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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第五章 炎と鋼の国「シュタールラント」
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第24話 加護と終結

焼け付くような空気の中、世界を構成する元素の王が対峙すると言う誰もが一生かかっても目にする事も無いであろう光景が広がっている。


「フン・・・随分と俺の事を買ってくれるようだな。穢れ(あんな物)に拘束されては顕現(けんげん)だけは不可能だ、余計な事にマナを消耗しては、其れこそ大事だろう?所でヤツは・・・」


火の精霊王(サラマンダー)は視線をゼノスへと向ける。其れでも臆する事も無く、ゼノスは火の精霊王の顔を見て鼻で笑うとつかつかと歩み寄る。


「そのマナを僕が有効活用してやろうか?我、常闇を駆る王 汝の内なるマナを捧げよ・・・」


穢れでは無く、ゼノスの口から呪文が(つむ)がれていく。このまま傍観するつもりは私には無い。

ゴツゴツとした地面を蹴り駆け出す私の横を、風をきり何かが横を駆け抜けて行くのを感じた。


「此奴には俺で十分だ!燃えろ!【炎龍掌低破】!」


ダリルの拳が一撃、更に一撃とゼノスの体に打ち込まれるにつれ、炎を(まと)う円状の衝撃波が起こり、ゼノスの体を焼きながら地面を何度も打ち付けては滑って行くと糸が切れた様に崩れ落ちた。


「え・・・?!」


余りにも呆気なく、不自然な出来事に当の本人であるダリルだけではなく全員が愕然としていた。



**********************************



「何者かが魔導書(グリモワール)を通じ、(ほころ)びから魔界へ繋ぐ手段を探し当てた様ですね。現人神(あらひとかみ)として此方へ降臨するつもりだったようですが、術者が未熟な為か不完全な物の様です。術者に何かあったのでしょう、異界との繋がりが切れて()()()()()()()と推測します」


光の精霊王(ウィル・オ・ウィスプ)がそう答えると火の精霊王は眉間に皺を寄せ静かに「ふむ・・・」と呟いた。仮初の姿であろうと話の通りなら、邪神が世界に干渉する手段を得たと言う事になる。

血の気が引くのを感じると共に一筋の汗が背を伝う、其れを執り行ったのは恐らくカルメンだ。


「・・・術者の見当はつく、愚かな眷属(けんぞく)の一人を惑わした毒婦だ。だが、騙されたとはいえ罪は変わらん、下手すれば世界が火の元素を失う一大事だ。それを容認できるほど俺は甘くは無い、殲滅(せんめつ)させてやる。ゼノス(そいつ)はお前達が如何にかしろ・・・」


初めこそ冷静であった火の精霊王の怒りは、種火から大火へと変じる様に徐々に勢いを増し、怖気さえ感じさせられる程の狂気を感じる物となっていた。許せない気持ちは解る、でも一蓮托生(いちれんたくしょう)は行き過ぎだ。


「ハァ・・・相変わらずですね、火の精霊王。()()()()()()()が其れを行い、後で一番苦しむのは貴方ですよ?」


光の精霊王は溜息をつくと、怒りが治まらない様子の火の精霊王を宥める様に苦言を射した後、私へ視線を向けて来た。僕達の様な存在、眷属を殲滅すると困る・・・あ!

私は以前に聞いた話を思い出した、精霊が存在する理由、それは人々の望み願う心であると。


「眷属が居なくなると言う事は、その存在を信じる者が消える事。世界の中でも、強く貴方を崇め望み願いを捧げているのは竜人(ドラゴニュート)達では無いのですか?」


以前、精霊は人々にその存在を求められ信じられるからこそ存在すると聞いた事が有る。世界の綻びが頻繁に発生し、火の妖精達を犠牲にしなくてはならない程に弱っているのなら尚更(なおさら)だ。


