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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第25話 崩壊と喪失ーベアストマン帝国編

薄闇は視界を曇らせ仲間を襲ったソレは何か、手探りのまま不安と焦燥感に襲われある事に気が付く。壁には火の魔結晶による照明が弱々しい光を放っていた。どうりで部屋が真っ暗じゃ無いわけだ。


「すいません、誰か壁の照明に・・・火の魔結晶に魔力を注いでください。私は女の子とファウストさんを助けます」


「いや、一人で二人は無茶だ、兄さんは俺が運ぶ。ただ、彼女に何かが在るのは確かだ、アメリアさんも気を付けた方が良い」


エミリオさんは兄と少女を見比べ、私の隣へとしゃがみ込む。程無くして部屋全体が淡い橙色の明かりに照らされる。


「こら、どーせ助けるなら明るくなってからにしろよな」


「ろよなぁー」


振り向くとセレスを肩に乗せたフェリクスさんが呆れ顔を浮かべていた。如何やら焦りから気を急いてしまったらしい。


「あ、ありがとうございます」


「すいません、助かりました」


室内は明るく照らされ、徐々に現状が明確となる。魔物や薬などは一切見当たらず、床には壊れた空箱と粉々に砕かれた青い鉱石が散らばり、その中央には先端に鋭い菱形の金属がついた打撃武器、メイスが地面へと減り込んでいた。


「良かった、気を失っているだけだ」


離れた場所へファウストさんを寝かすと、エミリオさんの口から安堵の声が漏れる。目に映る範囲では怪我も何らかの魔法の形跡もない。これはもう迷っていても仕方がないか・・・

少女は(くちばし)も瞼もピクリとも動く様子は無い、抱き上げようと手を伸ばした瞬間、青白い光がぼんやりと光るのが見えた。胸の辺りで何かが急激に暴れ出し胸が締め付けられる、私を蝕む其れは意識を刈り取ろうと暴れ出す、私の中の何かが悲鳴をあげた。


「くっ・・・あ・・・」


いったい、何が起きて居るのだろう。遠くでフェリクスさん達が私の名前を呼ぶのが聞こえる、手足に力が入らなくなり、劇の天幕が降りる様に視界が徐々に暗くなってきた。其れに抗う為に固く唇を閉め、奥歯を噛みしめると頭の中に聞き覚えのある声が響く。


『解っていたくせに不用心だなぁー。仕方がないから弱っている土の精霊王(じいさん)の代わりにオイラが助けてやるよ』


私と少女の体を風が包み運んでいく、原因から離され苦しみから解放され瞼をゆっくりと開ける。声の主は間違いなく風の精霊王、助けてくれた事に感謝しかないが、土の精霊王が弱っていると言う言葉が気になる。

突然、聞こえた声に驚愕し、辺りを見回すフェリクスさん達を尻目に胡坐をかき頬づえをつく風の精霊王。目を合わせ、お礼を言っても何処か小馬鹿にしたような表情を浮かべるのみ。


「土の精霊王様が弱っていると言うのは本当ですか?」


『そうさ、お前も山を見たろう?』


つまり、山脈の崩落は其れを作り宿る精霊達だけではなく、其れを束ねる王にすら悪影響を及ぼす程ものと言う事か。


「ええ・・・酷い惨状でした。如何してこの事態が引き起こされたのか・・・犠牲になった方を思うと胸が痛みます」


『まだ気付かないのかい?アレだよ()()!』


風の精霊王が指をさすと、床に砕け散った青い鉱石が徐々に光りだすのが見えた。エミリオさんはしゃがみ込み其れを拾い上げると、不思議そうに掌の其れを見つめ首を傾げる。


『其れを捨てろ!』


「え!えぇっ??」


エミリオさんが風の精霊王の怒声に驚き固まった所で、床に飛び散る石が光を放っている事に気が付いた。次第に照明の明かりさえ飲み込み、其れが部屋を満たすと不気味で悲痛な泣き声が響き渡る。


「何だ此れ、気味が悪いな・・・悲鳴か?」


一同、何処からともなく聞こえる泣き声に困惑の色を隠せない。胸に押し寄せる不安は目に見える形となり、凶兆は現実味を帯びる。土に埋もれた分殿を形作る石壁や床は砂に変わり崩れ始め、嫌が応にも死を予感させる。


