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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第20話 薙ぎ払う風の使い手ーエリン・ラスガレン(闇の森編

諸事情で更新が遅れてしまいました、申し訳ございません!

未だに頭が混乱し、不意を突かれ飲み込まれた渦に感覚を奪われている、薄っすらと目にする視界が狂い、体が回転し続けているような感覚に襲われている。

それでも抗う様に手を突けば、粗く削れた岩の様な感触が伝わって来た。体を半分起こし目を擦ると、草一つ生えない荒れ果てた峡谷が目の前に広がっている。


「何が導くよ・・・此処に何が在ると言うの?」


私を此処に送る直前のレックスの顔が追い浮かび、怒りがふつふつと沸き上がって来た。

突然の魔物の出現に立ち向かおうとしたところ、不意打ちの様に背後からの転移魔法。そして、彼の呼声に応える何か。十中八九、妖精なんだろうけど転移魔法が使える妖精って、希少だとケレブリエルさんが言っていた気がする。そう言えばフェリクスさんの契約妖精レガトゥスも時空の妖精だった気が・・・


「まさか・・・」


私が転移される際、フェリクスさんは近くに居たのにも拘らず、其れを阻止する訳でも無くただ傍観していた。まるで、起こる事を予め知っていたかのよう・・・

唐突に浮かんできた疑念に私は頭を振る、レックスは妖精の盾は妖精の王と女王の従者であり、妖精達を使役する事ができる。そうじゃないとは言えない。

止めておこう、此れは転移魔法で頭が掻き回されて混乱し、変な事を考えてしまっただけに過ぎない。


「それにしても、見渡す限り強風吹き荒れる岩山ばかりね・・・ん?」


良く見てみれば遠くに扉の様な物が見える。何処か知らない土地に転移させられたと思ったが、此れはもしかして精霊の間?それなら、何も転移の魔法なんて要らないんじゃない。

精霊石が在るか確認しようかと立ち上がったその時だった、右足首を何かが絡めり締め上げ後方へ引き寄せる。其れが何かだなんて考えている間は無い、私が座っていた足場は狭く複数ある岩場の一つに過ぎないからだ。残る左足で地面を思いっきり踏みしめ、剣を引き抜き様に其れを切り落とす。

解放され目にしたのは、まるで生き物の様に(うごめ)き伸びる複数の紫黒色の細長い物が地面を穿ち此方へと手を伸ばす。それは蛇や魔物の手足では無く植物の根だった。


「前門の謎の根っこに後門の峡谷ね・・・」


迫りくる根を切裂いていると、自分の前から伸びる根以外は私の横を擦り抜ける様に伸び、四方からある一点を目指している。それは陽の光りを求める虫の如く、些か鈍ってはいるが輝く緑の浮遊する巨石、精霊石を目指しているかのように思えた。

如何やら転移先は予想通りのようだ。人界と精霊界の狭間と言えるこの場に根を伸ばす事が出来る、世界の綻びからそびえるアノ不気味な樹の他ない。


「ははっ・・・成程、あの樹の状態からこうなると予測したうえでの転移だったのかな?」


幾ら根を伐っても伸びる勢いは衰えない。風の精霊王の加護(レヴィア)で飛び、外に仲間を呼びに行くとしても風の精霊石が絡めとられ破壊されるのが早いか如何か。寧ろ、部屋に戻れるかどうかも怪しい。

ならば根を切裂いた後、水の精霊王の加護(アイス・ウルヴス)で片っ端から地面を凍らせて根の侵入を防ぐしかない。空いた手で首飾りに手を伸ばそうとした、その時だった。


「えっ・・・嘘!」


地面から突き出す根が勢いで岩を砕き、地面が崩れ落ちる。落ちるのならば、次に取るべき手は此れしかない。


「吹き渡る風にて 精霊を・・・」


『・・・その必要は無いよ、オイラに任せて』


上空から聞き覚えのある声が響く、其れは正に今、呼び掛けた精霊王の声。実に頼もしい助け舟、しかし何処か覇気が無いような気がするのは気のせいだろうか?

