表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/42

38話

~ テレサの新屋敷改め、ブックメーカズギルド本部 ~


 さて、そんなことでスラム街にある10ほどの組織を制圧こうしょうしてきた。


「スラム街の皆様にお集まり頂き誠にありがとうございます。私がブックメーカーズギルドの副団長、梅屋敷と」

「あー、盗賊ギルドの元団長で、今は同じく副団長をしているエンライだ」

「そして、我らが団長の……」

「テレーゼよ」

「はい、我らがテレーゼ様です」


 とりあえず仮面をつけて偽名を名乗ることになった。

 ここまできたら毒を食らわば皿まで……と思っていたのだが、流石にアキラさん達に止められて身元を偽ることにしたのだ。


 スラム街のゴロツキ達10数名は、私達の挨拶を複雑そうな目で見ている。

 それもそうだろうなぁ……とは思うが、余裕が無いのだから仕方ない。

 まあ、いきなり激高したり襲いかかってくる人は居ないからまだ良い方だろう。

 エレナさん、そして私の召喚獣ジャバウォーキーが睨みを利かせているし。

 ジャバウォーキーは龍人という種族らしく、私の召喚獣の中でもっとも肉弾戦に強い存在だ。

 凄まじく頑健な体と鋼鉄よりも鋭い鱗と爪を持ち、スラム街の腕自慢達をほとんど指先ひとつで倒してしまった。

 スラム街の論理は単純で、腕っ節が強さを示せばそれに従う都会のジャングルというかサバンナだ。

 暴力があればとりあえず従ってくれる。

 

「ありがとうじゃなくてよぉ、ここに集めた理由を言えよ」

「おうよ。用があるなら手短に済ませやがれ」


 とはいえ、流石に胆力のある者も居る。

 『梟の巣』のゲランと『不死者の集い』のヴェロックの二人は怯えることなく言い返してきた。


「では手短に言いましょう。競竜場のオーナー、ジャメール公爵がノミ屋の活動を問題視しており、既に彼の手勢によるスラム街への攻撃が始まっています。そこで我々も団結し、自分らの権利を主張するため組織化を図ろう、というわけです」


 アキラさんの言葉で、集まった全員に動揺が走った。


「しょ、証拠はあるのか!」

「ええ、資料を配りましょう」


 と言って、アキラさんはコピー用紙を配り始めた。


「なんだこりゃ、質の良い紙だな」

「文字読めねえよ、誰か読んでくれ」

「酒飲んで良いか」

「えー、読めない人のためにひとつひとつ読み上げて行きましょうか」


 アキラさんが口頭での説明に切り替えた。

 説明する内容は、競竜場の動向をまとめたものだ。

 競竜場の上層部の組織図から始まり、首脳陣が何を考えているのか。

 下部の組織にはどんなものがあって、誰が実行部隊としてスラムを襲ってきているのか。

 そしてこれからの私達の方針を一つ一つアキラさんが説明していった。


「……というわけで纏めると、次の三点ですね。

 不当な値引きを抑えて競竜場と競合しないこと。

 融資と竜券のセット販売を止めること。

 そして上納金を支払うこと。

 これをもって、ノミ屋を公認ブックメーカーとして認めてもらい、

 スラム街に平和をもたらそうと思います」

「上納金だぁ!? ふざけんなよ!」

「そうだそうだ! やってられっか!」


 ゲランが怒り、他の参加者も便乗して怒り出した。


「ええ、もちろんご不満がでることはわかっておりました。

 こちらの条件が呑めないというならば帰って頂いても構いませんよ。

 帰りがけに背中から襲うような真似もしません、お約束しましょう」

「……なんだと?」

「残る人達で競竜場と交渉して認可を得るだけですので。

 ただ、この場から去る人を庇うつもりもございません」

「お仲間以外は見捨てるってか」

「より正直に言えば、この場に呼び立てることさえせずに非公認のノミ屋というスケープゴートが居た方が私としては都合が良いんですよ。競竜場は上げた拳を落とす先ができる。我々はその犠牲に感謝しつつ、クリーンにノミ屋稼業を継続できる。

 ですがそれは流石にあんまりだろう、と我が主人が仰せになりましてね」


 いや、私は別に助けてあげましょうよなんて話はしていない。

 ただ私のイメージアップのためにアキラさんが話を盛っているだけだ。


「……あー、よくわかんねえけどよぉ」

「なんでしょう、ヴェロックさん」

「競竜場……つうかジャメールの野郎が踏み込んで来るっつーなら、お前らが戦えば良いんじゃねえのか。そこまで強いならなんとかなるだろうよ」

「バカか手前は! 公爵と戦うとかほざいてる場合か!」

「んだとこのモヤシが。ちょっと表出ろ」


 ヴェロックさんにいきなりゲランさんが罵り、一触即発の空気になった。


「ジャバウォーキーさん」

「おう」



「はい、そういうわけで暴力による解決はやめて話し合いの解決を目指しましょう。スラム街における商売を安全に、長期的に進めることで、我々は日常をより希望あるものにすることが目的です。そのためにルールや規制などによって不便になるかもしれませんが、血で血を洗う闘争では幸福は程遠いものとなります。よろしいですね?」


 私の召喚獣が筋肉と拳骨でスラム街幹部をブチ倒した直後だと言うのに、アキラさんはまるで頓着すること無く会議の締めに入った。みんな「なんなんだこいつ」という目で見ている。この人からいろいろと勉強させてもらっているが、ツラの皮の厚さはなかなか勝てない気がする。


 ともかくそんなわけで、気付けば私は暗黒街を支配するフィクサー的な立場になっていた。

 いや、その、誤解をしないでほしいが私は別に裏社会で立身出世をしたいわけではない。でも何の力も無い小娘が競竜場の運営と交渉を持ちかけても門前払いされるだけだ。ほんのひとときだけ、この立場に居られるなら問題無い。ぶっちゃけ最終的にはエンライさんに丸投げして逃げるつもりだし。そもそも私のようなか弱い女の子にスラム街の荒くれ者達がいつまでもついてくるはずがないのだ。世の中には適材適所というものがある。きっと私が去ることになったら諸手をあげて賛成してくれるに違いない。


 ともかくこれでようやく、準備が整ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