「あの石は・・・いや、訊いている時間は在りませんね」


私の問いかけに風の精霊王は黙って頷くと、苦々しい表情を浮かべ光り輝く鉱石屑を見つめる。その様子から猶予は無い事を悟ると、フェリクスさん達はファウストさんを、私は倒れ込んだ少女を背負いあげ出口へと駆け出す。外の様子は不明だが、地鳴りや壁の崩れる音によりケレブリエルさんを呼ぶ事もヒッポグリフ達を呼ぶ事も出来そうにない。


『直に此処は山と同じ事となるのさ。此処は任せろ、お前達を外に出してやる!』


有無を言わさず旋風が私達を巻き込む様に捕らえ、地上へと誘う。暗闇を抜けて目が眩む様な茜色の日の中、眼下に広がるのは鉢型に抉れた大地だった。



***********************



茜色に染まる人気の無い大地へと風と共に舞い降りると、ケレブリエルさんも二頭のヒッポグリフの姿も見当たらない。確かに残る車輪と蹄の跡が其処に一人と二頭が居た事を証明するのみ、こうする合間にも大地が沈みゆく勢いは振動と共に治まる様子を見せず、安堵している間など無いのだと知らされる。


『それじゃ、オイラが手伝うのは此処までだ。後は土の精霊王(ノーム)に訊いてよ』


「え・・・?」


戸惑う私達へと一言残し、風の精霊王は満面の笑みを浮かべながら手を振り空に溶け込む様に消えて行く。もう、もっと安全な場所に降ろしてほしいとか抗議して居る間もない。此方は気を失ったままの人を二人も連れているのだから。


「アメリアちゃん、此処は考えている時間は無いよ!」


「ええ!出来る限り遠くへ、全力疾走しましょ!」


思いの外、気を失った人は重く、吸い寄せられるように流れて行く土の中を踏みしめ歩く。其処で突然、体が軽くなり驚くと、エミリオさんがファウストさんを背負いつつ鳥人の少女を抱きかかえていた。


「こう言う時こそ、筋肉の一番の活躍場所さ。さあ急ごう、何処まで分殿の崩壊の影響があるか解らないしね」


「すいません、ありがとうございます!」


私達は互いを気にしつつ踏み進む。無事に戻れたら土の精霊王様に会いに行こうと考えているけれど、話ができるのだろうか?幸いな事に眷族と思われる二種族の関係は近隣のギルドに緊急クエストを依頼する処からして、友好な関係であると想像できる。帝国の大将の態度は少々、目に余るものを感じなくも無いけれど。

出来る限りの速さで歩き続ける中、何処からともなくガタガタと勢いよく何かが迫る音と鳥の鳴き声が耳に届く。焦った様子の其れは私達の前で急停止すると、御者台に乗った見知った顔が慌てた様子で此方へと叫ぶ。


「荷台へ!早く乗りなさい!」


ケレブリエルさんの呼び掛けに無言で荷台へと私達は乗り込んでいく。しかし、ケレブリエルさん一人で二頭を操獣するのは大変な筈だ。私は二台から御者台に這う様に移り、自分のヒッポグリフであるアルスヴィズの手綱を握る。


「私も手伝います!」


「あんたね、二人で操獣って・・・まあ、良いわ息を合わせて!」


「はい!」


ケレブリエルさんの苦笑いに少し反省しつつも、足を引っ張らないように手綱を握り操獣する。そんな心根が伝わったのかアルスヴィズは心配無用と言いたげに此方を振り向き鳴き声を上げた。


「ピイィッ!」


「そうね、頼むわよ!後ろの二人も確り摑まって!」


背後から二人の力強い返事が返って来る。背後から迫る土煙と、手綱からヒッポグリフ達が土の祭殿の分殿の崩壊によりできた空洞に流れ込む土に呑まれ無い様にひたすら必死にこの場から離れようとしているのを感じた。目の前に大きな岩が鎮座しているのが見え、行先を阻もうと言わんばかりに迫る。

