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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第40話 水獣と鱗と船ー水獣区アマルフィー編

ルーナやティーナさん達に惜しまれながらも帝都を発って数日、カルメン達により地脈に起きた異変の爪跡は帝都を離れた街道にも散見していた。

そして、正に目の前にて道を塞ぐ大岩をファウストさんの土人形(ゴーレム)が砕こうと腕を振り上げる。魔力が籠められた石と土で模られた巨人の拳により粉砕され、岩の蚊たちは崩れゴトリと四方に転がった。


「よし、通れるようになったな。ヒッポグリフ達が通っても大丈夫になったぞ」


ヒッポグリフのアルヴィズとスレイプニルにライラさんの荷馬車を引かせている。二頭は納得いっていない様で不機嫌そうに前足で地面を掻くと両翼をバタつかせ、御者をしているライラさんの肩越しに私を恨まし気に睨みながら、カチカチと嘴を鳴らし溜息をついていた。ごめんて・・・


「あ、橋が見えて来たと言う事はアマルフィーまで後少しですね」


前方には以前に(みずち)と遭遇した峡谷が在り、其れを跨ぐ様に石造りの立派な橋が造られていた。

あの時は急ごしらえで近くの木を利用したが、其れは完全に撤去され、木が生えていた場所には代わりに巨大な岩が鎮座している。


「溶岩でもなければ、落石が遭ったようにも見えないな」


ファウストさんは岩を真剣な面持ちで眺めると、興味深げに岩肌を撫でる。

御者台から其れを眺めていると、フェリクスさんが私の肩に腕を回し岩を一目見ようと乗り出して来た。


「へぇ、確かに大きいな。此れは案外、岩の方から此処まで歩いて来たりしてな」


「そんな、魔物じゃないんですから・・・」


体が岩で出来ている魔物は居ると聞くけれど、思い返してもどれにも当てはまらない。それ以外の線で考えると、ファウストさんの様な術者の残した物の可能性もあるけれど。取り敢えず、気にし過ぎかな?


「もしかして、怖いのかい?良いんだよ?此のまま抱き着いて・・・・痛ぁっ!!!」


考え込む私の肩を引き寄せようとするフェリクスさんの手を思いっきり、セレスが噛みついた。

痛みを必死に堪えるフェリクスさんを尻目にセレスは誇らしげに胸を張る。


「アメリアを護ったの!偉い?」


「ありがとう・・・其れでも、噛んじゃ駄目だよ」


「あい・・・」


しょんぼりとするセレスを呆れつつ諭し、微笑ましく思い眺めていると、岩を調べ終わったファウストさんが馬車へと乗り込んで来た。


「全く、くだらない。歩いて来ると言う例えもそうだが、下心丸出しで女性に近付くなんて愚の骨頂だな」


ファウストさんは冷めた目線をフェリクスさんに送ると、侮蔑の言葉を吐き捨て、どかりと積み荷に背を預ける。気まずい雰囲気に固まる私達を尻目に、フェリクスさんは其れを鼻で笑う。


「ははーん、自然に女性と接する事が出来るお兄さんに嫉妬かい?」


フェリクスさんは小馬鹿にし、笑いを堪えるような仕草をしながらファウストさんを煽る。


「違う!僕はあの岩の事を考察するだけなら、過度のふ・・・触れ合う必要は無いと言っているだけだ!」


狭い空間で喧嘩なんてされたら迷惑と思い、私とケレブリエルさんが止めに入ろうと立ち上がった。

其の時、激しく御者台を叩きつける鞭の音と、怒声が雷鳴の如く響いた。


「そんな事はどーだって良い!時は金なり!後々の商売の好機を逃す可能性も有るのに、くだらない事をする奴等は馬車から降りて貰うですよ!!!」


普段のしたったらずだが愛想の良い声と裏腹に低く響く声は、ライラさんの姿を怒り狂う悪魔と思わせた。



****************



アマルフィーは帝都の西、白壁と太陽の様な鮮やかな煉瓦屋根の建物が山肌に沿って敷かれた螺旋階段状の道に建物が並び、その先は活気に溢れる港に行きつく。

此処は漁業を生業とする水獣人達が住まう、風光明媚な港町だ。そして、水の精霊王を信仰する水の眷族の地でもある。

そして、以前の様な光景が迎えてくれると胸を躍らせていたが、目の前の現実に愕然としていた。静まり返った街を下り、造船所の在る港へと下りて行くと、その静寂の訳を知る。

