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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第71話 表裏の王ー闇の国テッラノックス編

咽かえる様な悪臭、不明慮な視界、足元は粘性を帯びた生暖かい底なし沼のようだ。

その中で私は必死に仲間の肩を揺さぶり腕を掴み、穢れの沼から引き揚げようと足と腕に力を籠める。

闇に捕らわれた仲間達の瞳は光りを失い虚ろのまま。

私達をただ捕らえる為に祭壇の間を満たし、それは絶望的な物に思えた。

ただ無謀な私の旅に呆れるわけでも無く身捨てずに付いて来てくれた、戦友たちを救いたい。

無策のまま頑なに足掻く、私は実に滑稽(こっけい)で愚かだろう。

闇の精霊王様の私達を見る瞳に憐れみと嘲りの色が見える。


「お前には利用価値が有る。最後に機会をやろう、私の手を取れ」


無表情のまま、闇の精霊王様の手が差し伸べられる。

それでも、諦められないのだ。


「私はっ・・・!邪神を復活を望み奔走して来た訳じゃありません!」


「当然だ・・・」


レックスが賛同の声を挙げ、沈みかけていたフェリクスさんを力任せに引き上げ、ふらふらと立ち上がる。そんな私達を見て闇の精霊王様は短く「そうか・・・」と何故か心底残念そうに呟いた。

瞬きの直後、視界は全ての形も色さえも呑み込む闇に埋め尽くされる。

闇の精霊王様の決意の固さを理解する、どんな犠牲を払おうと邪神を顕現させると言う考えは揺るがないのだ。やるせなさに無性に怒りが込み上げてきた。

世界の形が残ろうと邪神により創り直された世界より、其処に生きる人々が光の下、それぞれの生活を営み、生きいきと暮らす世界が好きだからだ。


「・・・っ!」


私は自信の胸に宿る精霊に語り掛けながら剣に光を籠めると、突如として視界は明るく開ける。

後方で床を突く、金属音が涼やかに響いた。


「久方ぶりに目覚めたかと思えば邪神に傾倒するとは、愚かな・・・。闇の精霊王シェイド、われわれ精霊王は貴方の凶行を決して許すつもりはありません」


天から射し込む光はまるで後光の様、それは闇の精霊王様が生み出した穢れを塵に変えていき、本来の祭殿の間を取り戻し始め、穢れに呑まれかけた仲間達の意識が少しづつ戻って行く。

白に金糸の刺繍が施された法服に白銀の髪、その瞳は以前に目にした翡翠色では無く金色。

手に握られた白金の杖の先には陽の様温かな光が灯るカンテラが吊るされていた。

二柱で向き合っても尚、闇の精霊王様の口からは発言を覆す言葉が出ては来ない。


「・・・ふん、久しいな光の精霊王ウィル・オ・ウィスプ。だが、お前達の許しなど私は請うつもりは無い。それに解っている筈だ、お前達の頼みの綱は一時凌ぎに過ぎないと」


光の精霊王様は正面から闇の精霊王を見据え、首を横に振る。


「我らが主は妖精の力を借りてもほんの一時、その御身を削り世界を支え続けている事に変わりはない。幾度となく繰り返し耐え凌いできたが、邪神がこの度の様な性急な謀を実行したのは初めてだ。何かそうせざる負えない物が有ると推測する、そうではないのか?」


光の精霊王様は口元に穏やかな笑みを浮かべるも、その瞳は心根を見透かす様な鋭さが窺える。

その顔を闇の精霊王様は()め付けると、其れを鼻で笑った。


「それは、揺さぶりをかけたつもりか?どのつもり、お前達の目論見は(まか)り成らんさ」


再び闇の精霊王様の足元からジワリと闇が床を這う様に広がっていく。

光の精霊王様は眉根を寄せると瞳を僅かに細め、あまりの光景に言葉を失い立ち尽くす私達をちらりと横目ると背を向けた。


「成程ね、聞く耳持つつもりは無いと。剣よ、此処は退きなさい・・・」


「然し、此のままじゃ邪神が・・・くっ!」


気付けば足元に穢れが迫り、私を絡めとろうと伸びる。それは私が剣を振るうよりも早く、光に呑まれ消滅していった。


「・・・仲間達も術が解けたばかりだ、此処は退くぞアメリア。お前が一番、精霊王様と言う存在がどう言う物か理解しているだろう?」


世界を構成する六属性の王、味方ならばこれ以上の頼もしい存在はいないが、敵となれば世界は如何なってしまうのだろうと私は恐怖する。適い様が無いと解っていても、足掻くのを止められない。

