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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第56話 希望の雫ー水獣区アマルフィー編

見上げる曇天の空、晴れやかな声が響く。


「勝利です!シルヴァーノさん達がシーサペント亜種に勝利した様です!皆さん、此方に向かっています!」


シーサペント亜種の群に挑んだ猛者達の無事が知らされる。

水の精霊王様を救う為とはいえ、私達を進ませる為に雄叫びを上げ立ち向かう姿は圧巻だったが、同時にあの巨大な魔物を押し付けて行くのは不安だったが、それは杞憂に終わったようだ。

だからこそ、その気持ちに応え、精霊の儀を遂行させなくてはならない。

未だに揺れが治まらず、不安な足元を踏みしめ、空に向かって必死に叫んだ。


「ソフィアー!!シルヴァーノさん達に私達に構わず儀式の準備を初めてと伝えて!!!」


叫ぶと同時に足元にビシリッ、稲妻の様な亀裂が入る。これは地底に生じた異界の口が開かれていく影響なのだろうか?

周囲の巣から煙のように上がる瘴気があがるのを見て、息を飲んだ。


「解りました!水の精霊王様をお頼みします!」


何時になくソフィアの声が頼もしい。裂けた床からは階下の冷気が漏れつたい、隙間から見える封印の比氷陣が目に入る。其の護りは何者かの魔法の上掛けが有り、より強固に見える。

巣の崩壊はさらに激しさを増し、落下する瓦礫と共に瘴気の多さに私達は苦戦を強いられていた。

その時、アルヴィズ達が警戒する声が上空でけたたましく響く。


「ピイイーー!」


「ピギャ!ピイイイ!」


酷く警戒するような声と羽音と泣き声が響いき、其れにソフィアの困惑する様な声が混じる。


「な・・何で!如何して貴方が此処に?!」


その声に顔を上げ、見えたのは黒く大きな翼を持つ何かがソフィアを無理やり連れ去る姿だった。


「まさか、トールヴァルト・・・?!」


私は焦り奥歯を噛みしめると、亀裂が入り裂け始める地面の音に紛れぬように、口笛で二匹を呼び寄せる。追跡するのなら魔法より、アルスヴィズだ。

ソフィアを追おうと呼び寄せるも、床は限界を迎え、崩壊する床はそうはさせまいと私達を巻き込んでいく。


「アメリア!」


「クソッ・・・不味い!」


仲間達の焦りの声、アルスヴィズが私を追いかけ、スレイプニルを引き連れ降りて来る。

高所からの落下は苦手だ。夢で見た光景が頭にチラつく。

二頭が間に合うとは思えない、冷や汗が背に伝せ、震える手で足鎧に手を伸ばす。


「吹き渡る風よっ・・・えっ?」


震える唇で風の加護を唱えるも、ふわりと体が何か柔らかい物に包まれ受けとまめられる。

レックスの呼んだ風の妖精の群が、私達の体を宙に留めていた。


「・・・・喜ぶのは早いぞ」


眼下に広がるのはシーサペントの巣と言う殻を失い、露わになった氷塊。

それは世界の綻びが封じられている階層もろとも覆い隠す様に円柱の氷が守りを固めていた。

然し、先程までの物は前座であったと思い知らされる。

私達を囲むように聳え立つ数基のシーサペントの巣が示し合わせたかのように倒壊をし始めたのだ。

空気が震えるほどの轟音、此方に落ちてくる物は撃ち砕き、海へ落ちた瓦礫が高々と水飛沫を上げる。

徐々に崩れゆく巣から封じきれなかった瘴気が漏れ出し、海水を穢し、澱む水は粘性を持ち泡立つ。

此のまま、護り通すかと頭を巡らせていると、シーサペントの巣は折れて互いに衝突しあい、此方へと倒れ込んで来ようとしていた。私は此処は退避しかないと苦渋の選択をする。


「皆、今は退避をしましょう!アルスヴィズ!スレイプニル!」


かなり強引だけれど、判断を鈍らせるわけには行かない、皆に同意を求めると四の五の言わずに賛成の意図が示された。私は二頭へと口笛を吹き呼び寄せると、危険を顧みずに私達の許へと舞い降りる。

勇敢な二頭に感謝をしつつ二手に別れる、それぞれ操者の後に続き跨ると、(あぶみ)を蹴り空へと駆けあがる。今は逸早く此処を抜け出し、連れ去られたソフィアを連れ戻そう。

