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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第54話 結束の時ー水獣区アマルフィー編

今回は話の都合上、残酷な表現が使用されています。苦手な方は如何かお気を付けください。

レックスの無茶な命令を受けた時空の妖精のおかげで、難なく危機を逃れた私達の目の前に広がるのは多数の船。チラりと辺りを窺えば、様々な人達が忙しそうに行き来するのが見える。

別の巣に転移をするべきだったと主張するレックスだったが、妖精使いが荒いと時空の妖精から抗議され逃げられた。

戸惑う私達の目の前に現れたのは、空色の髪に緑の瞳を持つ筋肉質な長身の男性。魚人族の長であるシルヴァーノさん、その人だった。


「・・・誰だ?」


驚く私にレックスは不機嫌そうに口角を下げ、シルヴァーノさんを横目で見ながら小声で訊ねる。


「魚人族の長のシルヴァーノさんよ」


仲間と連絡も合流する間も無く、シーサペントの巣の一つが倒壊寸前に緊急脱出。

色々あり過ぎて正直、何処から説明をしたら良いのやらだ。


「こそこそと如何した?」


「此れには深い訳が、色々とありまして・・・えーと、此処は魚人の里であってますよね?」


言い淀みつつ訊ねる私を見つめると、シルヴァーノさんの眉間に皺を寄せ、不思議そうに頭を捻る。


「おいおい、それ以外、何処だと言うんだ。まあ、その様から察するに何か遭ったんだろ?落ち着いて此れまでの経緯(いきさつ)を話してくれや。なっ!そこの兄ちゃんもだ」


やはり、魚人の里か。大分遠くへ飛ばされた物だ。すると、シルヴァーノさんは有無も言わせず、私達の腕を掴み船へと引っ張って行く。

如何やら船で何処かに向かうようだが、ここは船に乗る必要が有るのだろうか?


「・・・話をするだけなら乗船する必要は無いだろ?」


私と同調したかの様にレックスは呆れ切った声で、シルヴァーノさんを腕を振り解く。

シルヴァーノさんは振り返り不思議そうな顔をするが、レックスは不遜な態度を変えるつもりは無い様だ。然し、怒る分けでも呆れるでもなく、シルヴァーノさんから予想外な言葉が返って来た。


「悪いな、此方の説明もせず、船に乗せるのは不味かったか・・・がはははっ」


シルヴァーノさんは気まずげに頭を掻き、空気を払拭する様に笑う。

その背後から、ガルヴァーニ区長が人を引き連れて此方に歩いて来るのが見えた。彼の後に付く人物は服装からして祭殿関係者だろうか、落ち着いた色合いのローブ型の礼服を身に(まと)っている。


「何やら大声が聞こえると思えば、貴方ですかシルヴァーノ。おや・・・」


最初こそ、シルヴァーノさんを見て嫌味な表情を浮かべるガルヴァーノ区長だったが、私を見ると同様の反応を見せる。

堂々巡りも難なので、水の精霊王様やリヴァイアサン、ドミニコの件で複雑だがともかく私から経緯を話す事にした。



*************



反応は三者三様だったが、やはり一様に衝撃的な事実に言葉にならないと言う雰囲気だった。

シルヴァーノさんはドミニコの裏切りもあり、さぞや腹立たしいだろうと思いきや、「やっぱりな」と呟き頭を抱えた。


「分殿の件から怪しんでいたが、予想通り過ぎて頭が痛いぜ・・・あの野郎、だからイキってやがったのか」


如何やらドミニコは、犯人として初めから目は付けられていたようだ。その警戒網を潜り抜けられてしまったのが悔やまれて仕方がない。


「そうは言っていられませんよ、シルヴァーノ。我々が考えを改め、手を組んだのは間違っていなかったようです。いやはや、アメリアさん達を送り届けた後、自分達の問題を人任せにして良いのか、自分ならシーサペントの生態に詳しいしと単独で突っ込もうとした無責任な長が居ましてね・・・」


