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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第81話 離脱を越えてー闇の国テッラノックス編

眷族同士の抗争を目撃し、その行く末と此の国の内情を知る事に気を取られ過ぎた私達に待っていたのはライラさんが仕入れた珍品の数々の輸送と船への積み下ろしと言う肉体労働だった。

然し、此れで買い付けや金銭のやり取りが終了した訳ではないらしい。

商売は進行中であり、今回は目を付けていた物を数点と、挨拶代わりに送られた試供品を含む数十点を取り敢えずと言う形で入手。

他は滞在の際に何かと不便ではないかと言う心遣いから贈られた生活必需品を頂いたのだそうだ。

チラリと横目で見るライラさんはワクワクと目を輝かせ、鼻歌交じりに私達を眺め上機嫌な様子。

彼女は私達の視線に気付くと、自信ありげに眉を吊り上げながらしたり顔を浮かべ、「世界を相手に商いをしてきた私お嘗めて貰っちゃ困るですぅ!」と胸を張って見せた。

約束を忘れた此方に非があるが、その顔と態度は何なのだろうか。

漸く、船に荷物を積み終えた私は闇の国の人々の目が届かない船内で開放的な気分になり、大きく背伸びをした。

各々、椅子の背もたれにドカリと身を預けると、ケレブリエルさんは私達の顔を眺め、こう話をきりだす。


「多少は信頼や取引をする旨味があるにしても、闇の国と私達の国々は監視するされるの関係の筈よね?」


「ああ、その通りだが?」


仮面で表情は読めないが、それを耳にしたレックスはケレブリエルさんの言葉にゆっくりと耳を傾ける。


「巫女が彼女を招き、もともと取引が有るとはいえ友好的な関係とは言い難い筈よ。それにも拘らず、国外の者と明かしたうえで、修道女(シスター)カルメリタを闇の国の住人は何故にすんなりと信頼したのかと思わないかしら?」


「確かに、其処に付いてはあたしも疑問に思っていました。危険が増すかと思いますが、彼女の周囲を調べ、関係する人の話も訊く必要が有ると思います・・・」


ソフィアはケレブリエルさんの言葉に何度か頷くと俯き考え込む。

其れを聞いて一斉に考え込む私達を見ると、ダリルは面倒くさげに頭を掻き、首を唸りながらドカッと足を乱暴に組む。


「そりゃあ、神さんの次か同等に大切にしている闇の精霊王様の目覚めを餌にされれば、藁をも掴む思いってやつじゃねーの?」


確かにそうだけど、そうじゃない。

ケレブリエルさんが言いたいのは恐らく、その過程を追及していくべきだと言いたいのだと思う。


「ふ・・・動機の推測を訊きたいのではないと思うぞ」


仮面で顔の一部が隠れていても小馬鹿にしていると解る反応に、フェリクスさんが便乗してプッと短く笑う。それを切っ掛けにダリルは拳を握りしめ震わせる。


「って・め・え・ら」


何時もの喧嘩が始まるのかと思いきや、流石のダリルもこの場では怒りを吐き出す事は無く、ただ震える両肩が必死に憤りを抑えている事を示していた。

ケレブリエルさんは困ったように微笑むと、周囲が鎮まった所で安心した様に溜息をつく。


「・・・如何やら脱線せずに済んだようね。今から話し合おうと考えているのは、この謎から繋がる闇の精霊王様の復活について探る為の行動方針についてよ」


「それなら、彼女を此の国に招き仲介役となった、巫女の話を訊きに祭殿へと向かう事が第一でしょうか?」


私の意見に頷く者、考え込む者と反応は様々。

然し、フェリクスさんだけは首を横に振った。


「そうだね・・・でも、素直に話を訊けるかってとこだけだね。お兄さんはそんな火中の栗を拾いに行くより、街で修道女派と争っていた・・・レオカなんちゃらの方が親身になれば色々と訊けどうだと思うけどね」


「レオカディオだ。俺も何方かと言えば此方を奨める。盗み聞く限り、奴はそれが切っ掛けで出世の道から外されたようだしな」


レックスはフェリクスさんの意見に賛同し、静かに片手を上げる。

眷族に成済まし、巫女のクロエと接触する。

修道女を妄信する人が多いい街中で居場所を探り、レオカディオさんと接触を計るの取り敢えずは二択と言う所だろうか?

