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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第18話 紫黒の天蓋ーエリン・ラスガレン(闇の森編

一難去ってまた一難とは正にこの事だと思う。

暗雲が立ち込める空には複数の紫黒色の柱が天を貫かんばかりに伸びている。緑生い茂る森に数本、そして王都の中心に一本。

それは染料で塗り固められた石柱では無い、王都と森の中にそびえる物も同様の物に見えるが、判別が難しい。王都の中の物の位置的にも、それらは世界の綻びから発生した異変なのは間違いない。

妖精達の犠牲が無に帰す程の異変、此れは何が起きて居ると言うのだろうか?


「チッ、さっきの魔族は何だ!致命傷を追わせる事は出来なかったが、地に落したからには色々と尋問できるかと思ったのに、姿形すら無くなっているとは」


ガラドミアさんは、地面に残った妙な血痕を眺め、苛立ったように地面を踏みつける。レックスはしゃがみ込み、其れを黙ったまま眺めると「ふむ・・・」と一言呟く。


「簡単な物だが、恐らくは転移魔法陣の類だろう。慌てていたのか随分と乱暴に描かれているな、線が乱れている。まあ、何にしてもあの傷では暫く、派手な動きは無いだろう」


「なんと・・・転移魔法陣か。時空に干渉すると言う危険が伴うが故に使用者が減り、絶えたとばかり思っていたが・・・」


レックスとガラドミアさんは、カルメンの残した痕跡について語りだす。

それにしても、カルメンに成り代わられている間にガラドミアさんは何処へ行っていたのだろう?

突然、颯爽と現れカルメンを撃退したが、先程までの出来事から半信半疑になってしまっている。


「お二人さん馬が合うみたいだが、世界の綻びの事を考えた方が良いんじゃないか?カルメン・・・あの魔族が親切に時間の猶予が無いと教えてくれたしさ」


フェリクスさんは半ば呆れ気味に空を指さす。二人はバツが悪そうに苦笑いを浮かべると、レックスは流用を阻止する為として魔法陣を靴で擦り消す。ガラドミアさんは腕を組むと、空を眺めて渋い顔を浮かべていた。

何にしても世界の綻びを塞ぐにはダークエルフを祈りの為に祭殿に招く必要が有る。其れにはエルフの権力者の協力が必要となる。確か、女王陛下はダークエルフを毛嫌いしていたのが心配の種だ。

その陛下に堂々と意見を言える関係の人物は、ガラドミアさんしか居ない。


「この柱の発生源である世界の綻びは崩壊に導く脅威です。無理を承知ですが、それを閉じる為にもエルフとダークエルフの協力が必要なんです、女王陛下への協力をお願いする事は出来ないでしょうか?」


私の勢いにガラドミアさんは目を丸くして驚きの表情を浮かべる。そこで何かに気付いたらしく、ほくそ笑む。


「実はな女王陛下(アイツ)が、攻め入ってきた勢力から謀ったのか、勅命で一気に攻め込むのも可能と見做し、ダークエルフへ降伏宣告を求める様に命じた。成功したのだが、現状でも我が国は十分に豊かな地で在るにも拘らず、何故いまさらあんな僻地の枯れた土地を求めるのか疑問だったが合点がいったよ」


此れでカルメンになり替われている間の疑問は解けた。勢力差から相手の規模を推測し、あの短期間で兵を送り反乱分子を鎮圧した。あまりの手際の良さには驚かされる。そうなると、今後の関係の修復がどうなるか不安だ。


「そんな、彼等の処遇はどうなるのでしょうか?まさか、処刑を・・・」


私の問いかけにガラドミアさんは露骨に何を言っているんだと言う顔をする。少し先走ってしまったか。

私は恥ずかしくなり俯き、思わず服の裾を握り絞める。すると、レックスが私の頭を軽く叩き、顔を上げる様に促してきた。


「早合点をするな、最後まで聞き理解してから口に出せ」


そうとだけ言うと、レックスは私から視線を外し、ガラドミアさんの方へと向ける。その隣で何故か、フェリクスさんが悔しそうにレックスを見ていた。


「いや、すまない言葉が足りなかったな。王都に攻め入り、世界樹に害を与えた事は許しがたいが、女王(アイツ)は奴等の命まで取るつもりは無いそうだ。勿論、贖罪は確りと済まして貰う。その上で、奴らに関係修復の機会を与えるそうだ。どうだ寛大すぎる位の処遇だ、悪くないだろ?」


機会と言う事は現状、過去の大戦の事も魔族との混血も易々と許せないと言う事だ。しかし逆に言えば、其れを乗り越える何かを満たせば、風の眷属しての関係を取り戻せる可能性が与えられると言う事になる。確かに寛大だけれど。


「・・・ええ、其れは良い提案ですね。何故、機会を与えてくださったのでしょう?」


「風が主な理由だな・・・。奴等は先の戦で一切、闇魔法を使用しなかった。自ら戒めを掛ける様にね、それは何故だと思う?」


唐突に投げかけられた疑問、答えはダークエルフ達と関わって来た中で何度も耳にしてきた悲願に対する思い。推測になるけれど、其れが風の精霊王に近しい場所での、変わらぬ信仰心の証だったのかも知れない。


「風の眷属としての信念・・・でしょうか」


「お、そんな所だ。それら含めた物を陛下へ経過報告の妖精で送った所、興に乗ったらしくてな、面白いから挽回の機会を与えてみようと提案と言う名の勅命を受けた。後は先ほど言った通りだな」


「ええ・・・」


ガラドミアさんの答えを聞いて、私とフェリクスさんは顔を合わせ思わず苦笑いを浮かべる。罵られた挙句、メルロスを理由に問答無用で軟禁されたのは興に乗らなかったから?

