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39話


 対人関係ストレスに耐える生活が続き、様々な人間とのパイプを構築し、競竜に関わる人間からの情報が集まり、ドラゴンオーナー達の意向をようやく把握して、「交渉の余地は十分にある」という確証をようやく得られた。ジャメール公爵に話を聞いて貰えさえすれば、きっと良い答えが得られる。アキラさんに無理を言って、ちょっとした手土産も用意した。準備は万端だ。


 が、その「話を聞いてもらう」というところが課題となった。


 私程度のコネで潜り込めるようなパーティに公爵様が来ることなどありえない。彼の経営する店でいきなり話しかけるのはマナー違反だし摘まみ出されかねない。競竜場の関係者を通してアポイントを取るのは時間が掛かるし、なによりノミ屋の相談は直接持ちかけたい。なんとかして一手で話し合いができる席まで辿り着かなければ。


 アキラさんは知恵があってもこの世界における身分や権力はゼロだ。


 私も色んなところにコネを作り、オーナーである公爵と話すための材料を作ったりと努力はしてきたが、最後の「直接面会して話す」のは独力では無理だった。だったら頼れる人に頼れば良い。


 ……というわけで、私が出向いたのは学校の職員室だ。


 一番身分が高い知り合いがいるとしたら、ここだ。


「……というわけで、どうかラーディ先生。どうかお力添えを……」

「無茶を言うな!」


 開口一番で怒られた。

 まあそれもそうだろう。

 だがこれで引き下がるわけにもいかない。


「いや、そう言わずに! 前にジャメール公爵とお知り合いだって言ってましたよね!?」

「そ、そりゃあ言ったが……ったく、よく覚えていたな……」


 ラーディ先生はがしがしと頭をかく。


「気難しい奴だ。私が何か言ったとしても説得なんぞできんぞ」

「いや、何も先生に説得して欲しいわけじゃありません」

「む? 違うのか?」

「説得は私達がします」

「本気か」


 ほう、と素直な驚きの声がラーディ先生から漏れた。


「というか、ノミ屋なんてやべー仕事してたんですから当事者が頭下げるなり何なりしないとまずい話だと思うんですよ。この仕事を流行らせてしまったわけですし、逃げ隠れするよりは正々堂々と土下座しようかと」

「それは正々堂々と言うのかね」

「そこは解釈の問題です」

「こんなに図太い性格だったんだなキミは……。

 それにあまり良い噂も聞かないぞ。

 あやしげな場所に出入りしているとか」

「してますっていうか、ノミ屋が大盛況だったからこんなことになったんですよ! 先生だって私をけしかけた人の一人なんですからね!」

「そっ、その言い分は横暴だろう!」

「横暴かもしれませんが、先生だって私達を使って儲けたり楽しんだりしたじゃないですか! ていうか先生の的中率ちょっとおかしいですよ! なにかしてますね!?」

「……」


 ぶっちゃけ当てずっぽうで根拠は無いのだが、ラーディ先生は苦み走った顔で押し黙った。この人の専門は確か卜占や占星術だ。何か余人にはわからない怪しげな術で未来予測くらいしていてもおかしくない。


「というわけで、せ・ん・せ・い?」

「……とりあえず、話は持ちかけてみよう。成功するとは期待するなよ」


 先生は深い溜息をつきながらも、なんとか頷いてくれた。

 ヨシ!



 王都の中央は王城がある。


 そしてその周囲には、高級貴族が住む屋敷が建っている。屋敷と言っても、ハイソなご家庭のお住まい、とは趣が違う。高級貴族にとってプライベートと公務の境目は曖昧なもので、騎士団の屯所や文官が出入りする事務所を兼ねていたりする。むしろ公用の建築物の中に主人たる人のプライベートルームが存在してると言った方が良いだろう。私達はその一つ、ジャメール公爵のお屋敷に呼ばれていた。


 城門のごとき大きな扉。。

 目を光らせている門番。

 高く堅牢な石壁。

 その壁には、油断すると矢が降り注いできそうな窓がある。

 屋敷と言うのはちょっと語弊がある。


「いやあ、素晴らしいお屋敷ですね……というかもはや砦なのでは?」

「ジャメール公爵は騎士団を運営してたりするので……直属の部下が仕事してるらしいです。あと戦争になったり反乱が起きたときは、ここが防衛拠点になるんだとか」

「お国柄ですねぇ」


 アキラさんのしみじみとした感想を聞きつつ、私は深呼吸する。


「……よし、行きましょう!」

「はい、ご主人様」


 私は正面の玄関……の脇の、通用口に控えている若い男の門番に声を掛ける。


「すみません、公爵様にアポイントがあるのですが……」

「ああ、聞いておりますよ。テレサ=ヘルムズ様ですね。

 武器はこちらに預けて、あとは執事の案内に従って進んでください」


 ……なんか普通にお役所に来た感じだった。



 数ある客間の一つに通され、十分ほど待たされた。


 豪奢な調度品がある。

 壺や絵画、彫像などが並んでいる。

 煌びやかだが、ある法則性というか一貫性がある。


「ご主人様、ドラゴンに関係するものばっかりですね……」

「……いやあ、ガチですね。ていうか」

「用件がバレているかと」

「ですよね」


 これはちょっとまずい。

 単純に利益が出る出ないとかではなく主義やイデオロギーの話に流れたらとても不利だ。交渉の余地がなくなってしまう。


 そんな風にうだうだと悩んでいるうちに、客間のドアが開く。


「貴様らか! ノミ屋のくせに儂に会いに来たという連中は!!!」


 物凄いどら声が響き渡った。

 武人然としたがっしりとした体つき。

 整えられた顎髭。

 レストランで見たときと同じ姿。

 この人が、競竜場における事実上のトップ、ジャメール公爵だ。


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