表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
184/369

第74話 黒き空に灯る火ー火の国シュタールラント編

今回は戦闘回となります。

柔らかな表現を心がけていますが、残酷に取れる表現が含まれて居ます。

苦手な方は如何かご注意ください。

生暖かい空気を切り、地面を震わせながらトールヴァルトの足音と高笑いが響く。

丸太の様な筋肉質の双腕から繰り出す鋼鉄の刃が正にソフィアの命を刈り取ろうと振り下ろされようとしている。

考えている間も迷っている間もない、ソフィアは反射的に杖を突き出す、それは一瞬の出来事だった。


「・・・ソフィアッ!」


歯を食いしばり、(もつ)れそうになる足に力を籠めて巨大な背中を追い、剣を握り絞め走り出す。

誰かが何かを叫ぶ、ソフィアの短い悲鳴があがる。

然し、次の瞬間に響いたのは何か硬質な物が砕ける音と不満気な舌打ちだった。


「左腕は欠けたが、如何やら間に合ったか。肝が冷えるな・・・」


ファウストさんの何処か安堵した声が漏れ聞こえる。

ソフィアを庇う様に伸ばされた岩人形(ゴーレム)の腕は戦斧による一撃によりひび割れ、一瞬だけ間をおいてゴトリとソフィアとトールヴァルトの間に落ちた。

トールヴァルトは其れを見て鼻で笑うと再び戦斧を握る手に力を籠める。


「そうは・・・させない!」


私は剣を薙ぎ、トールヴァルトの戦斧の柄を切断する。

それに対し目を丸くするが、地面に突き刺さる戦斧を目にしても怒る訳でも焦るわけでも無く、トールヴァルトは呆れた様に溜息をつき目元を片手で覆う。

ソフィアを庇う様に自身を囲む私達を見て、その口元は愉快そうに歪んでいた。


「・・・武器を失って自棄になったのか?」


ダリルとウォルフガングさんが動きを警戒しながら一歩、トールヴァルトへにじり寄る。

その刹那、トールヴァルトの巨躯が後方に一回転する、予想外の動きに油断してしまったダリルと其れを庇うウォルフガングさんを蹴り上げると着地と同時に踵を返し、唯の棒きれとなった筈の戦斧が刃を取り戻し左側面から私へと迫る。

驚き息を飲み反射的に右手に握る剣を斜めに構え払う、耳を(つんざ)く金属音と共に重い一撃を食い止めるも、長くは抑えきる事ができず地面を蹴り後退する。

如何にか避けたものの、戦斧の刃は僅かに膝当て(ポレイン)を掠め、空を切った。


「武器を失っただ?一本や二本、折られようと俺は人間如きに止められないぜ」


トールヴァルトの手にはやはり、柄ごと切り落とされた筈の戦斧が初めから切り落とされていなかったかの様に其の形を取り戻していた。(おもむろ)に切り落とした筈の刃へと視線を落とすも、そこに在るのは黒ずんだ地面のみ。

火口から吹き込む湿り気を帯びた風に促され見上げると、空には何時の間にやら黒雲が立ち込めていた。


「魔力により物体に構成するマナへの干渉によって物質を再構築させていると言う所かしら・・・?こんな魔法を本では無く、実際にお目にかかるなんて思わなかったわ」


ケレブリエルさんは驚きながらも険しい表情を浮かべ考え込み、トールヴァルトを鋭い目つきで見つめる。


「・・・ん?魔力・・・構成?」


ダリルはよろめきながら立ち上がると、訳が分からない様子で顔を(しか)める。

そんな二人を無視する様に無慈悲な追撃が私へと迫る、重量と腕力による勝負を控え、連撃により応戦し戦斧の刃を削るも、戦斧は紫の光と共にその形を取り戻す。


「つまり、自身の魔力で修復できると言う事ね」


「成程、其れを確かめる為だったか。だが、其れをお前達が理解した所で覆る事は無いさ・・・」


トールヴァルトは愉快そうに口角を上げると体を捩じり戦斧を斜めに構えると、黒い霧が動きに合わせ円を描くと其れは多頭の蛇となる。

ぬらぬらと艶のある鱗に赤い瞳、唾液を滴らせる蛇が襲い掛かってきた。

精霊の間の前と言い、トールヴァルトも人を惑わす術が得意なのだろう。

最も近く、その直撃を受けるのは私だ。

必死に全身の力を振り絞り、トールヴァルトの繰り出す凶刃を食い止めようと剣を振るう。

予想通り幻影の蛇は裂け、金属の触感と同時に私は武器と共に背後に弾かれた。


「・・・・っう!」


転倒は免れた、しかし黒い蛇の幻影だった物が私の手に絡みつく、何故か指が動かないし腕が重い。

向き合うトールヴァルトは口角を吊り上げ、不気味な笑みを作った。

次第に其れは上腕へと広がろうとしていた、如何にか肩を動かし逃れようとすると石化した腕が目に映る。驚き目を見開くと、フェリクスさんが私を抱き寄せ、黒い霧から引き剥がしてくれた。