荷車では小回りがあまり聞かない、そもそも空が主な領域の二頭のヒッポグリフは訓練された個体では無い。できるだけ広い方から避けなくては。


「左に旋回!」


ケレブリエルさんの号令が発せられる。左手で手綱を引き指示を出すと、アルスヴィズとスレイプニルは向きを変え左へと荷車を引く。無理な動きからか車輪が軋む音と砂利が擦れる音が響き、其れを心配する声が上がる。其れでも幾度となく必死に王都の方へと走ると、大地が陥没して行く音が遠くなった事に気付いた。


「如何やら難を逃れた様ですね・・・」


両手で手綱を引き、荷車を停車させ振り向くと土煙は小さくなって見えた。如何にか危機は脱したが、助けになった荷車は車輪が外れる寸前なうえに酷く傷んでいて、此れが借りものだと思うと血の気が引く。


「まあ、よく此の操獣方法で助かったわよね」


ケレブリエルさんは疲れ切った表情を浮かべ、力無く肩を下ろす。


御尤(ごもっと)もですね・・・アハハハ」


思わず気まずさを誤魔化すように笑いが口から洩れる。そして背後から溜息が聞こえたかと思うと、フェリクスさんが荷台から御者台に座る私達の間に腰を下ろす。


「それより、要救護者の二人を落とさずに守ったお兄さん達をねぎらってー」


「・・・そうね、お疲れさま」


素っ気ない態度だがケレブリエルさんがフェリクスさんを労うと、今度は私に視線が行く。命が掛かっているとはいえ、安全とは言い難い運転だったのは確かだ。


「其れはお疲れ様です。所で二人の意識は戻りました?」


私がそう尋ねると、フェリクスさんは首を横に振ると困った様な表情を浮かべる。


「如何かしましたか?」


「いや、元から意識を無くしていた二人は無事なんだけど・・・体調不良が一人増えたと言うか」


歯切れの悪い返事に首を傾げると、荷台の上で手摺にしがみ付き動かずにいるエミリオさんが目に入った。如何やら酔ってしまったらしい。



******************



それから間もなく、帝国の兵士が宿の案内を受けていない私達を探しに来た事により、事態は担当している第三騎士団の上層部へと届く。倒れた二人を病院へ送った後、当然の様に病院の休憩所を占領しての騎士団からの事情聴取が行われた。其れを取り仕切ったのもやはり、メルクリオ団長だ。

補佐のレナータはその横で黙々と羊皮紙へ記録し続けている。


「ふむ・・・埋もれた土の分殿に意識不明の鳥人と摩訶不思議な石による崩壊か・・・偽りはないな?」


私達四人に対し、険しい表情で()める様に疑いの視線を送るメルクリオ団長。その問いかけを肯定する私達の答えを聞くと不気味な笑みを浮かべ、レナータを呼び耳打ちをする。


「冒険者諸君、協力を感謝する。陥没の埋め立ても含め、忙しくなると思うが今後とも宜しく頼む。では、自由にして構わない」


如何にか解放されたが、倒れたファウストさんと鳥人族の少女を担当してくれていた医師に呼び止められ、二人の症状を訊く為に留まった。医師によると、ファウストさんは直に回復するそうだが、鳥人族の少女には致命的な不幸が起きて居ると知らされ一同息を飲む。


「何が在ったかは知らんが、彼女はもう二度と魔法が使えなくなってしまった。何かしらの呪具が用いられた可能性も在るが原因不明と言った所か・・・・・はっきりと言えるのは彼女は魔核に宿る精霊を失ったと言う事だ」


「精霊を・・・失う?」


以前に苦渋の選択を下し、エミリオさんの魔法を断った事が思い浮かぶ。しかし、彼女は憶えてる限り傷一つなく、ただ眠っているかの様に見えていた。

床に突き刺さるメイスに砕けた物体を崩壊に導く鉱石、医師が口にした呪具と言う存在・・・

一体、土の分殿(あの場)で少女に何が起きたのだろうか?

本日も当作品を読んで頂き真に有難うございます。

さて、山脈を崩壊させた原因の一部が何か見えてきましたが、その正体や事の顛末は如何に?

*****************

それでは、次週も何事も無ければ5月17日18時に更新となります。

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