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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第五章 炎と鋼の国「シュタールラント」
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第18話 火竜の王

付近から交戦する音が耳に届く。苦戦しているタイミングで、あまりにも都合よく現れた二人、まるで見計らっていた様だと私は思った。やはり彼らを助けに戻るべきかと握り絞めた拳がピタリと止まる。何時も妖精の盾は精霊に関わる時のみ姿を現していた、仲間とはいい難い彼らが自分達を助けに現れた理由が解らない。成すべき事とは戦を止める事じゃなく他の意味が含まれて居るのだろうか?

そんな熟考する私に苛立ったのか、誰かが目の前にでると扉を叩く音が何度も響き、急激に思考が止められた。


「・・・え?!」


セレスが扉を打楽器の如く叩く姿と、其れを青褪め必死に抑えようとするヘルガの姿が映った。


「部屋に入る前はトントンすればいいんだよねっ」


この無垢な心を持つが故の悪意の無い行為は、見ている物を凍り付かせるものが在る。


「ひぇ・・・・やめてえぇぇ」


流石に此れはヘルガに同情の念を禁じ得ない。しかし慌ててセレスを止めるも時すでに遅し、低く威圧する様な唸り声が鼓膜を通り頭蓋骨を震わせる。


「誰だ・・・」


苛立つ様ちつつも絞り出す様な声は徐々に弱々しく細くなる。その声に一人の人物が思い浮かぶ、竜人(ドラゴニュート)の長にて、シュタールラントの君主、ディアーク国王陛下だ。


「この度は突然、お伺いさせて頂き申し訳ございません。アメリア・クロックウェルと申します。火の祭殿、エヴァルト大祭司様より親書を賜り届けに参りました」


我が仔を奪い去った罪人の名を聞いて、どう反応し動くのだろうか?警戒しつつ反応を待つと意外な事に返って来たのは、怒りの声や罵声を飛ばす事は無く、暫しの沈黙の後に入室を許する声があがった。



**********************************



金属のノブに手をかける、カチャリと小気味よい音と蝶番が軋む音が合わさると、重厚な造りの扉の隙間から熱を帯びた空気が漏れて出る。其処で目にしたのは愛しい人の幻想に囚われた王の姿では無く、大きな広々とした部屋は破壊された家具や装飾品に床がほぼ占領される中、寝そべり佇む紅き竜の姿だった。


「驚いたか?殺されては構わぬと見せ掛け、騙し討ちのつもりだったのなら。生憎、其の算段は外れだ・・・」


全てを見透かしていると言わんばかりの表情を湛え、頭を上げると私達を見据える。人型時と変わらぬ瑠璃色の瞳は曇り弱々しく感じられた。其れでも、地鳴りの様な唸り声と漂わせる空気は仇名す者を寄せ付けまいと覇気を放つ。しかし何故、竜の姿を取るのだろうか?


「いえ・・・親書をお届けに伺いました」


押し寄せる威圧感に私の手が戦慄(わなな)く、緊張が口内の水分を奪い、其れを潤す様にゴクリ・・・と唾を飲む。その横を臆する事無く進む靴音が響いた。


「確か、古より各地を治める王は守護する精霊の王と誓約を結び、精霊の加護の根源たる人々の祈りを纏める役割が有るでしたよね?火の源たる火山に力を保っているのは貴方の力添えあってではないのですか?ディアーク陛下・・・」


ケレブリエルさんはディアーク陛下を見上げ、真っすぐとその双眸(そうぼう)を向ける。各国の王と精霊王の誓約、初めて耳にした話に私は驚愕した。つまり、自身と火の繋がりをもって、この国の火の象徴たる火山の現状を保持していたのだろうか?人化は魔法によるものだ、事実なら人型を取れないと言う事は其れに必要な魔力すら枯渇しかけいると言う事なのだろう。

ディアーク陛下は一瞬、動きを止めるものの、其れを鼻で笑い、熱気を帯びた息が私達の足元にかかる。


「ふ・・・何を言うかと思えばくだらぬ。国民の不安を取り除くも王族の務め、当然の事だ。鼻持ちならぬ、エヴァルト大祭司(あやつ)の事だ、現状を把握し、お前達を遣わせたのだろうな。・・・大人しく帰るがよい」


ディアーク陛下は私達へと顔を向けると、(あぎと)を大きく開いた。喉の奥で火が渦巻き火球が生まれ放たれようとしている。問答無用か・・・!


「どうやら、痛い所を付いた様ね・・・。一端、引きましょう」


ケレブリエルさんは杖を構えると、風を起こし扉を強引に開く。

しかし、自らの魔力の供給による維持には限界はあり、国民の安寧の日々は何時かは潰える事になる。

根本的な正体に辿り着けない事に腑に落ちずいた。


「アメリアちゃん!」


「アメリア、退避しましょう!」


「アメリア、消し炭になっちまうぞ!」


皆の私への警告の声が響く、その声と本能が逃げる様にと心を駆り立てる。しかしきっと此処で引いたら、こうやって顔も言葉も交わす機会は訪れないような気がした。炎は他者を寄せ付けまいとする感情の昂りを表す様に燃え上がり渦巻き襲い来る。


「世界が私を選んだと言うのが真実なら、私に力を貸して【ウンディーネ】!」


危機が訪れた時、水の精霊王様(ウンディーネ)土の精霊王様(ノーム)が言っていた言葉を私は思いだした。その危機と見做される基準は明瞭ではないが、根拠のない自信に賭けてみた。

