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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第67話 火と煙の中でー火の国シュタールラント編

灼熱の空間から逃れたと思いきや、鼻を突く焦げ臭さが漂う。

慌ただしい足音に混じる声に耳を傾ければ、此方はこちらで思いもよらぬ災難に見舞われている様だ。


「くそ・・・!侵入者に加え、火事まで起きるなんて!何て日だよ!」


祭殿仕えの男性が仲間達と共に長い祭服の袖を捲し上げ、愚痴を零す。


「お前は良いだろ、水龍族は火を消すだけで良いんだしよ。こちとら、巫女様に化けてたって言う、あの斧使いだぜ。ありゃあ、魔族に決まってるぜぇ・・・俺、闇魔法の対処方法なんて知らねぇよ」


巫女に化けていた斧使いの魔族・・・?

斧と聞いてトールヴァルトの顔が浮かぶ。誰かに姿を変えてる事が可能なら、祭殿へ潜入するなど何故にこんな目立つ方法を取ったのだろうか?攪乱か何か、其れにしては大胆すぎる。

私達が祭殿にくると予測していたのなら、何もシグルーンさんの姿で現れたうえに、姿を明かす必要は無い筈だ。何か他に狙いが有るのだろうか?

改めて、水の精霊王様の残された言葉を思い出すが、どの眷族(だれ)が肩代わりしたかは不明だが、そんな事ができるとしたら巫女であるシグルーンさんだろう。

隣に立つシグルーンさんにはそんな素振りも見えない。

無言のまま怒りの形相を浮かべると、歯軋りをした後に舌打ちをし、苛立ち交じりの言葉を何かつぶやく。そのままに小休止する祭殿仕えの男性達の許へとにじり寄った。


「ちっ・・・こんなの聞いていないわ!あんた達、斧使いはどこ!」


人が変わった様な迫力の形相に一人は唖然としながらも顔を青褪めさせる。

斧使いと聞いて豹変した様なシグルーンさんに祭殿仕えの二人だけでは無く、私達ですら言葉を失う。


「み・・・巫女様?!」


明らかに唯事じゃない様子のシグルーンさんに一人は困惑の表情を浮かべる。

もう一人は冷静に努めつつも、シグルーンさんに(へつら)う様な仕草を見せた。


「み、巫女様が見つかれば安心だ、大祭司様により白魔術師棟の消火の命が下っております。斧使いなら我々、祭殿兵が対処しておりますゆえ、ご心配に及びませんので、如何か其方に・・・」


