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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第48話 龍の落とし物ー水獣区アマルフィー編

海の守護者たる龍が造り出した波はまるで生きているかのように迫り繰り、人々や里を飲み込まんばかりに襲い来る。

足を止める間も無く人々は絶望的な脅威から逃れようと岩場を駆け、ある者は崇めていた霊使の狂気の姿に恐怖し足を竦ませていた。類に漏れず、私達も逃げる事しか選択肢は無い。

アルスヴィズで飛ぶにしても流石に三人は乗せられない、何より水中で呼吸ができないのは私達だけでは無い。里まで呑まれれば御殿にはレオニダも危険に晒される。

アルスヴィズにソフィアと一緒に乗り、ファウストさんには悪いが岩人形(ゴーレム)に乗り全力で走って貰っているけど・・・

さあ、どうする?迷うも如何しても諦めきれず、後ろ髪を引かれる思いでチラリと後を見ては血の気が引く。


「・・・ッ!」


波は逃げきれなかった人々を呑み、尚も勢いは衰える事は無い。思わず水の加護の首飾りを握り絞め、水の精霊王様へ祈るものの、其れに応える声は無く、冷たい感触が手に残るのみ。


「・・・何で!?」


「アメリア・・・?」


不安気なソフィアの声、岩人形の重量感のある足音も加速する。私の頬を汗が伝い、水玉を作り地面に落ちて行く。


「ともかく如何なるか考えず、操獣に集中した方が良いんじゃないか?」


「解っています!あ・・・」


焦りで思わず、ファウストさんの言葉を跳ね除けてしまった。気まずさに思わず手綱を握り絞め強く引き寄せてしまう。


「ピイ??!!」


困惑の声を上げるとアルスヴィズは岩場で踏ん張り、勢いよく足を止めた。


「きゃっ・・・」


「ソフィア!ごめん!アルスヴィズ、お願い走っ・・・て?」


ソフィアの頭が背中に思いっきり当たり、心配になり振り返ると津波の手前からほんの少し離れた所に一人の老人が杖を突き立てていた。老人は急に振り返ったかと思うと、私達へと叫ぶ様な大きな声で話し掛けて来た。


「残念だが、今は()()()()()は応える事はできぬ。それとお主は一つ、忘れている事が有るのではないかの?誰と盟約を結んだか忘れたとは言わせんぞ?」


迫力のある其の声に私が覚えが在った。幻?否、実際にそこに存在する、土の精霊王様だ。

私が気付き反応するのを見ると、土の精霊王様はニヤリと口角を上げる。今は応えられないとは?


ファウストさん達は私の視線の先に目をやると、信じられないと言った表情を浮かべ固まっていた。


「勿論、憶えています!土の精霊王様!どうか・・・如何か私に御力をお貸しください!」


「儂は其れを待っておった。堅っ苦しいのは無しじゃ、腕を掲げよ!」


その言葉に導かれるまま、加護を受けた前腕鎧(バンブレース)を祈りを込めて掲げる。光りの筋が前腕鎧に紋章を描くと、土の精霊王様は其れに応える様に杖を掲げる。


「承知した!!!」


一瞬、頭が眩む様な魔力の喪失感と共に大きな地響きが起こり、波の高さをも超える天を貫く槍の様な岩山が雷の様な地鳴りと共に凄まじい勢いで競り上がって来る。

黒く(そびえ)え立つ岩山は此方に暗く大きな影を落とし、その裏側からリヴァイアサンが放った水の脅威を防ぎ打ち砕く音が響き渡る。

その光景に唖然としていた人々から安心と歓喜の声が漏れ始めた。


「おお・・・何が起きたんだ?山が出来たぞ!」


「何かわかんねーけど・・・助かった・・・・んだよな?」


「あのお嬢ちゃん、何もんだよ?!すげぇじゃねぇか!」


しかし、多くの人の視線が私に集まり浮足立ちかけた其の時、リヴァイアサンの怒りの咆哮が空気やあらゆる物や人を震え上がらせた。宙を舞う様に飛び上がる蒼き竜は鰭の付いた前足を岩山の頂上に掛け、大きく口を開ける。一体、水の精霊王様と共に此の地を護って来たリヴァイアサンに何が起きていると言うの・・・?


