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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第46話 護り無き海ー水獣区アマルフィー編

※今回は戦闘が多く、やや残酷な描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。

暗雲が立ち込める空に吹き荒ぶ風は、獲物を追い詰めた歓喜の声を上げるかのようだ。

それはジリジリと忍び寄りつつも勢いを増し、逃げ道を奪い狭めて来る。

裏で糸を引く者は明らかであり、問題は何者がどうやってあの邪神の配下である魔女と接したのか。

何故、分殿への侵入者を送ったのか。根源の特定はできても其れを証明する物も含め、黒雲で覆われた空の様に真実は見えてこないのだ。しかし、此処での私の判断は・・・


「ごめんなさい・・・自分勝手かも知れない・・・けれど、私は此処に残り戦います」


私はアルスヴィズの手綱をソフィアに押し付け、剣の柄を握り絞め、驚きと困惑が入り混じるロッサーナさんの顔を見つめる。


「君は何を言っているんだ?!目の前の状況が見えないのか?」


危機が迫る中、流石にロッサーナさんの声にも焦りと苛立ちが見え、剣の柄から私の手を引き剥がそうと手首を掴みあげる。彼女は「今なら間に合う」そう言ってソフィア達に私を説得するよう促した。

しかし、其れに対し首を縦に振る者はいなかった。


「あたしは、こうなる覚悟を決めて此処に来ました。其れに、此処に来ておいて中途半端に投げ出す事は、同じ水の眷族として水の精霊王様に誓ってできません!」


「中途半端と言う点を含めて僕も同感だ。アメリアは自分勝手と言うが、其れは今更だろ?」


ファウストさんはニヤリと私を見て不敵に笑う。落ち着いて思い返せば、反論の余地が無い。


「皆・・・万全と言えない仲間を連れてヒッポグリフで嵐の中を飛ぶのは危険です。仲間を一人匿って貰ってまでと言う無茶を言いますが、私達にこの島を護らせてください」


自分達の覚悟を聞いて貰おうと、声を張り上げると。直前まで気怠げに近くに腰を下ろしていたレオニダがフラフラと立ち上がり私を睨んだ。


「怪我人や病人じゃないんだ、僕を荷物扱いするな!秘策があると言っただろ?これが・・・うっ・・・!」


レオニダは慌てた様子で懐から教会の紋を模った物とは別に、トップに一粒の黒い石が付けられた首飾りを引きずり出す。あれが秘策?何かの魔法道具なのかな?

しかし、ロッサーナさんは其れに目もくれず諦めた様に溜息をつくと、指を立て私達へと突き出す。


「あー・・・解った。此処はもめてる場合じゃない、如何しても戦うと言うのなら付いて来い。教会のお前は無理せずに屋敷に避難して来た救助者の治療を頼む」


そう言うとロッサーナさんは返事を待つことなく、私達に背を向けて港の階段を駆けて行く。


「フン・・・自己責任と言う事だな」


ファウストさんは静かにその背中を見つめ、迷いなく駆け出す。


「ソフィア・・・とレオニダも行きましょう」


「ええ、行きましょう。では、レオニダ先輩、手をお貸ししましょうか?」


「要らない!僕を荷物扱いするなと言っているじゃないか・・・!」


レオニダは憤慨すると、ソフィアの手を振り払い、息を切らしながら速足で階段をヨロヨロと登って行く。

呆れながらも私達は此れに続き、二頭のヒッポグリフ達を連れて港から離れる。すると突如として地響きが起こり、思わず振り返ると私の目に映ったのは水平線を何かが黒く染あげる光景だった。



*************



魚人の島を襲う脅威は予想を遥かに超える物だった。やや強引に部隊編成に捩じ込まれた私達はフランコさんが率いる部隊に割り振られ、最前線へと向かう事となった。

やはり、後継者を予想もできない相手に対しすぐさま交戦させる訳には行かないのだろう。つまり、シルヴァーノさんの指示は「如何してもと言うなら、お前らが生贄になれ」、つまりは後続が対処を考える参考例になれと言う鬼畜の所業である。


「あー、こうやって共に血沸き肉躍る戦いに出るってんだ。一応、簡単に自己紹介と行こうぜぇ!誰もが知る、魚人の里の凶刃、フランコ様とは俺の事よ!んで、こっちの小さくて暗い奴が・・・あー・・・」


フランコさんの自信に満ちた自己紹介の後、その傍で此方に興味も示さずにいた小判鮫の男性は後頭部から首まである楕円形の吸盤をビクリと震わせると、ジットリトした目でフランコさんを睨む様に見上げ、横目で私達を見る。


「・・・ドミニコだ。どーせ、人族何かと組むのは、こ・・こ、これっきりだ。特に言う事は無い」


そう言うと何やら小声でブツブツと呟きながら、身の丈程の大鎌を肩に掛け背を向ける。


「私はアメリアで・・・」


私も名乗ろうと口を開くとドミニコは「チッ!」と舌打ちをし、後は何も言わずに無視を決め込んで来た。後はファウストさんやソフィアも続いたが、同様の反応をされ困惑している様だった。

