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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第23話 喪失を越えてーベアストマン編

その日、フォンドールの中央通りは商人達では無く冒険者達で溢れ返っていた。食い入る様な視線はクエスト募集の張り紙の中でもランク問わずの高額依頼が記された紙に注目が向けられている。

その依頼とは言うまでもなく、昨日のベアストマン帝国の山脈の瓦礫の撤去と人命救助。その報酬は何と一人大銅貨五枚と、国からの依頼だけあってかなりの金額だ。

宿屋の主人からベアストマン帝国の話を聞いた私は遅れて朝食を取りながら、ケレブリエルさんとフェリクスさんにその事を話していた。其処に鼻息荒くライラさんが割り込んで来たかと思うと、颯爽とこの話を持ち掛けて来たのだ。


「どーです!どーです、ピッタリの依頼じゃないですかぁ?此処ではそこそこ稼ぎましたけど、不要な支出でお財布を軽くするなんて痛手です!」


冒険者達による雑踏に押しつぶされまいと私の足に必死にしがみ付きつつ、自分の知らせた依頼を受ける様に推し進めて来る。


「そうですね・・・」


意図せず巻き込まれたとはいえ、彼女の商売の計画を止めた事は事実。不要な支出と嘆いても、其れをヒッポグリフの預り金のみで済ませてくれるのは温情なのかも。どのみち、資金の為にクエストを受けようと考えていたし丁度良い機会だ。


「そこそこ稼いでたね・・・ってちょっと待って。私達まで居なくなったのはフェリクス(この人)のせいなんだし、責任を求める相手を間違えていないかしら?」


ケレブリエルさんはじっとりとした目でフェリクスさんの顔を見る。それに気づいたフェリクスさんは面を喰らった表情を浮かべ、困惑した様子で私達の顔を見た後、不満げに眉根を寄せた。


「あ、あれは、どう見ても俺のせいじゃないだろ?妖精のやった事だしさ」


「あら?契約妖精のしでかした事はある時の責任じゃない?」


その抗議にケレブリエルさんは意地悪な顔を浮かべ、腕を組み片手を頬に当て小首を傾げた。その意見に何か言いたげにするフェリクスさんだが、口を堅く結び目を逸らす。


「いいえ、二頭は私とダリルが責任者です。見つけ次第、私とダリルで支払いますっ」


「あぁ、アメリアちゃんは、優しいなぁー」


フェリクスさんは涙を拭くような仕草をしながら、同情を誘う様な声を出す。

私の横でこの光景を見ていたライラさんは、頬を膨らませながら蟀谷(こめかみ)に青筋を立てると、深く息を吸い込み堪り兼ねた様に怒り出す。


「誰が払うとか、そう言うもんじゃねぇですよ!クエスト受けてお金を稼ぐか如何かですっ」


あまりにも大きな声に周囲から驚きの視線が注がれる、其れに気付くとライラさんはトマテの様に顔を真っ赤にしながら俯いた。



*********************



依頼を引き受けた私達は救護物資を運ぶ船に乗り、他の冒険者達と共にベアストマン帝国行きの船に乗船している。ギルドの受付にヒッポグリフは役に立たないかと交渉してみた所、荷物や怪我人の搬送を引き受けてくれるのならと言う条件で共に海を渡る事となった。

船底近くの家畜運搬用の部屋に預けている二頭を大人しくしている様に言い含め、外の空気でも吸おうと甲板に出ると大騒ぎになっており、近付く大陸の惨状は遠目から見てもあまりにも絶望的。山脈が崩れたとは聞いていたが、まさか麓付近まで一部だけ抉り取ったようになっているとは誰も信じられないだろう。あまりの光景に言葉は出ず、開いた口が暫く塞がらなかった。


「おい・・・なんだあれは、崩れたと言うより此れは」


唖然とした表情を浮かべるフェリクスさんから、驚きの声が漏れ出る。岸まで数十メトルと言った所で見た光景は、岩と土の入り交ざった物が岸から海へと傾れ込み、新たな陸地を築き上げていた。

そうこうしている内に船は浅瀬に着くと、中でも比較的平坦な場所で錨とタラップを下ろす。


「まるで、()()()()()かの様ですね・・・」


何と形容した物か悩んだけれどそうとしか言えない、ただ土や岩は山積しているのではなく、融けだし一緒に流れ出したかのように海へと広がっているのだ。足を踏み入れた土は陸地に近付くにつれ水分も無くなっていき、踏み込むと粘り気の無い柔らかな土に足を取られ下半身が埋めてしまう冒険者が続出していた。


