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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第36話 精霊殺しと業火の鳥ーベアストマン帝国編

黒く溶岩の鱗を持つ化鳥は内に流れる石獎を滾らせ、紅の業火を纏い咆哮する。苛立つ様に体をバタつかせ長い首を折り曲げては深く息を吸い頬を膨らませる。


「止めないのか?」


如何にも静かにしていると思いきやアレクは腕を組み、ただ私達に判断を急かす。土の精霊王様と邪神の争いをただ高みの見物をする様に。


「・・・貴方こそ何で他人事のように構えてるの?」


剣の柄を握り、引き抜く私を見てアレクは鼻で笑った。


「導くとは言ったが、()()()()とは言っていない」


確かに言ってはいないけれど、エリン・ラスガレンで一件で共闘したのは何なのよ。捻くれた言い方をするなと呆れる気持ちを言葉にせず飲み込む。


「・・・・そう、よく解ったわ」


「導くとは己の意思で考え判断する為の指針と思え。後・・・拗ねずに早く行け」


要はヒントは出すから自由に動けと。でも、そんなに顔に出ていた?そんなつもりは無かったのだけど・・・

アレクは嘲笑すると、姿を光の蝶に変え幻の様に去って行く。本当に何を考えてるのかな?


「・・・風の精霊王(シルフ)様、、お力を私に貸してください!」


『いやいや、精霊使いが荒いな』と言う声を耳にしつつ、肌が熱でヒリヒリする中を潜り抜け接近し剣を振り上げる。

向かい合う化鳥の眼球が動き、此方を見つめる其れは瞳は無いのにも拘らず、確かに私を捉えていると感じさせられる。化鳥は変え嘴を開き口内に空気を溜め込み頬を膨らませた。

(くちばし)の隙間からは瘴気と火が混じった物が漏れている。この状況に迷う必要など無い、私は歯を噛みしめ剣を振り下ろした。


「ふん・・・っ!」


ガキンと硬質な物同士が衝突する音と化鳥の苦痛と怒りの鳴き声が響く。やや浅いが嘴の部分に傷を刻むと同時に瘴気交じりの火が吹き寄せる。焼け付く感覚とじわりと毒が滲む様に広がる痛みに私は眉を(ひそ)め、急ぎ口に二種類のキューブを口に放り込んだ。透明の薄い魔法被膜を歯で破ると、二つの薬が独特の風味となり口に広がり思わず眉を(しか)めた。


「アメリア、早く!こっちに!」


ケレブリエルさんの声に驚き、一閃を浴びせた化鳥へと視線を戻すと、溶岩を垂れ流しつつ此方へと向きを変えながら噛みつかんばかりに飛び掛かろうとする。咄嗟に剣を横に構えながら後方に飛ぼうとすると、私の横を光が霞めた。


「天に轟く雷よ 我が剣に宿りて刃となれ【雷撃(ライトニング)】!」


雷の鞭が耳元を掠め、落雷と同様の轟音が響き、化鳥は一瞬動きを止める。フェリクスさんにお礼を言いつつ、怒りが治まらない様子の化鳥は勢い任せに此方へと飛び付こうと飛び掛かろうとする。

だが突如、化鳥の動きが引きつる様に止まると先に進めず引き戻された。

頻りに足元を見ながら大地の隙間から身を乗り出そうともがくが、体は完全に自由とならずに暴れる度に大地の裂け目からは琥珀色の粒子が漏れ出す。


「まさか、土の精霊王様が・・・?」


思わず驚き漏らした呟きに、ケレブリエルさんが難しい顔をしながら頷く。


「・・・恐らくあの魔物はマナを力の根源とする為に地脈と繋がっている。土の精霊王(ノーム)様のお力が強くなる事で、具現化が阻害されているのかもしれないわ」


「それなら、此れは好機ですね」


問題は其れがどの程度持続するかも有るが、エミリオさんを連れてあの凶悪な魔物の懐に如何飛び込むか。何よりも瘴気と毒に凶悪な動きもやっかいだ。

化鳥は体を捻ると、尾の蛇を勢いよく振り上げ私達へと叩き付ける。地面を砕き、避けた私達を追い、叩き付けられた蛇は其れをなんとせず地面を滑り、上空に居る私達を丸飲みにしようと体をうねらせ突き上げる。その狙いの先は弱い者を見抜いたのか、武力を持たないエミリオさんへと向けられた。


