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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第六章 奔走ー真実と闇の祭殿を求めて
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第16話 どうして・・・!-エリン・ラスガレン(闇の森編

突然過ぎたのだろうか?ガラドミアさんの顔には困惑の色が浮かぶ。ガラドミアさんは腕を組み壁にもたれ掛ると、短く息を吐き眉根を寄せた。


「・・・良いだろう、しかし協力とは具体的に何をして欲しいんだ?」


「今、広場に出来ている瘴気の発生源について、皆さんにお話をする機会を私にください。以前、別の国で同様の物を封じ、解決した事があるので御力になれるかと思います」


何なのか解らなくとも、森で世界の綻び事態を調査していた彼女なら興味を持ってくれるはず。

説明を聞いてこの国が危機的状況に置かれている事を理解して貰えば、二種族で争うより協力し合う方が重要だと気付いて貰えるかもしれない。まあ、すんなりとはいかないだろうけど。

此れが、二種族が歩み寄る切っ掛けになるのではと淡い期待を抱きつつ、ガラドミアさんの返答を待つ。

彼女は視線を路地の先に在る光景を眺め目を細める。


「闇魔法の一種と部下から報告を受けたが、あんな物が此処以外にも発生しているとはな・・・。解った、御膳立てしよう。話しをするのは一人か?」


ガラドミアさんは私達の方に目をやると、メルロスを隠す様に立つ妖精の盾(フェーシルト)とフェリクスさんに目をやる。不味い、気付かれたか・・・?

そんな私の心情を察してか、フェリクスさんはガラドミアさんの前に立つと、眉尻を下げ苦笑いを浮かべつつ視線を自分へと逸らす。


「いやー、オレ達は妹が体調を崩してるから遠慮するよ。なっ!」


そう言うとフェリクスさんは妖精の盾の首に腕をかける。其れに対し仏頂面を浮かべていた妖精の盾は、フェリクスさんを無言のまま睨みつける。

焦り必死になるフェリクスさんを見て失笑すると、「ああ、そうだな」と短く呟いた。


「そうか、ならばこんな所で悪いが此処で待っていて貰うとしよう。えー・・・」


「あ、そう言えば勢いで事が進んでいて、名前をきちんと名乗っていませんでしたよね。私はアメリア、彼方はフェリクスさん、そしてメルと・・・」


今までそのまま妖精の盾と呼んでいたけれど、普通の人にそう紹介するのも変だよね。

私が視線を泳がすと、妖精の盾は呆れた様に目を細め黙り込むと気だるげに呟く。


「・・・レックスだ」


そんな私達を見てガラドミアさんは一瞬、怪訝そうに眉を(ひそ)めるが頷くと、自身の名前を妖精の盾に向かって名乗る。


「それでは、申し訳ないが暫しアメリアを借してもらうぞ」


そのままガラドミアさんに導かれるまま、複数の兵士に囲まれダークエルフ達が尋問を受ける広場に通される。その視線は共に歩く部外者の私へと注がれる。

世界の綻びの手前まで進んだ所で、兵士が驚いた様子で私達に歩み寄っきた。その兵士は私の顔をチラリと見た後、跪きガラドミアさんに不安気な様子で話し掛ける。


「ベンディクス団長、先程は陛下の勅命を受けて王都を出られたと聞きました、お早い御戻りですが何か遭ったのでしょうか?」


そう尋ねてきた兵士にガラドミアさんは目を丸くすると、周囲に視線を泳がせ浅く息を吐くと落ち着いた声で語りだす。


「此度のダークエルフによる進行を受け、森の護りの強化をとの命を請け成功た。問題なしと見做した為、一足早く帰還させて貰った。其処で今、他国にて其処の事象と同様の物を封じるのを見たと言う冒険者を証人として連れてきた。話を聞いてやってほしい!」


ガラドミアさんがそう言ったものの、兵士達の中には何処の馬の骨か解らないと野次を飛ばす者や、不信感からか戸惑う声が当然の様に溢れ出す。疑念の声が大きくなり、話を聞いて貰うどころじゃなくなった所で、流石のガラドミアさんの堪忍袋が切れた。