「確かに崩れたと言う感じじゃないわね。あの時の轟音と荒波の原因は此れとして、自然現象とは言い難いわ、其れに加え抉れた山脈は傍から見て土より岩の割合の方が多く見えなくない?」


一団は、やむなく点々とする岩を足場に山を目指し進んでいく。その道中、周囲を鋭い目線で眺めながら歩いていたケレブリエルさんが呟いた。それに対し、フェリクスさんは「確かにね」と言い頷くと前方を見る。岩の上を歩く冒険者の一団が、慌てふためき必死に別の岩に飛び移るのが目に映る、彼等が足場としていた岩が突如としてボロボロと崩れ形を失い、細かな土と思われていた物へと姿を変えたのだ。


「成程、此処に在る土が山の一部だったのは間違いありませんね。しかし、岩が土へ・・・風化とも違うし」


「取り敢えず・・・此処で考えているより急ぎましょう。人命が第一です」


そもそも、岩を土に変えると、どんな魔法?そもそも魔法なのだろうか?犯人は容易に想像できるけれど、山脈の一部(これだけのもの)の形を奪う意味が解らない。

人命救助へと頭を切り替えようとするものの、風の精霊が言っていた「可哀想だね」と「泣いてるよ」と言う言葉が頭に引っ掛かった。


「それなら、空から行かないか?」


そう声を掛けるフェリクスさんが指をさすその先は目的地と真逆を向いていた。



*******************



私達は空から眼下を見下ろし、改めてその状況を把握し息を飲んだ。二頭のヒッポグリフは私達を乗せ、山の麓へと舞い降りる。アルスヴィズには私と強引について来たセレスのみが乗る筈だったが、飼い主であるダリルに似たのか、スレイプニルがフェリクスさんが騎乗するのを拒否した為、ケレブリエルさんが一人でスレイプニルに乗っていた。

そして、目の前に広がるのは山で暮らしていた人々の住居の残骸と救い出した人々を運ぶ荷馬車。少し離れた場所には幌馬車の横で愁いを帯びた表情を浮かべる司祭らしき人物が祈りを捧げている。如何やら状況は(かんば)しくは無い様だ。

二頭を帝国側が雇った獣使い(テイマー)へと預け、荷車に繋ぐように頼むと整列する冒険者の後に並ぶ。責任者と思われる立派な鎧を身に着けた黒豹の獣人が今まさに第一陣へと説明をしようとしている所だった。


「俺は此度、陛下より任を仰せつかったベアストマン帝国第三騎士団の団長、メルクリオ・サッケーリだ。先ずは遠路はるばる我が国の救援要請に応え、御足労いただいた冒険者諸君に敬意と感謝を贈る。多方面への配慮から簡略的な説明となるが、山脈の崩落により被害に遭った鳥人族の救助及び、岩及び土と集落の物と思われるがれきの撤去を依頼する。其処で力に自身がある者は撤去及び除去を、白魔法を得意とする者は生存者や怪我人の救助だ。それぞれの状況報告は部下を通じて報告してくれ」


そう言ってメルクリオ団長に紹介されたのは大人しく真面目そうな狐の半獣人の女性だった。上司の言葉を受けて私達に向かい一礼すると、一歩前へ歩み出ては眉を吊り上げ、真剣な表情をすると浅く息を吐く。


「第三騎士団所属、レナータ・ルッチと申します。活動中は多忙な団長に代わり対応しますので、質問や要望に報告などございましたら(わたくし)めにお申し付けください」


冷めきった表情を浮かべ淡々と告げると、彼女は災厄により被害に遭ったのは鳥人族である事、発見された人への対処法と瓦礫や岩と土の廃棄場所等の説明をする。

それらを受け、私達は預けていた二頭のヒッポグリフを荷馬車に繋ぎ、他の冒険者に混じり様々な物を運ぶ。その中には思わず目を瞑りたくなるような光景を目にする事もあったが、怪我人を無事に救護テントまで人を運べた時には胸を撫で下ろす思いだった。

