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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第57話 流るるは新たなる旅路へー出立編

空は明るく今までと打って変わり、晴れ渡り光に満ちていた。

然し、水の精霊王様の言葉通り、これで何もかもが元通りでは無いのだ。

今回の世界の綻びを封じても尚、溢れ出る瘴気と綻びの広がりを封じていた影響は大きく、水の精霊王様の衰弱は目に見える物だった。

当たり前だが、二種族間の団結はあの現場で結ばれる事は無く、改めて日と場所を移してガルヴァーニ区長とシルヴァーノさんの話し合いの場が設けられたそうだ。

話は順調に纏まり、水の精霊王様の命に従いながら、再び力を取り戻せるように眷族どうしの誓いが交わされた。

そしてまた、レックスは帰路につく船から忽然と姿を消す。成り行きか、それとも気紛れなのか、真剣に戦ってくれたのは確かだけど、いまいち考えが読めない。

ちなみに、ソフィアが言っていた身内とはレオニダの事である。教会の押収品の中に、姿を魔族に変える事ができる魔道具が有り、それを拝借したあげく誤解して助けに飛び込んだそうだ。

如何やら、魚人の里でやたら戦いに参加したがっていたのも其れが理由らしい。

現在、教会に戻った彼は罰として、牧師様からみっちり罰を受けているそうだ。

そして今、私達は旅立ちを前に、水の祭殿の精霊の間へ招かれた。


『・・・此度は貴方がたの活躍なしでは、この結末に至る事は無かったでしょう。水のマナが枯渇せず、我が眷族が一丸となり肩を並べる事が出来た事を、とても嬉しく思います。必ずや、再び清らかな流れと祝福が大地を潤す日も遠くないでしょう』


水色の髪をなびかせ顕現した水の精霊王様の姿は何処か弱々しく、儚げな雰囲気を漂わせながら、柔らかく微笑む。


「いえ・・・私は女神様より頂いた命を遂行しているだけですので」


「ええ、あたし達もです」


ソフィアは目を輝かせ水の精霊王様の前でると、胸に手を当て宣言する様に言うと、皆も其れに続いて前へ出る。水の精霊王様は私達を見て優しく微笑む。

振り返れば、本当に仲間に眷族どうしと、様々な形の絆の大切さを思い知った。

決して何もかも綺麗に解決したわけじゃない、騙しだまされ失った命もあれば、心に突き刺さったまま抜けない棘も有る。ふと、私は訊ねてみたくなった。


「・・・突然ですみません、水の精霊王様にお訊ねしたい事があります。お訊ねしても宜しいでしょうか?」


胸に刺さったそれを取り除きたい、自分勝手で失礼なのも承知しているけれど・・・。緊張しながら顔を上げると、水の精霊王様は静かに瞳を閉じ、ゆっくりと瞼を開けた。


『・・・良いでしょう、話してみなさい』


海の様に深く青い瞳が、心の内を見透かしたように真っすぐと向けられる。

迷いが心に生まれるも、それを私は振り切る様に口を堅く結び、訊ねた。


「今から話す事は罠なのかも知れませんが・・・少し、気になってしまって。戦いの最中、私が女神様の()()()だと言われてしまいました。何かご存じないでしょうか?」


口にしてみると心が軽くなった気がする。

「情けないな・・・」と心の中で自嘲しつつ答えを待つと、水の精霊王様はただ悲しげに目を細めた。


『きっと、その答えは私が貴女方を此処に呼びだした理由に繋がるかと思われます』


静かに其れは語られる、私が女神様が世界に干渉する際の依代であると、その機会は此れから次第で訪れる事は無いと教えてくれた、決っして貴女を騙す様な事は無いとも。

落ち着いてみると何だか恥ずかしい、私の杞憂だったのだろうか?

然し、その続きは甘いものでは無かった。


『女神様に依代がいるのなら、邪神に其れが存在するのは当然。そして今、世界の綻びを生み出しているのは、異界に送りにされた際に、邪神が残した遺物と言う物です』


「つまり、その依代となる人物を諸悪の根源・・?」


あまりにも突然で、今まで何故、知らされなかったのだろうと疑問が沸いた。

驚き戸惑い訊ねる私を心配そうに見る皆の顔が視界の端に映る。

然し、水の精霊王様は首を横に振った。


『遺物の全ては形が有る物とは限りません。あれは、人の心の揺るぎに寄生し、様々な物とへと変化します。依代も恐らくはそうでしょう・・・今は力を封じ、ある方々の庇護のもとに在りますが、全ては我々でも捉え切れないのです』


