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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第68話 火に仕える者ー火の国シュタールラント編

目の前でもがき苦しむ竜は自身の器に見合わない量のマナをその身に受け、命を削る。

許容量を超えた火のマナは彼女自身を内側から傷つけ、治まり切らずに肉体から溢れ出す火はまるで生き物のようだ。

渦を巻き放出されては彼女自身の力で、再び内へと戻るの繰り返し、咆哮とも悲鳴とも取れる声が響き渡り、動きを止めるとガクリと竜は立っている事も叶わずに床に膝を突く。


「でっ、如何なんだ?」


「街でも聞いたでしょう?人型を保てなくなったと言う事が竜人にとってどういう事なのか」


街に積もる灰の山、大祭司様から聞かされた話によれば自身の意思に関係なく、竜の姿に戻ると言う事は死が迫りつつある事を示すらしい。

ダリルは渋い顔をして奥歯を噛みしめ拳を握り、他の三人はそれぞれ顔を顰め、それぞれ考えに耽る。


「・・・つまり、彼女は死を覚悟で火を抑えようとしているんだな?」


「・・・ええ、恐らくは。あの様子だと、彼女は受け入れられる火のマナの限度を超えていると思います。私達は限度を超えた物・・・取り入れた事により命を削る火のマナを抑えなくてはいけません」


「それでは、此の地の力の根源たる火のマナで彼女は・・・自らを死地へと陥れているのですね」


「ああ、白魔術師の嬢ちゃんの言う通りだ。魔核を通し、魔力に変換されたマナは限度を超えて体内に蓄積し続ければ自壊を引き起こす・・・あの姿がまさにそれを示しているぜ」


ギルベルトさんは顔を青褪めさせている、恐らくこの中で今の彼女の姿から示す物を理解しているのは彼だろう。そして本来、この火のマナを抑え、均衡を整えてていたのは水で間違いない。

あの留めきれないマナを、私の力で治め切れるかだけど・・・


「私が氷狼に力を借りてマナの抑制を試みてみます。その間にダリルとギルベルトさんは攪乱を、ファウストさんはその隙をついて彼女を羽交い絞めにしてください」


「ああ、了解した」


「傷つけずにと言うのが難しいが、其れ位なら余裕だな」


ダリルはこの状況に気分が高揚したのか、目が爛々と輝き始めた。

ギルベルトさんは蟀谷(こめかみ)の汗を拭うと、ファウストさんとダリルを交互に見る。


「おぅ、了解。何時まで気を逸らせるか解らないが出来るだけ早く頼む。俺様達が怪我をするよりか先に、建物が壊れちまうぜ」


「問題ない、僕のできる最善を尽くすだけだ」


ファウストさんはギルベルトさんの心配を跳ね除けると、岩人形(ゴーレム)を瓦礫をも素材にし、強度を高めて行く。


「先に行くぜ!」


ダリルは私達の横を擦り抜けダリルは駆けていき、術で飛んでは敵を翻弄して行く。


「おら!俺様を出し抜こうなんざ、甘いんだよ!」


ダリルに焚き付けられたのか、ギルベルトさんまで後を追うように駆けて行く。

誰が何時、競争と言ったというのだろうか?

その二人をソフィアが慌てた様子で追いかけるが、追いつく事は出来ずに膝を突く。


「待って下さい、支援を・・・!」


それにより、珍しく怒ったような顔をしたソフィアだったが切り替え、諦めた様に苦笑する。

ダリル達は火や瓦礫で足場が悪い中で身を翻し、振り下ろされる鋭い鉤爪を剣や蹴りで受け流していく。


「此処は気にせず、二人に気が逸れている間に私達はやるべき事をしよう」


「・・・必ずしも成功を確約できるわけでは無い。ソフィアは治癒を中心に、僕は君達に攻撃がいかないよう精一杯、彼女を抑え込む。頼んだぞ二人とも」


「ええ、お互いに頑張りましょう」


「あたしも全力で治療します。火傷でも何でもお任せあれです!」


「はは、頼もしいな・・・」


ファウストさんは張り切るソフィアを見て苦笑をする。

ダリル達によりカーラさんの動きは鈍っているが、火のマナを取り込む事を止める様子は無い。

その視線は囮の二人を追っており、正気を失っているのも相まってか、動きを気取られる事は無く容易く背後に接近する事に成功、ファウストさんの岩人形(ゴーレム)は素早く彼女を羽交い絞めにし、組みつきに成功するが、思わぬ抵抗を受ける。