彼女を危険から遠ざけようとしたのだろう。しかし、其れが彼女の更なる怒りに火をつけた。

何故、其処まで斧使いに執着するのか、提案など物ともせずに自分の問い掛けに答えようとしない男性に掴み掛かった。


()()()()はあたしには関係無いわ!教えなさい!命令よ!」


「は・・・はい!でも、貴方様の御力なら・・・火を御する・・・・ひい!」


「・・・・」


鬼気迫る様子に気圧されたのか、祭殿兵の男性は「あちらです・・・」と怯えたように言うと、シグルーンさんと共に消えて行った。

二人が姿を消すと、もう一人は足をガタガタと震わせ、逃げる様に廊下を駆けて行く。


「何か上手い事、此方の目を逃れたわね・・・」


ケレブリエルさんは彼女が去って行った方を見て苦々しげな表情を浮かべる。


「そう?オレからしたら、その斧使いって奴に偉くご執心の様に見えたけど?」


ケレブリエルさんとフェリクスさんの意見も何方も然り。

しかし証拠が揃わない現状、それは推測しかできない。

私達が追いかけたのも、祭殿に居たシグルーンさんも、何方が本物か吟味している間もないのだ。


「・・・私は白魔術師棟へと向かおうと思います」


出火原因が暴走を抑えた人物と言う可能性も有る。特定はできないが、思い当たる事が無くはない。

然し、ケレブリエルさんとフェリクスさんは関心を示しつつも、表情は渋い。


「本来、彼女を調べる筈だった奴にやる気が無いんだ。彼女が本物か如何か判明するまで調べる必要があるんじゃないか?」


「・・・水の精霊王様が仰っていた肩代わりをした眷族がいたとしたらと考えているんですが・・・」


戸惑う私達を見て、ダリルは呆れた様にじっとりと此方を見ていたかと思うと、苛々した様に頭をガシガシと掻く。


「あー・・・めんどくせぇ!此処は二手に分かれれば良いじゃねぇ?合流して情報共有ってやつすれば良いんだしよ」


皆が無鉄砲な行動や発言の多いいダリルの、予想外に冷静な切り替えと判断に驚き視線が集まる。

ダリルは不名誉な視線に腹を立て、蟀谷(こめかみ)に青筋を立てつつも必死に怒りを堪えようと拳を握っていた。

然し、ファウストさんだけは感心したと言わんばかりに声を漏らす。


「へえ・・・意外と冷静なんだね。行くとしたら、僕は白魔術師棟だな。建物が崩れたりしていた場合、僕が役立つだろう」


「それなら、先ずは二人は決定ね」


「何か引っかかる様な言い方をするんじゃねぇよ。時間が無いだろ?ほら、侵入者も火事も待ってくれねぇぞ」


時間が無いと解りながらも、苛立ちが滲み出るダリル。

そんな不穏な空気をウォルフガングさんが一喝し、事態は収束する事になる。


「それなら、尚更だ。俺はシグルーンの方へ行く・・・。他もさっさと決めろ!」


一人勝手に歩き出すウォルフガングさんを背に精霊の言葉を信じ走り出す、不安と疑念を抱きながら。

各々、其々の目的に向かい走り出した。



***************



風に吹かれ、見える煙の切れ目から覗く空は霞んで見えた。

記憶を頼りに走る廊下は進むほどに熱を増し、辿り着いた先に目に映るのは紅蓮の炎に包まれた石造りの建物。そして、狂った様に咆える謎の獣の声。

周囲には複数の魔法が飛び交い、息の合った人々が必死の形相で走り、水を撒く姿が目に映る。

その中の一人が私達に気付いたのか、ズカズカと地鳴りがしそうな勢いで此方に歩いて来た。


「おい!これは見世物じゃねぇ!中に残っている奴もいるんだ!何もしないならさっさと消えろ!」


怒りの形相で近づいて来た青い髪の青年の緑の瞳が怒りでギラリと光る。

完全に頭に血が上っているようだが、その言葉の中に聞き流せない物が耳に入った。


「まだ、中に人が居るんですか?!」


「俺様の話を聞いてねぇのか!?よく聞こえる様に耳の穴を増やしてや・・・あぁ?」


今にも噛みつかんばかりの迫力に思わず体を逸らすと、何故か私の顔をマジマジと睨むように顔を覘いてて来る。然し、その視界を塞ぐ様にダリルが相手の顔を鷲掴みし押し返す。


