第 1話 忍び寄る変革
話しあった結果、故郷のカーライル王国を順路に組み込んだルートでライラさんが手配した船に揺られ、先ずは懐かしの故郷へと向かおうとしていた。ふと、それぞれの国々で起きた祭殿に纏わる事件を思い出す。
振り返ってみると疑問が幾つか浮かぶ、精霊王と言う六元素の王たる力があんなにも易々と揺らぐ物なのだろうか?ゼノス・・・邪神カーリマンが一部とはいえ、此方に干渉できるようになったのは恐らく、日は浅い筈だ。今更だけども、魔族や邪神と共に異界送りされたカルメンが現れたのも可笑しい。
異界と繋がる綻びが何処かに存在しているのだろうか?
「また、考え事かしら?」
「ケレブリエルさん・・・?」
「何時も一人になると考え込んでいて、周りが見えなくなるから船から落ちる前に船内に戻せですってよ?ダリルは意外と心配性ね」
ケレブリエルさんは隣に並ぶと、私と同じ様に船の手摺に両手を置き、微笑ましそうな表情を浮かべている。思い浮かべてみるが、イラッとする情景しか思い浮かばない。
「いやー・・・それは、揶揄っているだけですよ。ケレブリエルさんこそ、本当に伝言を伝えに来ただけですか?」
「あら、察しが良いわね。・・・・もう出て来て良いわよ?」
ケレブリエルさんは近くの積み荷に向かい声を掛けた。其れに応える様に木箱が揺れ、何かが此方にブオンと音をたて、風を切りながら一直線に飛んできた。腕の中に収まる程の大きさの其れは、確かな体温と艶々とした鱗の感触を私の手に伝えた。
「セ・・・セレス!????」
私の腕の中に収まる白竜、其れは彼の火の国の竜姫、セレスタイトだった。ここ数日を振り返る、確かシュタールラントを発つ当日、彼女は父であるディアーク陛下の腕に抱かれながら別れの挨拶をしていた。無論、其処からライラさんが手配した船に乗るまで何の問題は起きなかった。
出航の直前にライラさんから追加の商品を積む手伝いをさせられた時だって・・・・
「ま、まあ、そう言う事。私達がもう少し早く気が付いて居れば、妖精にお願いして迎えを寄越して貰うと言う手が有ったのだけど、まさか荷物に紛れているなんて想定外だわ」
ケレブリエルさんは顔を青褪めさせ、引きつった笑顔を私に向ける。此れは、確定と言って良さそうだ。
「ライラさんですね・・・。殿下、何故に此の様な危険な事を?ディアーク陛下がご心配されますよ!」
慌てて問い詰めるが、本人は青い瞳をパチパチと瞬かせ、不思議そうな顔をしながら首を傾げ此方を見つめ返してくるだけだ。
「ん?アメリア、喋り方が可笑しいよ?其れにボクはデンカじゃなくて、セレスだよー」
私は要領を得ない返事にケレブリエルさんと同時に頭を抱えてしまった。目線を再びセレスに戻すと、セレスは頬を膨らませ拗ねた様な表情を浮かべていた。
「そこじゃなくて・・・何故、この船に乗り込んだの?」
喋り方を戻し、セレスに笑顔で話しかけると今度は私の腕をすり抜け、何故かキリリとした表情を浮かべ胸を張る。益々、意図が読めない。
「めーめー誓約を結んだら離れちゃダメなの」
「え・・・私が死ぬまで続くとは聞いたけど」
私が困惑していると、横で其れを聞いていたケレブリエルさんが腑に落ちたと言う表情を浮かべ、呆れた様に溜息をついた。
「やけに懐いているかと思ったら、命名誓約ね。でも、命名主が成人まで傍に居て世話をする事が多いいと言うだけで強制力は無い筈よ」
その言葉にセレスは「うぅ・・・」と小さく呻き、気不味そうに目を逸らすと下を向き、体を小刻みに震わせ出した。ああ、此の分じゃディアーク陛下や周囲の人達にも知らせていないな。
ライラさんは一体何と交換条件で、逃亡に加担したのだろうか・・・?