「・・・恐れ入りますが、一つ宜しいでしょうか?」


ソフィアは意を決し、恐るおそる疑問を投げかける。


『どうぞ、構いませんよ』


水の精霊王様から許可が下りると、ソフィアは緊張からか深く息を吸い吐き出した。


「色々と状況は飲めました。然し、アメリアさんのもう一つの役割も。あたし達は此れから、どう動くべきでしょうか?」


ソフィアもきっと、一気に色々と語られ、不安に思ったのだろう。


「ソフィア・・・つまり、やるべき事は今まで通りと言う事よ」


遺物の正体は特定できない、つまりは私達に更に注意深く問題に目を光らせて欲しいと言うだけだ。

ソフィアは驚き目を丸くし、不思議そうに首を傾げる。


「今まで通りですか・・・?どの様な時に、依代になるのか気になったのですが」


「確かに、それは・・・気になるかも」


予想外の疑問点に思わず共感してしまうと、フェリクスさんがふらりと宥める様に私達の肩をポンッと優しく叩く。


「神の御意思は誰にも判らないさ・・・まさに神のみぞ知るってね」


そう言うとフェリクスさんは私達の肩を掴んだまま、水の精霊王様にウィンクをする。まるで意図を全て理解していると主張する様に。

それには流石の水の精霊王様も苦笑する事を禁じ得なかたようで、頬を引きつらせると、小さく咳払いをする。


「・・・剣よ遺物の影響はより強くなっています。恐らく、あの魔族の巫女も魂が招かれ、生を受けた者でしょう。貴女達にばかりに犠牲を強いてしまい申し訳ありません。貴女はあなた自身の物です、如何かそれを忘れないように・・・私は貴女を癒し護ると誓いましょう」


水の精霊王様はそう告げると手をかざし、私の手に幾筋もの水流が吸い込まれ、手の甲に紋が画かれる。

此れは間違いなく盟約、もう意思に関係なく、今後の為に必要と言う事なのだろうか。


「ええ、私もこの盟約の証に誓います」


私が誓いをたてると、水の精霊王様は弱々しく微笑む。

何処か消化しきれない部分が生まれたが、私は口を(つぐ)む事にした。

そこで、黙ったままフェリクスさんの手の甲をケレブリエルさんが抓る事で私達の体は解放される。

呆れた様に手を擦るフェリクスさんを見て溜息をつくと、ケレブリエルさんは真剣な声で囁く。


「六元素の一つの弱体化による影響は大きいわ。要はその隙を狙う輩が居るから注意しなさいと仰っているのよ」


ケレブリエルさんの溜息交じりの声を聞き、ファウストさんは意地悪そうに口角を上げる。


「一人で何でも解決しようとして自滅しては、元も子もないからな」


そんなに私は無鉄砲なのだろうか?

揶揄い交じりの忠告に腑に落ちない物を感じ、ファウストさんをジト目で見るが、本人は何処行く風と言った様子。それから私は水の精霊王様に感謝を述べ、水の祭殿を後にする。


「アメリアちゃん、人に気に掛けて貰える内が華だよ・・・」


何処か悟ったような顔で遠くを見ながらフェリクスさんは語る。

其の手の甲は真っ赤な抓跡が残っていた。



***********



造船所に甲高い歓喜の声があがる、完成間近で作業が中止になっていたライラさんの船が破格の待遇を受け立派な商船へと生まれ変わっていた。

何故、いきなり造船所に?と言う所だが、彼女は帰還した翌日の早朝に興奮気味に私達を叩き起こすと、造船所へと強制連行したのだ。


「ふぉおおお、アメリア!お手柄ですよぉお!!」


「え・・ええー」


その気分の上がり様に付いて行けずにいると、造船所の所長であるロッコさんが立派な髭を撫でながら、ボロボロの私達を見て、憐れみの色を顔に浮かべていた。


「シーサペントの素材をこんなにふんだんに使ってもらえるなんて!しかも、無料(ただ)!さすが、舟を造らせれば世界一!船の匠ですぅ!」


「はぁ?!」


無料で船を改良して貰った何て、まさに寝耳に水。驚きで思わず、私達は声が揃ってしまった。

はしゃぐライラさんをロッコさんは無言のまま睨みつける。

きっと静かにする様に(いさ)めてくれると思い、緊張の面持ちで静観していると、「おい・・・」と低い声でライラさんに声を掛ける。


「素晴らしいお仕ご・・・」


「本音を漏らし過ぎだ。お前も建前と言う物を知っているだろう?そもそも、素材にシーサペントを使えたのも、そこの連中の血と汗の結晶だ。勝手に連れて来てお手柄だ何だ上から言うもんじゃねぇぞ・・・」


威厳と巨体が持つ威圧感に、ライラさんは怯えて縮こまると、ぐしゃりと小さな手で自身の服の裾を握り絞める。


「皆には幾ら感謝しても、しきれないと思ってるです。つい興奮して、嬉しくて・・・知らせを聞いて、皆と船の姿を見たくて・・・突然連れて来てごめんなさいです」


見た感じ、怖い御爺ちゃんに怒られる孫の様な光景だが、小人族の彼女は立派な大人の女性である。

必死に謝るライラさんを見て愉快そうに鼻で笑うと、ロッコさんの表情が何故か和らぐ。


「だが・・・・世界一の船の匠って呼び方は悪くねぇな!魚人の長と区長からの謝礼として運ばれた物を素材をふんだんに活かした、俺の最新の自信作だからな!特に竜骨!そこなんかは・・・」