“応えましょう”と鈴の音の様な女性の声が頭に響く。宙に小さな水球が浮かび、勢いよく収束したかと思うと弾け、大きな半円状の水の盾となる。


「・・・っ!」


吐き出された炎を水が受け止め、白い蒸気が辺りを染める。目の端に水の精霊王様の姿が映った。来てくれた・・・!と安堵しかけたのも束の間、炎は退避する仲間達を追跡するように襲いくる。其処で急に背後から何かが肩に衝突するのを感じると、聞き覚えがある声が耳に響いた。


「ボクにも手伝わせて!!」


「え、セレス?!」


手伝うとはどういう事なのか。聞こうとした瞬間に体に魔力が流れ込んだ、そんな気がした。なるほど、魔法は使用できなくとも供給はできると言う事ね。これも同じ性質を持つ者の利点だろうか?


「一つで駄目なら、二つでってね!お願い、水の精霊王様(ウンディーネ)!」


私は空いている片方の手を仲間達へ向かう炎へとむける、流石に完全にとは言えないが、直撃を免れる事は出来たらしい。


「ありがとうございます、助かりました」


私がお礼を述べると、水の精霊王様は微笑み、紺碧色の髪の下の金色の瞳を細める。


『随分と性急な呼び出しですのね。今回は良いとして忠告させて頂きますわ、(わたくし)達を顕現させるのは問題は有りませんが、貴方からの呼び出しには相応の対価が必要でしてよ』


「あ・・・」


体から一気に力が抜ける喪失感、眩暈に襲われ足元がふらついた。心臓が早鐘の様に打つ、其れは時間の経過と共に治まり、平静を取り戻した。


『まあ・・一度に大量の魔力を使用した弊害ですわ』


「つまりは、貴女がたを呼び出すのは基本、()()()()()と言う事だな」


ファウストさんは初めて見る為か、見惚れる様に水の精霊王様の姿を眺める。しかし、先程からやけに静かだ。まさかと嫌な予感を胸の奥にしまうと、蒸気と煙で白む眼前に目を凝らすと、疲弊し床に身を伏せたディアーク陛下の姿が其処に在った。そんな状態だが、瞳のみを動かし此方を直視すると、驚愕の表情を浮かべ釘つけになっていた。


「水の・・・精霊王?いったい、何者なんだ?」


ディアーク陛下の口から絞り出す様に困惑の声が零れる。身に宿す精霊より遥か成る天上に座する畏怖すべき存在と言葉を交わしているからかもしれない。


「アメリアちゃん、説得の切り口を見付ける事ができたけど如何出る?」


フェリクスさんは私に近付くと小声で囁く。其処で私達を剥がす様にダリルの手が伸び、私を余所に二人の間に火花が散った。


「どーせ、引くつもりは無いんだろ?」


ダリルはニヤリと口角を上げ、白い歯をのぞかせる。私は其れに勿論言う意味の笑顔を浮かべ、頷くとディアーク陛下へと向き合う。


「私はこの通り、精霊の加護を与えられた剣であり、唯の冒険者ですよ」


私のその言葉にディアーク陛下は低く不気味な笑い声をあげ、割れた窓の外を見やる。


「くくく・・・エヴァルトめ小癪な。絶望するのは早計と言いたいのか。おい!娘、親書とやらを読め」


竜の大きな指と詰めでは読み辛いのだろう。私はディアーク陛下に化けていたカルメンが机に置いたのを確認し親書をとっておいた。警戒しつつ皆と近付き、ゆっくりとエヴァルト大祭司の親書を私は読み上げた。



*************************************



私の声に聞き入ったディアーク陛下は「ふむ・・」と短く息を漏らす。私の肩ほどで浮遊し、心配そうな表情をするセレスに顔向けると、ディアーク陛下は何故か悲しげな表情を浮かべ溜息を洩らした。


「そうか、やはりお前がそうだったんだな・・・承知した。我が国民の為に、伴侶と子の為にも立ち上がろう。後、お前の助力で火の精霊王の祝福を与えられる事が可能なのだな?」


「信じて頂けるのですか?」


実は親書を読むついでに、セレスの問題を解決する為の打開策を話していた。まさか、食いついて貰えるとは思わなかったけどね。しかし、其処で短く嘲笑されてしまった。


「其れは早計と言う物だ、愚か者め。其れを証明してみせよ、さすれば信用しても構わん・・・」


何にしても戦を止める手段は確保できた。ただ兵士に囲まれる中、暴虐の限りを尽くした宰相が姿を見せず、音沙汰が無いのも不気味だ。カルメンと何かを画策しているのだろうか?

その時だった・・・

突き上げる様な地鳴りがビリビリと空気を伝い、音は鼓膜を震わせ、足に妙な浮遊感を与える。窓の外から漂う煙の臭い、そして外を眺める私が目にしたのは・・・


「何で・・・?!」


この国の誰もが信仰心を寄せる神聖な場所、火の祭殿が黒煙を上げる姿だった。

今回も最後まで問う作品を読んでいただき誠にありがとうございました。

では、今章も残り少なくなりましたが、ぐだらない様に精進していきたいと思います。


*****************


戦を治める協力を取り付け、安堵したアメリア達に、突きつけられた事実。

異変の要因は未だに掴めずにいる。

肝心の火の精霊王が姿を現さず黙す中、何が待ち構えているのだろうか?。

次回へ続きます。


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