届かず、魔物の群が一斉に私達へと襲い掛かる。

仲間は五人、魔物の数は把握できないがこのまま殲滅しきれるかは断言できそうにない。

否、殲滅をしなければ二日も身を潜め、港から乗船するなど不可能に違いない。

主であるルシアノは大きな魔物の背に跨り、欠伸をしながら誰の此れを其れをと指さし、嬉しそうに魔物に指示を出す。


「話す事はできても言葉が通じないとは面倒臭ぇ、随分と()めてんじゃねぇか・・・」


ダリルはルシアノを見上げ、抑えきれない苛立ちを発散する様に近づいて来た魔物を拳で粉砕する。

魔物は一撃で腐った果実の様に潰れ、後を追う様に次々と新たな魔物が押し寄せてきた。

確かにルシアノには言葉が響いていない、ただ欲望のままに人や魔物を切り刻み冒涜しているのだ。


「全く・・・初めから解り切っていた通りね。皆!」


皆の士気を上げようと発した呼声に、威勢の良い声が一斉に返って来る。

ルシアノを護るものに命令のままに突進してくるもの、正直、ルシアノが御しきれているのか解らない数の魔物が押し寄せて来る。其れのどれもが醜悪で、魔物に動物にと何もかも混ざり合うアンバランスな姿だ。

私とフェリクスさんが切り払い、ダリルによる拳や蹴りとファウストさんの石人形(ゴーレム)による一掃、そして追撃のケレブリエルさんの魔法が魔物の群を引き裂く・・・筈だった。


「魔法が・・・精霊が応えてくれない?」


ケレブリエルさんの声から困惑しているのが窺える。


「大丈夫ですかっ?!」


私は心配のあまりに思わず振り返る、しかし・・・


「振り向かないで!」


突然の叱責に驚き前を向くと、黒い(もや)を放つ口の化け物の様な魔物が迫っていた。

八つに別れた顎の内側には無数の牙、咄嗟に剣を振り上げ、魔物を引き裂くが剣は精霊による光では無く、僅かな月光を反射し煌めいた。

何故か魔法が、加護が発動していない?!


「・・・くっ。武器を扱える面々は四人を囲む陣形を!落ち着いて!」


私と同様に魔法が使えなくなり、戦えなくなった三人、そしてクロエを囲む様に陣形を組み直す。今は僅かな動揺すら、死に直結しかねないのだから。


「へぇ、穢れにあれだけ浸かったのに粘るじゃないの?まあ、魔法が使えないなら都合が良いなぁー!本当に闇の精霊王様サマだねっ」


ルシアノはまるで其の事に私達が気付き動揺するのを待っていたとばかりに目を輝かせ、愉快そうに顔を歪め嘲る。積み重なった魔物の死骸の山から新たに巨大な魔物を生み出した。

私達が必死に抗うのを楽しむかのように。


「それなら、此れではどうだろうか?」


一気に大気に熱が籠る、火の粉が風に舞い炎の蝶が群れを成す。

蝶・・・いや、火の妖精(イグニス)だ。


「何だよ!そんなスゲーのが有るならさっさと使えよな!」


魔物を一掃する壮観な光景に誰もが驚嘆の声を挙げる中、ダリルが興奮気味に叫ぶ。

勿論、当の本人は鼻にもかけていない様だけど。

暗闇を紅く染める輪舞(ロンド)は大きく踊りの輪を広げながら、周囲の魔物を焼き払う。

幾つもの灰の山を築く中、其れは突如として舞い上がり、空気を求めるかのようにルシアノを乗せた魔物が飛翔する。


「何て事を!まーた、やったな!許さないんだからな!」


ヒステリックで稚拙な(そし)りを浴びせられるも、レックスは無言のまま皮肉めいた笑みを浮かべている。


「このままルシアノを・・・!」


「その必要は無い・・・」


レックスは静かに首を横に振る。

何か様子が可笑しい、私が訝し気に眉根を寄せるとレックスは天に光球を放った。


「その必要が無いとはどういう事なの?」


「・・・そのままだ。魔法を封じられ、戦う事も出来ないお荷物は必要ない」


此方に一目もくれず、吐き捨てられた言葉の理不尽さに瀬無さと怒りが込み上げてきた。


「レックス・・・」


「何だよ!まだ戦える奴が居るじゃねぇか!」


ダリルがレックスの肩を掴もうとするが、その手はフェリクスさんに止められる。

フェリクスさんは何時になく真剣な表情を浮かべると、ダリルを怒鳴りつけた。


「やめろ、デコ助!」


睨みあいを繰り広げる二人を横目に、ファウストさんだけは冷静にレックスの真意を問う。


「今の僕達が足手まといなのは認める。然し、君はこの状況で何をするつもりなんだ?」


ファウストさんの問いにレックスが「それは・・・」と答えようとするが其れは遮られる。


「仲間割れはお終い?暇が出来たなら代わりに此の子達と遊んであげてね」


地面を震わせ、木々が次々と薙ぎ倒され、先程と比べ物にならない数の魔物が姿を現し大挙する。

無邪気で世にも残酷な笑顔。

レックスは静かに舌打ちをすると、何故か私の顔をただジッと見つめる。


「過去を思い出したと言ったな。お前を連れて逃げた二人は激しく後悔した事だろう。そして今、「二度と同じ(てつ)は踏まない」と心に誓っている」


突然、思いだしたかのように言い放たれた言葉に私は激しく胸を打つ。まさか・・・?!


「待って!そんな事はさせない!」


焦る私の手は空を切る。


「ファウスト、此れが答えだ。我は王と女王の代行者 時空に舞う同胞よ 我が呼び声に応えよ 【時空の妖精】!」


視界を覆う程の白銀の光の粒と蝶の様な翅を持つ妖精が「任せられてやるぜぇ」と見た目と不相応の口調でレックスの召喚に答え舞い踊る。

次第に私達は妖精に囲まれ前後不覚となり、渦を巻く時空へと呑まれて行った。

闇の国編も最後となり、かなり長くなりましたが、如何でしょうか?

今回も最後まで読んで頂けて感謝が尽きません。

それではまだまだ続くので、お付き合い頂けたら幸いです。


**********

次回も無事に投稿できれば8月15日の18時に更新致します。

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