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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第85話 然し迷わないー闇の国テッラノックス編

走馬灯のように脳裏を過るあの夢の光景は、毎夜みるどの夢よりも現実味が感じられ、あれが失われた記憶の欠片なのだと信じずにいられなかった。

今も脳裏に焼き付く暗闇に導く声は、誰なのだろう?

思い返しても、記憶の片隅にも確答する人物の姿も名前も思い出せない。

隠れ家は峡谷の活かした物らしく、尚且(なおか)つ人の手が確りと入っており、岩壁を利用した天然の要塞のようだ。

数少ない見張りや明り取りの物と思われる小窓を覗けば、上層よりはっきりと処刑場であったと実感させられる、無数の(おぞ)ましい痕跡が目に映る。


「うげ・・・」


其処を除けば不満は感じさせられず、各用途に応じた部屋が複数存在し、区分けと整備が行き届いている。失礼だけれど、直前までは洞穴の様なものを想像していのだ。

其処で擦れ違う人々は一般的な魔族に昆虫族、鬼人族(オーガ)爬虫類族(レプティレ)の武闘派に加え、魔術担当と思われる肉体を持たない幽鬼族(ファンタスマ)や淫魔族などの紙面でしか見た事も無いような人々も混じり、魔族の坩堝(るつぼ)と言っても過言でないかも知れない。


「アメリアちゃん、あんまジロジロ見ると失礼だぞっ」


フェリクスさんは周囲を横目で見るとしゃがみ込み、周囲に悟られない様に(ささや)く。

如何やら気付かぬうちに珍しさからか、繁々と人々の顔を見ていたらしい。


「うっ、ごめんなさい。ありがとうございます・・・」


「まっ、気持ちは解らなくもないけどねー」


フェリクスさんの視線が一画に向き、だらしがなく頬が緩む。

その視線を辿ると予想通り、露出が多く艶めかしい女性が此方を見て微笑んでいた。


「・・・私は共感できませんね」


私が軽蔑の視線を送ると、フェリクスさんは自分の過ちに気付いたのか顔面蒼白となり、挽回しようと慌てて取り繕うとする。呆れて言葉もないとはこの事だろうか?

