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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第60話 荒ぶる火脈ー火の国シュタールラント編

冷気と熱が交じり合う蒸気の中、ダリルが駆け抜けて行く。その足が空を切り、蒸気を掃いながら弧を描くと、岩の様になった皮膚を砕く音で鼓膜が振える。

ゴトリと重量を感じさせる音を響かせ、砕けたマグマジェリーの体が地面へと転がり落ちた。

中心には砕けても尚、光を失わない核と思わしき球体から高熱の赤い液体が溢れ、其れが核を包む様に再生を促す。躊躇は要らない、逸早くソレを粉砕しなくてはならないのだ。

私は足に力を籠め地面を蹴る、チリチリと肌が焼ける様な熱風を感じても尚、剣を閃かせ氷狼の援護を受けながら核を貫く。ミシリ・・・

核にひびが入るが砕けるより早く、マグマジェリーの最後の足掻きなのか、灼熱の体液を吹き出した。


「不味い・・・くっ」


焼け付く熱に身を捩らせ、それでも死なずにもがくスライムジェリーに剣を深く突き立てると、体液がゴポリと溢れ出る。

鎧を通して熱が手の甲に、そして手にまで焼ける様な熱が伝わって来るのではと身構えると、狼の唸り声と共にダリルの叫び声が響く。


『ガァアウ!!』


「オラアァァッ!!」


雄々しい叫び声と共に目の前の魔物は砕け散る。

手を押さえ思わず呆然とすると、苛立った様子のダリルの姿が目に映る。


「ははっ・・。これは美味しい所を持ってかれたかな?」


「敵は何対いると思っているんだ?まっ、一匹倒したぐらいで満足なら、さっさと戻って、ソフィアあたりに治療して貰えよ」


ソフィアの名前を耳にし、仲間達の安否が気になり様子を見ると、ファウストさんの岩人形(ゴーレム)が凍ったマグマジェリーを砕きつつ体液を防ぎ、ウォルフガングさんとフェリクスさんが核を粉砕していた。


