表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第五章 炎と鋼の国「シュタールラント」
108/370

第23話 甦りし焔

私事により、更新時間を大幅に遅れてしまい大変申し訳ございませんでした。m(__)m

破壊され大きく開けられた天井から見える、日も陰りだした空を更に暗く染め上げるのは、数え切れない程の兵士達だった。つまり此れは開戦を意味する。あの街を見下ろす王の私室で交わされた約束は一足遅かったのだろうか。

轟く雄叫びと共に突風が押し寄せたかと思うと、目に飛び込んだのは翼を広げ不敵な笑みを浮かべる巨大な竜。


「・・・逃がすものか!」


私の声に竜の、クラウス宰相の大きな口が弧を描く。まるで全てが思惑のまま進んでいると言わんがばかりに、したり顔を浮かべ高く飛翔する。


「では、私は此の国が生まれ変わる瞬間を見届けさせて貰うとしよう」


空には戦を引き起こした張本人、目の前には精霊の間へ進むゼノスの背中。私達には二択が突きつけらている。しかし、今の高さならクラウス宰相の許へ飛び一撃を浴びせ掛けられる、策が無ければ戦況を鈍らせる事が出来るかもしれない。私は悟られぬよう呟く。


「風よ・・・」


「アメリアちゃん、君にしては珍しい判断だね。悪いけど、止めさせてもらうよ」


冷たく静かな声が響き、背後から抱え込む様に両手首を掴まれた。思いの外、腕や肩への拘束は強く、フェリクスさんの腕を逃れようともがけば、此方の動きを読まれてしまうだろう。


「どうして・・・」


私は奴が去って行くのを耳にし、悔しさが滲む顔を項垂れ隠した。


「チッ・・・・おい、こんな時に何やってんだ」


苛立つようなダリルの声が響く。


「何って?女の子の震える肩を優しく抱きしめてあげただけさ」


フェリクスさんの口調は普段通りに戻り、ダリルを揶揄う様に喋ると私を抱きしめ見せつける。


「・・・必要ありませんっ!」


「俺には嫌がっている様に見えるんだがな・・・変態さんよぉ」


「羨ましいのか?ん?ん?」


何時ものやり取りが始まると拘束は緩み、私はフェリクスさんの腕の中から逃れると、睨みあう二人の後頭部を掴み衝突させた。ゴチンと凄まじい音が響き、二人は一斉に頭を抱えてしゃがみ込むのだった。

そんな二人を私は眺め溜息をつく、策がなければ戦の被害も抑えられるとふんでいたけど諦めるしかない。


「・・・時間は有りませんし、行きましょう」


「ええ、ええ・・そうですね!ファウストさんとヘルガさんが知らせに行ってくれていますし・・・確信はできませんけど」


ソフィアはやや不安そうに空を見上げると、祈る様に胸の前で両手を合わせた。ケレブリエルさんもソフィアにつられる様に空を見上げるが、複雑そうな表情を浮かべた後、軽く溜息をつくと私達の肩を軽く叩き歩き出す。


「あんまり言いたくはないけど、ドワーフ族(あいつ等)は鍛冶だけじゃないわ、手先の器用さを活かした魔道具の制作も一流よ。つまり、自己防衛の為の備えぐらいしているってこと」


エルフの国(エリン・ラスガレン)でも見たが、エルフとドワーフは反りが合わないらしい。しかし、こうして相手の良い所を認めている所は腐れ縁の様な好敵手の様な関係なのかもしれない。


「オレはてっきりお前の事だから突撃すると思ったんだけどな。火の精霊の機嫌でも損ねたのか?」


「・・・うるっせぇ!黙ってろ!」


改めて冷静に考えればあの時、フェリクスさんに止めてもらって正解だと思う。

本で穢れを操り、あの冷酷なクラウス宰相まで(ひざまず)かせる存在、ゼノスの狙いは明白だ。必ず阻止しなければならない。頷き合う間もなく私達は精霊の間へと全力で駆け出した。



