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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第34話 一縷の望みーベアストマン帝国編

この国で最も神聖視される、精霊王が鎮座する一室に静寂が訪れる。

未だに土の精霊王様の発した言葉が信じられず只管、如何して眷族であるルーナの死を望むと言うのか。

彼女の望みと同じ事を口にするのか、私には解らなかった。


「それは、ルーナと言う名前の鳥人族ですか?」


「ほう、知り合いか・・・其れではちと酷な話じゃな」


土の精霊王様は私が投げかけた疑問を肯定すると、眉根を寄せて困った様な仕草を見せる。

やはりか・・・


「彼女自身も同じ様な事を口にしていました。しかし、死ぬと言う事がどれだけ恐ろしい事か解らないまま、カルメン達の支配からの逃げ口と考えているだけだと思うんです」


土の精霊王様は黙ったまま私の言葉を聞いていたかと思うと、視線を此方に向けて嘲笑する。


「逃げ口か・・・その口振ではまるで、死に直面した経験が有る様な口ぶりじゃな」


その言葉に頭が痛み、何かの一場面がちらつく。赤い視界、滑り落ちる体と徐々に遠くなる夜空に浮かぶ月。以前に見た夢の断片が恐怖心と共に甦って来た。


「え、あ・・・」


思わず頭が眩む感覚によろけると、フェリクスさんがそっと肩を支えてくれた。そして、そっと「大丈夫か?」と言う心配してくれた言葉に頷くと、フェリクスさんは安堵の息を漏らした。


「人の古傷を抉る様な言葉は感心しないが、ルーナを殺して欲しいと言った事情を話して貰えないですかね?」


「ふむ・・・すまない。しかし、儂とて本心では無い。あの娘、ルーナは山脈崩落の際、瀕死危機に陥った。その際に邪神カーリマンに従う魔族の女が、ルーナの空の魔核に邪神と繋がる精霊を憑依させた、まさに彼女の魂は奴等に囚われておる。もしも贄として捧げられ、地脈と一体化し異界と通じれば沈んだ皇国に替わり、異界への扉となる」


「なん・・・だと」


予想外の真相に思わず言葉を失う。成程、カルメンがメルクリオ団長やルーナを利用したのは、此の事から気を逸らし、門を開く為の時間稼ぎだったのか。牢であったカルメンの余裕は順調にその準備が進んでいる事による物からなのね。

私も少し揺さぶりを受けたぐらいで此処で腐っている訳には行かない。彼女を死を持って終わらせる以外の方法・・・・


「エミリオさん、あの石片を持っていますよね?」


「ん?え、ああ・・・持っている」


エミリオさんは私に言われて不思議そうに懐から精霊殺し(エレメンタルキラー)を取り出す。

推測の域に過ぎないけれど、奴等が執拗に此の石片を取り戻したがっていたのは此方に此れを利用されては理由があるからかもしれない。


「土の精霊王様、改めて彼女の死を用いて根源を断つのは可笑しいと思います。彼女は自身を制御できずにいる事に耐えられずに生きる事を諦め、誰かに殺される事を望んでいるのかも知れません。本心から望んでいない相手に機会も与えず、死を救いとして与えるのは早計かと思います」


