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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第72話 我等の火は消えぬー火の国シュタールラント

ドワーフ達による援軍により火の眷族による王都での市街戦は、優勢と言う状態にある。

山にできた綻びもとい、時空の裂けめを封じた氷塊が溶け出したのか、勢いは衰えど襲撃する魔物の群は途切れる様子は無い。このままでは持久戦となりそうだ。

見上げる空は相も変わらず緋色のまま、これが何を意味する物なのか、未だに解明されず不安が拭い切れない。

美しい都は未知の魔物の死肉により穢れ、フリーダ―さんが率いる教会の面々が浄化に血眼になっている。必死に戦い続け、誰しも疲労の色が見え始めた其の時、魔物の動きが止まった。


「やけに静かね・・・」


周囲のどよめく声と状況把握に走る慌ただしい足音が響く。

魔物が剣に帯びた光魔力に浄化され灰塵となるのを見届けると、私は剣に付いた血を掃い一息をつくと鞘に収め、空を見上げた。

空を跋扈(ばっこ)していた黒いうねりの様だった魔物の群は突如として散開するが、姿を消す訳では無く、旋回しながら私達をせせら笑う様な鳴き声をあげている。


「陸の方も静かだな・・・他の奴等にも訊いて回るか?」


ダリルは頭を掻きながら、周囲を怪訝そうな表情を浮かべながら見渡し、当ても無くふらふらと歩き出す。街中を歩けど擦れ違う人々も皆、私達と同様の疑問を抱いており、解った事と言えば陸から攻め込んできた魔物も同様の動きを見せていると言う。

魔物が退いたのなら、これを好機と考え一時も早く大祭司様へ報告も含め、火の祭殿に向かった方が良いだろう。報告できる情報は十分、少しでも早く此の地の安寧を取り戻さなくては。

トールヴァルトの退散もあまりにも呆気なく、姿を隠し続けるカルメンも此のままとは到底思えない、何度か対峙したが何処か本心が見えず、裏に何かが在るのではと疑わずにはいられない。

石畳を踏みしめては街を走り、仲間の姿を見かけては呼び寄せる、一人また一人と合流し、全員が揃った所で数名の竜人兵が武器を抜かずに慌てながら何かを探す様に走っているのを見かける。


「こんな時になんだけど、何かあったのかい?」


擦れ違う兵士を横目にフェリクスさんが私達に訊ねる。


「いえ、特に聞かされていませんが・・・ん?」


思い当たる節は無く、兵士達が何かを探している様だったので私も軽く周囲を見回すと、呻きながら助けを呼ぶ声が聞こえた。気のせいか幻聴かと思いつつ振り向くと、明らかに見覚えが有る何者かが目につく。その姿に呆気にとられるも足を止めると、よりはっきりと助けを求める声が聞こえて来た。


「たーすーけーてー!」


路地裏に乱雑に置かれた木箱と薄汚れた石壁の間に挟まれ顔を押しつぶされながら逃げようともがくそれは、城に戻り安全な場所で過ごしている筈の幼い竜人だった。


「セレス?!」


「あ、アメリ・・・むぐ」


セレスの顔は歓喜に染まり、私の名前を呼ぼうとした所でダリルがセレスの顔を鷲掴みにし引っこ抜く。

ダリルは突然の事に口をパクパクとさせる私を無視し、必死に手が逃れようともがくセレスの頭を掴んだまま苛立ったように眉を吊り上げるも、周囲を気にしているのか声を潜めセレスに語り掛けた。


