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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第五章 炎と鋼の国「シュタールラント」
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第16話 邂逅

順風満帆・・・否、違和感すら感じる程に意図も容易く侵入出来た事の代償は予想外の再会だった。

部屋に刺し込む陽光が、風になびく深紅の髪を鮮やかに映し出す。長い髪の合間から其れと対照的な青が覗く。其れはまるで光が届かない湖底の様な怖気すら感じる暗い瞳だった。


「・・・ディアーク陛下。知らなかったとはいえ、突然の無礼を如何かお許しください」


ヘルガは私を押しのけ、此方への視界を塞ぐように前へ出ると、(うやうや)しく頭をたれる。その表情は硬く、その肩は小刻みに震えていた。なるほど、此れは唯の緊張とは違いそうね。

顔を合わせたのは一時、顔も名前も憶えられてはいないだろう。しかし、ヘルガ程ではないが身分や立場も然り、威圧感のある容貌や醸し出す空気に畏怖の念を抱いてしまう。助けると豪語したが、あの宰相から実権を取り戻すのは厄介だと思われる。


「ルイーゼ!」


ディアーク陛下の薄暗い瞳が突如として爛々と輝き、歓喜入り混じる様な甘さを含んだ声でヘルガをルイーゼと呼ぶ。その腕はヘルガを包み込むと、握られていたセレスは床に落とされ痛みで小さく悲鳴を上げた。

ルイーゼ・・・確かお姉さんだったかな?ディアーク陛下にはヘルガがルイーゼさんに見えているらしい。エヴァルト大祭司が仰る通り、心を病んでいると言う話は紛れもない事実のようだ。


「陛下!わ、わたしはヘルガです!姉では・・・」


ヘルガの抵抗空しく、熱い抱擁を振りほどこうと必死にもがくが腕は緩む事は無い。ヘルガが脅えていた理由は判明したが、私は如何動くか思わず首を捻る。助けようにも、下手に動くと仲間全員を危険に晒しかねない。


「此れはお話を聞いて頂くのは難しそうですね・・・」


ソフィアは私の横から室内を覗くと、難しい顔をして首を捻る。ただ、此処で足踏みをしている訳には行かない。


「いっその事、現状を利用してヘルガに一役かって貰うと言うのも有りか?」


「そう・・・ね、実行するにしても、先ずは彼女に其の案を如何伝えるかよね?」


ファウストさんとケレブリエルさんは、うーんと唸ると眉根を寄せる。

「おいっ」と言う呼声に振り返れば、ダリルが顎をクイッと動かし室内を覘くよう促してくる。見ると如何にか腕から解放され、ヘルガがぐったりとした様子でソファに座らされているのが見えた。


「寧ろ此方は親書を預っている訳だし堂々とヘルガの見張り役・・・いえ、護衛として入りましょう」


本当ならヘルガにファウストさんの言う通り、ルイーゼさんを演じて貰うのが一番なのだけど、この状況では不可能だ。しかし、慎重に策を練ってとはいかない・・・


「んで、アメリアちゃん。これ、勝算ある?」


フェリクスさんの問いかけに思わず心臓が縮み上がる。フェリクスさんの方は私の反応を見ると、人を試す様に意地の悪い表情を浮かべていた。


「そんなの・・・何とかするしかありませんよっ」


思わず出してしまった大きめの声に私は自分の口を塞ぐ。嫌な汗が背を伝うが、此処で動揺しては元も子もない。


「アメリア?!」


聞き覚えのある可愛らしい声が嬉しそうに私を呼ぶのが聞こえた。想定外とはまさにこの事である。

おまけに、パタパタと言う羽音まで近づいてくる。

立ち上がりノックをしようと扉に手を伸ばすが、直前に扉の隙間から何かが勢いよく飛び出した。礼服の下の胸当てが衝撃でゴンと鈍い金属音をたて衝突し、其の弾みで其れは床へと落下する。私に寸前で抱き留められた本人は私の顔を見て瑠璃色の瞳を宝石のように輝かせた。


「セレス!」


しかし、感動の再会は(まま)ならない。大きな影が迫るにつれてジワリと冷や汗が垂れ、歓喜する気持ちを押しつぶしていく。そうだ、誰だって此れだけ騒げば気付かない訳が無い。ディアーク陛下の瞳は怒りと紫の光を湛え、その紅い髪は心情を表す炎の様に見えた。


「・・・何者だ答えろ!」


精神を病んでいると言うのを帳消しにする程の覇気。その獰猛な牙で喰らい尽くさんばかりの殺気を放ち、鋭く光る剣の切っ先で私の喉元を捉える。


「あ・・・」


思わず息を飲みセレスを横目で見た後、目前の人物に視線を戻す。此れは救出や話し合いどころじゃない。如何切り抜けるか、混乱する頭で考えていたその時だった。ゴンッと鈍い音が響き、ディアーク陛下は短く呻き床に伏せる。その背後には金属でできた胸像を抱えたヘルガの姿が在った。