隕石の様に降り注ぐ瓦礫を縫う様に躱すが、時には避けきれない量が降り注ぐ事もある。

武器を取ろうとする手をケレブリエルさんに止められた。


「此処は私に任せ、操獣に集中なさい。遍く地を駆ける風の精霊よ 我が杖に集い手渦巻け・・・」


「チッ・・・」


私の頭上で風が渦巻くと、レックスが不機嫌そうに身を翻し此方へと退き返して来る。


「千の刃となりて撃ち砕け【烈風刃(ブラストブレイド)】!」


ケレブリエルさんの放った魔法は幾千の刃となり、目の前の全ての瓦礫を捉え撃墜するも、土煙の様になり視界を防いだ。

其処でレックスは前に躍り出ると、風を纏い杖を振りかざす。


「【風の妖精(エアリアル)】よ 呼びかけに答え吹き荒べ!」


愛らしい掛け声と共に、風の妖精の群が突風となり、土煙と其れに隠れていた瓦礫を吹き飛ばす。

何事も無かったようにレックスが振る舞うと、ケレブリエルさんが軽く身を起こし叫ぶ。


「後始末ありがとう・・・助かったわ!」


ケレブリエルさんの言葉にレックスは、当然だと言わんばかりに目を逸らす。背後のケレブリエルさんから「あれは謙虚なのかしら」と失笑が漏れていた。

其れと真逆に、フランコさんは危機的状況に好戦的な声を上げる。


「もっと早く飛べよ!俺なら脱出口ぐらい切り開いてやれるぜ!」


「はいはい、オレの頭に唾が飛ぶから止めてね・・・」


頭を逸らし、フェリクスさんがうんざりと言った声を上げ、フランコさんを宥める。手綱を握り操獣するファウストさんは緊張の為か、凄みの効いた声で其れを制する。


「ただでさえ、無理をさせて飛んでいるんだ。此れ以上騒ぐなら、振り落とすぞ・・・」


その声に二人は眼下に目をやり空気が抜ける様な声を出し、首を同時に振る。


「ゴメンナサイ・・・」


「何でオレまで・・・」


理不尽な扱いに不満げなフェリクスさんに、真剣そのものと言った表情でスレイプニルを操獣するファウストさん。


「ソフィア・・・大丈夫かしら」


「然し、仮にアイツがトールヴァルトとしても、あそこで誘拐する意味が解らないな・・・ん?!」


フェリクスさんはそう呟き、此方を見上げると頬を引きつらせる。

それは一斉に倒壊し始めたシーサペントの巣が、一斉に此方へと倒れ込んで来たからだ。

息を飲む間もなく私は手綱を強く打つ。飛行速度を上げ、倒れ込む巣の一部を避ける度、アルスヴィズの心音が早くなるのが、足から伝わった。私達は死に物狂いで一基、また一基と身を翻し躱す。