ロッコさんは褒め言葉に加え、好きな造船技術の話で一気に機嫌が直り、専門的な話を饒舌に語りだす。

激怒しているかと思ったが、口が悪いけれど意外とちょろかった。

その後、仕上げに暫し掛かるとの事で造船所を後にすると、ライラさんは何事も無かったかのように明るい顔と声で唐突に出発は明日だと告げ、用事があるからと颯爽と別れて街を駆けて行った。


「あれは・・・本当に図太いわね」


ケレブリエルさんが遠くを見ながら呟く。


「同感です・・・」


何処か淀んだ空気に、困り顔を浮かべていたソフィアが勇気を振り絞り声を上げる。


「あ、あの・・・宜しければ憂さ晴らしに遅めの朝食にしませんか?お奨めの食事処を紹介します!」


「おっ!海鮮か?いいね!実はオレ、腹減ってたんだよね。教会によってセレスも呼んでいこうぜ」


其処にフェリクスさんの助け舟もあって、場の雰囲気はすっかり朝食へと傾く。

意識が移った途端に、全員の腹の虫が鳴った。



**************



ソフィアに教会から、私達の冒険に付いて行く許可をおりた。よし!いざ、再び大海へ!

そう思っていたのだが、私の頬を撫でる風は塩辛くなく、目の前に広がるのは花々と草木、見上げるは山脈だった。


「なーんて顔してるです?これから、大きな商売が有るって言うのにー」


ライラさんの言う大きな商売とは、帝都レオネの新名物を仕入れるものだそうだ。

何でも、温泉と言う地熱により暖められた地下水を利用した風呂や、地熱を利用した食事が名物になっているらしい。


「名物か・・・」


「食べ歩きしている時間は取れませんよぉ?」


御者台からライラさんはにやけながら、此方を振り向く。そんな顔をしていたのだろうか?


「・・・違いますよ。それより前を向いて下さい、何処かに衝突したら目も当てられません。帰りの馬車代が掛かりますよ?」


そう言い返すと、ライラさんは肩を(すく)めて私達に背を向け、はーっと呆れ交じりの溜息をつく。


「アメリアはお馬鹿さんですぅ?何の為に船員を雇ったと思うですか?」


此の人は煽り文句を混ぜずに話せないのだろうか?

取り敢えず、適当に答えて見る事にした。


「・・・まさか、船をレオネの港まで持ってきて貰うとかですか?」


すると、予想外の反応が返って来る。


「おー!勘が良いです!ウチの商品を特別に二割引きで売ってあげるです」


「結構です・・・・」


そうこうしている内に馬車は帝都の近くの橋へと差し掛かった。ふと、その付近に在った不思議な岩を思い出す。然し、其処に在ったのは窪んだ地面だった。


「アメリアー、如何したの?」


セレスが不思議そうに、私の顔を覘いてくる。


「ちょっとね・・・・ん?」


幌から覗く空に大きな何かが飛んでいるのが見えた、目を凝らすと何処となく鉱石の様な光沢があるのが見える。


「竜かしら・・・見た事が無いわね」


「まるで宝石の様だな、実に興味深いな・・・」


私につられてケレブリエルさんとファウストさんが横から空を見上げるが、二人とも反応は違えど、不思議な竜の正体を知らない様だ。帝都の図書館に拠りたい所だけれど、それは無理そうね。

わいわい騒いでる私達を振り向き様に睨み、ライラさんは眉を吊り上げ、頬を膨らませた。


「あー、あれなら見た事あるですよー。確か、有翼族の従魔らしいですよぉー。それ以上は解らないですが、長年旅していると時々、見かけるですぅ。ちなみに其の有翼人に関わらない事をお奨めですよぉ」


ライラさんは苦々し気な顔でそう吐き捨てると、再び前を向き鼻で笑う。


「有翼人・・・たしか、光の眷族ですよね?何故、近づかない方が良いのですか?」


ソフィアがそう尋ねると、ライラさんは暫しの沈黙の末に、深い溜息をつく。


「あいつ等、上から目線でお高く留まっている上に、商談どころか口も訊こうとしないですよ?商売できない相手に近寄っても、百害あって一利なしです」


つまりは、商売ができない相手に価値は無いと言うのか、それが彼女の人を見る判断基準なのだろう。

しかし、徹底的な嫌いっぷりね。


それから帝都へ着くと、目まぐるしい商品の仕入れから、商業ギルドの倉庫への往復の日々が繰り広げられた。生活品に雑貨に薬品、そして装飾等々と、観光どころじゃない。

そして漸く、その日々も終わりを告げる。


「次の商売相手は、火の国ですよぉ!!」


港に到着した船の中から降りて来たのは、見た事がある顔が混じる大勢の屈強な船乗りたちだった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます。

ブックマーク登録も有難うございます、とても励みになりました。


**************

何事も無ければ、次回は12月27日18時に更新となります。

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