そんな事を思い詠唱を止めた直後、浮遊感を感じ空中で静止したか思うと、旋風が徐々に拡大しながら競り上がって来る。思わず汗が頬を伝う、本能が危険だと頭の中で警鐘を鳴らす。


「な・・・何が任せてよー!」


旋風は私を巻き上げると同時に、根を切り裂き粉砕して行く。この先どうなるのか、解らないまま再び頭の中が渦巻いて行く。何か今回、受難ばかりでは無いかと言う思いを巡らせつつ、再び渦巻く歪んだ視界を閉じた。



****************



柔らかな風が草葉を揺らし、私の頬を撫でる。まるで、故郷の山を思い出させる風に起こされ、再び私は体を起こす。花と緑の鮮やかな色調で彩られ、その中央には世界樹とよく似た大樹が鎮座する。星の様な光の粒が風と共に収束し、その枝葉を神々しく輝かせていた。

目をよく凝らすと、光りの一つ一つは風の精霊であり、楽し気に微笑みながら舞踏曲に合わせ舞い踊るかの様な姿は実に優雅だ。

風が頬に触れる、すると祈るエルフやダークエルフの声が聞こえ、其の姿を脳裏に浮かび上がらせる。風が運ぶ命と(もたら)される恵み、時には自分達を運び大海原を旅する助力となる、様々な感謝と大切に思う気持ちが其処には満ちていた。


「この子達は彼等の思い・・・風の精霊王様への祈りその物なのね」


『その通り、精霊王(オイラ)達は眷族達から必要とされる事によって存在しているのさ』


目の前の樹は何時の間にやら、風の精霊王(シルフ)へと姿を変えていた。淡い萌黄色の髪に金色の美しい線が模様を描く大きな蝶の翅に悪戯が好きそうな好奇心に満ちた金の瞳は愛しそうに細められ、その指先で舞う精霊達を見つめる。


「ええ、祈る姿を見て胸が詰まる思いでした。しかし時は一刻も争います、風の精霊王様。精霊の間へ戻る事はできませんか?謎の樹の根に侵食されているんです」


眷族達の祈りで満ちて居る事に気を取られようと、己の身に危機が迫ってきている事ぐらい把握している筈だ。なのに妙なぐらい落ち着き払っているのが不思議でしょうがない。

そんな私の考えを察してか風の精霊王は腕を組み、空中で胡坐をかくと意味ありげに口角を上げた。


『無論、あの異界の植物である魔樹、魔の揺り籠の事は把握している。オイラがお前をこの精霊界の狭間に招いたのも邪神の化身と従者の力を借り、人界に現れた魔樹を伐り落とし、眷族達から捧げられる祈りを糧に風で此の地を満たし浄化する為だ。協力してくれるかい?』


色々と聞き捨てならない情報が耳に入ったけれど、此処が人界との境目だと言うのなら、その窓口である精霊石が破壊されればお終いだ。その問いかけの答えは何方にしろ一つしか無いじゃない。


「異界の植物・・・あれはやはり、ゼノスとカルメンの仕業だったんですね。事情は解りましたが、協力とは何をすれば?」


『そそっ!そう言う事でオイラを使役して欲しい。女神ウァルの力の一部、精霊王を使役させる力を行使する資格は十分にある。世界を巡り得た加護がその証さ』


「え・・・はぁっ?」


とてつもない事をあっけらかんと言う精霊王の言葉はあまりにも都合が良すぎて驚き、虚を突かれる思いがした。危機的な状況の今、何を如何するのか不明だけれども、それで現状を打開できるのなら有り難い。けれど、私は精霊の剣で、女神ウァルの従者で・・・・頭が軽く混乱した。


『・・・お前、信じられないって顔してるなー。女神様の直々の祝福(ブレッシング)を受けたんだから、女神の力を宿すなんて当然だろ?しかも生れ付きで、金の瞳となればお墨付きさ!納得したかい?』


私の中の疑問を見抜いたかのように、風の精霊王は大げさなぐらい身振り手振りで説明する。それなら、精霊の剣と言うより女神の剣なのでは?と過ったが、精霊王の力と共に剣で振るうと言うのなら間違ってはいないのかな。


「ええ・・・もうそれしか在りませんよね。やります!教えてください」


『ありがとう、お前の覚悟を確かに受け取った。お前がコチラ側へと近付く事を歓迎する。さあ、オイラに続いておくれ』


「コチラ側?歓迎?」そんな疑問が生まれては有耶無耶になる。安全に見えていた狭間の世界に地響きと共に暗雲が立ち込める。如何やら魔樹の根が精霊石の辺りまで到達したらしい。

そんな中、動揺する事も無く風の精霊王による祝詞が淀みなく唱えられ響き渡る。互いに向き合い、私は右手を、風の精霊王は左手を出し手を握りしめ瞳を閉じると、撫でる様に睫毛で風が遊ぶ。