「ったく・・・大声出すなよ。お前、追われてんだろ?」


「むぐっ・・・!むむっ!」


ダリルの言葉に現状に気付いたのか、セレスは掴まれたまま暴れるのを止める。


「何で城を抜け出したの?!」


「む?むむむっ!」


ケレブリエルさんはダリルに掴まれたままのセレスの姿を憐れんだのか、呆れたと言った表情を浮かべ溜息をつく。


「其の子は城に帰しましょう?この様子だと好奇心にかられて抜け出して来たと言った所でしょう・・・」


「僕もそう思う、この後の事を考えれば尚更だ」


そう言うとファウストさんは頬を伝う汗を拭い、祭殿が有る方向を落ち着かない様子で見上げた。

確かに熱い、先程から急激に気温が上がっているように思える。


「ええ、この子を護りながら戦えるとは思えないし」


「あの・・・それより、セレスさんを離してあげたほうが・・・」


セレスの顔を掴んだままのダリルを見てソフィアが戸惑いながら手を伸ばした、その時だった。

何度も突き上げる様な地震が私達を襲う、建物が揺れ、石畳が盛り上がり砕けたかと思うと、肌をチリチリと焼く、融けた鉄の様な高熱の塊が隆起する。

火の精霊王様が護りが強い中心地である筈の王都に何故、火瘤が生じたのだろう。

再び異界の魔物達を送り込む世界の裂け目が生まれようとしている現実に私は愕然とするも、私は止まるつもりは無かった。

思ったより事態は性急を要すると感じつつ、揺れでがくがくとする膝と踵を確りと地につけ踏み込み耐え忍ぶ。


「早く、城に・・・・」


セレスを引き渡したら、この事態の解決に全力を尽くそう。

そう口にしようとした所でガタガタと忙しない音を立て、氷の魔道具を荷車の様な台車で引きづり、ドワーフ達が私達を目掛け走り寄ってくる。

車輪が凹凸の出来た石畳に引っ掛かるも持ち直し、威勢の良い掛け声を掛けながら氷の魔道具の照準を火瘤へと合わせた。


「っとコイツは一ヶ所や二か所じゃねぇんだ、お嬢ちゃん達どいてくんな!」


そう言うと男性は水の魔結晶の塊を魔道具の根元にある円形の箱に入れ蓋を閉める、仲間に掛け声をかけ勢いよくレバーを振り下ろした。

それはガシャンと大きな音を立てると、砲台の先端に魔法陣が浮き上がり、白い冷気が噴出すると同時に青白い光が火瘤を目掛けて伸び、温度差による水蒸気が晴れると氷塊が出来上がった。

ドワーフの面々は其れを見届けると慌てた様子で次へ向かおうと二人がかりで魔道具の向きを変える。

その二人には覚えが有る、氷の魔道具を発明した魔道具師の三人の内の二人だ。


「待って下さい!街の状況は?他は如何なっていますか?」


足がふらつく中、立ち去ろうとする二人に駆け寄り呼び止めると、相手は苛立ち睨みつけるように此方を見たかと思うと驚いた様に目を丸くし、眉尻を下げ愁いを帯びた瞳をする。


「ああ、竜人かと思ったらお嬢ちゃんか。如何も何も此奴が気が緩んだ隙をついて現れやがった、まったく火の精霊王様の御膝元だっていうのに如何なってんだよ!っ・・・すまねぇ、イーヴォがやられたもんでな」


イーヴォさんの仲間は思い浮かべるにつれ感情が高まり語気を荒くし、拳を震わせると不意に我に返り、声は徐々に弱まり悔し気に俯く。

ウォルフガングさんは二人の許へ行くと慰める様に背中を叩いた。


「そうか、イーヴォが・・・スーズリにフラール、引き留めて悪かったな」


ウォルフガングさんが声を掛けると、スーズリと呼ばれた黒髪のドワーフも栗色の髪のフラールも顔を上げると、作り笑いを浮かべていた。三人は話し終えると、スーズリさんが去り際に私達の方へ振り返る。


「街は被害が拡大し続けて危険だ。だが、不幸中の幸いだが魔物は出てこねぇ、避難者を見かけたら城か祭殿へと退避させてやってくれ」


仲間を失っても尚、精霊王様の造り上げた此の地を護りたいと言う火は彼等の仲では燃え続けている。

私達も自分の足で歩き、自分の目で現状を検め、涙を流す物を減らし、意思を共にする仲間達を救いたいと思う。

私達は街で見かける傷つき助け合う人を目にしながら、魔物の残党や火瘤が破れ這い出そうとするのを切り伏せると、イーヴォさんの遺作と言える数台の魔道具を率いる人々が駆けつける。