「まぁ、取り敢えず。この先の中継地、フォンドールで皆で話しあおう。船上じゃ如何にもできないし、ライラさんにも相談させて貰わないと」
「そうね、多少は無理を言っても降ろして貰わないと。彼方に連絡をするにしても妖精の御駄賃が用意できないわ。着いたら買い出しと宿の手配が必要ね」
私達の会話を聞いて一緒に居ても良いと解釈したのか、セレスの顔がパッと明るくなる。まさか、こんな旅の始まりになるとは思いもしなかったと、山積する悩み事に思わず私の視線は空を仰いだ。
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ライラさんの客室へと、ケレブリエルさんと共に向かう事となった。取引の順路の関係で断られる事を覚悟しつつ、状況説明と事情を話す。
ライラさんは何枚かの書類をパラパラと捲り伏せると、鼻眼鏡を外し机の上に置き、肘をつきながら此方を見上げる。
「んまぁ、他の取引先の滞在日数を削れば都合を付けられますが。そんな急に如何かしたんですかぁ?困りますよぉー」
「ライラ、お船乗せてくれてありがとー」
私が無言でセレスをライラさんの前に突き出すと、セレスは笑顔でお礼を言う。そして、明らかにライラさんの血の気が引いて行くのが見て取れた。
「こ・・・此れはですねぇ。王族の命令ですし、如何してもって貴重な物を頂いちゃいましてぇ」
目線は泳ぎ、口はしどろもどろになるライラさん。これはもう、確定ね。
「王族からの命令と言えど、陛下や周囲の方の許しも知らせも無く連れて行くのは誘拐になるわ。此れが知れたら如何なるのかしらね?」
そんなライラさんに止めを刺したのはケレブリエルさんだった。見事に脅迫である。
「ふ・・二日ぐらいなら如何にかできますよぉ!」
こうしてセレスの為に商業自治区フォンドールへと寄る事を確約した私達は船に揺られる。
勿論、密航をしたセレスにも確りみっちりと、事の重大さを理解して貰う事にした。
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久々に訪れた海上都市は相も変わらず賑わいを見せ、多くの人々が行き交い賑わいを見せている。
ライラさんは下船する直前まで頬を膨らませ拗ねている様だったが、市場を見渡した後、同業者と話し込むと、荷下ろしを私達に押し付け何処かへと消えてしまった。
「それで、この荷物は商業ギルドの貸倉庫に持って行けばいいんだな?」
ファウストさんは土人形に荷物を担がせると、港近くの大きな倉庫街を指さす。その先には石造りの大きな建物が何棟か立っており、何だいもの馬車が並び、荷物の積み下ろしが忙しなく行われているの見える。
「はい、ヒッポグリフ達と荷物を預けたら、薬や細々した物の補充のついでに市場へ。シュタールラントへ連絡する為の魔結晶を手に入れたら後は宿を探しましょ」
私達は荷物を手押し車と土人形で荷物を運び、魔獣専用の厩舎に二頭のヒッポグリフ、アルスヴィズとスレイプニルを預けると早速、市場へと足を運んだ。
「確か、風属性の魔結晶でしたよね?切裂き蛇あたりが手頃でしょうか?」
ソフィアは辺りをキョロキョロと見回し呟いた。何故、風属性の魔結晶を探しているのかと言うと、ケレブリエルさん曰く、風の妖精等に大陸を越えた移動を要する依頼をする際は見合った対価として魔結晶を与えなければいけないらしいのだ。
「うん、その辺が良いかも」
「ごめんねぇ・・・」
呑気な様子から、すっかり反省状態のセレスは申し訳なさそうに、ソフィアの腕の中で翼で顔を覆う。
「チッ・・・面倒な事を起こしやがって。魔結晶なんて適当に買っちまおうぜ、何処でも一緒だろ?」
ダリルは面倒くさそうに舌打ちをすると、小石を蹴り飛ばす。
其れを見てフェリクスさんは呆れた様な表情を浮かべると、セレスの頭を優しく撫でた。
