第1話 旅立ちへの兆しと心得
※オリジナル設定を多く含みます。
澄んだ空気と柔らかい光が村に降り注ぐ中を全力で駆ける、緩く癖の着いた髪が頬を撫でるのが気持ちいい。
流石に朝が早いだけもあり、見かける人影は殆どなく聞こえるのは小鳥の囀りと…
「ほれ、集中しろ!」
祖父の怒鳴り声。
そこへ前方から此方に手を振る小さな人影が見えてきた。
小人族の郵便屋のバージルさんだ。
「アメリアちゃん、丁度よかった。お手紙が届いていますよ~」
バージルさんは見た目こそ少年のようだけど、中身は中年の男性だ。
「あ、これって」
「ついに来たか」
その様子を見た祖父も私の横から手紙を覗き込んだ。
受け取った豪華な封筒には国章の印が封蝋に押されている。
この手紙は間違いない!
「祝福の儀だ・・・」
「や~、アメリアちゃんもそんな歳になったんですね~。私も歳を取るはずだ。では、次の配達があるから失礼させてもらうよ」
バージルさんはそう言うと、栗色のくせっ毛を靡かせ颯爽と次の家へと向かい駆けて行った。
教師のルミア先生から教わった話によると。
『祝福の儀』とは十六歳になった少年少女たちが国により集められ、聖地サンクトゥスの神殿にて、女神ウァルにより祝福を授かり自身の魔力とマナの繋がりを目覚めさせる。
それにより魔法適性が判明し、相性のいい精霊の力を得たり妖精から助けを借りて魔法を使用する事が可能になるらしい。
そして、初めての王都・・・!村から出られる!私は頭がいっぱいになり、何時もの朝の訓練も苦に感じずに浮足立ちながら道場への帰路についた。
トマテのソースを塗り、たっぷりの野菜と燻製肉そしてチイズをのせて焼いたパンと村の畑でとれたパンプの黄色いほっこり美味しいスープを飲みながら朝食を頂く。
勿論、私のお手製だ。
ケイティーは半分寝ぼけながらパンに噛り付くと目を見開き輝かせ幸せそうに食べだした。
「ケイティーついに来たわ。祝福の儀への招待」
「いいなぁ~。私も早く生活魔法以外を使えるようになりたい」
食卓が朝から私達の声で賑わう反面、祖父は私の受け取った手紙を読み返しながら難しい顔をしている。
「じいちゃん?スープが冷めるよ」
私がこっそりと顔を覗き込むと我に返ったのか目を一瞬まるくすると何時もの表情に戻る。
祖父を見ながらニヤニヤと笑うケイティー。
「ごほん。ケイティー、余計な事を言うなや」
咳払いをすると気まずそうに顔をかき、ふて腐れた様な顔でパンに噛り付いた。
それを見て私はケイティーと顔合わせてクスクスと笑う。
「じいちゃん心配しすぎよ。大丈夫、私にはじいちゃん直伝の剣の腕もあるんだから」
「そうそう、剣で魔物も悪いやつもボコボコにしちゃうんだからぁ」
祖父は私とケイティーの言葉に「そうだな」と困り顔で微笑む。
でも、珍しいな祖父がこんな顔をするなんて。
「じいちゃん?」
「王都に行くの楽しみだな。出発の日までにルミアに教わっとけ。アイツは王都のアカデミーを首席で卒業したからな」
何時もの顔に戻り白い歯を出し何時もの祖父に戻っていたのを見て安心した私とケイティーはどんな魔法を授かるのかで盛り上がりだした。
しかし、盛り上がりすぎて学校に遅刻しそうになった為、祖父に襟元を掴まれて鞄と一緒に二人とも放り出されてしまった。
授業後、祝福の儀の事に関しての相談をルミア先生にしてみると、お昼休みに話をするので中庭に来るよう言われた。ケイティーも誘ってみると大きな耳と尻尾をピンと立てて喜んで私についてきた。