「ソフィア、魔法障壁をお願い!」


「は、はい!」


私の呼び掛けにソフィアは我に返り、杖を掲げる。だが、土の精霊王様が苦笑しながら其れを制した。


「アレは我を失っている様じゃが、何もする必要は無い。()()の意味でな・・・」


大きな足音を響かせながら後方から何者かが迫ってくる、横を通り過ぎたかと思うと、シルヴァーノさんの筋肉質な巨体が幾つもの水塊を水飛沫と共に宙に舞う。其の手には大きく厳つい、フジツボが張り付いた大槌(おおづち)が握られていた。


「皆、待たせたな!誰だか知らねぇが、良くやった!後は俺に任せろ、どおおおりゃあああああ!せい!」


それにしても、遅れて来るのが定番なのだろうか?何の迷いも無く大槌が振り上げられる。


「おい・・・相手は水の精霊王様の遣いだよな?!」


「ひっ・・・!」


ファウストさんの口から驚愕の声が漏れ、ソフィアが悲鳴をあげると同時に、大槌は振り下ろされる。

あまりの光景に誰もが絶句した。然しそれを目の前にすると、リヴァイアサンは何故か動きを止めた。

次の瞬間、ガキンッ!と言う此方まで顔を顰めてしまう硬質な音が響く。

リヴァイアサンは痛みからか、絶叫に近い声を上げ、水柱と共に岩山の向こうへ消えて行った。

それをシルヴァーノさんは確認すると、岩山を軽々と下りて来ては、兵士達と何かを話し此方に歩いて来た。


「おうおう、山を作って波を防ぐたぁ・・・やるじゃねぇか!がはははっ!」


そう豪快に笑うと、強引に私の手を摑み、ガクンガクンと振り回すような握手をされる。思わず目を逸らし辺りを見ると、何時の間にやら土の精霊王様は姿を消していた。


「え・・・あ、大丈夫なんですか?」


「ん?逆鱗が無事なら問題ない!あの方は龍だ!死にはしねぇよ」


シルヴァーノさんは自信満々の笑顔で胸を張る。

そう言う問題じゃない、私は信仰対象の遣いを大槌で殴って良いのかと言っているんだけど・・・


「はは・・・」


「なあに、魔法防壁の復旧も順調に言っているし、心配無用って事さ!」


あまりに一切合切気にしていない様子に、私達は苦笑するしかなかった。


「無事だとしても大槌で殴るのは如何かと思います・・・」


「ん?そうか?まあ、罰を受けるとしたら何にしろ俺だな。それより良いもん拾ったぜ、やるよ!」


シルヴァーノさんは私が呆れるのを意に介さない様子。危機が去って上機嫌なのか、私の目の前に大きな青く半透明の涙型の板を差し出す。言われるままに受け取った其れは、艶々としていて仄かに海の香りがした。