何方も危険をはらんでいる事に変わりはないけれど。


「どうせなら両方の話を訊くべきだと思うぜ。行くなら、俺は祭殿だ。より標的に近い方から訊いてみるのが最適じゃないか?」


ダリルはフェリクスさんを睨むと、ふんと鼻を鳴らし舌打ちをする。

単純にフェリクスさんの反対を選んだようにも見えなくも無いが。

其処で、一人で黙考していたファウストさんが顔を上げる。


「潜入か捜索か・・・僕は両方の情報が必要だと思う。此処は二手に分かれるのは如何だ?」


皆で揃って渋い顔をしたが、納得したのか静かに全員が頷く。


「それなら、班分けは場所と危険を考慮して祭殿側に多く、レオカディオさんの方は少人数で行くべきでしょうね」


「まあ、それが妥当だな。先程の様子を顧みると、俺と組むのはフェリクスとなるな。祭殿の方は任せる」


「・・・ささっ、善は急げって言うし、面子を絞るのか全員で行くのか決めちゃいなよ」


フェリクスさんは自分は決まったからとお気楽にニヤケ顔をしつつ、ひらひらと手を振り私達を急かす。然し、此の人が女性がいない組み合わせに不満を持たないのは珍しいな。

全員で向かうべきかと皆で思い悩んでいた所で、私達の輪の外から声がかかる。


「盗み聞きして申し訳ないが、立派な計画だがあんたら雇い主の護衛はどうすんだ?」


「・・・あ!」


話し合いに夢中になり、身内しかいないこの空間に気を緩めていた私達は虚を突かれて唖然とする。

全員がその場で固まり、動かなくなったのを見て苦笑したのは、魚人族の里から動向していたフランコさんだった。

フランコさんは椅子の背もたれを抱え込む様に座り、片手に持つグラスの中の琥珀色のお酒を(くゆ)らせ、耐えきれなかったのか此方を指さし笑い声をあげた。


「ぶははっ、すっかり忘れてたって顔だな。俺もお前らの旅の趣旨は聞いていたし、理解してるけどよ・・・目的の為に世話になっている奴に迷惑をかけるのは如何かと思うぞー?」