「彼女の言う通りでは無いですか?火の精霊王?」


光の精霊王の(たしな)める様な問いかけにも、火の精霊王は我関さずと言った様子で睨み返す。


「・・・物事にはけじめと言う物がある」


私には其れがプライドの影響から、引くに引けぬ状態にあるように見えた。

「この頑固者っ」と言う言葉を呑み込みつつ頭を抱えてしまった。

ふと、気が付くと、何時の間にかフェリクスさんが隣に立っていた。


「なぁに、心配ないさ・・・」


フェリクスさんの視線を追うと、灼熱の空間に似つかわしくない物が空から舞い降りてきた。



************************************



其れは光る鱗粉(りんぷん)を撒きながら、漂う様にに舞い降りる銀色の蝶。

蝶が緩やかな円を描き地上に降りると、其れは眩い光と共に人の姿へと化ける。暗い草色の外套がふわりと舞い、乾いた靴音が響く。とつじょ現れたその人物は、王城で私達をカルメンから逃がしてくれた妖精の盾だった。


「手負いの魔族を追って来たら、こんな場面に遭遇するとは・・・。我が(オベロン)女王(ティータニア)との誓約をお忘れか?世界の窮地に抗う盾として力を捧ぐのは、唯の世界への献身などでは無いとされている筈だが?」


妖精の盾(フェーシルト)か・・・」


私と妖精の盾の板挟みにあい、火の精霊王は複雑な表情を浮かべ黙り込む。あと一押しかな?


「確かに物事にけじめは必要です。では、贖罪(しょくざい)として竜人達にドワーフと共に火の祭殿へ復興の為の祈りを集めるよう誓約を結ばせるのは如何でしょうか?」


これなら、前提として戦を止めなくてはならないけれど、二種族の関係も回復するうえにこの国のマナも回復し安定もするはず。どうだ・・・!


「ふん・・・良いだろう。ただし、俺を他の連中と同様と思うな、今は力を貸すだけだ」


そう言うと、心底嫌そうな顔をしながら私を一睨みするが、その口元は僅かに上がっている様だった。



*****************************



危機を一つ脱した所でまだ問題は山積だ、成すべき事を優先して突き進むしかない。

私には戦争と言う物の経験した事の無い私達には想像すら難しい、多くの人々が争う場を想像し、少しだけ震える手を強く握り絞めた。ふと、もう一つの問題に目をやる、動かなくなっていると言う光の精霊王の言い回しが妙に引っ掛かっていた。


「急に動いたりして?」


「や・・・止めてくださいよぉ」


此の絶妙な緊張感の糸が張り詰める中、私とソフィアは肩を叩かれた。何事かと振り返るとケレブリエルさんが、ゼノスに向けて杖を構えていた。


「二人とも構えなさい!」


冗談でしょと言う言葉を飲み、視線を戻すと其処に在ったのは、(うごめ)く影姿だった。影は盛り上がり、其れは徐々に人の形を作り出す。

その光景に私は水の祭殿にて精霊の間へ魔族の女の侵入を許してしまった時を思い出す。カルメンだ・・

しかも、その影は妖精の盾の影から伸び、仮面から覗く口元を悔し気に歪ませた。


「皮肉な物だな、探していた物が自分の影の中に潜んでいる何てな」


「私も言えた口じゃないけど、今は目の前の事を考えて」


仮に光の精霊王の読み通りなら、カルメンが術者だ。カルメンが取らわれたと思わせれば、指揮をするクラウス宰相の戦意喪失が狙えるかもしれない。

私達の前には跪きながらも立ち上がろうとするカルメンだが、満身創痍(まんしんそうい)と言った様子だった。皆に合図をして囲むと、私が剣を抜くのを合図に駆け出す。


「残念だけど、此処で諦めるつもりは無いのよ」


そう言うとカルメンのみ意識していた事もあり、警戒心の緩さを思い知らされた。

力無く人形の様にカルメンに抱えられたゼノスが瞼を開いたかと思うと、本から視界を奪う程の瘴気で周囲が染め上げられる。完全に油断していた。

危険を感じ退散する私達の耳に冷笑(せせらわら)うゼノスとカルメンの声が響いた。



************************************



私とソフィアで瘴気を(はら)い終えた頃には、すっかり二人の姿は消えていた。妖精の盾は何時の間にやら姿を消しており、フェリクスさん曰く逃げた二人を探しに行ってしまったらしい。