「これは・・・・?」


「此れは、今回の謝礼だ。確か、何に役に立つんだったかな・・・?」


渡した本人も解らないらしく、私の手に握られた其れを頭を捻りながら見ては唸り声を上げる。


「アメリア、宜しければ、あたしに其れを見せて頂けませんか?」


「うん、良いよ」


ソフィアに手渡すと、其れをまじまじと見つめた後、目を輝かせた。


「リヴァイアサンの鱗です!此れを薬師の方に加工して貰い、飲むと水中で呼吸できるようになるのだとか!」


それを聞いた為か、ファウストさんは興味深げに其れを覗き込むと「おお、これは・・・」と関心を示し、ニヤリと笑い此方を見る。


「其れは貴重な物を貰ったな。確か何かの本で読んだんだが、使うと(えら)や水かきが出来るらしいぞ」


「・・・それって、元に戻るの?」


「さぁな?貴重過ぎて本にも情報が載ってなかったんでな」


ファウストさんは素っ気ない態度で肩を竦めた。

しかし、不安な点はあるが、海に囲まれた此の地では有用な道具かも知れない。


「シルヴァーノさん、貴重な物をありがとうございます」


「へへっ、大切にしてくれよ」


シルヴァーノさんは照れくさそうに鼻の下を指で擦る。

それにしても何故、リヴァイアサンは大槌を避けなかったのだろうか?土の精霊王様の水の精霊王様が呼びかけに応えられないとは何なのか。

疑問が残るも、空を見上げるとアマルフィー周辺に来て初の青空が目に止まる。

雲間から降りる光の柱に青い空、何方も美しいのに私の心は心がざわついていた。



*******************



里へ戻る道すがら、見る景色は何処も彼処も見ていて気分が良い物じゃ無かった。

護りが薄くなっている上に、守護をしていた霊使たるリヴァイアサンまで敵の手に落ちたとなれば、次があった場合、耐えられるか如何か・・・

最初は水の精霊王様の為に二種の眷族の中を取り持つつもりだったが、別の不安材料までできてしまった。


「あ・・・あの、里の結界は如何なるのでしょう?」


ソフィアは一瞬だけ口籠るも、目の前を歩くロッサーナさんとフランコさんに疑問を投げかける。


「いや・・・里長が巫女の御婆様と一緒に結界の張り直したらしい。遅くなったのもきっとそのせいだと思う」


「では、一先ず安心ですね・・・」


ソフィアは溜息をつきホッと胸を撫で下ろす。しかし、応えたロッサーナさんの顔は晴れなかった。


「だが、現状では問題があるんだ・・・」


やはり、反応から推察するに、結界が張り直された事は喜ばしいが状況は良くないらしい。


「リヴァイアサンですか?」


「ああ、結界に使用する魔法も水属性と有って、其れが一番の懸念材料だ。それと今回の事を指示した者と実行犯の当てが外れたのも大きくてね・・・」


「つまり、次に敵襲があった場合、完全に脅威を防ぐ事が出来ないと・・・」


此れは本格的にカルメン達の居場所を調べる必要があるわね・・・


「ああ・・・対策を練らねばならないとは思っている」


そう言うとロッサーナさんは難しい顔をしながら黙り込む。

皆で考え込み唸る中、ファウストさんは何か気懸りが有る様な表情を浮かべ、耳をピクリと傾けた。


「すまない、話は戻るが、まるで実行犯に覚えが在ったと聞こえたが・・・外れたとは如何言う事なんだ?」


ロッサーナさんは其れを訊ねられると、顔を曇らせ言いづらそうにするが、私達の視線が集まっている事に気付いたのか苦笑する。


「いや、少数の種族から考え軽く見当をつけていた物が外れたと言う事だ。気にしないでほしい」


「そうか・・・すまないな」


公の場で確証も無く、犯人を特定する発言するのは難しいのだと思う。ファウストさんも深く追求しようとしなかった。しかし・・・


「別に手掛かりぐらい良いじゃねぇか、身内で探すと私情が絡んで判断が鈍る可能性があるしな」


フランコさんは不敵な笑みを浮かべると、ロッサーナさんと私達を遮る様に立つ。


「フランコ!」


「お姫さんは甘ちゃんなんだよ、暢気に構えるな現実を見ろ。本来の役目を忘れたリヴァイアサン、里を陥れようとする連中に水の地に起きた異変。何処に余裕が有る?解決の糸口を一つでも掴まなきゃ、始まんねぇだろ?」


痛い所を突かれたのか、ロッサーナさんは悔し気な顔をしたっま黙り込む。

少し乱暴な物言いの気もするけど、少しでも早く解決へと動かなければいけないのは確かだ。


「では、フランコさんは犯人のどんな情報をご存じなんですか?」


「そうだな、今言えるのは小判鮫、蛸や烏賊などの魚人族を疑え。分殿で犯人の奴は天井に張り付いていただろ?異変を調べるならシーサーペントの巣だな・・・瘴気が噴き出す影響でえらい危険な所になっちまったが・・・」


フランコさんは何かを思い出す様に左から右へと視線を動かす。小判鮫もと言えば・・・

否、今は止めておこう。しかし、気になっていた事を訊く前に知る事が出来て得したかも。


「・・・偉そうに言ったわりにふわっとしているな」


ロッサーナさんはすました顔でフランコさんの説明を馬鹿にする。


「何だと?じゃあ姫さん、あんたが説明しろよ?!」


ああ、喧嘩が始まってしまった。


「お二人とも、取り敢えず帰還しましょ!ね?」


頬に青筋を浮かべて睨みあう二人を宥めるが中々、一向に口論は治まらず。

すっかり困り果てながら、二人の背中を押している所で前方から息を切らせて走って来る兵士の姿が見え、漸く其れを切っ掛けに場は治まりを見せた。だが、しかし・・・


「急ぎ伝令が在ります!港に水獣区の武装船が数隻、此方に向かって航行中とのこと。両名は早急に港の護りを可能な限りまとめよと、里長の命が下っています」


「承知した・・・!」


ロッサーナさん達の顔が再び険しい物となる。一難去ってまた一難と聞くけれど、水獣区が武装した船で訪れるなんて何故?アマルフィーで何が?

困惑と疑問が入り混じる中、私達は港へと駆け出すのだった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き、真に有難うございます。

長さは大丈夫でしょうか?(^^;


**************

次週も何事も無ければ、10月25日18時に更新いたします。

宜しければ次週もお付き合い頂ければ幸いです。



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