何処か浮かれている私達に痺れを切らしたのか、レックスは立ち止まると、鋭い目つきで此方を睨んできた。


「お前達・・・人を待たせている事を忘れてはいないか?」


「ははは・・・悪いね!」


「ごめん・・・行こうか」


岩の廊下を進むにつれ、ざわざわと様々な声が飛び交い、喧騒は次第に大きくなっていく。

薄暗い廊下を歩き、大きな扉の前に辿り着くと、内側から扉が開き、明かりが漏れて出て来た。



*************



「漸く揃ったな、では始めよう」


レオカディオさんの一言により、会議は始まりを告げた。

部屋には円卓が組まれており、其々の種族の代表らしき面々が仲間と共に着席している。

そして、その中央には拘束されたままの巫女のクロエが横たわっている、如何やら怪我は無い様だ。

乱暴な扱いには目に余るものがあり、思わず顔を顰めると、私達を呼ぶ声が聞こえて来た。

声がした方へ視線を向けると、「こちらです」とソフィアが私達へ手招きをしている。

クロエに対する周囲の声は厳しく、祭殿を売った悪女、裏切り者と罵声が止む事は無い。


「ほら、始まるぞ・・・」


レックスに促され、皆と共に席に着くと、ミゲルが水桶を抱えて中央へ進んでいく。

気絶しているクロエの許へと歩いて行くと、その顔に勢いよく水を浴びせ掛けた。

床に広がる水溜りの中、クロエは咽ながらゆっくりと瞼を開け、体を半分起こすと其の顔に恐怖を張り付ける。


「あ・・・私・・・どうして?」


困惑しながらもクロエはおずおずと訊ねる。


「あー、それはお前に訊きたい事とが有るから連れて来たっス。言っておくけど、嘘ついたらどうなるか考えて話して欲しいっス!」


無邪気な笑顔と裏腹に返って来た、相手を逃すつもりが無いと言う威圧に、クロエは自分がどう言う状況にあるか理解したのか、顔に絶望の色が見えてきた。

クロエはペタリと床に座り込み、ガタガタと肩を震わせながら正面に座るレオカディオさんを見上げた。


「単刀直入に聞く、お前は何故、あの修道女(シスター)刻印(ルーン)を渡した?」


レオカディオさんの突き刺さるような視線にクロエは息を飲むと、唇を震わせながら首を横に振る。


「わ・・・私は、刻印を渡していません。何故、あの時・・・修道女(シスター)カルメリタがほ・・・本物を持っていて。あんな・・・ううっ」


必死にレオカディオさんの言葉を否定するも、祭殿の事を思いだしたのか言葉を詰まらせると、俯き涙を流す。レオカディオさんは苛立ちを隠す為か、頭をワシワシと掻くと、深い溜息をついた。


「残念ながら、此処に涙で同情をする様な奴はいねぇ。仮にその発言が事実として、お前はあの女が刻印を使用するのを見たのか?」


本物と思い込んでいた刻印が目の前で粉砕しされ、自分が信じていた人物からの裏切りを受けた記憶がぶり返したのだろう。クロエは取り乱しながらも、口元を手で覆いながらブツブツと記憶を辿りながら呟く。

然し次の瞬間、けたたましい音が部屋に響き、椅子が壁に当たり砕け散る。

要領を得ない問答に痺れを切らしたらしく、爬虫類族(レプティレ)の大男が、クロエへの怒りを吐き出した。


「ぴーぴー、泣いてんじゃねぇよ!!」


大男は机を飛び越え、クロエに詰め寄り頭を鷲掴みにし持ち上げる。

驚きと恐怖から足をばたつかせるだけの、クロエの腹部を狙い腕に力を籠め拳を握った。

見るに堪えず、私とダリルは後先考えずに机を飛び越えるが、その凶行を一番に止めたのはミゲルだった。


「おーっと、此処は話し合いの場所っス!流石の僕も暴力はいけないと思うっス」


「離せ!ガキが!此れは大人のケジメってやつなんだよ」


「なぁーにが、大人っスか。感情のままに暴力を振るうのは大人じゃないっスよ。うわっ!」


大男はミゲルの腕を乱暴に振り払うと、鼻息を荒くし、引っ込みがつかなくなったのか、頭を掴んだまま床に叩き付けよう腕に力を籠める。然し、床に叩き付けられたのはクロエでは無かった。

ダリルの拳が大男の顎を痛快な音を立て抉る様に突き上げる、其の大きな体を宙に浮かせると、そのまま頭から床に追突し、リノは白目をむく。

レオカディオさんはその光景を見て拍手をすると、ちらりと横目でリノを見る。


「チコ、ブラス!リノを反省房に放り込んでおけ」


「へ、へい!た、直ちにっ!」


目の前で起きた事を目を丸くし、呆然と立ち尽くしていた二人は雷に打たれたように背筋を伸ばすと、慌ててリノの肩を支えながら部屋を後にしていく。

私はミゲルと共にクロエを揺り起こすが、恐怖からか正気には戻らない。

一先ずレオカディオさんの指示を仰ごうとした直後、クロエの絹を裂く様な悲鳴があがり、同時にパシンと平手で頬を打ち付ける音が響く。


「な、ななな、何をすのですか!」


「何って・・・お姫様を起こす定番じゃないっスか、目覚めのキス・・・」


ミゲルは頬についた赤い手形を痛そうに擦りつつも、不満げに頬を膨らませた。

本当に此の子・・・女の敵だわ。


「未然とは言え、起こすにしても方法が別にあるでしょ・・・!」


「えー・・・」


不服そうな顔をするミゲル、茶番は強く机を叩きつける事により静寂へと変わった。

レオカディオさんは静かに顔に怒りを湛えたまま、私達に着席する様にと命じる。

私達が各々の席へ戻ると、何処となく周囲からはクスクスと嘲笑う声が響いた。

それもレオカディオさんの一睨みで止み、クロエに対する詰問が始まる。

クロエは感情を押し殺すように閉じていた唇を震わせながらゆっくりと話し出す。


「た、確かに私は修道女カルメリタと行動していました。然し、精霊の間に来た直後の記憶が靄に包まれる様で・・・気が付けば精霊石が光っていて「あの方がお目覚めになられた」と興奮気味に話されているのを聞いて・・・ごめんなさい、刻印が使用されたかは解りません」