「鎮まれっ!」


その声が辺りに響くと同時に、耳が痛くなるほど騒がしかった声は嘘の様に静まり返る。そこに不満気な表情を浮かべている兵達の中から、一人の白魔術師が前へと歩み出た。


「そうです、鎮まりなさい!彼女は世界樹が危機に晒され、この国が危機を迎えた際にお救い頂いた方です。話を聞こうともせず、疑念ばかりを抱くとは如何言う事でしょう」


その場に凛とした女性の声が響く。白魔術師の女性は、スタスタと私達の前へ歩み寄り、背を向けると兵士達の前で頭巾を脱いだ。

絹糸の様な金の髪がふわりと風になびき、その顔を見た兵士達はざわめき、全員が彼女に跪き深々と頭を下げる。

この窮地を救ってくれたのは、この国の姫であり、白魔導士として風の祭殿に身を置いていたアイナノア・エリン・ラスガレン殿下だった。此れは本当に僥倖(ぎょうこう)だが、そもそも王族が前線の兵に混じっている事が驚きである。


「さあ、恐れ多くも殿下が設けてくれた席だ、無駄にするんじゃないぞ」


ガラドミアさんにそう言われ背を押されると、アイナノア殿下も挨拶もお礼も言う間もなく「さぁ、どうぞ」と促してくる。思わず息を飲む、きっと私達だけではこんな機会はやって来なかっただろう、私は前を向くと意を決して、世界の綻びに関する知り得る限りの情報と危機を乗り越える為の協力を兵士達へと願い出た。



*************************



王都にできた世界の綻びは結界が解除され、徐々に妖精達により修復されつつある。

この機を逃せばこの国どころか、此のままこの国を起点に(いず)れは世界すら邪な神の手に落ちかねない事や、其れを防ぐために各精霊王の眷属で一丸となり心を一つに祈らなければならないと伝えると、エルフもダークエルフも各々、顔を見合わせ複雑な表情を浮かべていた。


「アメリア、私も祭殿の教えで心を一つに祈りを捧げよと習ったが、()()我々で其れは可能なのか?」


ガラドリエルさんは眉根を寄せつつ、捕虜となったダークエルフ達を訝し気な目で見つめる。

その様子につられ、同様に彼等を見ると体の一部に魔族の・・・闇の眷属である魔族の象徴が現れていた。


「今の・・・?」


私の横でアイナノア殿下が意を決したように静かに頷く。二種族の合間にできた溝は、この状況下でも一つに慣れないほど根深い物なのだろうか?

ガラドミアさんは眉を顰めると、戸惑う私に向かい意を決したように喋り掛ける。


「祈りが必要なのは間違いないだろう。しかし此の地の、この国の為に捧ぐ祈りに他の眷属の血が混じるれば弊害があるのではないか?我々のみでは不可能なのだろうか?」


確かに純粋に求める気持ちが重要と聞いた。ダークエルフが今回の事を引き起こしたのも、風の祭殿へ風の精霊王との繋がりを願っての行動だ。風の精霊王を思い乞う気持ちは強いと言える。

捕らえられたダークエルフ達は行き来を禁じ、僻地に追い込んだエルフへの怒りを撒き散らし、再び空気は澱み始めた。


「聞きなさい、何も行動を起こす前に不安だと足踏みしては、成すべき事も成せず終わるだけ・・・両方の資格が有るのなら、重要なのは自身の中で何方かに重きを置くかですよね?アメリアさん」


そんな澱んだ空気を一掃したのは、アイナノア殿下だった。彼女は私を真っ直ぐ捉えると、期待に満ちた瞳で此方を見つめる。同時に周囲の視線まで集めてしまった。

成すべき事を成さずに終わるのは確かに納得できない。エルフ側の森に入った時点で世界の綻びは複数あると言われていた。メルロスが引き起こした風の精霊王が宿る世界樹への冒涜が及ぼす影響は王都のみに留まっているとは言えない。