焦りと怒りに満ちた言葉を叫び、何が何でも振り払おうと必死に暴れる。


「何故・・・何故止める。此れは精霊王様の御力を賜る為の器を持つ私の役目よ。放しなさい!」


面会の時と反し、精神の異常による不可解な言葉では無く、明確な彼女の意思と考えが耳に届いた。

ただ、不確定な想像だけが私の中で膨らみ続ける。


「まさか・・・」


攪乱組が足を止め、不思議そうに首を捻る中、ソフィアとファウストさんと目が合う。

互いに頷き合う中、意を決した様にソフィアがカーラさんに語り掛けた。


「それは、貴女の・・・側仕えの役目だと言うのですか?」


「私は・・・違うっ」


一瞬、カーラさんは躊躇(ためら)うが、動きを拘束されても尚、火のマナを取り入れて行く。


「く・・・この状態でもまだ自身で抑えきろうとするか。アメリア、此のままでは持たないぞ」


「ええ!氷狼、頼んだわよ。『氷の息(グラキエースアニマ)』!」


氷狼は私の声に応える様に尾を振ると、耳元付近まで裂けた口が大きく開く。

白銀の被毛がぶわり逆立て、その胸元を大きく膨らませたかと思うと、「ウォオオオン」遠吠えと同時に水のマナが冷気に代わり吐き出される。それが取り込めずにいる火のマナを呑み、(もや)が生まれ視界が白く曇る。

その為に氷狼に与えた魔力量は予想より多く、一瞬で大量の魔力を失い、少しだけ眩暈がして足元がふらついた。

火は治まったようだが、靄が晴れると同時に力無くカーラさんは焼き焦げた床に倒れていたが、

視線はぶれるずに真っすぐと此方へと向けられている。

もはや、これらは狂気による発作的な行動と思えない。頭の中で浮かんだ考えが、はっきりと確信へと繋がった。


「最初から正気だったんですね。カーラさん・・・いえ、シグルーンさん」


「そう・・・気づいたのね。これも、全て私が原因・・・魔族の力に屈し・・・を開けさせてしまった・・・。だからこそ、今のわたしに出来るのは現状に留めさせる事なのよ」


震える声は彼女の思いや感情の昂りにつれて、語気が激しくなるが、苦し気に顔を歪めると、その体に全ての火のマナを強引に取り込み、徐々に火が体を覆うのにも構わずに力無く瞼を閉じようとしている。