港で漁師らしき集団が祭殿関係者らしき人達を囲み、感情剥き出しで何やら言い争いをしているのだ。


「・・・何が遭ったんだろ?」


思わず足を止めると、袖をクイクイと引っ張られた。そっと視線を落とすと、ライラさんが此方を見ながら大きな建物を指さす。


「馬車とヒッポグリフは商業ギルドの停車場に預けて、さっさと造船所いくですよぉ?親方と船大工の皆さんを待たせるわけには行きませんですしぃ」


「えっ、あ・・・すいません」


気になるがあくまで私達は従業員として雇われの身だ。此処は諦めて付いて行く事にしよう。私は後ろ髪を引かれる思いでライラさんと仲間達を追い、馬車と二頭を預け、造船所へと赴いた。

あらゆる音を掻き消す様な騒音の中、何かを支持する怒鳴り声だけが僅かに聞こえる。

木の香りと何かの薬剤の香りが漂う中、汗をかき走り回ったり、縄で体を吊るし巨大な船を建造する船大工さん達の姿は熱気に溢れていた。

その中の親方さんらしい海象(せいうち)の水獣人の男性が私達の姿に気が付くと、何やら周囲に合図を送り作業を中止させ、此方へ歩いて来た。


「やあやあ、此れは・・・これは。ようこそ御出で下さいましたヴォルナネン様、造船の進捗はこの通り順調でございます」


恭しく迎えてくれた親方さんの声に船を眺めていたライラさんは眉をピクリと動かし、小首を傾げる。


「ええ、立派でとても美しいですっ。ですが今日、納品と進水式を執り行うと窺っていたのですがぁ?」


其れに対し、親方さんは目を逸らすと大量の汗を首にかけた布で何度も拭き出した。其れをライラさんは不安げにジッと目を見つめる。

それに気圧されたのか、親方さんは頭を掻き、深い溜息をつくと覚悟を決めた様な表情を浮かべた。


「あー・・・大変申し訳ございません。数週間前からの海の異変による嵐の頻発や魚の大量不審死、おまけに治まりはしましたが地震の影響もあり、水獣人(われわれ)と魚人族との間で仲違いをしてしまいまして・・・」


何処か歯切れの悪い言い方で心苦しそうに喋る親方さんの声を聞くと同時に、ライラさんは徐々に意気消沈して行く。


「つまり・・・その魚人族が船の材料の取引相手・・・ですかぁ?」


「本当にっ!面目ない!海を護る役目を担う、魚人族から帆に使う大海蛇(シーサペント)の抜け殻と船首の先端でマストを支える、バウスプリットにソイツの背骨を仕入れていたのですが、如何にも此ればかりは・・・誠に恐縮ですが、納期を遅らせて頂けませんでしょうか?」


親方さんは必死にライラさんへと頭を下げ、祈る様に懇願する。

其れでも、ライラさんは諦めきれないのかテクテクと歩み寄り、腰に両手を当てると眉頭を吊り上げ頬を膨らませた。


「んー、無いのなら多少、質が落ちても構わないですぅっ!如何にか別の素材か代用できる物は有りませんかぁ?」


しかし、親方さんは首を横に振らなかった。それだけでは無く、如何にかできないかと懇願するライラさんに青筋を立て怒り出した。


「お宅も商売の計画が有るんだろうが、俺達には職人としてのプライドってもんが在る!このロッコ造船所で、代用品だ粗悪もんを客に売りつけるなんてできねえ話だ!金は返すから、この取引は無しにしてくれ!おい!パオロ!」