結局はガラドミアさんによって事実を知らされ城を抜け出した事によりゲビさんと再会し、ゼノスの企みを阻止できたので怪我の功名と言った所だけど何と気まぐれで厄介な王様なの・・・


「如何した?ちなみに降伏させた長を始めとしたダークエルフの移送は済んだ。部下達からお前達から進言を受けたと・・・」


その時だった、空から喋り声も風の騒めく音すら掻き消す何かが軋む様な音が周囲に響き渡る。一体何が起きた?困惑する私達の目の前でレックスが空を見上げる様に指をさす。

言い知れぬ不安を感じて空を見上げると、世界の綻びから突き出した紫黒色の柱から枝の様な物が伸び、エリン・ラスガレンの空を覆い尽くしていく。其れは植物らしく、大きく伸びた枝に同系色の葉が生い茂り始める。


「こんな植物は初めて見たな、まるで此の世の物とは思えないな代物だ。まさか、猶予が無いと奴が言っていたのは世界の綻びでは無く、此れの事だったりしてね」


空を見上げ苦笑いを浮かべるフェリクスさんの頬を一筋の汗が滴る。まさかと言いたい所だが、去り際のカルメンの様子と現状を見る限り、其れを否定する材料が無い。

此れが何を引き起こすのか解らない以上は此処で其の行く末をただ、立ち尽くし行く末を見ていても無意味だ。此の地の為にも動かなくては。


「遅い・・・祭殿に急ぐぞ」


レックスは私達に背を向け先導する。人を小馬鹿にしていた一匹狼は何時の間にか私達を仲間として扱い先導までしている。


「ああ、アイツは元からあー言う性格なんだから仕方がないさ。祭殿に行く必要が有りそうだし行こうか」


元から・・・?別に不満に思っていた訳ではないが、何故かフェリクスさんがレックスとの仲を取り持とうとしてきた。


「大丈夫ですよ、口が悪いのなら同じ村出身の橙色で慣れていますから。さっ、後を追いましょうか」



***********************



その後をガラドミアさんも含め三人で後を追う。不穏な空気が漂う街の中、気付けば祭殿へと歩みを進める人影は自然に増えていく。

王都に降り注ぐ温かな日差しは姿を消し、薄闇が辺りを支配する。漂う空気は何処か澱み、祭殿前に集まる人々の顔に不安の色が浮かぶ。人を避け歩いていると、必死に祈る者や空を指さしアレは何だと語る人達を多く見かけた。

種族別に整列した人々は互いに目を合わさず、微妙な雰囲気が漂わせている。長く築き上げられた溝は埋まるのは長い月日を必要とするだろう。

それでもこの場に留まるのは、偏に風の精霊王を心より求め崇拝する気持ちの強さの表れだと思う。


「うわ!何この空気、早く此処から抜け出したい!」


フェリクスさんはその空気に耐えられず、顔を青褪めさせながら声を挙げる。魔法騎士団の団長であるガラドミアさんの案内により築かれた簡易的な道は私達の存在を目立たせ、好奇の視線が集まっていた。


「何を如何見らられようと堂々と歩け。私達には一切の非が無いのだからな」


ガラドミアさんの檄が飛ぶ。些か不安が募る物の、空を貫く不気味な大樹も、エルフ達の祈りにより世界の綻びが閉じると同時に消失するのではないかと根拠は無いが考えている。希望的観測的なものだけど。


「風の巫女の怪我が大事ないと良いんだけど・・・」


祭殿の入り口に着き、その階段を登ろうとすると美しい衣装を纏った銀髪のエルフの女性が佇んでいるのが目に入った。そして、その横にはダークエルフの少女が同じような姿で傍に控えている。

ふと、銀髪のエルフの方が此方を見たかと思うと長い衣装の裾を摘み、此方に小走りで近づいて来た。

何事かと構えると、現れたのは風の巫女の衣装を身に着けた、ケレブリエルさんだった。


「やはり、アメリア!良かった、こんな所に連れ去られていたのね!」


「え、ええ、色々ありまして・・・」


再会の喜びを爆発させるケレブリエルさんだったが、後ろで気付いて貰えずにいるフェリクスさんに気付くと、眉根を寄せ怖気が走る様な目で睨む。


「えっ、え?何々、お兄さん何かした?」


困惑をするフェリクスさんを尻目に、ケレブリエルさんはフェリクスさんの襟首を掴むと引きずる様に連れて行く。


「此処では色々と憚れるわ、中でじっくり()()()しましょう」


その光景に私やガラドミアさんだけでは無く、レックスまで苦笑いを浮かべていた。成すがままのフェリクスさんを眺めつつ、此れで私達も祭殿の中へ入るしかないと思わず肩を竦める。

私が振り向き様に空を見上げると、空を覆う枝葉の合間で鈴生りに、蕾が不気味に風に吹かれ揺れていた。

続いて長文となりましたが、本日も当作品を最後まで読んで頂き真に有難うございます。

新たにブックマーク登録してくださった方にも、既にしてくださっている皆様にも感謝。

此れからも、精一杯頑張ります!


*******************


それでは皆さん、何事も無ければ次回は29日18時に更新の予定になります。

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