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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第35話 大地を護る者の反攻ーベアストマン帝国編

肌が焼けるように熱い、流れる石獎(せきしょう)の熱が足元の深成岩に伝わり、空気だけでは無く何処も彼処からもじわじわと立っているだけで体力を奪うような熱に満ちていた。

一面の赤い色彩の中に瘴気の黒が禍々しく際立ち、石獎を蝕む瘴気から生じる穢れの蔓は、ルーナの胸元の紫の光が増す度に彼女の体を取り込み伸びて行く。

しかし私達は引くつもりは無い、そっと剣に手を掛けた其の時だった。


「助ける・・・?」


絶望している様な虚ろな瞳でルーナは私を見ると、絞り出すような弱々しい声で尋ねて来た。

穢れの影響が出ているが、彼女が自身を保てていると言う事は幸運だ。


「土の精霊王様から全て訊いたわ。貴女がカ・・・レナータに魔核に精霊を強制に憑依させられている事、その意味をね。私達はその精霊を滅して、貴女を解放する。必ず助けると誓う、信じて欲しいの」


先ずは彼女を拘束している穢れの蔓を断ち、地脈から切り離す。煮え滾る石獎に落とさず救い出す方法が問題だ。


「ファウストさん、協力をお願いできますか?」


剣の柄に手を伸ばし、振り向き際にファウストさんを見る。少し驚いた様な表情をし眉を顰めるが、此方の意図を察してくれた様で頷いてくれた。

しかし、助ける用意が整い剣に光りの魔力を籠めたその時・・・

私達の耳に届いたのは、助けを喜ぶ声でも安堵の溜息でも無く、ルーナのすすり泣く声と絶望の声。


「無理・・・だよ。本当の事・・・知っているなら・・・私を・・・精霊と一緒に殺して!」


弱々しい声は泣き叫ぶ声に替わる、胸の輝きは彼女の絶望を喰らう度に輝きを増すようだった。

彼女の絶望の理由が解らず戸惑う、精霊を失いたくない?

それとも、魔核に宿る精霊の侵食が肉体まで進み、彼女の命その物を握っていると言う事だろうか?


「そんなに可愛らしいのに、命を軽んじるなんて実に勿体ないな。君の事を土の精霊王様も案じている、花開く前に散るなんて悲しすぎるよ」


でた、フェリクスさんの十八番。フェリクスさんはルーナを見つめ、柔らかな口調で精霊王の気持ちを伝る。頑なな彼女の心を解こうとしていたが、其れは失敗に終わってしまった。


「ふふ・・・この子の命を軽んじているのは貴方達よ。精霊を殺したりしたらそれこそ勿体ないわ、命は有効的に使わないとね」

突如、瘴気の中からカルメンが現れたかと思うと、ルーナの胸の中心を鷲掴む。

すると、胸元の光は一際眩く光り、其れと同時に苦痛に顔を歪ませるルーナの絶叫と共に地脈を蝕む穢れと瘴気が広がった。

ケレブリエルさんは咄嗟に早口で詠唱したかと思うと、【風防護(エアプロテクション)】が発動し、風が彼女を中心に半円状に編まれ風の防壁となる。


「此れはやられたわ、ルーナは土の精霊王の眷族。故に土の精霊王のマナが流れる地脈と親和性が高い、それを利用したのね」


辺りに広がる瘴気をケレブリエルさんが咄嗟に放った【風防護】が解かれると同時に瘴気は拡散させられていく。如何やらケレブリエルさんの推測は当たっている様だ。

カルメンはつまらなそうに舌打ちをした後、ケレブリエルさんを見て引きつった様な笑みを浮かべる。


「それなら尚更よ、貴方の言う有効活用何てさせないわ。彼女は邪神の為の生贄なんかじゃない、この地を空から見守り、翼を休める大地を愛する眷族よ!」


私は剣をクラウ・ソラスへと変じさせ、地を蹴り風の加護(レヴィア)で跳躍すると、ルーナを拘束する穢れへと剣を振り下ろす。其れを逃すまいと言った険しい表情でカルメンは翼を広げ、迎え撃つ様に行く手を阻み不敵な笑みを浮かべた、間髪入れず振り上げられたダガーが剣と衝突し行く手を阻む。


「歯が浮く様な甘ちゃんな台詞ね、そんな物が通用するとでも?アタシはその精霊王に死んで欲しいのっ!」


「そんな事はさせない!土の精霊王様も貴女の仕える闇の精霊王様の仲間でしょ!」


「違うわ!あいつ等はあの方を・・・封じてマナだけを搾取しているのよ!自分で自身の力を使えず、好き放題されるなんてアタシは耐えられない!ああ何と御労しいの・・・!」


互いの刀身が衝突すると同時に一際、甲高い金属音が周囲に鳴り響く。私の剣がカルメンの持っていたダガーの刀身を砕き、驚きに瞳が大きく開かれた。流石、ドワーフの名匠が打った一振りだわ。

徐々に高度が落ちて行く、せめて一ヶ所でもと私は身を捩った。


「そんなの有り得ないわっ!」


最後の一閃で穢れを一ヶ所を切断し、再び風の加護(レヴィア)で仲間達の許へと舞い戻る。

其れを追尾する様にカルメンが迫るが、其れをファウストさんが土人形(ゴーレム)で薙ぎ払う。飛び退く間際に見えたカルメンは苦悶の表情を浮かべていたが、その口元は不敵な笑みを湛えていた。


「ぐっ・・・ふふふふっ、有り得ない?その様子じゃ根拠はなさそうね。まっ!所詮、利用されるだけの捨て駒よね」


「・・・え?」


何を言っているのか解らず戸惑う私の横から眩い光と共に雷が走る。チリチリと伸びる光の鞭はカルメンの足元を焦がす。其れを追いかけるように何時になく真剣な表情を浮かべるフェリクスさんが飛び出して来た。


「攪乱でもするつもりか?」


「まんまと時間稼ぎに利用されてしまったようね・・・。アメリア、覚悟を決めて」


ケレブリエルさんの言葉に慌ててルーナに目を向けると片腕と翼がだらりと垂れ、彼女の足を拘束する穢れの塊が木に這う蔦の様に伸びて行く。もう、助からないと言う事?