「へい!親方!」


そう喚き散らすと、親方さんは不機嫌そうに木箱にどっかりと腰を下ろす。やはり、彼等にとって船造は妥協できない大切な物なんだわ。

パオロと呼ばれた(カモメ)の鳥人族の青年は重たそうな革袋を持ち、其れを親方さんに手渡す。

其れを見て、ライラさんは悔しそうな顔で目尻に涙を溜め、唇を噛みしめていた。

仕事に素人が口を出すのも問題だけど・・・


「あの、ライラさん。親方さん・・・ロッコさんは、海に異変が起きていると言いましたよね?何処かの船に乗せて頂くにしても、出航は無理だと思います」


「うう・・じゃ、じゃあ、如何すれば良いと言うですかぁー」


ライラさんは失望感からか、やや錯乱しているのか、泣きながら小さな子供の様な表情を浮かべ尋ねて来る。余程、ショックだったのね。


「まあ落ち着け、如何も何も当然、待つ以外ないだろ?」


ファウストさんは呆れ気味にライラさんを諭す。如何にも腑に落ちない様子だったライラさんだったが、暫し考え込みガクリと項垂れた。


「で、如何するんだい?」


ロッコ親方は此方の顔色を窺う様に尋ねる。如何やら、我儘を言うライラさんだけでは無く、私達にも揺さぶりをかけていたらしい。


「ええ・・本人も承諾した様ですし。ロッコ造船所さんさえ宜しければ、依頼通りにお願いしたく思いますわ」


ケレブリエルさんは花の様な笑顔を浮かべ、ロッコ親方が握る革袋を丁寧に手を添え押し返した。

すると、ロッコ親方は大きな牙の下の大きな口をニカッと上機嫌に開き、胸を張り叩いて見せる。


「おうよっ!任された!」


豪快な返事と共に職人たちの野太い歓声が上がった。ライラさんも諦めがついたらしく、ロッコ親方に謝罪すると、改めて話し合うと言う話になったからと言い、私達に街の自由散策の許可を出してくれた。



******************



私達は改めて件の漁師と祭殿関係者のもめていた港へ行ってみる事にした。やはり、ロッコ親方の言っていた異変が関係しているのだろうか?

造船所に入ってから時間が経っているのにも拘らず、勢いは治まる事無く喧々囂々(けんけんごうごう)と続いていた。水の精霊王様に海と異変をもたらした魚人族を如何にかして貰う事が出来ないかと不穏な言葉の混じる乱暴な申し出に、対応していた祭殿関係者の人達はすっかり脅え、委縮しきっていた。しかし、それも突如として嘘の様に静まり返る。


「そこまでだ!彼等は祭殿に仕える者であり、精霊王様ご自身では無い。救いを望むのなら、祭殿にて祈りを捧げるべきではないか?それでも、不安と言うのであれば我等の教会にて女神様へと意思を伝える事をお奨めする」


漁師達を掻き分け、間に入って来たのは祭服(カソック)を着こみ、翡翠色の髪の下の眼鏡から鋭い視線を送る、レオニダだった。その後ろを漁師達へ何度も丁寧に謝罪しながら追いかける、シスター服を着たソフィアの姿が見えてきた。

漁師達は毅然とした態度をとり続けるレオニダに反論できずに舌打ちをし、愚痴を零しながら徐々にその場を去って行く。騒ぎが治まった事に胸を撫で下ろしていると、その中の数人が私達の傍の建物の前に集まり、鬱憤が張らせず苛立った様子で話し出した。


「海底住まいの生臭い連中が何かしたに違いないのに、祈れだと?こっちは生活が掛かっていると言うのに呑気な事言いやがって・・・」


像海豹(ぞうあざらし)の水獣人の男性が、垂れ下がった鼻を膨らませ興奮気味に喚き立てる。

周囲は何処か乗り気ではない様で男性の意見に対し、ただ頷くのみ。


「あー、ジェロニモ。オイラ達も正直、海底に住んでいる奴等を疑わしく思っている。だが、悪いが連中との繋がりを断つのは不利になる懸念がある。此処は教会を信じて・・・・」


仲間の一人がジェロニモと呼ばれた男性を宥めようと訴えかけるが、その言葉は彼の拳により遮られた。

ガキンと打ち付ける鈍い音と共に、仲間の海獺(ラッコ)の青年の頬が歪み、体はそのまま地面に転がる。体格差もあり、衝撃からか意識を取り戻す様子も無い仲間を見て、ジェロニモも流石に気まずげな顔をするが、私達が助けに入ろうと飛び出すと地面に唾を吐いた。


「ハッ!どいつも此奴も腰抜けが!俺が精霊王様に代わって、海と漁師連中を救ってやる!」


其のまま仲間を労わりもせず、ジェロニモは仲間と私達に背を向けると、そのまま振り返らず走り去って行った。一難去ってまた一難、またもや波乱の予感がするのだった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き有難うございます!

それでは再び長くなりましたが、宜しければ次週も読んで頂ければ幸いです。


******************

次週も何事もなければ、8月30日18時に更新予定です。


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