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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第49話 眷族の邂逅ー水獣区アマルフィー編

龍が過ぎ去りし後に訪れたのは晴天だけでは無かった。波を掻き分け進む船は一隻、掲げられる旗からして水獣区の自警団のもので間違いない。

晴天が(もたら)した平穏の時は、果たして二種族の眷族を争わせる為か壊れた関係の修復を望むものか?何なのか?

互いに其れを測りかねているのが、陸と海に隔たれた二種族の緊張感は薄れる事は無く、無言のまま悪戯に過ぎる。それを断ち切ったのはロッサーナさんだった。


「私は里長シルヴァーノが娘、ロッサーナ・ドュランテだ。恐れ入るが、貴殿の名を窺っても宜しいか?」


自身を護ろうと前へ出ようとする部下を制し、槍を収めると、船上に立つゴッフレートさんと誠実な態度を示し、問いかける。何故に嵐は治まる時を見計らい、島を訪れたのか不明だが、二種族の関係の修復を願うロッサーナさんにとっては願ったり叶ったりかもしれない。


「ああ、すまない。水獣区自警団、団長のゴッフレート・ザナージだ、この空を好機と見做し急遽、里長殿にお伝えする事が有り、伺わせて頂いた次第です」


一先ずは安心。けれど、その伝える事と言う言葉が不穏でしかない。

然し、ロッサーナさんは少しだけ安堵した様に顔を緩めると、静かに口を開いた。


「それでは、ザナージ殿。たて続けに質問で申し訳ないが、話の内容を窺っても?」


ロッサーナさんは警戒を崩さぬまま、その場に佇む。

反応を見て困り果てた様にゴッフレートさんは頭を掻き、溜息をつくと言葉を詰まらせる。すると、船室からまた一人、誰かが出て来るのが見えた。


「我が兵が失礼した、此方には何の悪意は無い事を水獣区区長ジョット・ガルヴァーニの名に懸けて誓いましょう。ただ、此処では混乱が起きかねない・・・如何か私達を島へと上げては頂けませんか?」


杖を突き、ゆっくりと船上へ出たのは水獣区の区長、ガルヴァーニ区長その人だった。

声を掛けられたロッサーナさんと隣のフランコさんも予想外の人物の登場に面を喰らい驚き目を丸くする。まさかの区長と言う重要な立場の人物が危険な海を越え直接やって来たのだから。


「・・・では、私が責任を持ってご案内致します」


ロッサーナさんは微かに緊張の色が見える声でガルヴァーニ区長をはじめ、水獣区の人々の下船を許可をする。然し、フランコさんは険しい表情を浮かべ、ロッサーナさんの胸倉を掴み掛かった。


「ロッサーナ・・・お前!」


「・・・責任は取ると言っただろう?この状況で、強引にお引き取り頂く事こそ喪失が大きい」


ロッサーナさんは其の手を摑み払い除けると、ガルヴァーニ区長へと深々と頭を下げた。それでも、納得いかないフランコさんからはギリリと歯軋りをする。この勝敗はロッサーナさんへ軍配が上がるのだろうけど。

其処で何故か兵士が脇に逸れて行く、道が開けたかと思うと、聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「何をぼさっとしてやがる、さっさとソイツを連れてこい。ジョット、俺の陣地で好きにはさせないからな」


ずかずかと地面を踏み荒らす様に降りて来ると、いきなり横柄な口振りのシルヴァーノさん。

腕を組み船を見上げると、苛々と急かす様に顎で下船を促す。二人は友人か何かだろうか?


「ああ、解っているよシルヴァーノ。お前は相変わらずだね」


其れに対し、ガルヴァーニ区長は目くじら一つ立てずに静かに首を横に振り呆れた様子。


「うるせぇ!話とやらを聞いてやるから、大人しくついて来いってんだ」


シルヴァーノさんは来て早々、船に背を向けるとズカズカとロッサーナさん達を連れて海岸から上がる坂を上って行く。

その背中を見てゴッフレートさんは彼等の背中へと睨みをきかすがガルヴァーニ区長に宥められ、渋々と言った様子で下船すると目を輝かせ此方へ歩いて来た。


「おぉ、ソフィア!・・・それと先に行った連中も無事だったか!」


ソフィアを目に止めた途端にゴッフレートさんの瞳が輝き出しニヤけ始めるが、私達を見ると急激に真顔になる。露骨すぎない?


「ええ、色々ありましたが・・・」


「色々・・・?」


私の言葉を聞いた途端にゴッフレートさんの顔が不安げに変わる。其れを察してか、ソフィアはゴッフレートさんに近付くと彼の手を握り微笑んだ。


「いえ、小父様。この通り、みな無事ですので如何かご安心を」


ソフィアが笑顔で応えると再び、だらしがなく顔が緩む。うーん、此れは山ほどの大きさの魔物と命を懸けた戦いを繰り広げていただ何て言い辛いわね・・・


「そうか、そうか!良かった!」


「こほんっ!」


あまりに目的を見失っているせいか、ガルヴァーニ区長はじっとりと冷たい視線を送る。

ゴッフレートさんは振り返り、ヒクリと片方の口角を引きつらせると、涙を浮かべ悲しげな表情をして項垂れた。


「はあ・・・名残惜しいけどおいたん行くよ」


お、おいたん・・・?