この酔っぱらい、的確な指摘をして来るわね。

確かにライラさんをこのまま放置して友好的と言い難い此の国を一人で歩かせる訳には行かない。

説得して許可をとる為、誰かを護衛として船に残すとしても、それが誰かが問題だ。


「確かに失念していました・・・」


許可が貰えたと仮定して、何方にしても危険が避けられない以上は戦力が重要となる。

私は精霊王様との関わり的に確定として・・・


「あの、それならば・・・あたしが残ります。あたしには翼がありますし、ライラさんなら抱きかかえて飛ぶ事も出来ますから」


祭殿行の面々の仲間に呼びかけ、ソフィアがおずおずと手を挙げた。

其処に再び、フランコさんがお酒臭い息と共に大声を上げる。


「だーかーら、護衛なら俺が替わりにやってやるって言ってんの!」


「え、船は?船を護るのが仕事ですよね?」


唐突な有り難い申し出だが、フランコさんはかなり酔っているので正気の判断と思えない。

困惑しながらフランコさんに訊ねると、お酒の入ったグラスをテーブルに乱暴に置き、舌打ちをした。


「あのな、普通はお前達みたいに猫の首に鈴を付ける様な事をする奴はまずいねぇ!それを自らやろうってんだ、俺はお前達を応援するぜ!さっさと許可を貰って来ぉい!」


耳を塞ぎたくなる様な熱量を帯びた強引な後押しに、その場の全員が口角を引きつらせ沈黙をする。

そこで一瞬、部屋は静まり返ったが、廊下からドタドタと乱暴な足音が響いた。

その主の姿は見えないが、足音が止まったかと思うと、大きく空気を吸う息遣いが聞こえて来る。


「何を考えているです?!そう易々と許可を下ろす訳ねぇですよ!」


鼓膜がキーンと震える程の大声に、誰もが耳を抑えながら振り返り、視線を下げると激怒したライラさんが腰に手を当て仁王立ちをしていた。


「おいおい、今回も精霊王様がらみの案件だぜ?護衛は俺が替わるって言うんだから万事解決じゃねぇか?」


ライラさんの怒り心頭の様子にすかさず、フランコさんは私達へと助け船を差し伸べる。

然し、フランコさんの顔を見て酔っている事に気付くと、ライラさんは幼く見える容姿から想像できない低い声でそれを一喝した。


「酔っぱらいは静かにするですぅ!」


「う・・・」


フランコさんは思わぬ迫力に口を(つぐ)み、申し訳なさそうに此方を見ると両腕を広げ肩を竦めた。解る、立場的にも難しいよね・・・


「アメリア、勘違いしている様なので改めて言うですっ。私が商船を買い、世界を廻っているのは貴方達の目的に協力す為ではないですぅ。あくまで私の商売の為であり、貴方達を乗せたのは護衛の為。その合間を迷惑のかからない範囲で自由な行動を許可した事に過ぎないですよ」


乗船許可の理由を改めて聞かされる事により、認識の差異を実感する。

今まで彼女の船に乗せて貰い、各地を助けて来たと言う驕りから、ライラさんの事を失念していたのだ。

自責の念を感じ、口を堅く閉じる私の肩をケレブリエルさんはポンと叩くと、顔をライラさんへ向けた。


「つまりは、今から私達がしようとしている事が貴女の商売の妨げになるから、此の国で騒ぎに繋がる事は許可しないと言う事ね」


「つまるところ、そう言う事ですねぇ。現在、商談は順調にいっているです。商品の選別から代金や利益の取り分と支払、そして船への運搬と納入。一通りの買い付けが終了するまでは半月ほど、今は修道女(シスター)カルメリタを妄信する連中の機嫌を損ねる事は許されないのですぅ」


如何やら、此方が何に関する事をしようとしているのか、直感的に見抜かれていたらしい。

否、ビーベスさんのお店であんな風に怒らせてしまった時点だろうか?


「それでも、いかなければなりません」


現在、世界に起きようとしている事を踏まえれば、此処で断念すると言う事は嫌な予感しかしない。

カルメンが「この世界には闇さえあれば良い」と、執念にも似た偏愛を見せ付けた事からしても、闇の精霊王様の目覚めに彼女が関わっていない筈が無いと考えたからだ。

私の言葉にライラさんの顔は更に険しくなる。


「・・・そこまで意思が固いのなら、護衛どころかうちを止めて貰って結構ですぅ。貴方達はたった今から私の船にも商会にも無関係、とっとと此れでも羽織って好きにするです」