私達の耳に、下からは瓦礫が海に落ちる度に大きな水飛沫が上がる音と、それらが衝突しあい氷を砕くも、薄い障壁が張られているのか、弾かれ落ちて行く。

それでも、ミシミシ、バキバキと何とも恐ろしい、氷が軋み砕ける様な音が此方を揺さぶる。


「上を見ろ!」


フランコさんの焦る様な叫び声、そして暗い闇が私達を包む、真上を一基のシーサペントの巣が被っていた。



***************



圧倒的な大きさと重量感を用いて其れは迫りくる、沸き上がる本能からの恐怖心だけど・・・


「何もしないで後悔なんて、ごめんよ!光の精霊王様・・・如何か御力をお貸しください!」


私は剣を素早く引き抜くと、精一杯の魔力を練り剣に籠める。

張り詰める緊張感、駆り立てる使命、そんな私を見抜く様に皆から声があがった。

背後から杖で肩を叩かれる。


「うふふっ、一人でかっこつけるなんてズルイわね」


「女の子に任せっきりだなんて、オレの性分に合わないんだよね!」


「僕が得意なのは岩人形(ゴーレム)を操る事だけじゃないと言う所を見せてやるさ!」


「お、俺だって水の眷族だ!漢を見せてやる!」


「ふん、暑苦しい・・・だが、我が王と女王の女神との盟約、果たせず終わるつもりは無いのでな・・・」


ある者は剣技、ある者は魔法、そして妖精の力を借り、崩れ倒れ行く魔物が造り上げた塔型迷宮へと抗い、穿(うが)とうと力の限りを籠める。

私は祖父に習った剣技にのせて、渾身の一撃を放つ。


「はあああっ!【衝波光一閃】!!」


「風よ杖に集いて旋風となれ 旋風は鋭き槍の如く 我が敵を貫かん【旋風槍】!」


「天に巣くう雷龍 猛り荒ぶる雷よ 我が剣に宿りて牙を剥かん 【雷龍双牙】!」


剣から解き放たれる目が眩む様な閃光、其れは弧を描き巨大な光の波となる。其れを風の槍が追い、雷を纏う龍のように絡み一つになり、シーサペントの巣を抉り貫き轟音を響かせる。

其れでも尚、形を残す巨大に巣をへと、ファウストさんは手に岩人形の一部を握り、其れを掲げる。


「宿りし地の精霊よ 盟約にて命じる 岩は流星の如く 穿て【流星撃】!」


詠唱を終えると岩を空へと力いっぱい投げる。すると、周囲の落ちて行く瓦礫さえ姿を変え、光り輝く、鋭利な刃物に姿を変る。魔力の筋が光の尾を引き、流星は対象へと一糸乱れず飛んで行く。


「空に揺蕩(たゆた)う水精よ 盟約により我が剣に宿りて 氷牙となれ【アイスファング】!」


フランコさんが突きつけた大剣から放たれた冷気は流星を凍てつかせ、より凶悪に姿に変え、シーサペントの巣を二つに別つ。

別たれた巣は、片方は海に落ち、もう片方は中央の氷塊へと倒れ込む。


「王と女王の代行者が命ず 昂る火よ荒ぶれ 仇名すものを灰塵に変えよ【火の妖精(イグニス)火の妖精(イグニス)】!」


炎が生き物の様に、残骸を呑み込み尽くす。驚きに目を凝らすと、それは無数の火の妖精の群だった。

脅威は燃え尽き杯となり、何とも言えない異臭が鼻腔にこびり付く。


「な・・・何だよ此れ!」


フランコさんの声が響く、水の精霊王様の氷塊へと、崩れた巣からは瘴気が溢れ出し、海水を灰色に染め上げていく。徐々に海は粘り気を帯び、ポコリと気泡を生むと破裂し瘴気を生む。

ソフィアを探し出し、早急に儀式を執り行うようにしなくては。

焦りが募る、ソフィアの言う通り船が集まっているのなら、儀式の執り行うようにお願いしたら、犯人の正体が不明な以上は急いで情報を集め彼女の行方を探そう。


「在った、シルヴァーノさん達の船だ」


しかし、船は無傷なうえにシーサペントの巣に近付けず、ただ距離を取り停船している様子。

あまりに不自然だ。


「このままでは此処に居ても埒があきません、船に降りてみましょう」


互いに顔を合わせると、複雑な表情を浮かべ頷き合う。然し何故か、レックスだけが私達を見て呆れた様な表情を撃浮かべていた。

私が(あぶみ)を蹴ろうと足を上げると、船上から何かが飛んでくるのが目に入る。

それはセレスではない、まさかの人物に驚きに口が塞がらなくなった。


「ソフィア?!」


敵から逃亡して来たと言う訳も無く、彼女は困ったように眉を下げたかと思うと、勢いよく頭を下げた。


「本当にっ!ご心配をおかけしてすみません!」


「無事なら大丈夫、気にしないで。でも、如何言う事なんだい?」


優しく宥めるようにフェリクスさんが問いかけると、ソフィアは何かを思い出したのか眉を吊り上げる。

フェリクスさんは困惑の表情を浮かべ、自分が何か悪い事をしたのかと私達の顔色を伺いつつ苦笑する。


「あ・・・あたしが攫われた理由は身内の手違いですし、後でお話しますので・・・」


そう言うと、ソフィアは目を逸らす。本当に何があったのだろうか?