「てめぇ・・・アメリアのアホ面を睨んで何やってんだ?」


相手は其の手を摑み返すと、ダリルの腕を捻り上げ、互いに睨みあう。


「まさかと思ったがマジか!なぁに、あまりに良い女だったもんでな。見惚れていただけだ」


相手はダリルに睨み返すどころかダリルを煽る様にニヤリと笑い、突拍子も無い事を言いダリルを挑発する。


「は・・・?」


「ああ!んだと・・・ゴフッ!」


「いでっ!?」


思わず眉根を寄せながら相手の顔を見ていると、二人の頭を杖が激しく打ち付ける鈍い音が辺りに響く。

振り向くとソフィアが珍しく、笑顔の中に怒りを静かに浮かべ、硬く杖を握り絞めていた。


「喧嘩している暇はないんじゃないですか?それと、ダリルさんも揶揄われたからって怒らないで冷静になって下さいね?」


「はい・・・」


「あ、ああ、解った・・・」


二人は地面に尻と手を突き、眺める様にソフィアを見つめ脅え切っていた。

ソフィアの言っている事は尤もだし頷ける、ともかく誰か解らないけれど、呼び止める手間も省けたし、此の人から現状を訊こう。


「私達は野次馬のつもりでは無く、お手伝いに来たんです。どうか協力させ貰えませんか?」


「ああ、あんた等なら大歓迎だ!」


先程から顔見知りの様な振る舞いをしてくるのは何故だろうと見るが、幾ら振り返っても思い出せない。

思わず首を捻ると、相手は驚いた様に目を丸くする。


「って・・・もしかして俺様の事忘れてる?大祭司様の護衛にて最強の剣、ギルベルト・・・」


「ごめんなさい、ギルベルトさん。今は消火を優先しましょう」


憶えていないのは申し訳ないが、思い出話をしている余裕が無いのは明らかだ。

私は再び、首飾りに手を伸ばす。

ただ唖然とするだけのギルベルトさんをファウストさんは冷めた目で見ていた。


「初対面で失礼だが・・・貴方が言う通り、何もしないなら消えるべきじゃないか?」


突然の辛辣な言葉に、ギルベルトさんは眉を吊り上げるも、鬱憤を晴らす様に息を吐き出すと、表情を整える。


「原因は俺様達も調べたが不明。ただ火元は療養室方面なのは確かだ、火の勢いが強く侵入は出来ていないが、あの咆哮からして、弱った患者が取り残されている可能性は高い。できるか?」


やはり、あの人の可能性が高いわ。そうなると、別行動の三人が心配だけど・・・


「ええ、火の中へ突入する手段はありますから!」


私は胸を張る、水の精霊王様の加護をうけた首飾りから現れたのは氷狼(フェンリル)だった。

それでも十分頼もしい。

冷気と共に現れた白銀の狼を見たギルベルトさんは虚を突かれ、目を丸くしたが踵を返すと、白魔術師棟の中へと案内を始めた。



***************



氷狼のおかげで幾らか熱さから護られているも、其れに加えて火の加護を持つ私以外の皆はやはり苦しそうだ。

煤で真っ黒に染まる瓦礫をファウストさんの石人形(ゴーレム)が取り除き、声がする部屋へと近付くにつれ、苦悶の声に聞こえて来る。

地鳴りと壁や床が破壊される音が響く中、渦巻く煙と炎の中から現れたのは、自身を焦がす様に体に火を纏い暴れる竜の姿だった。

それを見て、ギルベルトさんが口角を引きつらせる。


「火竜族か・・・他のに比べりゃ、火に強いが此奴は不味いぜ。正気を失い掛けている・・・。それに、此処に居ると言う事は・・・こいつ巫女の側仕えか」


「この竜がカーラさん・・・?!」


巫女の側仕えとはいえ、精霊王様の力の均衡が崩れた事によるマナの暴走を抑制できるのだろうか。


「おい、コイツ・・・自ら火を吸収しているぞ」


ダリルに言われて竜の姿を見直すと周囲の火が帯となり、人型を保てなくなったカーラさんの体に絡みついては焼き焦げる鼻につく臭いと共に体に取り込まれて行き、その度に叫び声をあげもがき砕けた壁が此方に倒れ込んできた。其れをファウストさんの岩人形が撃ち砕き、私達を庇うように前へ出る。


「・・・これでは、建物の火を消すどころか、僕達の命の灯が消えるぞ」


「それなら、精霊の間で助けてくれた彼女を今度は私達が救うまでよ」


カーラさんに纏わりつく火のマナが制御しきれずに漏れ出た物なら、取り込ませずに済むようにしなくてはいけない。

暴れる瀕死の竜人を救う先に訪れる物は現状にどの様な変化を(もたら)すのだろうか。

本日も当作品を最後まで読んで頂き有難うございます。

とても励みになっております!

******************

来週も問題が無ければ、3月7日18時に更新です。

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