「大丈夫、竜人(わたしたち)の丈夫さを知らない訳じゃないでしょ。此れで貸は無しだからね」


油断をしていたのだろうか?後頭部を見ると確かに血の一滴どころか傷跡すら見受けられない。何故か祖父の、「どんなに頑丈な奴でも中身は無防備だ」と言う言葉が頭に過った。其れでも・・・


「貸しって・・・アンタねぇ」


絶体絶命の危機を救ってくれたのは感謝するが、傍から見れば複数の不審人物に意識を失い倒れる国王。何処から見ても、その先は処刑台まで待った無しだ。



***********************************



その後、私達は倒れたディアーク陛下の体をセレスの部屋へ寝かす事にした。

私は額を流れる汗を拭い、壁にもたれ掛ると、ベッドに身を沈める人物の瞼が未だに開かない事に安堵した。


「入口は僕の土人形(ゴーレム)に立って貰っているから安心して欲しい」


扉の前にはファウストさんの造った土人形が、陣取っているのが見える。その傍らには部屋の装飾に置かれていた植物が根を剥き出しにし、陶器の植木鉢と共に転がっていた。

私達はベッドから離れると、用心の為に盗聴防止の魔道具を置き、其れを囲む様に円陣を組み話しあった。


「ヘルガ、良いわね?」


「解ってるわよ・・・アレで貸は終わりじゃないんでしょ?姉さんとは何年も会っていないから演じられる自信は無いわよ。こんな事になったのは・・・・何でも無い」


ヘルガは髪を人差し指でクルクルと遊ばせると不貞腐れ、ソファの上で膝を抱えだした。


「其れでも構わないわ。身の危険を感じたら全力で逃げるのよ」


「って、助けなさいよ!薄情ね!」


ヘルガは私の言葉に慌てて顔を起こすと、キッと睨みつけてた。


「アンタが言うのそれ・・・」


ヘルガに呆れつつ話は本題へ。交渉の窓口はできたが、其れからが問題だ。戦を止めるにはディアーク陛下に兵を集め宰相の命を取り消して貰わなければならない。期限は最低でも竜人領を出る直前。できれば其れ以前に撤退させなくてはならない。


「しっかし、噂通りの様だけど、アレは本当に心の病なのかね?精神が弱っている人間と言う感じじゃない気がするんだよね」


フェリクスさんは腕を前で組み、壁にもたれ掛かると、何かを思い出す様に視線を右上へ動かす。


「もしかしたら、何かが憑依してるか成済ましだったり・・・なんてな!」


ダリルは屍人の動作を真似する様な仕草をし、ニヤニヤと私達を見る。


「もう、ふざけないのっ」


「それなら、あたしにお任せください。浄化魔法は得意ですからっ!」


ソフィアは自信満々と言った様子で胸を張る。違う、そうじゃない。



********************************



「ふむ・・・直ぐにでも兵の前へ向かい、勅令を下そう」


狂気に満ちたあの姿は何処へやら、ヘルガの迫真の演技により、すんなりと親書を読んで貰う事に成功した。其処からは順調に事は進む、異様な程に。喜ばしい事で有るが、何か腑に落ちないような妙な感覚が残る。

私は此れで良いのかと言う揺らぎを若干持ちつつ、兵の招集を命じたディアーク陛下とヘルガの後ろを歩き、仲間達と共に前室で待機すると、バルコニーに立つディアーク陛下を見送る。


「姿を見せず心配を掛けたが、案ずる事は無い。此れは私からの勅令だ、我等を謀り反旗を翻した愚かな種族へ、その意味を解らせようじゃないか!開戦だ!」


その衝撃な言葉に思わず、私達は言葉を失う。戦争を止める為の親書じゃないの?エヴァルト大祭司に騙されてしまったのだろうか?

愕然とする私達の前にディアーク陛下が踵を返し戻って来る。私達の顔を見るなり不敵な笑みを浮かべたかと思うと、その影から紫の煙が立ち込め、ディアーク陛下を包み込む。そして、私達の背後からはクラウス宰相が兵を引きつれ姿を現し、退路を断たれ逃げ場を失った。


「罠か・・・」


ファウストさんが苦々し気に呟く。万事休すと言う言葉が浮かぶ中、ディアーク陛下を包み込む煙は霧の様に晴れて行く。そして、ディアーク陛下の立っていた筈の場所に驚くべき人物が立っていた。


「うふふ・・あら、驚いたかしら?」


「ええ、二つの意味でね」

*本日も当作品を最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます!


**********************


事態を解決へと導くつもりが、自分達の首を絞める結果に!

突如、現れた女性は何者か?口火を切られてしまった戦はどう進行し、アメリア達は果たして戦を止めるどう動くのか?次回へと続きます。

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