**************************************



入口に飛び込み目の前に広がっていたのは、視界を塞ぐ腐臭が鼻を突く白煙、肌を焼く様な熱風が襲い掛かって来た。顔を庇いつつ前進すると風が上空から吹き、突如として視界が大きく開ける。


「え・・・空?」


風を頼りに見上げると、周囲を囲む荒々しい岩壁は天に向け大きく口を開け、煙の合間からは茜色に染まる空が顔を覗かせていた。足元はボコボコと燃え滾り、沸き立つ溶岩の池の中に浮かぶ小島の様だった。


「何でこんな所に?精霊の間じゃないのか?」


ダリルの言う通り私達は祭殿の最奥、祭殿の間への入り口を潜り抜けた。全てを視認しきれてはいないが、目の前に広がるのは溶岩が煮え(たぎ)る火口そのもの。辺りを警戒していると、其処でコツンと床を突く杖の音が響く。


「いいえ、大分荒れてしまっている様だけれど此処が精霊の間で合っているわ。そもそも、精霊の間とは実体を持たない彼等の依代だもの。今までの所を思い出して気付かなかった?」


「そう言えば・・・」


只管、防衛に徹していて精霊の間へ入る事となったのは唯一、水の祭殿のみだったが、其々の国には精霊に(まつ)わる重要な場所が存在した。

思い返す限りでは風の国(エリン・ラスガレン)は世界樹、水と大地の国(ベアストマン帝国)の水の祭殿は地底湖、土の祭殿は本人が主と公言した事から恐らくは大図書館っと言った所だろうか?


「・・・其れでは尚更です。清浄なる場で在るのにも限らず、火の力よりも強いこの禍々しい気・・・穢れが強すぎる」


不安気に唇を震わせるソフィアの声に目を凝らすと、次第に晴れて行く(すす)交じりの煙の先には穢れが(つた)の様に絡み浸蝕する精霊石が浮かんでいるのが見えた。その前に(たたず)む小さな人影が見え、その姿は徐々に鮮明になって行く。


「何だついて来たのか、クラウスを追うのかと思ったのに」


灰白色(かいはくしょく)の髪の合間から覗く紫紺の瞳は(わずら)わしそうに歪む。しかし、ゼノスは私達に背を向ける。火の精霊石に絡みつく穢れは、ゼノスの手元の赤黒く光る本へと繋がっていた。


「穢れを生み出し精霊の力を奪う本・・・確か、この二種族の争いの切っ掛けになったのも本だよね」


断言はできないが、私の中では答えは出ていた、この本が「闇の魔導書(グリモワール)」だと。

其れが合っているのなら、ゼノスとは何者なのだろうか?


「切っ掛け?僕は自分の持ち物を返してもらっただけさ。竜人(ドラゴニュート)達が此処に(コレ)をしまっておいてくれたおかげで助かったよ。精霊石からたんまりマナを吸い上わせて貰ったしね」


竜人達への皮肉交じりの言葉は私の考えを肯定させるに十分だった。城に囚われた際にはっきりと、ドワーフが本を盗んだと疑い憤る声を聞いからだ。人の出入りが少ないであろう、精霊の間なら確かに隠し場所として最適と判断するのも可笑しくはない。つまり、竜人(かれら)にとっては裏切り者存在は想定外だったのだろう。


「・・・その本は返してもらうよ!」


本体とも呼べるこの場に精霊王が顕現する事も出来ずにいる状況はつまり、世界から“火”が消え失せようとしていると言う事だ。闇の精霊王が眠る事によって世界に(ほころ)びが徐々に広がっているのなら、その先に繋がる世界の命運は火を見るより明らかだ。しかし・・・