お弁当のバスケットを片手に中庭に向かうと、複数の生徒の中に見覚えのあるオレンジ色の髪が…
「ダリル…アンタが学校に居るなんて珍しいわね」
此方の声に気付くと眉間に軽くしわを寄せながら面倒くさそうな顔をした。
「先生に呼ばれたんだよ。俺も招待されているなら一緒に話を聞くようにってな」
「ふーん、意外に真面目ね」
「ダリルにいちゃんは魔法に興味あったんだー」
「当たり前だろ拳や足技だけじゃ低・中低級ならまだしもそれ以上の魔物には歯が立たねぇし」
「そうね。でも、希望通りの魔法を授かる事ができれば良いんだけどね・・・」
「そこがなぁ・・・」
私達がそんな話をしていると通路をルミア先生が歩いてくるのが見えた。
「皆さんお待たせして申訳ございません。些か片づけに手間取ってしまって」
急いでいたのか銀色の長い髪が少し乱れている。
「先生、アタシも聞いていいですかぁ?」
「あら、ケイティーさんも一緒ですのね。まあ、貴女も無関係と言うわけではないし良いでしょう」
そう言うとルミア先生は私達を長椅子に座るように促すと、正面に向かい合う形で話し始めた。
「皆さん、この世界には精霊以外に妖精も存在する事はご存知ですね?」
「ええ、何度か授業で」
「では、皆さんに特別に良いものをお見せしましょう。【顕現】」
ルミア先生の周りに風が渦巻き輝きだしたかと思うとふわりと小さな羽が生えた淡い光を纏う少女が現れた。
半透明の緑色の羽に青緑色の髪と深緑の瞳を持ち、人懐こそうな笑顔を向けてきた。
「この子は風の妖精です。さすがに風の精霊を呼び出すのは難しかったので」
「綺麗・・・」
私がエアリアルを見つめていると、彼女は私の周りを旋回すると瞳を覗きこんできた。
〈コンジキ・・・メズラシイ・・・トクベツ〉
珍しい?この村の外なら幾らでも居るんじゃない?特別?
初めて見る妖精の言葉に小首を傾げるとエアリアルはダリル達の一瞥するとルミア先生の下に戻った。
「しゃ・・喋ったあああ」
驚きと嬉しさで目をキラキラ輝かせるケイティー。
「確かに綺麗だけど羽虫みたいに見えるな・・・」
この失言が聞こえたらしくエアリアルが何やら呪文を唱えるとダリルの体が風に包まれて植え込みに突っ込んだ。自業自得だと思うけど流石に見ていて可哀想になってしまう。
しかし、ダリルは軽々と立ち上がり不貞腐れた表情を浮かべながら座り込んだ。
ルミア先生がお礼をすると、エアリアルは風となり消えて行った。
「ウフフ・・・ダリル君はエアリアルに嫌われてしまったようですね。でも、これで妖精の存在がどう言うものか伝わりましたね。精霊や妖精が持つ力はとても強力です。特に妖精は相性が良ければ愛され合わなければ拒絶されます。相手方の気分次第と言う事ですね」
「気分か・・・。まあ、逆に気に入られれば幾らでも力になるって事だな」
「まあ、そうとも言えますね」
ルミア先生はダリルを見て匁めずらしそうな顔をしつつ頷いた。
「エアリアルは風の妖精ですよね?精霊にも居るような気がするんですけど」
「風の精霊シルフとエアリアルでは存在そのものが違うのです。精霊は精霊界より召喚されたものが自然的なものを取り込み可視化されたもの。妖精は自然界の物にに宿り、姿形がある物質的なものを言います」
「なるほど・・・」
「魔法は術者次第で諸刃の剣となる事を留意しなさい」
ルミア先生の丁寧な説明の後、食事を済ませた私達は午後の授業に向かった。
緊張や不安もある。でも、胸が熱く高鳴るのを感じた。