クロエは眉一つも動かさないレオカディオさんに怯え、顔色を窺いながら生唾を飲む。


「・・・良いだろう。何時までも時間を浪費する訳にはいかないしな、それと巫女(お前)には役にたってもらう必要が有るしな」


誰もがその発言に賛同した様子では無いが、胸を撫で下ろした人は少なくないだろう。

他の面々はクロエの顔をねめつけながらも、憶測交じりの討論をしだした。

レオカディオさんの意図は伺いしれないが、修道女カルメリタの正体を伝えれば力になれるかも知れない。そうかとはいえ、初代の闇の巫女なんですと単純に信じて貰えはしないだろう。


「皆さん!一つ、報告したい事が有ります」


広間に私の声が響く、見覚えのない私の姿に様々な視線が突き刺さる。

レオカディオさんの視線も机から離れゆっくりと私へと移る、如何にかなりそうだ。


「発言を許可する。新入り、言ってみろ」


「ありがとうございます。既に周知されていると思いますが、私達は外の国の人間です。冒険者として世界を渡り歩いてきました。そこで何度も闇の巫女の血族と称するカルメンと名乗る女性と幾度となく祭殿を護る為、剣を交えてきました・・・」


組織に入ったばかりの素性も知らない、そのうえに国外の者の言葉は聞き入れ難かったのだろう。

「それが何だ!」と言う野次が木々の騒めきの様に聞こえて来る。

それも再び、レオカディオさんの一喝により治まりを見せる。


「俺も元祭殿関係者だ、その名前に聞き覚えは有る。つまり初代巫女を名乗る女か・・・ソレが修道女の正体と言うのだな。興味深い・・・おかげで指針は決まった。感謝する」


そうだ、忘れていたが此の人は元大祭司候補だった。

然し、指針が決まったと言う感謝の笑みは何処か不安を掻き立てられる物だった。



**************



翌日、レオカディオさんにより私達は地上へと続く通路へと呼び出されていた。

然し、私達だけが呼び出されたと思いきや、数人の組員が私達の様子を窺う様に目線を送りながら壁にもたれ掛かっている。

鬼人族(オーガ)昆虫族(インセプト)爬虫類族(レプティレ)と肉体派の面々と、何処か存在が頼りもとない幽鬼族(ファンタスマ)、いったい彼等は何をしているのだろうか?

暫くすると、レオカディオさんがミゲルを引き連れ現れた。


「わざわざ、狭い所に集めて済まない。不必要な人数に聞かれると面倒なんでな」


「だったらあいつ等は何だ?」


ファウストさんはちらりと壁際の集団に視線を送る。


「ああ、あいつ等は大丈夫だ。組織の幹部の連中で昆虫族がグレゴリオ、鬼人族はレグロ、爬虫類族は知っているな、リコだ」


質問の答えにならない返答には受け流された様に思えるが、一応は私達も名乗る事にした。

そんな中、幽鬼族が魔物の姿を模り怒りを表現する。


「ああ、悪い。此奴は・・・・」


「ビクトルナノダ!」


何故か誇らしげに名乗るビクトル。


「全員、名乗ったなら構わないだろ?そろそろ、呼び出した理由を話してくれよ」


ダリルは冷静を装うが、顔は怒りを隠せずに早く話を進めるようにと急かした。

レオカディオさんはそれを鼻で笑い、落ち着くようにとダリルを嗜め、どかりと近くの岩に腰を下ろす。


「昨日の今日ですまないが、お前達なら奴の遣り口を理解しているのだろう?其処で危険を承知で頼みたい事が有る、修道女カルメリタの持つ刻印(ルーン)を、刻まれた首飾りを盗んできてほしい」


「盗む?!」


「ああ、あれは巫女が闇の精霊王様の御力を賜う、儀式を行う為の呪具。そして逆も然り、此方からも祈りなどの力を捧げる事も出来る重要な宝。悪用される事を鑑みるに、此れは早急に実行すべきと考えた」