土の精霊王様は腑に落ちないと言う感じで顔を険しくするが、次第に興味深げに私を見つめながら訊ねる。


「其処まで言うのならアメリアよ、お主の考える解決への手段を話してみせよ」


「はい・・・。エミリオさん、お願いします」


「・・・解った」


私はエミリオさんに頼み、不安を抱えつつも石片を精霊王様へと差し出す。土の精霊王様は其れを忌々しげに見ると、エミリオさんに其れをしまう様に命じた。


「精霊殺しか、何とも恐ろしい・・・。確かに有効しれんが、エミリオとやらお主も危険に晒されるぞ」


その土の精霊王の言葉にエミリオさんの頬を汗が伝う。

ファウストさんは其れ横目で見ていたが、エミリオさんを庇い前へ出て胸を張り言い放った。


「その為の僕達です。弟が協力すると言うのなら全力で護って見せます」


些か強引な兄の決意表明にエミリオさんは苦笑すると、引き下がらせ前へ出る。


「地の精霊王様が護る、此の地を俺は愛しています。その為なら協力を惜しみません!」


「ほう・・・其処まで意思が固まっているのであれば何も言わん。しかし、アメリアの案が失敗でも引かぬのなら、躊躇は多くを道連れにすると承知するんじゃな」


如何にか提案は通ったが、彼女の死と言う選択肢は完全に消せないと言う事か。けれど、機会は貰えたのは有り難い。


「はい、何としても成し遂げてみます!」


「ふむ・・・期待しておるぞ。儂達も此の地の眷属の心が一つになるよう、ティーナや大祭司と共に働き掛けよう」


土の精霊王様は観念したかのように私達を見つめ頷く、しかしその顔は何処か複雑な表情に見えた。


「私達もアメリアの力になるつもりです」


ケレブリエルさんを始め、皆も協力の手を私に差し伸べてくれる。皆を頼もしいと思うと同時に胸が暖かくなった。


「うむ、ルーナは崩落により生じた空洞の先、地脈の中におる。如何程の物が解らないが道を開こう」


土の精霊王様は何処か苦し気に息を吐きながら額に汗をにじませる。その体から琥珀色の砂粒が宙に浮く精霊石に引き寄せられ、存在が希薄になって行く。自力で瘴気が漂う山を歩き探すのは不可能なのが心苦しい。

其処に何処からともなく、光る蝶の群が現れ渦巻いたかと思うと、妖精と共にアレクが姿を現した。何処か太々しい態度をしつつも、土の精霊王様へと恭しく一礼をする。


「アレク、色々と訊きたい事があるけれど後にするわ。私達は今直ぐに地脈に向かう必要が在るの」


先程までの事を取り急ぎ説明すると小さく何かを呟き考え込み、僅かに間を置いて顔を上げる。


妖精(我々)が代わって、彼女達を地脈へと案内しましょう。しかし、何故に彼女との盟約を拒むのですか?結べば貴方を通じて、目的の地へと赴くのも容易くなるはず」


それを訊くと、土の精霊王様の表情が強張った。確かに私も、其れが出来るのなら結んだ方が良いと思う。しかし風の精霊王様と話した時と言い、如何にもプライドの為なのか人間に頼るのが許せない様だ。

現状を考えると、そうも言っていられないと思うのだけど・・・


「それはならぬ、未だあのお方が居る以上、儂等さえ屈せねば良いだけの話じゃ。今以上にアメリアに背負わせるつもりは無い」


土の精霊王様の返事に、アレクは呆れた様に苦笑する。あの方は女神様の事だろう、しかし私に今以上の負担が掛かるとは如何言う事なのだろうか?


「はっ・・・。其れは我々に一任する言う認識で構いませんね?」


「・・・頼む」


土の精霊王様は静かに私へと背を向けると、アレクに向けて手をかざした手から閃光が走り、彼は頭を抱える。訊くと目的地までの地図を頭に強制的に転写されたと教えてくれた。

精霊の儀が執り行われるまでには事を治めたい私達は、風の精霊王様の助力を得て地脈へと続く道を飛んで行く。勿論、メルクリオ団長の最後とその最後までの経緯を訊く事も忘れずに。



********************



その道中、聞かされた内容は驚くべきものだった。メルクリオ団長によるレナータへの嫌疑が掛けられ、侵入した騎士団は彼女の屋敷へ。しかし成果を得られずに苛立ちから当てつけに私達を裏切った後、独りでレナータを追い、屍人に連れられたルーナと接触するのを発見し追跡を単独で行っていたそうだ。