「アメリアちゃん、確かめるより自分の命を優先するんだ!」


フェリクスさんは私を突き飛ばすと、トールヴァルトの追撃を雷撃と共に双剣で迎え撃つ。

流石に大口を叩いておいて守られてばかりじゃ情けない。

悔しさに歯を食いしばり剣を振るおうとするが腕に力が入らなかった。


「天に御座す我が主よ 救いの雫を望み 穢れを祓う事を 膝まづきて(こいねが)う【解呪の滴(ディパントラアクア)】」


ソフィアの歌声の様な詠唱と共に白銀の聖杯が現れ頭上から青銀の雫が滴る、全身が青い光に包まれ、温もりや感覚が戻るのを感じると共に石化した腕が自在に動くようになっていく。

ソフィアにお礼を言おうと振り向こうとすると、間髪入れずにソフィアから檄が飛ぶ。


「如何か気を反らず戦ってください!あたしは其れで十分です!」


力強い後押しに改めて気合が入る、目の前ではファウストさんの岩人形(ゴーレム)が突進してきたトールヴァルトと互いに手を掴みあい、力と力で押し合い(せめ)ぎ合う。

次の瞬間に岩人形の頭突きがトールヴァルトの脳天を打ち、額を赤く染め、その足元が僅かに揺らぐ。


「行け!仇名す者を退けろ【岩楯突き(シールドバッシュ)】!」


岩人形はファウストさんの命令を受け、片腕を岩壁の盾に変えると、全身の重さをも籠める様に突き出す。

トールヴァルトは其れを戦斧で受け止めるが、流石にその場に留まる事が出来ずに後方に吹き飛んだ。

それでも踏み留まり、両足に力を籠め、高く跳躍したかと思うと大きく戦斧を振り上げ、地面へ振り下ろす。戦斧は地面を抉り、砕けた無数の岩が矢の如く此方に飛んでくる。


「風は無数の矢となり 其れは流星の如く 我が敵へ降り注げ【風刃雨(ウィンドシャワー)】」


ケレブリエルさんの声が木霊したかと思うと、風の矢が目にも止まらぬ速さで岩を砕いて行く。

其れに続き、フェリクスさんとウォルフガングさんが追撃すると障害物を一掃され、大きく視界が開けた。



*************



「皆が作ってくれた道、使わせて貰うね!」


私が駆け出すと、横から追い抜く炎が視界を掠める。

ダリルは私を追いぬき際に出し抜いたと言わんばかりのしたり顔を浮かべると、トールヴァルトの戦斧を躱しつつ懐に飛び込み顎を目掛けて拳を振り上げた。


「どんな理屈だろうと、悪い戦況なんて長続きしねぇ!覆るんだよ!【焔竜掌】!」


トールヴァルトの顎を抉る様に炎を纏った拳が減り込む、(たちま)ち体が炎に包まれ、錐揉(きりも)み式に体が宙を舞う。


「へっ、なかなか面白れぇじゃねぇか・・・」


トールヴァルトの口から愉快そうな声が漏れたかと思うと、戦斧を空中で振るい魔力の乗った衝撃波を放つ。

ダリルは其れを躱し、炎の拳で打ち消すが其れは無暗やらに放たれたものでは無かった。

視界を塞ぐ意味合いもあったのだろう、煙にまかれた様子のダリルの目の前に、トールヴァルトが姿を現した所で私は如何にか追い付けた。


「大人しく、其処を開けて貰えない?」


ダリルは舌打ちをし手甲を構えた所で、私はトールヴァルトを側面へと迫ると、僅かに躱そうと身を捩られるが光を帯びた剣は脇腹を切り裂く。

何処か余裕あり気だったトールヴァルトから「ぐっ・・あ」と低い声が漏れたかと思うと、血液が滴る脇腹を抑えた。


「く、ふはは・・・それで、優位に立ったつもりか?」


トールヴァルトはこの程度でと言わんばかりにほくそ笑む。


「それは虚勢か?」


ダリルは脇を固める様に立ち、トールヴァルトを睨みつける。

私達は後方からフェリクスさん達が歩いて来る足音を聞きながらも、武器をトールヴァルトから逸らさず突きつける。

トールヴァルトは一転し、苛立った様子で頭を掻くと、徐にカルメンがいる精霊石を見上げて叫んだ。


「あー、まだ終わんねぇのかよ!巫女さんよ!」


「まだよ、外野のせいで思いの外、進行が遅れているわ。それと、その呼び方は止めて」


怒鳴り散らされ、カルメンは集中が切らした事に腹を立てたのか、トールヴァルトに向けて喚き散らしすと、向かい側で妖精に囲まれながら静かに詠唱を続けるレックスへと憎らし気に視線を向ける。