次々と明かされる刻印が彫られた首飾りの秘密、確りと私達に実行させる為の動機づけ。

カルメンが関わっている以上、私達にはそれを断る理由は無い。


「皆、良いよね?」


「ああ、愚問だ」


レックスを皮切りに、次々と賛同の声があがる。

皆の顔が呆れ半分と言った表情、レオカディオさんは其れを見て満足気に口角を上げた。



*************



雨が降る中、言われるままに隠し通路をミゲルに案内され歩いて行く。

レオカディオさんは案内役は必要だろうと、彼を付けてくれたが、如何にも緊張感が足りない。先行してくれるのは良いが時折、好奇心任せに歩き回るからだ。


「迷ったら駄目ッスよー!」


「あの子、潜入している事を忘れていないかしら?」


ケレブリエルさんは(はしゃ)ぐミゲルに適当に相槌を打つと、警戒をする様に視線を動かす。


「その可能性は否定できませんね。姿を隠したと思えば、祭殿兵を引き連れて帰還って言うの何度めでしたっけ?」


幾度となく巻き込まれ遭遇する度、昏倒させて何度も危機を乗り越えて来たが、いい加減にばれてしまっている気がして来た。

然し、通常であれば判明すると同時に祭殿は大騒ぎとなり、祭殿兵が蜂のように押し寄せて来るのだが、それが一切ないので妙に思える。


「まあ、そう言うの止めようぜ。気絶したの空き部屋に隠すの俺達の役目なんだぜ。ファウスト、ゴーレムだせねぇの?」


ダリルは解り易くウンザリと言う表情を浮かべ、ファウストさんをじっとりと見る。


「またか君は、この狭い通路で召喚できるわけないだろ?」


「まあ、怒るのはその辺にしな。お前達も潜入している事を忘れているんじゃないか?」


フェリクスさんがそう言って溜息をつくと、レックスはそんな三人に目もくれず、通路の先を見る。

その先を見ればミゲルの姿が見えない。


「・・・もう、こっちから行きましょう」


虚しさに苛まれ、私達は自らミゲルを連れ戻す事に。

然し、何処までミゲルの姿も祭殿兵の姿も見えない。

進むにつれ次第に見える景色が仰々しくなるにつれ、異様な臭いが鼻を掠める。

私達はついに目的の人物の姿を発見する、祭壇の間と思わしき場所には服を赤く染めたミゲル。

視野を広げれば今までと比べ物にならない狂気、心の中に抱く疑問が原因と合致する。

恐ろしい数の祭殿兵、紅に染まる武器を握り、虚ろな瞳は何も捉えない。

その中央には、ミゲルや祭殿兵に混じり、此処にいる筈の無い人物の姿が目についた。


「レオカディオ・・・さん?」


その傍らにはグレゴリオとリコにレグロ、ビクトルに至っては姿形も無い。

咽かえる臭いを堪え、愕然としながらも各々の武器を構えると、クスクスと何処か聞き覚えのある声が耳に響く。


「あら、わざわざ助けに来たのかしら?殊勝な心掛けね。でも、あたしから見れば愚者にしか見えないわ。裏切られたのにも拘らず、のこのこと殺されに来るのだもの」


祭壇に腰かけ修道服を着こむ、宵闇色の髪の巫女は傲慢に笑う。

ソフィアは震えながらも目の前の光景を見続けていたが顔を上げ、怒りを目の前の人物へと向ける。


「アタシは惑わされません・・・命を粗末に扱う人は許せませんから」


その時、激しい咳と共にレオカディオさんが血痰を吐く、良かった如何にか無事らしい。


「くすくすくす・・・鈍い貴方達に解る様に教えてあげる。レオカディオ(ソイツ)は祭殿を己の物にする為、邪魔な貴女達を(おとり)にしたのよ」


私達の心を揺さぶるカルメンの言葉、然しそれを覆す言葉は今はない。

巡らせる程、頭の中でそれは複雑な色となり混ざり合っていく。

感じていた違和感が晴れて行く、それでも何方の手を取るべきかは解る、私達には迷い様が無いのだから。

長文となりましたが、本日も当作品を読んで頂き真に有難うございました。

それに加え、ブックマークへの登録までして頂き、ますます作品に熱が入ると言う物です!


********

次週も無事に投稿できれば、7月11日の18時に更新致します。

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