冷たく呆気なくライラさんはスッパリと突き放すと、大きめの肩掛け鞄から人数分の外套を長机の上に並べ、此方を見上げる。


「・・・餞別(せんべつ)ですか」


机に置かれた深緑に何かの印が刺繍された外套を握り締め訊ねると、仏頂面のまま素っ気なくライラさんは応える。


「そうです、ビーベス殿から此の国で外の服は目立つからと渡された物。此の国の服ですし、きっと役に立つと思うですよぉ・・・」


「おい、ふざけんな!どうやって俺達に帰れってんだよ」


ライラさんの掌返しに腹を据え兼ねたのか、ダリルは椅子を蹴り上げると、噛みつくように感情のままに怒りを吐き出した。


「そんなの知らないですよ。国の視察団に待てば良いんじゃ?うちは御客と荷物以外は乗せるつもりは無いのであしからず」


ライラさんは委縮する事も無く、ダリルに向かって平然と言い放つと、荷物を担ぎ無言で立ち去る背中を鼻で笑い、早く出て行くように促すような目で私達を見る。

私達は黙々と各々の荷物を担ぎ、餞別の外套へと手を伸ばした。

レックスだけは何故か外套の刺繍をジッと見つめ、クシャリと其れを苦々しい表情を浮かべ握り締める。


「アメリア・・・如何やら俺は此の国での人選をしくじったようだ。この不始末は俺が如何にかする」


「え、それって如何いう事なの?」


そう訊ねた所、ライラさんからの「出口は此方ですよ」との催促に遮られ、答が返る事は無い。

そのままレックスは俯き、仮面を片手で抑えたまま黙り込んでしまった。



**************



ライラさんの船を下船した私達の心中はそれぞれ複雑だった。

もっともな事情と言えるが、あまりにも対応が酷すぎると、様々な声が上がった。


「あたし達はライラさんにとって、御迷惑だったのでしょうか?」


ソフィアは羽根を丸め、青い瞳から真珠の様な涙を零しながら船の方へと振り返る。


「いや、そんなのこっちも上手くやるっての!あいつ、臆病風を吹かせやがって・・・」


ダリルはソフィアと対照的に怒りが治まり切れないようで、拳を近くの木に叩き付ける。

久々に真剣な表情を浮かべていたフェリクスさんだったが、荒れるダリルを見て嘲笑し、ソフィアの頭を優しく撫でた。


「なぁに、ライラちゃんも自分の船と部下を護ろうとしただけだ。そう感情的になりなさんな。・・・一より十、より多くの事を考えた結果さ」


「そんな、斬り捨てられるものでしょうか・・・」


「それじゃあ、俺達はその()かよ。糞どちびが・・・」


疑問を抱いたままの二人を見て、ファウストさんは呆れた様子で首を横に振る。


「確かに厳しいが、僕は此方が反対を押し切り我を通す訳だから当然だと思うな。彼女を何でも悪者扱いするのは違う気がするぞ」


「・・・そうかよ。で、アメリアはどう思うんだ?」


「誰を恨んでも現状は変わらない、通した意地を貫き通すだけよ。その他は後で考えましょ」


二人の気持ちは解る。でも、ファウストさんの言う通り、自分の意地を通した結果なのだからやり遂げるしかない。


「・・・そうね、成し遂げましょう」


ケレブリエルさんは悟ったかの様に目を細める。

最後に一目と船へと視線を向けると、レックスが遅れて下船してくる姿が見えた。



***********



翌日、安宿で目覚めた私達は自然と各々の目的に向かって二手に分かれる。

武器を目立たぬように外套の下に忍ばせた私達は、何故か門番に引き留められていた。


「ですから、闇の祭殿への参拝はお断りさせて貰っているんです!」


「そこを如何にかできませんか?闇の精霊王様へ、変わらぬ祈りと気持ちを捧げたいのです」


すっかり自由に御参りができると思い込んでいた私達だったが、下調べの重要性を思い知る。

それらしい理由を述べて再三、交渉をしてみるも、このまま堂々巡りをするのみだ。

どこかしこから侵入する事も頭に過る中、祭殿の奥から女性の声が聞こえてきた。


「もし・・・其処で何をしているのですか?」


その声に門番は弾かれた様に振り向くと、目の前の人物にお辞儀をする。


「これは・・・これは、巫女様。お勤めご苦労様でございます」


「いえ、貴方こそ長時間、お勤めご苦労様。それで・・・」


巫女・・・クロエは門番をねぎらうと、私達を見て目を丸くする。

然し、直ぐにその瞳は細められ、そのまま目も会わさずに門番へと私達を祭殿へと招き入れる様に命じた。何故、あっさりと通して貰えたのだろうか?

疑問を抱いたまま、私達はクロエの後を追い、廊下を歩くと部屋へと招かれる。

案内されたのは応接室と言うより談話室といった感じの部屋だ。


「お茶をお出ししますので、どうぞ椅子に腰を掛けていてください。大事が行われた祭殿へと、皆様にお越し頂けて光栄です」


促されるままに椅子に座ると、ゆっくりと何者かの足音が遠くから聞こえる。


「何か出されても、口にしない様にね」


茶葉とポットの用意をするクロエに気付かれない様に小声で皆と示し合わすと、部屋の扉が突然、乱暴に開け放たれる。


「如何やら、手荒い歓迎になりそうだぜ」


苦笑いを浮かべるダリルと共に扉の先を眺めると、武装した祭殿兵達が部屋に押し寄せてきた。

多くの閲覧及び、この度は長くなってしまいましたが本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございました。今後も頑張ります!

************

次週も無事に投稿できれば、6月13日18時に更新致します。

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