「小さな姫、父君達を心配させるのは良くは無いけれど。アメリアちゃん達と一緒に旅を続けられる可能性はゼロとは言い切れない、だから取り敢えずはお伺いをたててみよう。ね?」
「うん・・・頼んでみるっ!」
セレスはフェリクスさんの甘い言葉に素直に喜びの表情を浮かべた。実にフェリクスさんらしい励まし方だ。
「ったく、余計な事を・・・」
「元気づけるのは良いいが、其れが気休めだったら彼女が悲しむだけだぞ」
ダリルとファウストさんは怪訝そうな表情を浮かべフェリクスさんをジットリと見た。当の本人はいたって気にしていない様子で、一件の魔結晶専門店へふらりと吸い寄せられていく。
「取り敢えず、魔結晶を見せて貰いましょう・・・ん?」
残りの仲間達を呼び、市場に目を向けると数軒先に一際、賑わい活気づく店が目に入った。
あの店は何だろう?と首を傾げると、フェリクスさんが覗いている店の店主が声を掛けて来る。
「あそこはエリン・ラスガレンと言う国が生み出した、結晶獣って言うやつが売ってるのさ。物珍しさも相まって忽ち大繁盛だ。最近は精霊に対する気持ちまで薄まっちまったのか、船で祭殿参りをする客も減ってこちとら、ますます商売あがったりよ」
などと愚痴を零しつつも、フェリクスさんから欲しがっている物を聞いたのか、ちゃっかり風属性の魔結晶を此方に向けてチラつかせて来る。
「ありがとう、おじさんには情報貰っちゃったし、この魔結晶を買わせて貰うよ」
「まいど!今後とも御贔屓に!」
店主の気風うの良い声を聞きつつ代金を支払い、魔結晶を受け取った。しかし、その時だった・・・
「期待して来てみれば、雑魚ばかりではないか!息子の誕生日に相応しい、結晶獣は無いのか!!」
突然、罵声が市場に響く。話題の店の前で、良い仕立ての服を着た如何にもお金持ちと言った様子の親子が店主らしき人物へと喚き散らしている。
不気味な頭巾を被る店主は何度も其れを拒んでいる様子だったが、対には自棄になったのか、一つの召喚石を差し出す。親子は店主から耳打ちをされると、満足気に笑い胸を張りつつ、金貨を数枚受け渡す。魔結晶を手にした息子はニヤリと不気味な笑みを浮かべると、其れを地面へと向けた。だが・・・
「出でよ!化け物!な・・・何だ此れは!中級の魔物が出るなんて聞いていないぞ」
狼狽する主に反して召喚石は光ると、中から這い出る様に質量を増しながら其れは空に大きく翼を広げた。黒く艶々とした皮膚と翼、人の様な顔と頭からは角と嘴が生え、その手足からは鋭い刃物の様な鉤爪が伸びていた。
「ガーゴイル!?」
結晶獣は人型や上級の魔物の結晶獣化は禁止されているはず、何故・・・?!
「こ・・・こんなの知るかよ!父上~!」
脅えた息子は召喚石を投げ捨て、父親へと助けを求める。其れを見て父親は憤慨しつつも、息子を守る様にその場を立ち去った。先程までの賑わいが一斉に阿鼻叫喚へと変わる、逃げ惑う人々で市場は騒然とする。
ガーゴイル自身は空中に留まっていたが、次第に命令も受けていないのにも拘らず、人々を襲い始めるのだった。
「呆れた・・・召喚石を見つけ次第、破壊するしかないね!」
私は空と人混みを睨み、剣の柄に手を掛けた。
本日も当作品を読んで頂き真に感謝しております。
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久々に新章へと突入しました。今章からは特定の国での出来事と言うのではなく、船に乗り世界を廻りながら、闇の祭殿をさがしつつ世界の変化と真実を探求する章となると思います。
懐かしのキャラや新しい物や出会いも出てくるかと思います、如何なるかは私自身も現時点では何とも言えませんが、宜しければ今後も読んで頂けたら幸いです。