戦いや避難誘導などで忙しない街中を進むと祭殿の屋根と、その象徴と言える金色の紋章が見えてきたのが目に止まる。


「ご自分の眷族の皆が、傷ついても退かずに戦っているのを貴方は見てどうお考えになっているのですか?」


私は姿も意思も現さず、邪神の陰謀により蝕まれゆくままの火の精霊王様に語り掛ける様に本音を呟く。

近い状況において水の精霊王様も眷族の皆さんを護ろうと身を削っていたと言うのにとは不敬に当たるので口にしないけれど。私は肩を竦め、祭殿から目を逸らし歩き出す。

皆に後れを取った事に気付き、慌てて追いかけようとすると何故か仲間だけでは無く、周囲の人々が立ち止まり指で空を指している。

魔物が再び襲撃をしてきたのかと顔を上げ、指が射す方向を見上げると、祭殿を貫き天に届く火柱が立ち上っていた。

それは建物を燃やすでもなく、人々を傷つけるわけでも無く、煙も無くただ力強く神々しい炎。

次第に火柱は渦巻き意思を持つ様に燃え盛ったかと思うと広がり、王都を覆い尽くした。

驚き困惑する人々の前で魔物を滅し、火瘤を焼き切り消滅させていく。

此れは正に浄化の炎、私の言葉に対する火の精霊王様からの意趣返しのようだ。

周囲からぽつぽつと声があがる。


「火の精霊王様が我等をお救い下さった!我らの火は消えぬぞ!」


一人の竜人の兵士が火の祭殿へ向けて高らかに歓声をあげる。

それを皮切りに王都の雰囲気は反転して、竜人にドワーフと火の眷族達の声により賑わった。

私は改めて思った、封印であり番人では無く、眷族と強い絆を結ぶ王なのだと。



***********



魔物も火瘤も消え、誰しもが危機を脱したと安堵の息を漏らすも、多くの者が傷つき失われたのだと言う事実は消える事は無い。

祭殿の前に出来た仮設の治療所は怪我人や、悲しみにくれる人々も少なくなかった。

危機を退けた火の精霊王様の炎は消えたものの、仮初とは言え静寂が再び訪れたのも事実だ。


「ともかく、殆ど大祭司様も既に理解して居そうだけど、報告に行かないか?」


ウォルフガングさんは祭殿の方を横目で何度も見ながら、何処か落ち着かない様子。

その理由は解り易く、白魔術師が出入りする度に気にしている様子が窺える。

ケレブリエルさんとソフィアが微笑ましいと言った表情を浮かべる中、ダリルだけは眉根を寄せ、不思議そうに首を捻る。


「師匠、シグルーンっとこいきてーなら。一人で行けば良いじゃねぇか」


直球過ぎるダリルの言葉にウォルフガングさんは虚を突かれたような顔をすると、顔を水を振り払う様にブンブンと振る。


「そうじゃない、俺は仕事は成果を報告までと考えてだな。当然の事であってなっ」


早口で捲し立てる様に喋る様子を見てダリルは怪訝な表情を浮かべ面倒くさそうに頭を掻くと、私達の方へと振り返る。


「あー、そうかよ。んじゃ、報告済ませちまうか」


「そうね、急ごう」


その問いかけに頷いたのは私とファウストさんのみ、微笑まし気な眼差しを送る二人を見て小首を傾げた。


「異議無しだな?」


こうして私達は祭殿へと向った訳だが・・・

祭殿の中は廊下を歩くものの、怪我人の治療などで人が出払って居る為か人気は少なく、妙な緊張感が漂っている。

シグルーンさんの病室に入ると治療のおかげか、体を起こす事もできる程、元気を取り戻している様子。

安心をし、嬉しそうにするウォルフガングさんを置いて出て行こうと言うしたその時、何故かシグルーンさんに呼び止められた。


「奴等は私を通じて大祭司様から何かを訊き出そうとしていました。大祭司様に御用が有るのでしたら、如何か気を付ける様にお伝えください」


「ええ、解りました。お伝えしますね」


此方を困ったように見るウォルフガングさんを置いて、私達は大祭司様の執務室を目指し進む。

奥へ進むにつれて人気が無くなり静けさが増している気がする、記憶を頼りに廊下を歩くと空気が澱むのを感じた。

少し離れた場所に人影を見た、部屋の一を訊こうと歩くと、進むにつれてその姿が明確になる。


「レックス・・・?」


驚く私達の前に映ったのは杖を握り、真っすぐ地面へと突き出す妖精の盾こと、レックス。

その杖の先には怪我をし、血を体から流し横たわるエヴァルト大祭司の姿があった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真にありがとうございました。

とても励みになっています!

************

次週も無事に投稿できれば、4月11日18時に更新致します。

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