プロローグ
初投稿です。どうぞよろしくお願い致します。
この世界には複数の種族が存在し、自由な人の往来や交易に移住に共存と友好的な関係が築かれている。
私が住んでいるのは人間の王が治める中央大陸ティアスラントの大国、カーライル王国の王都・・・ではなくその辺境に在る、バーウィック村。
幼い頃の記憶が無い私は養父であり剣の師である祖父により、同じく孤児の義妹と共に育てられた。
しかし、祖父は何故か私にのみ剣の英才教育もとい、厳しい訓練を強いてくる。
「おめぇには拾った時からビビッと来たんだよ・・・俺の直感は当たるんだぜ!」
「あの、私は一応女なんだけどな・・・」
そんな抽象的な理由で毎日、鍛錬や村3周全力疾走やらされてるのか思うものの。
文句は言えない、学校にも通わせて貰っているからだ。本当に祖父には感謝で頭が上がらない。
現在、この世界の成り立ちとその歴史についての授業を受けている。
「アメリア・クロックウェル!」
上の空になっていた為、エルフのルミア先生の雷が落ちた。
「黒髪に金の瞳の貴女ですよ・・・おばかさん!」
「ごめんなさい・・・!」
苦笑いをしつつ姿勢を正し、黒板に視線を向けて授業に専念する。
様々な事を学ぶ中、村から出た事の無い私はまだ見ぬ世界への思いを馳せて夢が膨らませた。
深い森の妖精の円舞と虹水晶の花に灼熱の火山とそこで作り出される名剣と地平線まで広がる大草原そして各地の料理と夢が広がる。勿論、失くした記憶も取り戻してみたい。
そして放課後、帰路を急いでいると嫌な奴にあった。
「よぉ、男女ー!相変わらず色気がねぇな」
いきなり失礼な事を言うこの声の主は幼馴染のダリル・ヴィンセントだ。
額が出るほど短いオレンジ色の髪に茶色の釣り目の活発そうな少年だ。
狼の獣人の師匠の下で格闘家になるべく師事を受けている。
そう言えばこの前、山に籠るとかなんとか言っていた気がする・・・。
「あら?猿が山から下りてきたのね」
「あぁ?喧嘩なら言い値で買うぞ?」
バチバチと火花を散らせながら睨みあっていると、私達の頭に拳骨が降ってきた。
「こらぁ!クソガキども何を道端で喧嘩してんだ!」
頭を押さえながら恐々と二人で振り返ると、背後には強烈な威圧感を放つ祖父の姿があった。
「イタタ・・・爺ちゃんただいまぁ」
「おう!おかえりアメリア」
白い歯を出してニカッと笑顔になる。
「ジジイ・・・手加減しろよなぁ・・・!」
「お前の鍛え方が足りないだけだろ」
身内以外には厳しい祖父だった。
ダリルは悔しそうな顔はするものの、ぐうの音も出ない様子だ。
「頼まれていたんだが・・・ケイティーが呼んでたぜ。晩御飯作るから早く帰ってこいってよ」
「えっ・・・」
ケイティーとは私と同じく祖父に拾われた猫の半獣人で黄緑色の髪に大きな青い瞳の義妹だ。
義妹は細かい作業が得意なんだけど・・・料理については壊滅的なのだ。
「ダリル、おめぇも来るか?」
「お!ただ飯・・・・ん?」
ダリルは空腹だった為か嬉しそうな顔をするが、私の様子を見て首を捻った。
「・・・帰らなきゃ。キッチンの平和を守るのよ!」
「へ・・キッチンの平和?って・・・うお!」
私はダリルの腕を掴むと、驚く祖父をおいて全力で道場へ全力で走り出した。
息をきらせながら道場の居住部分にあるキッチンに飛び込む。
そこには食材を片手に唖然とした顔をしたケイティーがいた。
食材に手が付けられていない。どうやらキッチンは死守できたらしい。
「ただいま、ケイティー」
「おかえりなさい二人とも~」
ケイティは私たちに向かってふんわりと花が綻ぶ様に微笑んだ。
「よぉ、ケイティー。久しぶりだな」
ダリルはケイティーの頭をワシワシと撫でまわす。
私は腕まくりをすると素早くケイティーの横に並んだ。
「なんだか料理をしたくなっちゃったな~」
「え、アタシがつくるよぉ~。その為に早く帰って準備してるんだもん」
ケイティーの目はキラキラと輝きやる気に満ちている。
「ケイティーじゃあ・・・手伝うよ?」
「いいよ、一人で作るの。料理は得意じゃないけど、今日はいける気がするっ」
前向きなのは良いけど此れは不味い・・・止められそうにない。
ダリルに目配せをして助けを求めてみると、ハッとしたような顔をした。
気づいてくれたかな?