そして案の定、次の日の朝に建物の影で冷たくなっていた所を発見されたらしい。


「それって、防ぐ事は出来なかったのかしら?」


ケレブリエルさんが訝し気に訊ねるものの、返ってきた言葉は冷たく非情な物だった。


「見張る様に頼まれたが、護る様に言われた覚えは無い」


「確かにそうね、でもそう言う問題じゃないでしょ?!」


そう怒る私達を見て、アレクは無言で肩を竦める。しかし、腑に落ちないが現実は待ってくれない、彼の背を追いながら瘴気が漂う地を駆け抜け付いて行く。

辿り着いたのは幾重にも重なった地層が見える崖の前、其処に何か仕掛けがあるとばかり思っていた。

ふと気が付けば土の妖精達に囲まれており、アレクの合図で彼等が手を振り上げると同時に地面は流砂と化し、抵抗も空しく私達は悲鳴と共に飲み込まれて行くのだった。



******************



熱い、只管に熱い。肌がちりちりと焼ける様な熱が自分を包んでいる。手を動かすとゴツゴツとした岩の感触が伝わって来た。如何やら生きているらしい。

ゆっくりと手を突き、体を起こしながら瞼を開けると、自分が赤褐色の岩でできた洞窟に居る事が理解できた。そして、身を焦がす其れの正体は燃えるように赤い、地の底を流れる灼熱の川、岩漿と琥珀色の光の粒子が共に流れる姿はまるで生き物の一部のようだ。きっと、落ちたら骨すら残らないだろう。


「まるで、大地を流れる血液みたい・・・」


私が其れに釘つけになっていると、ケレブリエルさんが私へと手を差し伸べてくれた。その肩にはセレスが乗っていて、心配そうに此方を見ている。よく無事だったね・・・


「此処が本当に地脈と言うのなら、その通りかもしれないわね。ほら、早くっ」


「ありがとうございます・・・」


促され手を取り立ち上がると、ファウストさん兄弟が岩漿を見て感嘆の声を上げていた。


「地のマナと共に流れる大地の息吹!凄いじゃないか!」


「ああ、生きて目にする事が有るとは思わなかったな・・・」


興奮気味のエミリオさんに対して冷めている様に見えるファウストさんだが、尻尾を垂直に立て、そわそわと何処か浮かれているのが見て取れる。


「ところで、フェリクスさんとアレクは?」


「さあ・・・?アレクは如何か知らないけれど、フェリクスは一緒に落ちて来た筈よね?」


ケレブリエルさんと共に見渡すと、長く続く洞窟の奥からフェリクスさんが此方へ歩いて来るのが見える。その後ろでアレクが腕を組み壁にもたれ掛け此方を見ていた。


「此処を暫く行くと徐々に空気に瘴気が混じって来る、如何やらこの先で間違いない様だ。まあ、此処に来るのに少し乱暴な事になったけどアイツの事許してやってくれよ、協力あっての事だしさ」


フェリクスさんは振り向き様に無言のままのアレクを指さす。確かにフェリクスさんの言う通り、アレクのおかげなのは事実。しかし、どれだけの高さを降りて来たのかは不明だし、下手すれば命の危険もあった。まあ、あの状態の土の精霊王様に無理をさせるより良いかな。

それにしても、前から何となく思っていたが、あの二人は知り合いか何かなのだろうか?


「そこは目的地に着けて助かったし大丈夫ですよ!それより、偵察まで行って頂いてすいません、ありがとうございます」


「・・・だとよ」


フェリクスさんがニヤニヤしながら見るのを無視したかと思うと、アレクは私を見ると目を逸らし鼻で笑った。如何言う意味なのだろうか?


「このまま、其処で呑気にしていると干乾びるだけでは済まない。早く標的の所に行くぞ邪神も土の精霊王様も長くは待てないからな」


そう言うとまた勝手にアレクは歩き出す。二人を追いかけ暫く歩くと報告通り、空気に黒い(もや)が混じり、呼吸がやや苦しくなる。

更に奥へと進んだ先、其処にルーナはいた。手足は瘴気らしき黒い物体で地脈に繋がれ、その下の岩漿は熱と瘴気が噴き出し脅威に染まりつつ在った。


「・・・何をしに来たの?」


突如として聞こえた声に誰もが肝を冷やし視線が集まる其の先、ルーナは虚ろな目を漂わせ私達を見据えると、絞り出す様な声で喋る。良かった、未だ彼女の自我が残っている。


「・・・死ぬなんて考えないで。私達が貴女の魔核に宿る邪な神の呪縛を解いてあげる!」


救えるなんて確証は無い、其れでも止めるつもりは無い。一縷(いちる)の望みに賭けて。

本日も当作品を最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

まさか、また新たにブックマーク登録もして頂けるとは!とても励みになります。


*************


さて、ベアストマン帝国編も終盤に向かい盛り上がってきました。

次回も何事もなければ、7月19日18時に更新いたします。

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