しかし、暫く現場に居て土や岩に触れて行く内に妙な感覚に襲われる。明確には無理だが、しいて言うなら「何かが足りない」と言う謎の喪失感。


「ああ、そう言えばバラバラだけど、この国に二人ほど来ているわよ」


活動が一区切りし、一息ついた所でケレブリエルさんは荷馬車の御者台に腰を掛け、思いだしたように唐突に呟く。そうかと言って必ずしも事前に言って欲しい事でもないけれど。

しかし、再会できるのなら嬉しいし、再び旅に同行して貰えるのならありがたいと思う。


「まあ国は広いし、そんな都合よくは再会できませんよね。夜に宿にでもあたってみましょうか?」


二人の顔を見渡すと、フェリクスさんだけは渋い顔をしながら別の一点を見つめていた。何事かと顔を覗き込むと目を丸くし少し驚いた様な顔をし、無言で土砂や瓦礫を運ぶ冒険者達を指さす。


「え?んん?!」


「あらあら、偶然て面白いわね」


指し示された先には筋肉の塊のような獅子の半獣人とファウストさんの姿が在った。それを見ても平然とワザとらしい口調で話している所からして、ケレブリエルさんは既に気づいて居たくさい。


「まっ、こんな時になんだけど、挨拶ぐらいは済ませても悪くないんじゃないか?」


フェリクスさんは人の合間を縫う様に入っていくと、何かをファウストさん達と話した後に此方に来るよう手を振る。其れに思わず手を振ると、渋い顔をするレナータと目が合い睨まれてしまった。


「・・・二頭とセレスは見ているから、行って来たら?」


「すいません、行ってきます」


少しばかり罪悪感を抱きつつ、ケレブリエルさんに背中を押され駆けつけると、いきなりファウストさんの隣の筋肉質の男性に嬉しそうに声を掛けられ、手を差し伸べられた。


「アメリアさん、お久しぶりです!お元気でしたか?」


「え?えっ?お久しぶりです?」


思わず差し出された手を握り握手をしてしまったが、誰なのか判らない。困惑しつつ思いだそうと、頭を捻っていると相手も困ったように眉尻を下げる。其れを見てファウストさんが腹を抱えて笑いだした。


「ははっ、アメリア達と再び逢えて嬉しいよ。ちなみに此奴はエミリオだぞ」


「いやー、オレも驚いたよ。病院に入院していた様な奴がこうなるなんてね」


釣られる様にフェリクスさんまで笑いだす。其れを見て苦笑いをエミリオさんは浮かべ、私へと視線を向けた。


「いやー、魔法が使えなくなってから仕事上、護衛が必要に感じる時が遭ってね。魔法が使えないのなら何で身を護るか・・・」


エミリオさんは筋肉を誇張する様な動きを見せ付けて来る。


「考えた結果がこれさ!」


「すっ、凄いですね」


確かに別人の様に逞しくなったが、流石に反応に困る。肉体が武器と言った所だろうか?

何にしろ、帝都での別れから無事に逞しく過ごしている様で、兄であるファウストさんとしては安心しただろう。


「ところで、土人形(ゴーレム)は使わないのか?」


フェリクスさんの疑問にファウストさんの顔が曇る。


「其れが、此処に来てから可笑しいんだ。幾ら詠唱しようと土人形(ゴーレム)が生成できない、まるで土のマナが失われたような・・・?」


未だファウストさん自身も確信が得られていないのだろう、歯切れの悪い返事が返って来た。何にしても不確定要素が多すぎて答えを出すには至らない。

土の精霊王様の知恵を借りるのも有りだが、此処は救助クエストも終わっていない事だし、取り敢えず現場を詳しく調べてみよう。そして慌てて撤去に戻ろうとした所でメルクリオ団長から声が掛かった、その傍らにはレナータが控えており周囲は一気に静まり返る。


「一月以内に防壁作成の為にシュタールラントから職人と鉄が送られてくる。間に合う様、可能性の無い物を淘汰し、何よりも期日を優先する様にせよ」


シュタールラントに起きて居るやんごとなき事とは何かと理解できたが、私は其の言い回しに腑に落ちない物を感じていた。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます。此れを励ましに此れからも精一杯、書いてい行く所存ですので如何かこれからも宜しくお願いできたら幸いです。


*******************

次週も何事も無ければ5月3日の18時に更新となる予定です。

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