ガルヴァーニ区長はチラリと視線をシルヴァーノさんへと向ける。

それに気付いたシルヴァーノさんはガルヴァーニ区長を睨みつけながら咳払いをし、気まずげに私達から目を逸らす。


「うるせぇ!俺はジッとして居られない性質なんだよ!それに、シーサペント(あいつ等)は一頭や二頭じゃねぇ、狩り慣れてる俺が行けば、調査しろ何にしろ楽だろ?其れに、組むとなった後はお前の方が、人を船で呼び寄せたりと、俺以上にやる気だったじゃねぇか!」


大声で喚き立てるシルヴァーノさんを涼し気な顔で「はいはい・・・」と躱していたガルヴァーニ区長だったが、片眉だけ吊り上げ、頬を引きつらせる。


「・・・当然です。あの貴方のやり方では、死者がでるだけだ。何があるのか予測不可能な以上、水の精霊王様に関わる事ですし、確り準備をするのは当然でしょう?ああ、それと、今回の御助言を頂こうと水の祭殿の大祭司のモンテヴェルディ殿に御足労いただきました」


シルヴァーノさんは口ではやはりガルヴァーニ区長に勝てず、蟀谷(こめかみ)に青筋を浮かべ舌打ちをした。

其処に先程からガルヴァーニ区長達の後で居心地が悪そうにしている、膃肭臍(オットセイ)の半獣人の男性は紹介されると苦笑いを浮かべ、私に向けて深々と丁寧なお辞儀をする。


「区長からお聞きしました、貴女がアメリアさんですね?(それがし)は、ステファノ・モンデヴェルディと申します。以後、お見知りおきを・・・。貴女のお噂は引き継ぎの際より、かねがね聞いております。一度ならず、二度までも祭殿の為にご尽力いただいてると訊き、アメリア殿には感謝してもしきれません」


「そんな!如何か、頭を上げてください」


こうやって改めて、こんなに丁寧にお礼を言われるとは、何だか照れ臭くて気恥ずかしい。

バタバタとした挨拶を終えると、シルヴァーノさんはドカリと岩場に座りこみ、咳払いをする。


「まあ挨拶も程々に、本題に入ろうぜ。アメリア達の話によると単にシーサペントの亜種を殲滅するだけの話じゃ無くなったようだしな・・・。一番の問題の肝は瘴気の溢れる海溝だと思われる、しかし自分から話を振って置いて何だが俺は言える事はねぇ、誰か意見を訊かせてくれないか?」


シルヴァーノさんは神妙な面持ちで話すと、落ち着きのない様子で私達の顔を眺める。


「今の様な事態に陥ったのは初めてですが、此処は精霊の儀が必要かと。実際、私達は似たような現象に各地で遭遇していますし、精霊は人に見出され認識される事によって存在と力を増すと訊きました」


「精霊の儀・・・?そいつで何とかなるのか?」


私が提案すると、シルヴァーノさんは初めて聞いたと言う顔をし、こっそりとステファン大祭司に訊ねる。小さな耳を片方だけピクリと跳ねさせ、ステファノ大祭司は難しい顔を浮かべながら振り向く。


「確かに、水の精霊王様をお救いする方法として、精霊の儀が有効かと思います。精霊王様は信仰する者である眷族達の祈りにより高められた、各属性の調律者たる存在。儀式は精霊王様と繋がる地脈の収束点に在る、祭殿や分殿で行う以外にも方法があるのですが、御話を訊く限りだと可能かどうか・・・」


精霊の儀については安心したが、祭殿以外の場所でも行えると聞いて驚いた。然し、その口振から(かんば)しくない様子が窺えるが、その方法とは何なのだろうか。

言うべきか如何か迷うステファノ大祭司を見て、レックスは嘲笑う。


「ハッ・・・!精霊王様へ接近し、際職又は時点で神職の者による祝詞の詠唱が必要。確かに危険だが手段は選んでいる場合じゃないだろ?」


「その通り・・・ですね」


ステファノ大祭司は戸惑うも、其れを静かに肯定する。

シルヴァーノさんはバンバンと励ます様にステファノ大祭司の背中を叩き、驚く彼を無視し話を進める。


「危険だろうと構わねぇさ。仮面の兄ちゃんの言う通り、この問題は早急に解決する必要が有る。ひょろいの!その儀式ってやつの行い方を今直ぐ教えてくれ。野郎ども出発するぞ!」