その時、舌打ちと共に腕が強引に引っ張られ、レックスが声をあげた。


「退くぞ!!」


一度、進み出せば迷いが消え、その足は止まる事は無い。

皆が私を合図によろけながらも必死に進み出すのが目に映る。二柱の精霊王が向き合う姿を尻目に出口へと向かうが、やはりただでは逃がしてはくれない様だ。

レオカディオさんは闇の精霊王様の命をうけ、弱った体に鞭を打ち奮い立つ。

私達を追う攻撃は闇魔法を交えながら容赦なく襲い掛かり、それをいなすと黒い蜘蛛の巣の様な粘液が私達を絡めとろうと覆い被さる。


「捕縛系魔法?」


私は剣でもがくが、それは掃い切れず纏わりつく、脱出口を目の前に諦める事無くもがくが其れは剥がれる事はない。然し苦戦する私達の目の前で其れは霧散し、レックスの手に吸い込まれて行った。

仮面から覗く目が動揺の色を見せ大きく見開かれると、気取られたくないのか私達に背を向ける。

多くの驚きと疑問を生むも、訊ねる余裕を与えずレックスはそのまま先導を切り走って行く。

追跡は廊下に至った所でレオカディオさんは周囲を確認し、わざとらしい口調で叫んできた。


「そう易々と逃げられると思うな!二日経たねば監視船が港に着くまでは島から出れない、森に潜もうと長く潜伏するのは不可能だ!」


然し、レオカディオさんの追跡は続くが、今度は全く攻撃を仕掛けようとしない。

疑問符を浮かべながら頭の中で言葉を繰り返す内、その意味に気付かされた。

何て遠回しで不器用な、回りくどい誘導なのだろうか・・・


「・・・そんなの、逃げ切って見せるわ」


静寂の中に多数の大きな足音が響く、(ようや)く抜け出した祭殿の空には黒雲が渦を巻いている。

さり気無く背後を振り向けば、良く知る仲間達の顔。

その後方にレオカディオさんの姿は無かった。



************



急げ!いそげ!

祭殿の中で起きた出来事は不幸中の幸いか誰にも知られていないらしい、街中を走り抜けて行く私達を訝し気に見るも追う者はいない。

此の国の権力者すら干渉も咎める事もしない祭殿からの逃亡。

少しでも早く伝達が行く前にとレオカディオさんの言う通り、森へと抜けなくては。

焦りながらも慎重に街の中を駆け抜けるも、拍子抜けな程、何事も無く順調に森へと私達は辿り着いた。


「・・・思ったより早くの到着ね。皆、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ。あんな目に遭ったせいで気分は最悪だけどな」


ダリルは穢れに身を沈めた感覚が抜けないのか、気色悪そうに体を掃う仕草をする。

視線を泳がせれば他の皆も一様に敵地から離れて安堵してはいるが、頻りに自身の体を気にしている様だった。


「それであと二日よね?」


ケレブリエルさんは、短剣で周囲の木々に何やら文字を刻み込んでいる。

レックスは無言で何やら考え込んでいる様だったが、顔を起こし、その背中を眺めた。


「目眩まし・・・否、警鐘か?」


「風の精霊の加護よ、敵が近付けば報せてくれるわ」


ケレブリエルの言う通り、今日を含めて二日間が問題だ。

此の森も敵の懐に変わりない、その気になれば何時でも攻め込まれて可笑しくはない。

やはり、各個撃破だろうか。それも、厳しいなぁ・・・


「うーん・・・ん?」


頭上から羽根がひらりと舞い降りる、ソフィアがおどおどと周囲を見渡しながらゆっくりと降下して来る。地面に足を付けると、胸を撫で下ろし、安心した様な表情を浮かべはにかんだ。