ケレブリエルさんは話を訊き思すると、何かを察したかのように額を押さえながら訊ねる。


「身内・・・所でソフィア。儀式は行えそうかしら?」


「ええ、先程の騒ぎの前から準備はできていたそうです。島と陸からは妖精による報せも入りましたし、何時でも始められます。何といっても、私が巫女の代理になりましたから」


これで一歩前進。妖精と聞いて、先程のレックスの表情の意味を知り、今度は此方が呆れてしまった。

儀式の巫女の役目は祭殿の白魔導士を立てていたが、ソフィアの母親譲りの歌声の力を借り、儀式で祝祷を行おうと巫女の役割を任されたそうだ。

そして、儀式は厳かに執り行われる。


「数多を満たし潤す 命の根源たる水の王よ 貴女が我等を護るよう それは渇る事無く永久(とこしえ)に 水瓶に満たし溢れる水が如く 貴女を願う祈りは世を満たしましょう・・・」


あまりにも滑らかに、自然に紡がれる祝祷(しゅくとう)は、此れが即興とは思えない程に美しく、ソフィアの声が皆の祈りが辺りを満たす。

船からは徐々に祈りの光が一つずつ水泡を模り、潮の流れの如く精霊王様の許へ引き寄せられる。遠く、水平線の先からは眷族の祈りが地脈を通じ届いたのか、海が徐々に色を変え、光り輝き出した。

眷族の祈りに応える様に、瘴気と穢れに満ちたその中心からは輝く水柱があがり、其れを中心に瘴気を祓われ、消滅して行く。祈りが満ちた時、海はシーサペントの巣の残骸を残し、平穏を取り戻していた。

そう、私達に本当の勝利が訪れたのだ。

空は色を変え、太陽が世界を照らす、穏やかな海面は競り上がり、青い髪の美しい女性を模る。


水の精霊王(ウンディーネ)様?!」


フランコさんが歓喜の声を上げるが、姿を見た事が無いのか何処か確信を持っていない模様。

すると、頭の中に声が響く。

その声は喜びに満ちている様だが弱々しく、しかし心に沁み渡る優しい声だった。


『先ずは心よりの感謝を。先ずは変わらぬ祈りを捧げた眷族に、そして二度までも眷族を導き救ってくれた剣とその仲間達、そして古き約束を果たす為、力を貸してくれた盾へ感謝を』


水の精霊王様はそう言うと、腕を広げる、すると霧雨が私達へと降り注ぎ、気が付けば戦いで出来た傷が癒され消えていた。船からシルヴァーノさん達の歓声があがる。

水の精霊王様は其れを見て、何処か悲しげに胸元を押さえ苦しみ口を噤み、手を震わせる。


『この度の事で、(わたくし)は、自信の力とあの子を失う痛みを味わい、女神様から与えられた世界の脆弱さを思い知りました』


その言葉に辺りは神妙な空気が流れ、波の騒めきだけが響いた。

もはや原因は考えるまでもない、異界からの稀人の狂戦士に瘴気に染まった海。要因と結びつく物が多すぎる。

そして、水の精霊王様の言葉は続く、「願い事が一つ有ります」と前置きをすると、水中から巨大な翡翠色の卵を浮かび上がらせ、シルヴァーノさん達の船へ近づけると受け取るように促す。


『魚人族よ、リヴァイアサンの残した此の子を新たな霊使として育み護り、水獣族と手を取り合い私達への祈りを絶やさないでください』


リヴァイアサンが雌だったうえに卵まで産んでいたとは。驚愕の事実にシルヴァーノさんは驚きを隠せずにいるが、恐るおそる腕を伸ばし其れを大事に包み込む。


「ああ、ああ!任せろ・・・てください!必ず元の海を取り戻して見せます!なあ、水獣族代表!」


シルヴァーノさんの大きな声が隣の船に乗船するゴッフレートさんに掛けられる。

最初こそ、「俺か?」と戸惑う様子を見せたが、咳払いをすると胸を張り高らかに宣言する。


「えっ・・あ!区長に代わりその役目、喜んで引き受けさせて貰います!」


命は引き継がれ、枯れ果てた水瓶に祈りと言う名の希望の雫が落ち、満たしていく。

暗雲立ち込める空に太陽が姿を覗かせ、光は海へと降り注ぐと、水面は何処までも宝石の如く輝いていた。

本日も当作品を最後まで読んで頂き、真に有難うございます!

水獣区アマルフィー編、完結です。

まだ書き切れていないと事が有りますが、次の旅への冒頭でお話したいと思います。


********************

何事も無ければ、次回の更新は12月20日18時に更新致します。

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