そんな二人の感情に呼応するかのように黒雲から雷鳴が轟いた。


「あー、そうかい!んじゃ、これで頼むぜ」


吐き捨てるように言うと、トールヴァルトは腰に差していたナイフを指先で挟みレックスへ目掛け投げ放つ。妨害の呪文を止められては困ると焦る私達の前で標的になったのは妖精だった。

金属で貫かれた妖精は灰となり、地面の上で風に吹かれて散っていく。


「妖精に鉄のナイフ、なるほど・・・弱点になる物を良く持っていたわね。まあ、それなら任せると良いわ」


妨害する者を退けられ、上機嫌の二人を横目に私達は言葉を失った。

否、最も傷ついたのは恐らくレックスに違いない。

俯き加減なうえに仮面で表情は読めないが、纏う空気と震える拳が本人より雄弁に彼の怒りの感情を語る。ポツリポツリと空が泣く様に雨が振り出した。


「俺の失態だ・・・。これで術が不完全に終わってしまった・・・」


レックスの複雑な感情が伝わり、私は居ても立ってもいられず風の加護で飛ぶと、カルメンに向けて剣を抜き放った。

然し突如、その頭上で硝子が砕ける様な音が全ての音を呑み込んだかと思うと、赤い光が私達の方へと差し込んだ。

それでも我を忘れずカルメンへ一撃を浴びせ掛けるが、彼女を護る様に暴走した精霊石から炎が噴き出し退けられてしまう。カルメンは嬉しそうに微笑むと、トールヴァルトと共に空にできた赤い穴へと飛んでいく。


「待ちなさい!!」


私が呼び止めると、トールヴァルトを先に行かせ、カルメンは恍惚の表情を浮かべ振り向いた。


「実に素晴らしい始まりの一歩だわ。あたしには闇の精霊王様さえいらっしゃれば良いの、他の精霊王が死んで世界が壊れようとね」


空に開いた赤い口から幾筋もの黒い光が散るのを見て、その後を追うようにカルメンは飛んで行く。

浮力が落ち、降下する最中、再び多くの魔物と戦う火の眷族達と幾筋もの赤い亀裂がシュタールラントに出来ているのが見えた。

然し、私の中ではカルメンとトールヴァルトへの怒りより、この国と火の精霊王様を救わなくてはいけないと言う気持ちが勝り、冷静さを失わずにいられた。

何か有るはずだと心の中で呟くと、雨が降る中、暴走し続ける精霊石を見上げるレックスの許へ詰め寄った。


「術が不完全に終わろうと、他の手を考えるべきよ」


「・・・それは難しい話だ。元々、精霊の力の均等が狂った事により不安定な状態に在った。妖精王様より遣わされた水の妖精が死んだ以上、今直ぐ俺の力で調律は不可能だ」


どう言う方法かは不明だけど、妖精王様から遣わす程の力の在る妖精じゃ無くては、妖精の力で乱れを止められないとは・・・

レックスの言葉を受けて各々、雨を避けながら何か方法が無いかと考え込む。


「此処は火の力が最も強い国、港まで降りた所で相応の妖精が居るか如何かね・・・」


ケレブリエルさんは眉根を寄せ、悔し気に言葉を漏らす。


「そう・・・だな、雨程度じゃ精霊が居てもつえー奴はいないだろ。くそ!何で思いつかねぇんだ!!」


ダリルは雨の中、私達に背を向け地面を殴りつける。

数か月前、水の精霊王様を救った際は、こんな事態が引き起こされるとは誰が予測できただろうか。


「ん・・・精霊?!」


私の中で何かが落ちては波紋を作った。

そうだ雨だ、この大雨なら呼べるし存在できる筈だ。

何より盟約を結んでいるのだ、何で思いつかなかったのだろう。


「如何した?冷えて腹でも壊し・・・」


「ダリル、あんた最高だわ!レックス、悲観するのはまだ早いわよ」


「あぁ?」


「・・・そうか」


私は疑問符を浮かべたままのダリルと、何か気付いた様子のレックスの顔を見ながら、希望に胸を躍らせていた。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございました。

執筆の原動力になっています!

*********

来週も問題なく投稿できれば4月25日に更新致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