色々な事に困惑しかけたけれど、私は自身が今やれる事をやり切ってからじゃなければ納得できない。

再び剣の柄に私は手を伸ばす。


「命を・・・救う事を諦めきれません」


そんな私の覚悟を嘲笑う様にカルメンは、其れを鼻を鳴らす。


「それだからアタシは言ったのよ、甘ちゃんってね」


カルメンは穢れと瘴気に飲まれつつあるルーナを背に、腕と翼を広げる。その後ろから彼女の所業を称えるかのように紫の閃光が走ると、地上で味わったのとほぼ同程度の地震が襲い掛かってきた。それと同時に両側から迫り、ルーナを取り込む様に岩が、石獎が彼女へと収束して行く。


「この状況からして、貴女も同じじゃない」


「あら?意外と負けず嫌いね・・・。人の心配より、自身の心配をしたら?」


カルメンは上を見上げると、翼を広げ羽ばたき飛翔すると細かい岩を擦り抜け、頭上に向けて魔法を放った。(たちま)ち、天井は腐った果実が崩れ落ちる様に泥となり此方へ降り注いできた。

籠った熱を解き放つ様に風が噴き上がったかと思うと、瘴気交じりの煙に入り、隠れ(みの)にし消えて行った。

次第に深成岩と石獎は徐々に、ルーナを中心に地脈とその周囲を巻き込み脅威と感じさせられる(おぞ)ましい姿へと変じて行くのを見て、早く助けなければと言う焦燥感から私は剣を抜く。


「アメリアちゃん、気持ちは解らなくもないが、今はエミリオも居る。脱出を優先しよう!」


「私達も賛成よ、非戦闘員のエミリオも居るんだから余計にね。それに、救出の可能性が無いと言った訳じゃないわ、意地でも助ける覚悟をしなさいと言っているの」


フェリクスさんとケレブリエルさんの言葉に目が覚め、柄を握る手を緩める。視線を動かすと、緊迫した状況に戸惑いつつも冷静になろうとするエミリオさんが映る。

そうだ、エミリオさんを安全圏に逃がす事も優先しなくては・・・


「解りました・・・此処は風の精霊王(シルフ)様に御力を貸して頂きましょう」


カルメンの空けた穴が思わない形で役に立つとは、僥倖と言えるだろう。光が漏れる穴へ辿り着くには落石も在るうえに、落ちれば石獎に飲まれて骨も残らない可能性もある。

其処で、私達を囲む様に旋風が巻起った。何事かと思う私達に耳に聞き覚えのある声が響く。


「やーっと、オイラを頼る気になったか。ボーっとしていないでさっさと脱出するぞ!」


「・・・はい!お願いします!」


私達の体は旋風と共に落石の合間を縫う様に擦り抜け地上へと帰る。空から見る地上には亀裂と大穴、其れは私達の目の前で鳥が卵から孵化をする様に広がり、大地の悲鳴と耳を塞ぎたくなる様な雛鳥と言うにはあまりにも恐ろしい怪鳥の産声が響き渡った。



******************



「何んだいアレは・・・」


エミリオさんから驚愕の声が漏れる。

亀裂からは熱風が押し寄せ、殻を破る様に岩石で出来た(くちばし)が覗く、羽毛に見せた鱗状の岩の隙間からは石獎の赤が覗く。

頭だけ見れば誰もがそう思うだろう、しかし其れを完全に否定する物がズルリと這いだし、鎌首をもたげると溶岩の舌がチロチロと獲物を見定める様に動く。

そして羽化の瞬間が訪れる、空気を震わす咆哮がビリビリと頬を震わせ、巨大な蝙蝠の様な羽根が亀裂から飛び出し、地の底から這いあがろうと羽ばたく。


「あれ!あれを見てー!ルーナいるよぉ」


肩に摑まっていたセレスが耳元で大きな声を出し、反射で耳を塞ごうとする私の腕を抑えながら指をさす。その声に促される様に巨大な岩の怪鳥を目を凝らすと額が紫色の光っているのが見えた。


「此処からじゃ、確信は持てない。でも、本当にあの光がルーナの物なら・・・やるしかないね」


「勝機はまだ有るわね。でも此の件、できれば地脈に繋がる亀裂から完全に抜け出す前に片付けたいわ」


ケレブリエルさんが呟くと同時に、帝都が琥珀色に光る。


「儀式が始まったか・・・」


「お、本当だ。此れで戦いが有利になるな」


儀式が始まった事は喜ばしい。しかし、自身も儀式に参加しなければと言う気持ちと現状の板挟みに悩まされているのか、ファウストさんとエミリオさんはフェリクスさんと対照的に複雑な表情を浮かべる。

しかし、精霊殺しを扱えるのがエミリオさんのみ。

少しでも早くルーナを救い、大地を穢し飲み込み、顕現しようとする邪神の野望を絶たなくてはならない。

此処に、私達と土の眷族対邪神の戦いの火蓋が切って落とされた。

今週も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます。

毎週、本当に感謝の念が尽きません!

そして、このベアストマン帝国編も終盤に入りました。今回もどの様な結末になるか、精一杯書きますのでお付き合い頂けたら幸いです。


****************

何事も問題が無ければ、次週は7月26日18時に更新いたします。


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