シルヴァーノさんが啖呵を切る事により、周囲が一斉に湧き立つ。

ガルヴァーニ区長は眼鏡を指先で押し上げると、呆れるのではなく静かに微笑み、周囲に何やら指示を出しす。ステファノ大祭司から儀式について訊きながら鞄からインク壺を取り出し、羊皮紙にさらさらと書き写すと、風に(さら)してから丸め、シルヴァーノさんの後頭部に投げつけ背を向ける。


「誰だ!紙っ切れ投げた奴は?!」


「・・・・ふんっ」


然し何だか、これを機にバラバラになっていた水の眷族は一つになれそうだ。



*****************



それから船での移動中、レックスに時空の妖精を再び呼び出せないかと持ち掛けた所、高位の妖精は王と女王からの誓約により制限されていると返された。

そして今、私達は魚人族の精鋭が乗るシルヴァーノさんの船に乗り、自警団と数名の白魔導士を乗せた船を率いて海を進んでいる。

ガルヴァーニ区長とステファノ大祭司は分殿へ儀式の執り行い方を伝え、アマルフィーに戻るそうだ。

再び訪れた私達の目の前には、海面から突き出す複数の槍の様な巨大な巣。その中央に位置する巣が()し折れ砕け、氷の山に()げ替えられていた。

そして、もっとも目立つ物は海に浮かぶシーサペント亜種の死骸と破損した見覚えの有る船の残骸。

やはり、皆は私を探していた。そう思い現状を見ていると居ても立ってもいられなかった。


「吹き渡る風にて 精霊を統べる者・・・風の精霊王よ 私に一陣の風を貸し与えたえたまえ!」


「おい!待て!早まるなっ」


私は船の手摺に足を掛け、シルヴァーノさんの制止を無視し、沈みかけた船へと風の加護で飛翔する。

ぐらりと私の重みで沈み込む船体の一部はとても不安定であり、望みは薄くとも船内に続くハッチを開くが其処に広がるのは浸水しきった船内。


「・・・・っ」


思わず言葉を失い、口元に手をあてる。すると、背後から小波が押し寄せると同時に大きな水音があがった。


「そこに居るのは、アメリア・・・か?」


聞き覚えのある声に、振り向けばよく見知った顔。其処にはイクサに跨り、驚きの表情を浮かべるロッサーナさんの姿が在った。


「あ・・・ロッサーナさん」


「船が群れを成してシーサペントの巣に向かう姿を見た物で、まさかと思いイクサで駆けて来たが、探し人がこんな形で見つかるとは・・・はぁ」


そう言うとロッサーナさんは心底疲れた顔をして、深く溜息をつく。船上から、シルヴァーノさんの大きな声が聞こえて来た。


「おお!てっきりおっちんじまったかと思ったぜ。他の連中は如何した?」


シルヴァーノさんを中心に魚人族の船員が甲板から顔を覗かせる。ロッサーナさんは父親の言葉に苦笑するも、船を見上げて微笑み拳を天に突きあげた。


「里長、幾ら親子とはいえ、其の言い草は無いのではないか?あと、痛い目を見たが皆、無事だ」


絶望から希望へ、心に温かい物が込み上げる。皆が無事と知れて、心の底から安心した。

その後、狩猟用の小島に避難していた仲間とも合流に成功。

色々と私自身に会った事を皆に色々と詰問されたが、気が治まった所で解放された。

やはり、フェリクスさん達は私を探してシーサペントの巣に向い如何にか倒したが、ゴッフーレートさんの船が大破。命からがら、ヒッポグリフ達の助けで島へ退避したらしい。

そして、ある者は使命の為に、ある者は仲間の為に、そして崇拝する王の為の共同戦線が始まる。



*************



船はシーサペントの巣を取り囲む様に別れ、先程よりさらに近くへと、ゆっくりと距離を詰めていく。

協力するにあたり、互いの情報をすり合わせも終え、作戦の組み直しはあったものの、混乱は無く作戦の決行に至った。ドミニコを直属の部下に持つフランコさんは無言だったが、落ち込のではなく、怒りが滲む拳を堅く握り、私達に同行を願い出て来るのだった。