そう彼女は街で見かけた人々と同様に、死の縁に立とうとしているのだ。


「それは何の解決にならないわ!それに、まだ貴女は逝くべきじゃない!」


火の精霊王様の役にたってみせると言う揺るがない意思を示し続けようと言う強固な姿勢に、私は居ても立ってもいられず彼女の許へと駆け寄る。


「火の精霊王様に何が起きているのかご存じなのは貴女だけです!此のまま、仕える方を見捨てるんですか!」


氷狼の凍てつく息を浴びせながら、(すが)りつくと、シグルーンさんは困り果てたように眉尻を下げる。

意思を面の甲とする相手に、我儘で残酷な事を言っているのは承知だが、こんな終わり方を彼女にして欲しくなかった。


「・・・大丈夫よ。私がいなくても、巫女の候補はいるわ」


「貴女は必要とされているんです。火の精霊王様も、祭殿の皆さんも・・・そして、ウォルフガングさんにも・・・」


ソフィアがそう必死に呼び掛けると、シグルーンさんの瞳に初めて動揺が見える。

ゆっくりと瞳がソフィアの方を向いたかと思うと、苦し気な息遣いと共に声が漏れた。


「ウォルフが・・・?」


先程までと違い、少しづつ頭を上げる姿と声に驚くと、私の胸鎧が赤く発光している事に気が付く。

それはシグルーンさんと接している部分を起点に、彼女から火のマナを吸い上げ、赤い紋を画く。


「此れは、火の精霊王様の加護?」


鎧の中心へと徐々にそれは集束し、文様は胸元で燃えるように紅い結晶となった。

鎧に気が取られて紋様に目をやっていると、ズカズカと乱暴な足音が響き、ダリルが乱暴にシグルーンさんの角を掴みしゃがみ込んだ。


「目を覚ませ。アメリアの言った連中や師匠だけじゃ無く、此処に居る俺達も死なんて許さねぇ。これで使命果たしたから終わりは、ただのお前の自己満足だ。どんなに無茶でも、途中で放り出しては()()()()だ何て言わないんだよ!」


その声に微笑んだかと思うと一言、シグルーンさんは「師匠にそっくりね」と呟くと、ゆっくりと瞼を閉じた。



***************



周囲の火は氷狼のおかげで鎮火し、辺りは焦げ臭さと煙が漂っていた。

ファウストさんの岩人形が脱力したシグルーンさんをゆっくりと抱きかかえる。


「ソフィア、街の時の様になっていないが一応、診てくれないか?」


「はい・・・」


ソフィアは神妙な面持ちでシグルーンさんの体を診ると、静かに溜息をついた。

その様子を傍で見ていたファウストさんは「ふむ・・・」とだけ呟くと、岩人形を眺め黙り込んだ。


「おい、そいつ・・・大丈夫なのか?!」


「いえ、大丈夫とは言えません・・・その・・・」


ダリルの勢いに気圧され、ソフィアは戸惑う様に口籠る。

その雰囲気にさすがのダリルも何かを感じたのか、ソフィアの腕から手をゆっくりと放し背を向ける。


「そうか・・・その側仕えの女、後できちんと弔ってやんないとな」


ダリルは何か色々と勘違いして居る様な気がする。

ソフィアはその様子から何かを察したのか、驚いた顔をして此方を見ると、ぶんぶんと首を振る。

その反応から状況から芳しくは無い状態と思っているけど、動きや彼女の性格から何か誤解を生んでいそうな気がしたので訊ねてみた。


「え・・・?ソフィア、彼女は・・・シグルーンさんの命は救えたのよね?」


「ご・・・誤解です!瀕死状態なのに変わりがないので大丈夫じゃないと言っただけです」


驚き目を見開くと、慌てて訂正するソフィアに一同、呆れ友安堵ともいえる息をついた。

そんなこんなで半焼した白魔術師棟の療養の為の一角を出た私達だったが、ファウストさんは何やらダリルともめていた。


「ダリルの判断は慎重さに欠けるな。君はもっと冷静に話を聞くべきだ」


「何言ってんだ!お前達が意味深な事を言うからだな・・・」


まだそんな事を話しているのかと見守っていたが、その騒がしさに耐えきれず、治める為にも介入する事にした。


「そこ、くだらない事でもめてないで。白魔術師の人にシグルーンさんを預けるに加え、こんな事も有ったし、あの大祭司様の許に報告と忙しいんだよ」


「って・・・本当にコイツ、シグルーンなのかよ?」


「え!?コイツが・・・いえ、この方が?!」


如何やら、ダリルに続き、ギルベルトさんまで彼女の正体に気づいて居なかったらしい。

思わずソフィアやファウストさんと顔を合わせ肩を(すく)めていると、何やら側仕えの人々を連れ、優雅に歩いて来る人の姿が此方に近付いてくる。

付近でエヴァルト大祭司は立ち止まると、眼鏡を指先でたくし上げ、焼け焦げた白魔術師棟を見て渋い顔をするが、此方に気付くと満面の笑みを浮かべた。


「やあ、如何やら進捗が有ったようですね。私も協力した甲斐があったと言う物です」


「・・・は?」


その瞬間だけは、私達の心は一つになった様な気がした。

本日も当作品を最後まで読んで頂き、真に有難うございます。

それに加え、新たにブックマークまでして頂き、これには感謝の念が尽きません。


**********

次週も問題が無ければ、3月14日18時に更新致します。

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