「ん?良いよ。僕の気が済んだらね」


「は?」


完全に遊ばれていると直感した。ゼノスは私達の様子を見ると不思議そうに首を(ひね)る。

息を吸い気持ちを落ち着かせる、挑発に乗るつもりはない。

ゼノスに時間稼ぎをさせる訳には行かない。精霊石と本を繋ぐ穢れを断ち斬り、火の精霊王様(サラマンダー)(くさび)から解放しなくては。

詠唱を小声で唱え、レヴィアで私は宙に舞う。いちかばちかだが、今から振り下ろす一撃に賭けた。


「偉大なる精霊にて光の王 我が剣に宿りて 不浄なる者に安らかな眠りを ウィル・オ・ウィスプ!」


一際、(まばゆ)い光が剣の形を変え、禍々しい瘴気を纏う黒い粘物質は融ける様に裂けては消えて行く。着地後、何の反撃も妨害も受けずに済んだと言う事に安堵したその時だった。


「成程、仲間が気を引いている内に騙し討ちか。それなら、僕からも意趣返ししないとね・・・」


ゼノスが静かにそう呟くと、精霊石に絡みつく穢れが無数の腕の様に私へと伸びてくる。斬っては伸び絡みつく其れを逃れようと剣を振るい続けるが、途切れる事の無い悪夢は続く。


「此の・・位で・・・引くつもりは無いわ!」


溢れる濃い瘴気に体が(むしば)まれる、最初は好奇心と使命感に燃えて旅立った。でも今は違う・・・私は。


「そうだね、君は精霊達を(まと)め、世界の崩壊を望む者達を斬り裂く一振りの剣なのだから」


何処からともなく聞こえてくる声と共に辺りが一瞬で白光に包まれる。体が軽くなると同時に、瞼を開けたその前に立つ誰かを忘れる筈もない。白の法衣に白銀の髪の精霊が私とゼノスの間に立ちはだかっていた。


光の精霊王(ウィル・オ・ウィスプ)・・・!」


世界が私を選び、精霊王達を遣わせると聞いたけれど、何たる僥倖(ぎょうこう)なんだろう。絶える事なく襲い掛かって来た穢れは全て霧散する。


「貴様・・・精霊如きが僕の邪魔をするな」


ゼノスはふらふらと立ち上がると、光の精霊王を睨みつけると、再び穢れを本から瘴気と共に生み出す。

其れを光の精霊王は呆れた様に溜息をつき頭を抱え、(しば)し考え込むような仕草をするとゆっくりと口を開いた。


(かつ)ての兄妹神で在ろうと、堕落した身の貴方に平伏すほど我が主はおちてはいない。ましてや、己の魔力を通じ仮初の体を得ようと、此の世界に邪神が返り咲く場は無い」


精霊王の主である女神ウァルの兄妹神・・・。其れは邪神カーリマンを示す。周りを見ますと私だけでは無く、皆が驚愕の表情を浮かべ言葉を失っている様だった。


「言うね、今の力でも精霊王の力を得た小娘如きにやられる気がしないんだけどな」


ゼノスは見下す様に口角を歪めると、火の精霊石に穢れを放つ。再び穢れが精霊石を覆うと思われた次の瞬間だった、精霊石が紅蓮の炎に包まれたかと思うと、精霊石を隠す様に溶岩が波となり押し寄せては引く。其処から現れたのは、背の高い筋肉質の男性だった。

体中に彫られた刺青、そして烈火の如く燃える髪に金色の瞳は精霊を意味する。つまり・・・


「遅れて悪いな、光の精霊王。マナを奪われ続けたのが思いの外、堪えた様だ」


「悪いじゃありません、貴方ならもっと早く出れた筈ですよ。火の精霊王(サラマンダー)・・・」


二人の精霊王と邪神の仮初の姿と呼ばれるゼノス、勃発した内戦と未来の歯車はどの様に回って行くのだろうか。

本日も当作品を読んで頂き真にありがとうございます。


* 長くなりましたが、今章も次回辺りで最後を迎える予定になっています。

今後は今回の様の事が無いよう精進致しますので、宜しければ今後も読んで頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