茜指す空は野鳥の群が戦の巻き添えを避けるように、けたたましい鳴き声をあげ過ぎ去っていく。遠くから響く重低音が戦が未だに続いている事を示していた。


「おい、人間・・・アメリアだったな。お前に加護を与えてやっても良いと思っている、その前に一つ尋ねるがお前は、使命の・・・世界の為に自分を捧げられるか?」


火の精霊王は炎のように輝く金色の瞳で私を見つめてきた。「世界の為に自分を・・」其れがどの程度の物なのかは計り知れないが、私は自分の大切な人達と旅先で出会った日々と人々を思い、素直にこう答えた。


「私は出会った大切な人々と、此れから出会う人々が住むこの世界の為に此れからも何処へでも向かい奔走しようと思います」


火の精霊王は一瞬、困ったような表情を浮かべるが突然、笑いだした。何が面白いのだろうか?


「いや、すまない。そう取ると思わなかったからな。お前に降りかかる災厄を焼き掃う守りを、心に灯した火が絶えぬよう、この火の精霊王(サラマンダー)が加護を与えよう」


火の精霊王が手を私に向け手をかざすと、胴鎧を深紅の炎を包む。しかし、不思議な事に熱さは感じる事は無く、ぽっと心が熱くなるのを感じた。


「ありがとうございます・・・!」


「・・・・此れも精霊とその剣に結ばれる誓約の一つだ。礼を言う事は無いぞ。それと、内戦終結に一番の適役を呼んでおいた。しっかり、宰相(たぬき)を締め上げてこい。俺は失われたマナを安定させなくてはな」


「ああ!忘れていました、子竜を蝕んでいた穢れは祓っておきましたから、ご心配なくー」


火と光の精霊王に見守られ精霊の間へ出ると、すっかり元気になったディアーク陛下が壊れた天井から顔を覗かせていた。成程、確かに最適中の最適だわ。



**********************************



戦場は山岳地帯、魔弾の投擲と槍と斧などがぶつかり合う中に混じり、ファウストさんのゴーレムが押し寄せる竜人の兵士を薙ぎ倒しているのが目に留まった。負傷者がかなり出ている様だが、魔道具で捕縛されたり眠らされている者もいるようだ。

そこで指示を受け確りと(つか)まると、陛下は大きく深呼吸した後・・・両軍を分断する様に大きな火球を放った。両軍、慌てて蜘蛛の子を散らす様に逃げたが、やはり一人だけは違った。


「己、死にぞこないがあ!」


不敬罪など気にも留めず、正気とは思えない勢いで一直線に向かって来る穢れを纏うクラウス宰相だったが・・・


「えっくちゅん!」


私の肩に摑まっていたセレスが可愛らしいクシャミをしたかと思うと、白銀の炎がクシャミと共に噴出しクラウスを呑み込んだ。

私を通じてセレスに火の加護と光の加護の影響が有ったようだが、流石に消し炭になったかと思われたが、クラウス宰相は憑き物が取れたような顔で突き出した岩山にぶら下がっていた。


「一件落着で良いのかな?」


「まあ、アレは衛兵達に捕らえさせた後、()()()()話を聞かせて貰うつもりだ。書の件については私が収集を付けよう」


ディアーク陛下の声は明るかったがその分、内容の裏が脳裏に浮かび怖気が背中に走った。


薄闇に浮かぶ星空を眺める、火の国の夜。

二種族同士の争い、闇の巫女と現人神として返り咲ことを企てる邪神カーリマン。

幾つもの不穏と危険と恐怖を(はら)み、女神と邪神の争いは勢いを増す。

アメリアの未来の行方は、どう翻弄されて行くのか?其れは運命のみぞ知る。

本日も最後まで当作品を呼んで頂き、心より感謝しております。ブックマーク登録にも大感激です!


******************


次回は後日談か次章が思いつけばと、決めかねていますが頑張りますので、今後もよろしくお願いいたします。

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