「・・・満足なんてしていないわ。それじゃあ残りは一匹、どっちが倒すか勝負しない?」


「おっ!・・・勝負なら買うぜ!」


私が挑むと、まさに単純明快。ダリルは嬉々として敵へと駆けて行く。


「本当にもう・・・」


呆れつつも勝負だ、再び氷狼の背に乗り駆ける。競り合っては追い抜きを繰り返し、敵に向かい走る。しかし・・・


「よし!協力、感謝する・・・水の魔結晶を投げつけるとは中々、豪快な戦法だったな」


戦いが終わり、佇むウォルフガングさんの目線の先には、水浸しのマグマジェリーの骸と、したり顔のドワーフの兵士達の姿があった。

ちなみに水の魔結晶は生活にも活用される為、比較的お手頃な値段だが、それでも一つ大銅貨一枚はする。


「なぁに、親切な小人族の商人が大量に寄付してくれたからな、余裕よ!なあ、皆の衆!」


リーダーらしきドワーフの男性が仲間に呼びかけると、息の合った返事が返って来た。

評判は良いが、黒字になのか如何かライラさんが心配になった。

思わず私とダリルは目を合わせ互いに肩を落とすと、深い溜息をつく。


「これは、どうなるのかな?」


「そうだな・・・俺の勝ちだろ」


「私とダリル、それと氷狼も一緒に仕留めたから、最初の一匹は二人と一頭の勝利よ」


ダリルは「引き分けかよ」と呟き舌打ちをすると、不機嫌そうに私を睨んだ。


「おい、そこ!ぼーっとしていないで、アレを始末しに行くぞ」


「あー、解ったよ師匠」


ウォルフガングさんの一声でダリルは表情を変え、手を(はた)くと黙って歩き出す。


「アンタは、こうなった原因を知っているの?」


どう見ても熱はおろか、溶岩すら恐れなそうな魔物なのに、何があったのかと疑問が沸く。

動きからして人を捕食しようと言う動きは無かった。

ダリルは立ち止まるとぐしゃりと頭を掻き、振り向き様に早口で答えてくれた。


「その原因の一部を潰しに行くんだよ。詳しくは後にしろ、マジで時間が無い」


はやし立てられ、魔物の痕跡を追いかけ辿り着いた先には巣穴らしき岩窟が在った。

その表面はひび割れ熱を帯び、隙間から漏れる赤い光と共にポコリと言う音がなると、不気味な半円状の塊が溢れ出し膨らむ。

魔道具だろうか?先に到着していたウォルフガングさんは、何やらドワーフ達と共に樽に車輪を付けた妙な物を幾つも設置をし、此方に気が付き塊を指さす。


「これは竜人いわく、火瘤(かりゅう)だそうだ。これは濃度が増し、地脈の許容量を超え溢れ出した物が具現化した物らしい。此奴が破裂すると、岩などを構成する土のマナが飲まれ消滅する・・・」


「つまり、火のマナの力を帯びたまま、高熱になった大量の岩が街を襲うと言う訳だ!」


ダリルはウォルフガングさんの前へ出ると、腕を組み得意気に胸を張る。


「何で偉そうなのよ・・・」


思わず口角を引きつらせると、フェリクスさんはダリルを見て鼻で笑い、無視をすると真剣な面持ちでドワーフ達を見た。


「まあ、デコ助は置いといて。ソイツなら対処できるんだな?」


フェリクスさんがそう言うと、ダリルは何か言いかけた口を閉じ、不貞腐れたように目を逸らす。


「ああ、確か火の対極の属性の水の魔結晶を使った・・・あー」


ウォルフガングさんは途中で困った表情を浮かべ口籠る。如何やら名前を忘れたらしい。

其れを見てドワーフの主将らしき、男性は少し困った様な表情を浮かべ、ニヤリと口角を上げた。


「いーかげんに憶えて下さいよ旦那ぁ。俺達の自信作、マナ凝縮式照射砲ですぜ」


「あー、それだ。ともかく急ごう。臨界点まぢかだ」


ウォルフガングさんは話を摩り替え誤魔化すと、火瘤を見て眉を(しか)め叫んだ。

ドワーフの主将は其れを鼻で笑う。マナ凝縮照射砲・・・略してマ砲を火瘤に向けると、一斉にレバーに手が添えられる。


「もしもが在りますから・・・天におわせし我が主よ、その慈愛に満ちた御心にて 我等を守る盾を授けたまえ【神光障壁(アエギス)】」


ソフィアは静かに詠唱をすると、天から光が下り、半円状の障壁を形成する。

其れを見て、ドワーフの主将は舌打ちし、首を傾げると自信満々と言う表情で仲間達に合図を送る。


「よお、お優しいお嬢ちゃん。見てな!このイーヴォが、それが杞憂だと証明してやるぜ!ぶははははっ」


イーヴォと名乗った赤髭のドワーフの主将は豪快な笑い声と共に、乱暴に魔道具のレバーを下ろす。

マ砲はガタガタと激しく揺れると、その先端が青く光り、幾つもの水泡を生み出しては集束させ、水の柱が一斉に目標に向けて一斉に放たれた。

高温の塊のような火瘤と、水のマナを凝縮し放たれた水の柱が衝突し、急激に冷えた熱を放つ岩が急激に冷え、白い蒸気が立ち込める。

次第に其れにミシミシと何かがひび割れる音が混ざると同時に、大地と空気を震わせるような爆発が巻起った。

それにより、砕け飛び散った岩や火の粉が飛んでくるが、障壁に弾かれ事なきを得る。

ソフィアは良かったと安堵の息を漏らし、私達は衝撃で呆然としていた。


「・・・杞憂?」


「またか・・・何度目だよ」


ダリルはボリボリと頭を掻くと、勘弁してくれと言う表情でイーヴォさん達を見る。

当の本人は壊れた魔道具と、無事に鎮火した瓦礫と化した山の岩肌を見比べては、(とぼ)けた顔をして「可笑しいな」と目を泳がせ、私達の視線に脂汗を滲ませる。


「成功の道は一歩から、これも成功す為の礎にすぎねぇ。水蒸気爆発は予想外だったが・・・鎮火したし許せ!」


結果良ければ全て良し!此処でのイーヴォさんの開き直りは逆効果だ。


「予想外か・・・障壁が無ければ全員死んでいたぞ!」


ウォルフガングさんの氷のような視線が、刃物の様にイーヴォさんに突き刺さる。

私達から失敗を冷たくあしらわれ、肩を落とした様だったが、次の瞬間には仲間達と改良点に付いて熱く語り合い、すっかり元気を取り戻すのだった。



*****************



その後、冒険者ギルドで援助報酬を貰い、私達は(ようや)く久々の再会を喜ぶ事が出来た。

私達が時空の妖精に飛ばされた後、ダリルはカーライル王国に帰国しようと考えていたが、火の国が故郷と言うウォルフガングさんと再会をし、そのまま共にシュタールラントへ向かったんだそうだ。