「い、今の所は此方に誰かが来る様子はありません。でも、それも逆に・・・」


「不気味だよねー。ま、不安がっても来るもんはくるし、迎え撃つしかないけど・・・如何すんの?」


「如何するって?」


「野営するにしても、色々と足りなくない?」


フェリクスさんは苦笑いを浮かべ肩を竦める。

其れを見て、切り株に腰を掛けていたファウストさんは肘を突きながら呆れ顔を浮かべていた。


「まさか貴方は布団が無ければ寝れないとか言うつもりじゃないでしょうね?」


「ぶはははっ!お前、女かよ!」


ダリルはフェリクスさんを指さし、お腹を抱えながら笑い転げる。

後は御約束通り、二人は何時ものいがみ合いを始めた。


「呑気だな・・・」


「あー、もう!何をやってんのよ・・・」


二人の姿に私もファウストさんに釣られて呆れ顔を浮かべていると、風がざわつくのを感じた。

ケレブリエルさんは杖を構え、風の流れる方へと振り向く。

低木や雑草が掻き分けられる音が聞こえたかと思うと、血塗れの少女が現れ、地面に転がる様に倒れ込んだ。


「クロエ・・・さん?」


ソフィアは戸惑う様に駆け寄ると、クロエの体を抱き起し治療を施す。

クロエに何があったかはもとい、囚われた筈の彼女が何故に此処に辿り着いたのか疑問が沸いた。


「ソフィア、距離を置いた方が良いわ」


然し、ソフィアは首を横に振り、眉を吊り上げ此方を見た。


「何にしても怪我人です!あたしは女神様の教えの下、深手を負った彼女を無下に扱う事はできません」


「そうだとしても・・・危ないわ!」


何か術でもかけられ操られている可能性もある、あまりに不自然過ぎる再会に警戒心から、思わずきつめの口調になってしまった。

そんな私達の間にフェリクスさんは入り、落ち着くようにと私を(いさ)めた。


「確かにこの状況、アメリアちゃんの気持ちは解らなくはないよ。でも、ソフィアちゃんの意見も御尤もだ。此処はオレとケレブリエルが二人に就くから許してよ」


フェリクスさんは満面の笑みを浮かべながらケレブリエルさんの腕を強引に掴む。


「何すんのよ!」


直後に良い音が響き、脳天を杖で思いっきり叩かれたフェリクスさんは頭を抱え半泣きになりながらも、いそいそとケレブリエルさんと共にソフィアとクロエの許に歩いて行く。

二人が就いてくれるなら、問題ないか・・・

私が溜息をつき、岩に座り込むと、ダリルがどかりと隣に座って来た。


「まー、アイツが俺達を貶める為に送られたとしても如何にかしてやるよ。ってか、アイツ・・・・女に囲まれたいだけだろ」


ダリルはフェリクスさん達を眺め、苦々しい表情を浮かべる。

そうか、また私は一人で突っ走っていたんだ。落ち着くと何だか気が楽になり笑えてきた。


「ふふっ・・・」


「なーに、笑ってんだよ?」


ダリルは突然、笑いだした私を見て気味が悪そうに顔を(しか)める。


「いや、頼もしいなって」


仲間がいるって本当に良いな。


「そ、そうかよ!」


ダリルはそう言うと一瞬、目を見開き驚いた様な表情を浮かべ、何故か私から顔を逸らした。

私は剣の柄を握り、日が落ち始める藍色が差す空を眺める。

それにしても、本当に問題なく二日をやり過ごせられれば良いのだけど。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます!

そしてついに、闇の国テッラノックス編も次回で最後。

まだ話は続きますが、今後もお付き合い頂けたら幸いです。

*************

次週も無事に投稿できれば8月8日18時に更新致します。

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