「大地を守護せし主よ 我等に堅牢なる護りを 【大地の庇護(アースアサイラム)】!」


一足早く気づいたらしいく、エミリオさんの腕を掴む必死の形相のファウストさんが見えたかと思うと、地上へ降下しつつ手を突き出す。

加勢しようとする私達に対し首を横に振り、勢いよく拳を突き上げたかと思うと、化鳥の目の前に巨大な岩の腕が突き出し、岩石の蛇の横面を殴り飛ばす。

溶岩が血の様に零れ落ち大地を焦がし、尾を叩きつけられた魔物は苦痛の声を上げると同時に瘴気を撒き散らしながら、抜けない足を(もつ)れさせバランスを崩し転倒する。空気と大地が振動し倒れると、周囲の草木を炭に変えた。問題は二択、瘴気か化鳥か・・・


「瘴気なら問題ないわ、任せなさい・・・!」


ケレブリエルさんは吐かれた瘴気へ向かい、魔法を連続で打ち続けるが、とても一人で掃える物じゃ無い。目の前のルーナの開放か、祈りを捧げる眷族が居る帝都を優先すべきか・・・

そんな迷いを打ち消す一陣の風が吹く、それは私の周りを渦巻くとケレブリエルさんの隣に立ち、杖に手を添えると此方を振り向いた。


『オイラがいるだろ?眷族を護るのも役目ってやつだ、さっさと土の眷族を助けてやんな』


風の精霊王様は白い歯を見せながらニカッと笑うと、驚き戸惑うケレブリエルさんの杖を握ると何かを伝え、顔を合わせ頷き合う。一柱と一人が杖を掲げると、強い圧を感じる風が地を這う様に押し寄せ、杖の先からは周囲の砂や土を巻き込む巨大な球体を作り上げ瘴気へと撃ち放つ。


「・・・ありがとうございます!エミリオさん行きましょう!」


土の眷族の皆さんの祈りの力に加え、横転した事でルーナの許に接近しやすくなった。此れを逃す手は無い。エミリオさんは突然話し掛けられ目を丸くしたが、顔を引き締めて頷き胸元に手を当てる。


「ああ、その為に俺は此処に居るんだ!ルーナを助けよう!」


「それなら、僕は君達の活路を開こう。大地よ盟約に基づき 我が呼び掛けに応えろ【土人形召喚(サモンゴーレム)】」


ファウストさんは地上に降りて水を得た魚の様に生きいきと目を輝かせ前へ出ると、土人形を操り化鳥へと突進させると、顎や胴体へと地響きを響かせ拳や蹴り飛ばす。

幾ら足止めを受けているとはいえ長くは無いだろう。風が巻起る中、私達は化鳥の懐を目指し駆け出した。



*************



ルーナの魔核に宿る精霊を消す、其れは彼女の許へ辿り着き、彼女から魔法を奪うと同時に再び命の危機に晒す事になると言う事だ。しかし今は一番に救出、懐に入るとその熱は更に脅威を増し私達を苦しめる。

起き上がろうとする化鳥もただでは奪われまいと暴れ、自分達の体より遥かに大きい大木の様な腕が目の前に振り下ろされた時は流石に肝が冷えた。

汗を拭いつつ息を突く間もないほどの緊張感の中、私達はついにルーナを目で捉える。


「居た!ルーナです」


まるで眠っている様に瞼は閉じられ、体は手足や翼が張り付く様に一体化しているが、内部は形を保つ事が不可能なほど高温である事は火を見るよりも明らかにも拘らず、融けるでも消し炭になる事も無い。


「火傷どころか全くの無傷・・・此れは精霊の力なのかい?」


エミリオさんは体中から汗を滴らせ眉根をよせつつ、ルーナの胸元に灯る紫の光を指さす。

彼女が無事なのは精霊と繋がる邪神の力の影響なのかも知れない。


「・・・はっきりは断言できない。でも、その精霊と繋がる邪な者の影響が有るのは間違いありません。私がエミリオさんを護りますから、彼女をお願いします!」


エミリオさんは少し悔しそうに苦笑いをする、懐から精霊殺し(エレメンタルキラー)を取り出すと、街中で襲撃を受けた時の敵の魔力が残留しており、魔力の消耗の心配は杞憂に終わった。