私とファウストさんはあまりの義娘の溺愛っぷりに、ゴッフレートさんと別の意味で口角を引きつらせる。然し、ソフィアは動揺せず慣れた様子で握られた手を優しく外し、包み込む様に握った。


「あたし達もつい先刻の件で会議に呼んで頂けると思いますので、そんな悲しまないでくださいな」


ソフィアにそう優しく諭されると涙が嘘の様にピタリと止まり、まるで子供の様な笑顔を浮かべ喜ぶゴッフレートさん。


「ソ、ソフィー・・・解った!先に行って待ってるからな!なっ!」


「小父様、手を離さないと・・・」


ソフィアが言う通り、手は固く結ばれたまま。その後ろで待つガルヴァーニ区長の表情が険しくなってきている。


「あのー、そろそろ言った方が・・・」


「あ・・・」


私に指摘され、ゆっくりとゴッフレートさんは再び振り返り、脅え切り凍り付く。


「ザナージ君・・・自警団への区の予算を減らしても宜しいでしょうか?」


ねっとりと寒気を催す様な声で、ガルヴァーニ区長は強力な圧力を感じさせる物言いに、無関係の私達まで背筋が凍りつく。如何やら、怒らせてはいけない人みたい・・・

あの怒り方からして、ゴッフレートさんだけが原因じゃない様な気もしなくも無いけど。


「か・・・勘弁してくれ・・・ださい!すぐ行きます!行かせて頂きますっ!!」


ゴッフレートさんは足を(もつ)れさせながらも、必死にガルヴァーニ区長の許へ駆けて行く。

その後をソフィアは心配そうに眺めていた。


「ガルヴァーニ区長、里長さんとは水と油の関係と聞きますし、そのせいだと思います。それにしても、会議が穏便に済めば良いのですが・・・」


水と油、なるほど納得かも。


「・・・うん、そうだね」


「まったくだな・・・何だ、二人も来ていたのか」


私に同意したファウストさんだったが、ふと何かに気付いた様に船を見上げた。

その視界の先には舷梯(げんてい)を軋ませ、荷下ろしの船員さんに続き下船をするフェリクスさんとケレブリエルさんの姿が在った。


「よっ!お三方、上手く行ったか?」


フェリクスさんは私達に気付くと、此方に向かって手を振り歩いて来るが、後ろから歩いて来るケレブリエルさんの表情は真逆の暗く沈んでいる。此れはお互いに状況は芳しくないと言う事だろうか。


「それが色々あって・・・」


「ん?その様子だとアメリアちゃん達の方もか・・・」


お互いに状況は芳しくないと察し、「はぁ・・・」と溜息をついた。

暫く黙り込んでいたケレブリエルさんだったが、そのまま島の中央を見上げると、再び私達四人へと視線を戻す。


「こんな所で話し合う話ではなさそうね。ともかく、話し合いの席が設けられるようだし、其処で話しましょ。ソフィアもファウストも良いわよね?」


「ええ・・・」「構わない」と二人から返事が返ってくると、島に渡っていた私達は後から来た二人を案内をする事に。

遠巻きに数奇な目で見ていた住人は襲撃で鳴りを潜め、賑わっていた市場は静まり返り、物悲しげな雰囲気だった。

私達はただ無言のまま、これから話し合われる事を想像し、シルヴァーノさんの御殿へと向かうのだった。



**************



会議は二人の長による挨拶から始まる。しかし双方、(わだかま)りが解けない為か、目が合う度に不快そうに眉を(しか)める。

それでもお互いの状況を順に説明する事となると、言葉が荒いが確りとシルヴァーノさんから先刻のシーサペント亜種とリヴァイアサンの襲撃についての(くだり)が語られた。


「それで、わざわざこの島に何を言いに来やがった?旅行のつもりか?散々ケチを付けておいて、大そうな身分だな」


シルヴァーノさんの不貞腐れた様に放つ煽り文句は、見事に受け流される。

ガルヴァーニ区長は其れを気に留める様子は無く、すました表情を浮かべ「では、御話いたします」と平然と話を切り出した。

その反応にシヴァ―ノさんはつまらなさそうに舌打ちをし、仏頂面のままソファにそのままドッカリと座りふんぞり返る。其れを見てガルヴァーニ区長はて鼻で笑っていた。


「つい昨日、そこの冒険者の御二方から祭殿が人避けをしているとの情報を得ましてね。お恥ずかしながら、此方の管理不足で情報が耳に入っておらず、教会と共に調査をする事になりまして」