近付くにつれ淀む空気と共に水面が激しく波立つ。危険を察知し、船を止めると、海水が空高く吹き上げられ、船を飲み込まんばかり高さの水壁があがる。それが水飛沫と波に変わり船を揺らすが、シルヴァーノさんは怯む事無く指示を出す。


「撃てーーーーー!!!!」


シルヴァーノさんの猛々しい声を合図に魚人族の兵は走り出し、船に積んだ水圧式の鎖付き大槍を射出する狩猟用魔道具を打ち込み動きを留めると、魔法で集中攻撃を仕掛け、倒れて来た所で武器で頭部を破壊する。

その合間を縫い、私達は水の精霊王様の眠るシーサペントの巣に向け船を繰る。この事態を引き起こした要因であるカルメンを止め、儀式を行う為だ。

暴れるシーサペントを潜り抜け、私とケレブリエルさんがヒッポグリフで船を先導し、新しい船を手に入れたゴッフレートさんが追いかける。

冷気により生じた(もや)が徐々に晴れる中、折れた巣を補う様に山を形成していたのは氷では無いと気付く。其れは氷では無く、リヴァイアサンの頭だった。

それは海面から頭のみを出す形で突き出しており、薄く開かれた瞳には光は無く、深い闇が広がっている。


「あ・・・そんな」


誰もが言葉を失い愕然と立ち尽くす中、顔を顰めるも、レックスだけは目の前の光景に気を取られず、瘴気が漏れ出す、そびえ立つ一基のシーサペントの巣を睨んでいた。


「王と女王の代行者が命ず 我が敵を焼き掃え【火の妖精(イグニス)】」


火が舞う様に宙を飛ぶと、ある一点で一気に燃え上がる。煙と香ばしい臭いが漂うと同時に「ぎゃああっ」と言う男性の悲鳴が響くと、何かがリヴァイサンの頭へと落ちて来た。


「やはり・・・生きていたのね」


ドミニコを見たフランコさんは目の色を変えると、私を押しのけ走り寄り、その胸倉を掴む。


「ドミニコ!何をやっているんだ、お前は!」


「けほっ、何って・・・何時も俺を見下し憐れむお前らと決別したんだよ!」


未だに確信を持てずにいる様子だったフランコさんと違い、ドミニコは薄笑いを浮かべ完全に開き直ると手をふり払い、リヴァイアサンを足蹴にする。


「んだとっ!お前、自分が何様のつもりだ!」


フランコさんの怒りに我を忘れた拳がドミニコの頬を抉る。吹き飛ばされて(なお)、ドミニコは態度を改めず、口元を拭うとフランコさんを睨みつけた。


「そうやって、高圧的な態度をとれば謝罪でもすると思ったのか?俺はリヴァイアサン(こいつ)みたいに死の罠に気付かずにくたばったりしねぇ。あの方と我が神の為に何でもやってやる!そして・・・ぐふふ」


ドミニコは喚き散らすと、ニヤニヤと何かを思い浮かべ、(いや)らしく笑う。

その言葉が真実なら、リヴァイアサンはきっと・・・


「カルメンは貴方になんか振り向かないよ・・・」


「遥か昔から闇の精霊王に一途だから」とまで言う間もなく、茹でたオクパスの様にドミニコは血管を浮きだたせながら顔を真っ赤に染め、私に向かい唾を撒き散らしながら詰め寄って来た。


「お前があの方の何を知っていると言うんだ!この代用品が!俺は彼女と共に我が神が世界を・・・」


その時、リヴァイアサンの頭から紫色の何かが抜け出した、其れは私に怒りをぶつけるドミニコの口へと吸い寄せられるように呑まれて行く。


「な・・・・」


「あ・・が・・・ごぁ」


気が付けば周囲のシーサペントの巣から溢れ出していた瘴気までもが集まりドミニコに吸い込まれ、その体は見る間に形や質量を変異させて行く。

私達がその(おぞ)ましい光景に後退ると、風に乗りクスクスと笑い声が聞こえて来た。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございました。

新たにブックマークの登録までして頂けて大感謝!


**********

それでは、次回も何事も無ければ12月6日18時に更新致します。

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