他の隊員達と挨拶を済ませ、いざ開戦と整列し、フランコが皆に檄を入れに回ると、ドミニコは打って変わって人が変わったように媚びを売りだした。成程、そう言う性質の人か。

そして、ロッサーナ陣営を背に海を見つめ緊張感が高まる中、海がブクブクと泡立ち、プカリと赤い球体が多数うかび上がる。

兵の一人が好奇心からか、悪戯に其れを突いた次の瞬間、「プウウウウウッ!」とけたたましい鳴き声が上がった。其れに共鳴するように周囲も同様の声を上げ、一斉に膨張すると宙に舞い、此方へ降り注いだ。それは見た事も無い水袋の様な魚型の魔物だった。

其れは何かに衝突すると同時に爆発し、独特の腐臭と共に酸を撒き散らす。

其れは徐々に広がり、阿鼻叫喚の光景を作り始めた。


「魚の様な姿をしているが、中型の二枚貝の様な筋肉質な排水溝がある。妙な魔物だな・・・敢えて名をつけるとしたら炸裂魚(フラゴルピスキス)と言った所か」


ファウストさんは戦いの最中、土人形(ゴーレム)に弾かれ、潰れた魔物をしげしげと眺めた。

しかし、彼を護る様に立つ土人形の腕は酸で薄っすらと融け始めている。

そうこうする内に、第二波に気付き武器を構え直すと、ソフィアが私達の前へ飛び出す。


「調べ物は後回でお願いします・・・!天におわせし我が主よ その慈愛に満ちし御心にて 我等を守る盾を!【神光障壁(アエギス)】」


ソフィアの杖から放たれた白光は金色の光の粒を纏い、私達の周辺を護る盾を生み出す。

魔物は障壁に衝突しては爆発するが、代わりに阻まれては見るに堪えない光景が起き、ズルリと滑り落ちた。


「すまない・・・」


ファウストさんは申し訳なさげにしつつ、休む事なく態勢を整え直す。

其れを受け安心したのか、ソフィアはホッと胸を撫で下ろし微笑む。


「いえ、お二人が無事で何よりです」


しかし、その僅かな隙を狙ったかのように魔物は次々と、宙を舞い襲い掛かる。

他の人と同様に武器で応戦しては、他の兵士と同様に酸の餌食だ。


「其れなら・・・!命を育む水瓶よ 全ての潤す水の精霊王 その名の許に命ず【氷狼の牙(アイス・ウルヴス)】」


冷気を纏う氷狼(フェンリル)が冷気と遠吠えと共に姿を現す。

やはり、シルヴァーノさんの不意打ちを防いだのは氷狼で間違いない。私を守る為とはいえ無詠唱、しかも私の意思に関係なく現れたのは謎でしょうがない。

氷狼は戦場を駆け回ると、凍てつく息を撒き散らし次々と炸裂魚を氷塊へと変える。

周囲に驚きと歓声があがったかと思うと、フランコさんが現れ、氷塊へと大剣を手に振り払う。


「おっし、良くやった!後は俺に任せな!うらぁあっ!!」


薙ぎ払った刃は損傷しているが鋭い光は失われておいない、刃は凍った魔物を捉え、薄いガラスが砕ける様な音と共に魔物の体は粉々に散乱し、同時にフランコさんの歓喜の雄叫びが木霊する。一掃できたのは有り難いけど、何か美味しい所を持って行かれたのが悔しい。

だがしかし、敵方もそんなあっさりと身を引く程、甘くは無かったようだ。


「ひ・・・ぎゃああああ!」


安堵の声がもれる中、兵士達の悲痛な声が響く。海の中から奇妙な生物が這い出ては、(えら)の辺りから生える鋏で兵士を挟んでは大きな(フロッガ)の様な口へ放り込むと、海老(シュリプ)の様な尾で近づく兵士を叩き潰す。

その外見はかなり異様だ、少なくとも三種類の生物の要素を所持している。それが目測では数え切れない程、島の周囲に押し寄せてきている。

この魔物は、まるでエリン・ラスガレンで戦った合成獣のようだ・・・

息を突く間も無く現れた脅威にフランコさんの笑顔も引きつった物に変わって行く。


「如何やら、相手は此の魚人の里で盗んだ合成獣(おもちゃ)を試しているみたいです」


「相手・・・玩具って・・・お前は何を言っているんだ?」


「アメリア・・・?」


「あ・・・ともかく、説明は後でします!」


戸惑うフランコさんと仲間達の前で剣を抜き、戦う兵士達の中へ飛び込む。先ずは鋏と言った所だろうか?関節を狙うが想像以上に固く弾かれてしまう、態勢を整える為に身を引くと、隙を狙ったのかの

