第24話 奪われた安住の地ーベアストマン帝国編
緊急クエストを受け訪れた土の精霊王の加護を受けし地は突如、原因不明の災厄に見舞われ姿を大きく変える。まるで融けたかのように崩れ落ちた岩の要塞は其処に住む多くの鳥人の命と、その安住の地を無残に奪い去り、国の護りを脅かす程の物と成り果てていた。
其処で多くの命が奪い去られ、残された者達の涙が流されたであろう現状に国が手を差し伸べたのは国民を護ろうと言う意思の表れでは無く、逸早く国の護りを立て直す事を優先する考えである事が私達を含む冒険者の前で語られた。
「・・・酷い言い回しね」
私と同様に不快感を露わに憤る声が飛び交う中、考え込む様な仕草をし、眉を顰めるケレブリエルさんが呟いた言葉は極論的な言い回しだった。
「多数を救う為の少数の犠牲を強いる・・・其れをもとに王都の護りを優先する事を選ぶつもりなのかもしれないわ」
『可能性の無い物を淘汰する』とは何か。やはり、未だに土に呑まれたまま鳥人族の事だろうか?
何にしても答えは霧の中、不安に感じるのはケレブリエルさんの仮説が頭にチラつくからだろう。
殺気立つ私達に対し、フェリクスさんは首を横に振ると落ち着いた口調で宥める様に其れを制止して見せた。
「いんや、早合点は良くないな。淘汰には不要な物や不適切な物を取り除く意味合いもある、何らかの形で鳥人族が城塞の建造を反対する意思を示したとしたら?」
「まさか、城塞の建造に反対する可能性がある、反対派の人々を排除するつもりじゃ・・・」
「・・・・その可能性も無くはないわね」
ケレブリエルさんはフェリクスさんの意見に関心すると、視線をメルクリオ団長達へと向ける。
冒険者による皮肉と怒りが飛び交う睨み合いが続いていた。それをメルクリオは嘲笑い、やや傲慢な振る舞いで其れに応える。
「雇い主が誰か忘れたか?我々は出来る限りの事はする所存だ。それ以上の不敬は己を亡ぼすと思え、さっさと賃金に見合った仕事をしろ!」
そうとだけ吐き捨てる様に言うと、メルクリオはレナータに何かを囁き立ち去った。其れにより更に反感は強まるが、レナータがその場に立つと、今度は品の無い言葉を浴びせかける者が出て来た。
しかし、彼女は其れをものともせず冒険者達の目の前に立ち杖を突くと、表情を変える事無く冷やかな目で周囲を見渡す。
「団長に代わり捕捉を・・・。生存者の方の治療及び衣食住保証は此方で必ず致します。勿論、支払われる褒賞も、御協力頂く期間の宿も御用意させて頂いておりますので、如何かご安心くださいませ」
レナータは先程までの表情と相反し穏やかな笑みを浮かべると、怒りの表情を隠さず渋い顔をする冒険者達は見惚れているかの様に彼女を見つめ動きを止め、すっかり骨抜きにされ頷く。生存者への保証や待遇について話したに過ぎない、彼女はいったい一瞬で彼等に何をしたのだろうか?
ふと、そんなレナータへと目をやると、張り切りながら作業に戻る冒険者を見送り、騎士団のテントの方へと踵を返す。その横顔は先程の笑顔とは逆の凍える様に冷たい物に見えた。
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つまるところ圧力なのか激励なのか解らず、その後も何度も言いたい放題しては去って行くメルクリオ団長には辟易だ。私達は合流すると、ファウストさん達と組み生存者の捜索と土と瓦礫の撤去に勤しんだ。
現場の近くの露払いに行っていたらしく、終業宣言をしたメルクリオと其の部下の服や鎧は魔物の血らしらしきもので染め上げられていた。
「アルスヴィズ、スレイプニルっ!お疲れさま」
「ピィィ!」
「ギャッギャッ」
ヒッポグリフの嘴の先を撫でてやると、二頭は気持ちよさそうに目を細め、頭を私の肩に埋めて来る。瓦礫の方は当分掛かりそうだが、今回の事に巻き込まれたと推定される全員を見つけ出し終える事ができたが、生存者の数は半数以下となってしまった。
「いったい、何がこんな事態を引き起こしたんだろうな。結局、土人形は生成できず、最後まで肉体労働になるとは・・・」
「お疲れ様です、やはり土人形は無理でしたか・・・」
「普通、魔法は体内に取り入れたマナを魔核で魔力へと変換し、呪文に其れを乗せて自身に宿る精霊へと捧ぐ事により行使される物だから、自然に存在する精霊は関係はないわ」
ケレブリエルさんは左腕で右ひじを支え、考え込む様に眉根を寄せ右手で頬づえをつく。
彼女の言う通りなら、崩壊した山脈事態と言うよりも、自身の中の精霊にまで影響する何かが此処に在るのかもしれない。その何かが解らなきゃ意味が無いのだけど。
「それは僕等の精霊が封じられている可能性が在ると言う事か?アメリア、あの方に話を伺う事はできないか?」
遠回しに土の精霊王への口利きを要求された。私は土の精霊王とは気軽に呼び出せる立場ではないが、此処の教会の大図書館を己の城と称する御方だ、運が良ければ相談をする時間を頂けるかもしれない。
「私も同感です、明日の昼にでも教会の大図書館に向かいましょう、土の精霊王様にお会い出来るかも知れません」
「そうか・・・其れまでに何とかしないといけないな。今日は家に案内する、此の続きは返ってからにしよう」
ファウストさんは荷車に腰を掛け、ぐったりと項垂れる。その姿を見ていたエミリオさんはニヤニヤと小馬鹿にした表情を浮かべ、それに気が付き蟀谷に青筋を浮かべる兄に我関さずと言った様子で歩み寄る。