「ベアスマン帝国じゃ無くて、シュタールラント出身だったんですね」


シュタールラントでは旅行や商売人以外の獣人は珍しかったので思わず訊ねると、ウォルフガングさんは少し顔を曇らせる。


「ああ、俺の()()()()奴等は、旅先の祭殿に俺を預けて消えた」


「え・・・祭殿に?」


その言葉から自分の軽率さに気付かされ、血の気が引く。

然し、ウォルフガングさんは目を丸くすると、優しく苦笑いを浮かべた。


「大丈夫だ、俺と言う奴は此処で生まれた。それ以前は無い。気を使われると逆に困るんだが・・・」


「あっ・・・すいません!」


「それ以前は無い」か、逆にウォルフガングさんに気を使われてしまった気がした。

此処が出身国と言うのなら、ドワーフと仲が良いのも納得できる。

育ったのが祭殿なら、竜人とも親交があるかも知れない。


「この状況、竜人族は何か知っていないのかしら?」


ケレブリエルさんがそう訊ねると、ウォルフガングさんの眉間に皺が寄ったかと思うと、機嫌が悪いのではなく、何かを思い出す様に視線を動かす。


「直接のやり取りはできていない・・・。火の妖精を通じての話によると、王都は王族と祭殿関係者以外は早めに此方に退避させ、火の精霊王に呼びかけているらしいが・・・・」


その口振や声色からして、そうとう危険な状況に在る事が窺える。


「うう・・・アメリアぁ」


肩にとまっていたセレスが涙声を漏らす。

すると、ウォルフガングさんは驚きの表情を浮かべる。


「珍しいとは思ったが・・・竜人の子供か」


「ああ、しかも其処らの竜人じゃないぜ。何たって・・・もがぁ!」


余計な事を言いそうになった気配を感じて、フェリクスさんがダリルの口を塞ぐ。

ウォルフガングさんは良いとして、盗聴防止せずに誰が訊いていても可笑しくないのにも拘らず、実はこの幼竜は王族ですだ等、容易く言って良い物じゃ無い。

ウォルフガングさんは怪訝そうな表情で此方を見るが、苦笑いを浮かべ誤魔化し、煙に巻いた。

話を切り替え、異変の原因の捜索を含め、色々と真剣に語ろうと言う事になった。

そして、さあ話し合おうと考えた其の時、再び火山が噴火した。

船上で見た物とは比べ物にならないほど小さいが、山の頂上と空が真っ赤に染まる。

そして・・・


「おい!大変だ!此処に確か、白魔導士がいたよな?」


イーヴォさんがけたたましい音をたて、慌てた様子で扉を開く。


「救助ですね・・・・」


私は机に手を置き、椅子から立ち上がる。


「いや、今回はそんなに被害は・・・俺達には無い。ただ、とんでもない物が落ちて来たんだ」


「とんでもない物?」


ダリルがそう訊くと、イーヴォさんは深呼吸をし、息を整える。


「竜人の女だ・・・噴火に巻き込まれぶっ飛んだらしい。龍の姿で落ちて来たが、かなり深い傷を負っている。急いでくれ!」


落ち着いたと思いきや、やはり早口で捲し立てる様に要求する。


「アメリアさん、女神様の慈愛の心は全ての者に等しく与えられます。彼女を救いましょう!」


そう言って、使命感に奮い立つソフィアの顔は、とても頼もしく感じられた。

本日も当作品を読んで頂き真に有難うございます。

前回から再登場の二人の捕捉。

ダリル・・・主人公の口も態度も悪い幼馴染。格闘家。

ウォルフガング・・・ダリルの師匠。世話好きの狼の獣人。


*************

何事も無ければ、次回更新は1月17日18時更新になります。

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