様に体を捻り突き刺す様に尻尾を此方へと打ち付ける。

打ち付けた場所には大きな二重三重もの円と浅い窪みができていた。思いの外、素早い動きに翻弄され、硬質な殻で受け流そうと凪いだ剣から火花が飛び散り、膝を突き後退しつつも体勢を崩さず踏み止まる。


「あの甲殻魚(シェルフィッシュ)、やたら外殻が硬いわね・・・」


私が態勢を整えると、魔物も体を震わせ奇妙な鳴き声を上げては威嚇の様な姿勢を見せる。

如何やら、魔物は如何やら此の里の何かを目指しているのではなく、住人の殺戮又はその能力を試す為に投入された物なのかも知れない。


「アメリア、其処を退け!」


ファウストさんの叫ぶ様な声が響くと同時に、周辺の魔物の外殻が岩人形(ゴーレム)の大きな拳に粉砕され、断末魔の叫び声を上げる。


「さすが、構成している物が違うと威力が跳ねあがりますね。でも、私の獲物を横取りするのは禁止ですよ」


互いに見つめ合いニヤリとほくそ笑み、己の武器を握り絞めフランコさん達の中に混じる。

ソフィアの支援を受けつつ、戦場を駆け回り、魔物の関節に刃を突き立てては前足に尾と切り落とし、柔らかく不気味な脳天を貫く。

後少しと言った所で後方から、水塊や氷塊が雨の様に降り注ぎ、次々と殲滅して行く。


「待たせたな、此のまま魔物達には島から御退場、願おうじゃないか!」


漸くロッサーナさんの部隊からの後方支援が入る。前線で戦っていたフランコさん達は振り返り、其れを苦々し気に睨む。


「今更かよお姫さん。別に来なくとも茶でもすすっていて良かったんだぜ?」


フランコさんは駆けつけて来たロッサーナさんを見上げニヤニヤと笑い揶揄う。

しかし、ロッサーナさんは部下を引きつれフランコさんの横を無言で擦り抜けては、周囲を見渡し兵士達に残党狩りを命じる。


「里に害成す魔物を駆逐せよ!我らの里を襲撃した事を後悔するよう、本能と脳裏にしかと恐怖を刻み込め!」


少し恐ろしい口上に、兵士達は沸き立ち。フランコさんの部隊の兵士まで魔物の殲滅に熱が入りだす。流石は里長の娘と言った所だろうか。


「クソッ!色々と憶えてろよあの女・・・・」


フランコさんは悔し気に言葉を吐き出すが、仲間達の指揮を取り戻し、自分達が相手より魔物の首を多く狩って見せると此方まで檄を飛ばして来た。良く言えば、二人はきっと良い好敵手なのだろう。

そして、全ての炸裂魚と甲殻魚を狩り終えた所で其れは起きた。

暗雲が立ち込め、海が更に増して荒れ狂う、海の向こうから巨大な長い影が迫って来る。

何が来るのかと迎撃態勢を整えた私達の前には龍の様に巨大な蛇が現れた、人等は軽く飲み込み、裂けた口から覗く複数の牙は容易く引き裂きかみ砕き飲み込んでしまうだろう。


「シーサペントだ!何で此奴がこんな浅瀬に?!」


周囲から困惑の声があがるのを耳にすると同時に、その魔物が船の材料だと言う事を思いだす。


「シーサペント!」


しかしこの時、私達は何故に此の魔物が此方に押し寄せて来たのを考えてなかった。

そして気付かなかった、その理由となる物が海中に潜んでいる事に。

皆が一斉に迎え撃とうと武器を構えた。その瞬間、シーサペントの背後で天を貫かんばかりの水柱があがる。


「オアアオオオオォォ!!!」


今まで耳にした事も無い、戦慄の咆哮が空気を大きく震わせ、私達の動きを止める。

水柱から飛び出した其れは、黄土色のてらてらとした体を捩らせ、瞳の無いぬらりとした顔に付いた口を広げうねり出す。


「グアアオオオオウ!!」


「そうか・・シーサペントが減ったのは亜種のせいだったか・・・!」


ロッサーナさんが二頭を見上げ苦々し気な表情を浮かべる。

そして、シーサペントも必死に応戦し方向を上げるが其れはあっと言う間の惨劇だった。

瞳の無い巨大な魔物は頭をうねらせ首を伸ばし相手の翻弄すると、大きく広がる無数の歯の付いた口を更に大きく広げ、必死に抵抗するシーサペントの頭に狙いを定める。


「グギャッ・・・!」


そして、其れを見た全ての人々は絶句する。

短い悲鳴を上げ、シーサペントは顔を持たない己の亜種に包み込む様にゆっくりと飲み込まれていく。

後には耳を塞ぎたくなる咀嚼音と波と風の音だけが響いていた。

今かも前回の反省が生かせず仕舞いですみません、本日も当作品を最後まで読んで頂き、真にありがとうございます。これから益々、精進しないといけませんね。


********************

それでは何事も問題が無ければ、次週は10月11日18時に更新いたします。



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