「ハハッ、俺も情けないなって・・・戯言を言っている場合じゃないねっ」


化鳥が体を動かすと同時に、腹側に居る私達の方へと翼が巨大な石斧の如く、鋭い一撃が私達の方へと迫って来た。私は自身の剣を信じ、エミリオさんの盾になる。

衝撃に仰け反りそうになりつつも、足元の土に後を残し踏み止まる事に成功。エミリオさんは無言のまま走ると、悪に囚われた眠り姫の目を覚ます為の一石を握り絞め、押し付けた。しかし、何故か妙に胸がざわつく・・・


「やった・・・?」


精霊殺しが触れると同時にルーナの目が見開かれ、耳を覆いたくなる様な悲鳴が響いた。何かが可笑しい、エミリオさんの時と明らかに違う。


「不味い・・・思いの外、精霊が彼女の生命維持の役割を担っていたようだ」


エミリオさんが慌てる声に驚くと、力無く項垂れる体は化鳥から剥がれ落ちようとしているが、臭いと煙が辺りに広がった。やはり、そう易々と救出させてくれないか・・・


「二人でルーナを引き剥がしましょう!助けたらルーナを連れて退避!」


「ああ、彼女は俺が担ぐ!」


私達が腕を掴み剥がすと、核を失い動かない筈の化鳥が羽と足をバタつかせ地団駄踏む様に暴れ出す。

考える間も無い状況に無我夢中で化鳥の懐を駆け抜け、ファウストさんの土人形に護られながらその場を離れると、肝心な事に気が付いた。


「邪神が化鳥を具現化した、つまり・・・遅かったと言うの?」


「まさか、邪神の化身と言うんじゃないだろうな?」


ファウストさんは頬を引きつらせ、半信半疑と言った感じで推測で言葉を口にする。

しかし、其の答えを出すより早くエミリオさんの大声が響いた。


「兄さん、俺は彼女を連れて教会に行く!だから頼む!」


其れだけで何かを察したのか、ファウストさんは頷くとエミリオさんに帝都に走る様に命じ、土人形を護衛にその後を追う。


「すまないが、僕はエミリオとルーナを護送する!後は頼む!」


「解った!」


私がそう答え、周囲を見回すと仲間達が武器を握ったまま空を見上げている。其れに釣られる様に見上げると、化鳥の背に見覚えの有る影が見えた。


「あら、敵前逃亡?アタシの精霊を殺しておいて、用が済んだらさよならなんて図々しいわね」


姿を一切誤魔化さず現れ、カルメンは化鳥の背に座り足を組みながら見下し嘲笑を浮かべた。

やはりカルメンの仕業、あの光は闇の精霊だったわけね。


「逃げるなんてとんでもない、美女の相手ならオレは時間を惜しまないよ」


フェリクスさんは二人を庇うように前へ出ると剣を構える。

其れを見てカルメンは心底汚いものを見るような侮蔑の視線をフェリクスさんへと返した。


「アンタみたいな醜男がアタシの相手をする?アタシの相手は生涯・・・いえ、例え生まれ変わってもあの方のみ。それに、アタシはアンタ達みたいに暇じゃないの」


「ハハッ、それは非常に残念だ」


肩を竦めお道化るフェリクスさんを無視し、カルメンは化鳥の首に何かを指で描く。すると、全身が紫に発光し地脈と繋がっていた足が枷から解き放たれ、琥珀色の光の筋だけが獲物を捕らえようと伸びる。化鳥は火の粉を撒き散らしながら其れを躱し、熱風を振り広げながら暗雲立ち込める空へ飛び立った。


「地脈との繋がりを切った?!」


「言ったでしょ?アタシは暇じゃないの。アンタみたいな女神のお人形で遊んでいられないの」


惑わそうとしているのか何なのか、カルメンは化鳥を瘴気を鳴き声と共に吐き出し、帝都へと向きを定める。精霊王様のお話を踏まえ、化鳥は地脈からマナを吸い上げるだけが役目じゃないと判明した。


「そう言う事なら、逃がす訳には行かないわっ」


風の加護を足鎧にかけ、食らい付く様に一人と一匹を捕らえようとするが、気配を察した化鳥は目を見開くとチリチリとした感覚から始まり、私の体は焼け付く様な火に包まれた。

本日も当作品を最後まで読んで頂き、心の底より感謝しております!

今回は再び長くなりましたが、次回こそはベアストマン帝国編の最後を書けたらと思う今日この頃。


**********

それでは、次回も何事も無ければ8月2日18時に更新いたします。

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