「兄さん、鍛えが足りないな!土人形に頼り過ぎだ、魔力が切れた後で自分を護れるのは己の肉体!さあ、兄さんも・・・!」
すっかり筋肉の虜になった弟を心底嫌そうな目で見るファウストさん。確かに以前とは真逆の正確になったものね。
「お前は本当に立派な脳筋に育ったな・・・」
「ハハハッ!そうだろ、そうだろぅ!」
その皮肉に気が付くどころか、増長する双子の弟にファウストさんは肩を落とし呆れ顔のまま固まるが、荷車に手を突き立ち上がり大声を上げた。
「褒めていないっ!」
寸劇の様なやり取りの末に荷台が叩き付けられるのと同時に、立ち上がる勢いで揺れた荷車が傾く。其れにより驚いた二頭のヒッポグリフは怒り、後ろ足の蹄で思いっきり荷車を蹴り上げた。
荷車の御者台が割れる様な音が耳に響くと同時に二頭と繋がっていた縄は引き千切られ、荷車はファウストさんとエミリオさんへ多い被さる様に倒れ込む。
二頭を落ち着かせる間など無い、咄嗟に倒れ込む荷車を支えようと私は手摺を掴み、フェリクスさんとエミリオさんを加えた三人で荷車を支える事に成功した。だが安堵の息を漏らす間もなく、突如として流砂の如く沈みゆく地面は私たち四人を飲み込んだ。
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痛みは無いし体は動く、強いて問題として挙げるのなら体中に纏わりつき、口の中をざらつかせる大量の土と砂だ。其れを掃い立ち上がると、そこは多くの居れた柱に天井を支えられた空洞だった。
其処を目を凝らし見ると、茜色の光が射し込む大きな穴が在る事に気付かされる。
「如何やらあそこから落ちた様ね」
私、こう言う目に遭うこと多すぎないかと苦笑すると、近くの土がモコモコと小さな土山を作ったかと思うとセレスが咳をしながら顔を出し、土から逃れようともがく。其れを助けようと手を差し伸べた所で手首を何者かの手が鷲掴んだ。
「ひっ・・・?!」
僅かな声を漏らすと同時に息を飲み、柄に手を伸ばし剣を引き抜くと、土が一気に盛り上がる。
必死の表情で顔を出したのはファウストさんだった。
「すまない、待ってくれ!僕だ!」
「わっ、ごめんなさいっ!」
予想外の相手だったが、私達のやり取りを聞いたのか、フェリクスさんとエミリオさんも姿を現した。
少しやり過ぎたと反省しつつ空洞の中を歩くがケレブリエルさんの姿は無い、如何やら落ちたのは私達だけらしい。しかし、ヒッポグリフ達を見る事ができる人物に残って貰えたのは助かったと思う「。
「しかし、此処は空洞と言うより、遺跡か何かの建物みたいだね」
フェリクスさんは床や壁を探り、不思議そうに首を捻る。言われてみれば其処かしこに描かれている文様の色は鮮やかで、何処か覚えのある物まで在る様だ。其処から大凡の見当がつきそうだが、何なのかは明白ではない。気付けば脱出より、探索が優先になっていた。
「おい、如何して他の物の様に完全に朽ちてなかったのか不明だが、此処が何処なのかは判ったぞ」
私達と別行動をし、エミリオさんに瓦礫の撤去をして貰いながら散策していたファウストさんが別室から顔を出し、私達を自分達が調べていた部屋へ招く。
其処には祭具と思われる物が散乱し、傾れ込んで来た土が小さな山を作りあげていた。
「此処はいったい・・・?祭殿に似ているような気がしますが?」
私の問いにファウストさんは祭具を拾い上げ、凝視していたが顔上げ、渋い顔で此方を見る。
「此処は山に住む鳥人族の為の祭殿の分殿だと思われる、要は山を下りて参拝する事が困難な者の特別な祈りの場だ。しかし、この惨状は元関係者としても心が痛むな・・・」
「・・・・・」
悲し気な表情を浮かべる兄に気が付くと、エミリオさんは苦しそうに顔を歪める。ファウストさんが祭殿を出る一因だと思い、心を痛めているのかもしれない。
私達は脱出経路の確認をし、地上に居るケレブリエルさんへ無事を伝えた後、其れを二人に知らせようとした所で地鳴りが響いた。
「此処も長くないかも知れないな・・・」
「そうですね、急ぎましょう」
私達が到着した所、ファウストさんは慌てた様子で此方へと駆け寄って来ると、部屋の隅でぐったりと倒れる鳥人族の少女の姿見えた。
「この子も連れて行かないか?祭殿の関係者の様だが・・・」
「当然です、私達はその為にクエストを受注したのでしょう?」
「ああ、恩にきる」
ファウストさんは安堵の表情を見せると、彼女を抱き上げようと手を伸ばす。鷲の鳥人族と思われる彼女を抱き上げようと背中に手を回した所で突如、ファウストさんは体をくの字に曲げ胸を抑え倒れ込んだ。
「兄さん?!」
「ファウスト!?」
「ファウストさん!」
私が慌てて駆け寄ると、耳に無事であるが苦し気な息遣い聞こえて来る。
少女の様子を見る限りは意識を失っており、怪しい動きは無かった、だがファウストさんは確かに彼女に触れた事により倒れた。奇妙な方法で訪れた埋没した土の分殿、此処に何が潜んでいると言うのだろうか。
本日も当作品を最後まで読んで頂き、真に有難うございます!皆さんへの感謝を忘れず、此れからも頑張って書いて行こうと思います。
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暗雲立ち込める中、アメリア達の冒険はまだまだ続く。
次週も何事も無ければ5月10日18時に更新予定となります。




