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5話

 で、ふたたびアキラさんにこの世界に来てもらった。


「おや。以前呼び出された場所とは別ですね」

「ここ、私の住んでる借家です」


 私は王都の学校に通うために実家の領地から離れ、一軒家を借りて一人暮らしをしていた。

 建物自体に少々ガタは来ているが、中は汚くはないし大丈夫だろう。

 煉瓦造りのがっしりした建物で、築年数は記録が散逸した程度には長い。

 ダイニングに寝室、客間もあるので、一人で暮らすには十分過ぎるほど広い。

 風呂と鏡もあるので、異世界をつなぐゲートも作ることができる。


 ……ただ、家賃が少々高い。

 アパートにしたかったのだが、貴族が集合住宅に入ると何かと詮索されたり泥棒が入ったりする。それなりに防犯に気をつけるためには家を借りなければいけなかった。


「ちゃんとキレイにしているんですね。大変よろしいかと」


 あ、今、ちょっと微笑んだ。

 ようやくこの人のわかりにくい表情がわかるようになってきた。


「掃除とか片付けは嫌いじゃないので……。

 あと、お掃除するメイドとか召使いとか雇わないと「あいつ貴族のくせに貧乏だ」ってウワサ立てられてやりづらくって……」


 身分の高い者が下々に仕事を与えるのは美徳でさえある。

 なのでけちな貴族に対して庶民はけっこう辛辣なのだ。


「それは大変ですね……」

「ええ……。あんまり無駄なお金払いたくないのに……。

 まあそれはともかく、本題の相談良いですか?」


 アキラさんは静かに頷く。


「留年してしまった……ということでしたね?」

「はい……」

「確か、古典は大丈夫と……」

「大丈夫なはずだったんですけど……ヤマが外れて……「この問題が出る」って情報が流れたから楽勝だって思ったけど、ガセだったみたいで……」


 アキラさんは、そうですかと、特に表情を変えずに呟いた。


「まあ、結果が出たものは仕方がありません。

 留年したことで学校の先生は面倒を見てくれたりはしないんですか?」

「いえ、先生も忙しいのでそういうのは無いですね。

 留年したらもう一年頑張って……ってだけです。

 それに試験後の長期休暇中は、先生達は自分の研究に没頭しちゃいますし」

「割とドライですね。高校と大学を混ぜたような感じですか……。

 同じく留年した友人などはいませんか?」


 そもそも。

 ともだちが。

 いません。


「え、えっとぉ、知ってる人はほぼ全員受かっちゃったかなって……」

「ふむ、そうですか……」


 とっさに嘘をついてしまった。

 い、いや、嘘は付いてない。

 元々友達がいないという話をしないのは嘘ではない。本当のことを言ってないだけで。


「それはともかく、アキラさん!」

「はい、ご主人様」

「まず、来年度の学費を用意したいんです!

 新学期の始まる二ヶ月後までに、金貨10枚……60万ディナ必要なんです!」


 そう、これが本題なのだ。

 成績をどうこう言う前に、払うものを払わなければ学生の身分さえこの手から離れてしまう。


「ディナ、というのはお金の単位ですか?」 

「あっ、そうです。金貨1枚が6万ディナ。銀貨1枚が1千ディナ。

 そこから一桁ずつ下がって、大銅貨1枚が100ディナ、銅貨1枚が10ディナですね」

「となると……銀貨5枚で五千ディナと」

「ええ、先日渡した報酬がそれくらいになりますね」

「では60万ディナは……私が4ヶ月休まず働いたくらいでしょうか」

「ですね。日雇いの手伝いの相場がそれくらいですから。

 学校卒業して魔法の免許を取っていればかなりお給料の良い仕事もできるんですけど……」

「……テレサさん、何かアルバイトや仕事などはしていますか?」

「えっと、教科書や魔法書の写本を手伝ったり……ですね」

「そのお給料は?」

「1日8000ディナ前後ですね。

 でもお金に困ったときにやるくらいで、基本は仕送りで生活してて……」

「では……仕送りで凌ぐことは?」

「留年したので、その……仕送り、減らされそうで……。

 手紙で実家にお願いしても「ちゃんと節約して生活してたなら学費くらい払えるはずだ」って怒られて……」

「じゃあ……毎日、写本しましょうか?」

「そうしたいんですが、安全な仕事なので学生には人気があって……。

 週に一度、仕事が回ってくれば良い方ですかね……」


 アキラさんの視線が、どんどん切ないものを見る目になってくる。

 だが、とにかく打ち明けるしかない。

 まだ話は終わっていないのだ。


「それに日々の生活費とか家賃とかもあるので、それを差し引くと仕送りで60万ディナをまかなうのはとてもじゃないけど無理ですね……」

「なるほど、状況はだいたいわかりました」


 アキラさんは、こほんと、咳払いをして、


「ご主人様は、今、大ピンチです」


 と、当たり前すぎる結論を述べた。

 はい、その通りです。


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