ダークエルフの起こした事は決して許される事ではないが、その悲願の根幹に在る思いはエルフと同じ思いが在ると考えられる。


「勿論です、祈りに大切なのは強く乞い願い崇める気持ち。流れる血では無く、心の有り様だと思います。綻びを生む程に弱まったこの地にとって、二種族が思いを共にする事が大事です」


はっきりと告げた返事にアイナノア殿下は微笑み頷く。しかし、ガラドミアさんだけは何処かそっけない態度をとり短く「そうか・・・」とだけ呟く。やはり、ダークエルフと協力し合うと言う事に抵抗が有るのだろうか?

ともかく、双方に働き掛けるにも一方は顔すら合わせた事が無い、確実に働きかけるのは風の精霊王様の力を借りる他ないだろう。

賛否両論渦巻く中、報告も兼ねてフェリクスさん達の許へ戻ろうと裏路地へと歩くと、背後からガラドミアさんに引き留められた。


「この後、アメリア達は如何するつもりだ?何処かに行くと言うなら案内するぞ」


「風の祭殿へ向かおうと思います。しかし、今後の事で色々とお忙しいのでは?」


広場には兵士達が捕虜になったダークエルフの今後の処遇を話しあう姿や、世界の綻びを見張る者や其れを眺めながら相談しあう姿がみえる。其れをガラドミアさんは気に止める事無く話をつづけた。


「私も指揮をし纏める者として、世界の綻びと言う物を初めて見た、封じる為の精霊への祈りとは如何言う形式で行われるものか知りたい、同行させて貰えないだろうか?」


あれ?初めて・・・?


「え・・・?ええ、そう言う事なら構いませんけど」


「すまないな、助かったよ」


フェリクスさん達の許へ戻り、先程までの紆余曲折を語り終えると、軽く食事を済ませ荒れ果てた王都を進む。道中、雑談をする私達を他所にガラドミアさんは顔色一つ変えず無言で歩いていた。

その姿を見て、怪訝な表情を浮かべる者が一人。


「アイツを何故連れてきた?」


妖精の盾ことレックスはそう言ってきたので、説明し終えると再び口を噤む。確かに少し様子が可笑しい様な感じがする、心に其れを留めつつ私達は久々の風の祭殿の前に立った。

入口のアーチを潜り祭殿の中を進むと、巫女であるケレブリエルさんの母親が出迎えてくれた。


「あら、お久しぶりね。外であの・・・あら、魔法騎士団長さんがいるなら其方が優先ね、話は妖精を通じて窺っています、どうぞ此方へ」


何かを言いかけたようだが、ガラドミアさんの顔を見るなり表情を引き締め、祭殿の奥へと案内される。祭殿の間に辿り着くと、ケレブリエルさんの父である大祭司様の姿が見えた。


「やあ、君達か。再びこの国の危機に立ち会って貰う事になるとは想定外だったよ・・・」


大祭司様が話し終えようとした、その時だった・・・

ガラドミアさんは大祭司様を目視するなり、剣を引き抜き駆けだす。それに逸早く気づいた巫女であるケレブリエルさんの母親が道を塞ごうと飛び出し斬りつけられる。間に合わなかった・・・!


「きゃああああっ」


私は一言も発する間も無く石タイルの床を蹴り駆け出す、無言のままの剣を握り大祭司様に迫るガラドミアさんの前方へ飛び出し、剣を振り上げ相手の剣を受け止めると、耳を(つんざ)く様な重い金属音が部屋に響き渡る。


「どうして・・・!どうしてこんな事を!」


「・・・・・」


睨みあい互いに一歩も譲らず、剣が押し合い擦れ合う。ガラドミアさんの瞳はメルロスの様な光は灯ってはいないが、何かを思い起こさせる怖気が走る冷たい目をしていた。

今回は何時もより長くなりましたが、本日も最後まで当作品を読んで頂き真に有難うございます。


**********************


話は予期せぬ所で切れましたが、その真実は次のお楽しみと言う事で!

それでは、次回も何もなければ3月15日18時に更新予定です。

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