そう言うとガルヴァーニ区長はフェリクスさんとケレブリエルさんをチラリと横目で見る。祭殿への立ち入る事が出来たんだ。

二人へ向けられた視線が、中心へ戻ると苛々した様子でシルヴァーノさんが拳を机に叩き付ける。


「相変わらず、お前の話は無駄が多いな。御託は良いから率直に話せ!」


そう喚き立てるように急かすシルヴァーノさんの言葉に、ガルヴァーニ区長の肩眉がぴくぴくと痙攣する。如何にか口を堅く結び堪えると眉間の皺を抑え、呆れ交じりの溜息をもらした。


「はぁ、貴方と言う人は・・・良いでしょう。単刀直入に言います、水の精霊王様が姿を消されたとの話が訊けました」


「え・・なんて?」


私はあまりの事に信じる事が出来ず。聞いていた人々が驚愕し、言葉を失いながらも周囲は(にわ)かに騒がしくなってきた。


「それは・・・笑えねぇな。そんなので人に漁場の独占だぁ、異変の原因は俺達だとぬかす馬鹿を送り込んだりした事は誤魔化せねぇぜ」


シルヴァーノさんが冗談交じりに揶揄うと、周囲からも笑い声があがるが、ガルヴァーニ区長はただ静かに冷静に真実だと感じさせる声で言葉を返す。


「生じてしまった軋轢(あつれき)は解決策を検討中です。しかし、誤魔化す気なども更々ない、祭殿の内部まで調査し、大祭司殿を私が直々に話を訊き出しました。此処は事実を受け止めて欲しい」


「くそが・・・事実かよ。おい!お前ら笑ってんじぇねぇ!」


シルヴァーノさんは悔し気に呟くと、ヘラヘラと合わせて笑っていた人々を理不尽に一喝する。

衝撃から混乱していた頭が、冷静に考えれば潮が引くかのように明瞭になって来る。思い当たる事柄が幾つも浮かんでは結びついて行く。

水の祭殿の様子に荒れる天候と海、そして海中で生じたと思われる世界の綻び。其れは六元素の一角の祖であり、この地の守護する者の力の減退が引き起こし崩壊へ導くと、あの創世の書に記述されていた。

そして、海を護るリヴァイアサンの裏切りに、置き土産の様に私達を引き合わせる為に広がった青空。

もしかしたら、此れは助け舟なのかもしれない。


「如何やら信じてくれたようだな・・・」


ガルヴァーニ区長はニヤリと嫌味な笑みを浮かべるが、シルヴァーノさんは凄みを聞かせ睨みつけたかと思うと「私情より里を優先しただけだ」と其れを鼻で笑う。

その様子を眺めていると、何故かシルヴァーノさんと目が合ってしまった。


「よし!今回、活躍をしたお前に判断をする権利をやろう。何でも良い率直に答えてくれ」


まさかの指名。此処はさっき考えた通りに話すしかないかな・・・ははは。


「大変危険かと思いますが、この青空が何時まで続くか確約できない以上、疑わしき場所へと早急に向かい、その要因を探り阻止に向け動くべきかと思います」


やや強引な意見にも拘らず、「ふむ・・・」と聞き入る様な声が漏れてくる。


「天候・・・やはり、お前もそう思うか。さて、具体的にはどうする?」


「瘴気を生む海溝が有ると訊く、シーサペントの巣へ向かいましょう。以前、別の祭殿に危機が訪れた際に同様の現象を目にしているんです」


邪神が関わっている何て言えないし、下手に不穏な事を言うより今は差し控えた方が良いよね。

然し、精霊王様をも居なくなられたか・・・

いけない不安になっている場合じゃない、行動を起こさず失敗した時の事を考えるより、失敗しないに如何したらいいか考えて行かないと。


「確かにな、ソイツが一番くせぇな。時間が無いって言うなら人員を絞って、即出発だ。ガルヴァーニ、まさか反対しないだろうな?」


シルヴァーノさんの言葉に眉をピクリと動かすも、ガルヴァーニ区長は落ち着き払った様子。


「彼女達には以前、我が街も大変お世話になったので信用していますし異論はありませんよ。此の件の裏に潜む者の報告で把握していますし」


「ふん、相変わらず鼻持ちならねぇな。おい、会議は終了だ支度しろ!」


何か妙な期待を受けて居る様な気もするけれど頑張ろう。

その後は出陣する編成や各種準備と簡単な作戦の寝るなど大慌てとなったが、ロッサーナさんとゴッフレートさんの活躍により衝突は免れ、私達は小規模の部隊を組み海に出る。

穏やかで静かな海を行く中、ふと見渡したその先には大きな水柱が立っていた。

本日も当作品を最後まで読んで頂き有難うございます。そしてお疲れ様です。

それでは、最後に波乱の予感を漂わせた49話は如何続くのか・・・?

良ければ今後もお付き合いの程、宜しくお願いします。


********************

次回も何事も無ければ、11月1日18時に更新いたします。

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