『天を渡りし風よ 命を運び芽吹く風よ』


「天を渡りし風よ 命を運び芽吹く風よ」

 

『邪なる者を祓い滅する清き風よ』


「邪なる者を祓い滅する清き風よ」


 『「母なる空を渡る一陣となり 神力を賜りし御手に集い盟約を結びたまえ!」』


精霊界と人界を繋ぐ狭間より風が満ちる、阻む脅威を消し去る様に。地を緑が蓋う様に目覚めの息吹で大地を染め始めるのだった。



**********************



眼下は灰色のヴェールに覆われ、その下からは轟音と共に薄っすらと光が明滅し、戦いが繰り広げられている事を物語る。金色の鱗粉が視界の端から漂う、その主は現状を目の当たりにしても何処か楽し気に笑う。


『こうやって人界の空を制約も無く、飛ぶのは何時依頼だったかな?何時かは忘れたけど、以前に飛んだ時に比べればマシかな。やるじゃないか、妖精の従者はっ』


「非常にお楽しみのところ申し訳ないのですが、目的の物を見付ける前に魔樹から出る瘴気を祓いましょう。レックスは大丈夫だとしても、他の冒険者にはかなりの被害が在る筈ですし」


『いんや、その必要は無い様だぞ』


風の精霊王はのんびりと飛びながら、小さな欠伸をする。真の主からの声が天から届かず、邪なる者達の影響が色濃くなり、世界の綻びと言う精霊の力の衰退を意味する事象が現に起きて居る。

戸惑う私の前に光りの柱が立ち上がったかと思うと、その形は歪になったかと思うと光る旋風を作りだした途端、瘴気を祓いつつ共に四方に散り、突風となり此方に押し寄せて来る。よく見ると、それは仲良く手を取り合う風の妖精と光の妖精だった。


「違う属性同士の共闘、こんな事もできるのね」


『さっ、女神様の名代であるお前は此れに如何出る?穢れが抑えられた今、魔樹の魔核を砕く千載一遇の機会だぞ。其れが何処か当てる事が出来たのなら力添えをしても良いぞ』


風の精霊王は腕を組み、何故か得意顔で此方を見つめる。自分と盟約を結べば解決するとは言っていたけれど、私次第と言う事か。精霊の間へと伸びた根は全て祓われ、花も実も無く残るは幹と葉に枝のみ。

魔核は魔物では人間の様に魔力回路と言うよりは心臓に近い。

大切な物は普通、保護されている物だ、解り易いがやはり幹・・・


『決めたのか?』


「ええ、木を隠すなら森です!」


『まさか、あの森を魔樹ごと消すつもりか?』


風の精霊王は驚いた様子を見せるが、私を見つめる目は徐々に輝きを増す。


「見れば解ります!行きますよ!」


見つめ合い頷き合うと、私達は全ての魔樹へと手を伸ばし捉える。二人の腕の先で自身の魔力と風の精霊王の魔力が混ざり合うのを感じる。周囲の風が私達へと収束し、風を纏う髪や衣服が激しくはためく。


「『我は女神の名代にて 風の王との盟約の名の許に行使する 薙ぎ払え【嵐槍撃(ストームスフィア)】』」


複数の風の塊が荒ぶる槍となり全ての魔樹へと襲い掛かる、其れは樹皮を剥ぎ、そして空を覆い尽くす程に生い茂った葉を粉砕する。すると、次々と他が消滅する中、森の中央の空に赤黒い禍々しい球が浮かんだ。


『成程、アレが親株であり元凶か』


興味深げに眺める風の精霊王を横目に、その力で空を駆り、其の魔核に一閃を浴びせ掛ける。光りの魔力を帯びた剣により切り裂かれた魔核は、崩れる様に砕け霧散した。

其れを祝う様に空は徐々に晴れ、青空が顔を覗かせると、祭殿の方から優しい風と共に花の香りが漂って来た。

再び世界樹に花が咲き、半壊した王都や森に開いた世界の綻びが閉じ、其処から緑が萌え花が咲き王都を、此の地を彩る。まるで、其れは生まれ変わった美しい風の国の姿だった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます。

さて、解決へと至りましたが、軽く一悶着した後に仲間を求め次へ旅立つ事になる・・・予定です(多分)何処になるのやら・・・其れでは次回へ続きます!(今回の事のような事が無ければ、次回更新は4月12日18時予定になります

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