「アメリア・・・お前・・・料理できたのか?」
驚愕の表情をこちらに向けてくる。ダリルが空気を読んでくれる訳がなかった。
そこへ祖父がのんびりとした足取りで帰ってきた。
「なんだ?偉く急いでいると思ったら義姉妹で一緒に料理か?」
「そうそう、一緒に料理を作ろうと思ったのよねー」
「え?え?うん・・・でも今日は」
ケイティーが何か言いたげに祖父に目で何かをうったえる。
それを見て何かに気づいた様子の祖父。
「仲良く一緒に料理ってのも良いんだが・・・。アメリアお前は夕飯前の訓練だ」
人生は酷なものね・・・。訓練後が怖い。
「よし!俺は味見係なっ」
健闘もむなしくキッチンの死守に失敗。呑気なダリルを横目に祖父に連れて行かれてしまった。
訓練場では多くの兄妹弟子が各々、鍛錬をしている。
嘗ての祖父は王都で騎士団に所属しており、先代の王からの信頼も厚かったらしい。
そんな祖父に憧れてか、辺境の村にあるにも拘らず弟子入り志望者が後を絶たない。
一通り兄妹弟子たちに稽古をつけた祖父は、私に訓練用の剣を構えるようにいった。
「よし!今日は手合わせをしてやろう」
余裕の表情を向けながら、祖父がニヤリと笑う。
「よろしくお願いします!」
祖父に向き合い構える。
間合いを詰めつつ、お互いに振り下ろした剣を金属音を響かせながら交える。
祖が私の剣を捉え、その重みが此方にかかる。
それをしっかりと受け止めつつ踏ん張る。土や砂利が擦れる音が足元に響く。
「くっ・・・・」
「どうした?腹が減って力が入らないってか?」
私は煽る祖父の言葉に惑わされず、剣を横へ薙ぎ払い後ろへ飛びのいた。
其処へ間髪入れずに祖父の容赦ない一太刀が加わる。
私はそれを躱し姿勢を低くし地を蹴ると素早く祖父の脇腹に一撃を与えた。
すると、それを見ていた兄妹弟子の皆さんから野太い歓声が上がった。つまりは勝負あり。
息を整え祖父と向き合い一礼をする。
「やるようになったじゃねぇか!さすが俺の弟子!」
頭をぐしゃぐしゃに撫で回された。それを整えつつ・・・
「次も勝つよ!」
「調子に乗りやがって・・・油断すんじゃねぇぞ。日々精進だ」
「はい!じいちゃ・・・・師匠!」
そして祖父はそれを見ていた兄妹弟子達に一括。
「お前達、何をゆるんだ顔してるんだ!ビシビシ行くぞ!」
うおおおお!!地響きがするような声が一斉に上がる。
訓練を終えてキッチンに向かうと妙な臭いが立ち込めている。
扉を開けると笑顔のケイティーと視界の端に転がるダリルの姿が映った。
そして、差し出された暗黒物質。
「誕生日おめでとう!このケーキは大丈夫だと思うの」
そうだ、忘れていたけど誕生日だった。でも、『大丈夫だと思う』って・・・
義妹の厚意を無駄にするかしないか迷った挙句、一口食べる。
口いっぱいに苦みが押し寄せ広がり、それを追いかけるように酸味と強烈な甘さと臭いが襲ってくる。
「ケイティー・・・ありが・・と」
精一杯の笑顔をケイティーに向けるも、視界が暗転した。
私の十六歳の誕生日はこうして幕を閉じたのである。
───そして明くる日、私宛に国から一通の手紙が届いた。