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35話

 私が命じます!


 ……などと威勢良く言ったは良いが、今のところ具体的な考えは無い。

 だからまずは情報収集だ。

 そして競竜の情報が集まると言えば、やはり競竜場である。

 私とアキラさんの二人で、いつも通りやってきた。


「あ! 丁度良かった。こっちこっち……」


 さっそく窓口にいるお姉さんに何か聞こうと思ったら、むしろ向こうから呼んでくれた。

 彼女の手招きに素直に応じ、軽くご挨拶しつつ尋ねた。


「こんにちは……どうしました?」


 なんとなく心当たりを覚えつつも、とりあえずしらばっくれておく。


「あなた達……最近流行ってるノミ屋やってるでしょ?」

「流行なんですか……」


 色んなところに真似されてるとは思っていたが、流行と思われるほどだったとは。


「そうよー。スラム街に出来の悪いノミ屋が増えて、オーナー達がカンカンなのよ」

「ひえっ」


 やっぱりというべきか、ここの経営陣を怒らせてしまっていたようだ。

 私達も危うかったかもしれない。


「あなた達には世話になってるから見逃すようにしてもらってるけど、スラム街あたりにいる連中は冒険者雇ってガサ入れとか脅しつけとかしてるから気をつけなさいよ。せめてほとぼり冷めるまで控えるとか、ね?」

「そ、それはまた……ありがとうございます」


 受付のお姉さんは現金な性格だが、ガチめに私達のことを心配してくれていた。

 情報が一歩遅かったが素直にありがたく感じる。

 人との縁は結んでおくものなんだなぁ……。

 いや、怖がってないで情報収集だ。

 具体的にどう危ないのかをちゃんと知らなければいけない。


「あのう……もうちょっと込み入った話を聞かせてもらっても良いですか? 特にそのオーナーの動向とか……」


 と言って、私はこっそり袖の下を渡す。


「う、うーん、ちょっとこれ以上話を漏らすのはなぁ……」

「絶対危ないことはしませんから!」

「本当に? あと私から話を聞いたとかバラさない?」

「バラしませんバラしません」


 たぶん。


「うーん……」


 お姉さんはちら、と私達を見る。

 もう一声だろうか。

 私が懐に手を入れようとしたところで、


「はぁ……わかったわ。仕事終わったら大通りの方で待ち合わせしよっか?」

「はい!」



 王都の大通りはとても栄えていて、なかなかハイソなお店が並んでいる。

 金持ちの商人や貴族で無ければ入れないような店も多く、貴族と御用商人が商談をしていたり、あるいは単純に身分の高い若者同士が逢瀬を重ねていたり、庶民の憧れるような光景が広がっている。

 今私達が来ている店は二つ星のレストランで、コネがなければ入れない超高級……というほどではないが、普通の稼ぎの庶民が行くには相当無理がある、くらいのお店だ。シェフは外国で修行したという触れ込みで調度品も料理も舶来の品々ばかり。店の中に漂う嗅いだことのない塩っ気の効いた香りは、どうやら海の魚を使ったスープらしい。大人の社交場という雰囲気にちょっと飲まれつつ、でもどんな料理が出てくるか楽しみだ。まあ、アキラさんの料理の方が美味しいだろうけど。


「今日は良いエールが入ってるそうで。どうぞどうぞ」

「あら、ありがとうございます!」


 むむ……羨ましい。


「いやあここのお店、一度来たかったんですよねぇ。一人だと入りにくいし、かといって男の人を誘うと色々誤解受けそうだし」

「私どもならいつでもご一緒しますよ」

「あら、あなた一人ではないんですね?」


 あらあらうふふ、とばかりにお姉さんが蠱惑的に微笑む。

 アキラさんは気分を害することもなくお姉さんに酒を注いでいる。


「さ、ご主人様も」

「あっ、ありがとうございます」

「仲がよろしいことで。あなた達って本当に主人と執事なんですか?」

「へ!? あ、あたりまえじゃないですか!」

「そうかしら? にしては妙な感じよね……なんていうか」

「なんていうか?」

「兄妹とか、親子とか?」

「流石に親子ほど年齢は離れてはいません!」


 がっくり肩を落としそうになる。

 とはいえ、あまり悪態をつくわけにもいかない。

 今宵は彼女の接待なのだから。


「そうなの?」

「親子と間違われるのは恐縮ですね。頼りがいがあるように見られるのは嬉しいものですし」

「それじゃああなた、年下がお好み? 頼られたいの?」

「さあて、それはご想像にお任せしたいところですね」


 アキラさんは笑顔で流した。

 もしかしてお姉さん、このお店に来たいというのはあくまで口実で、アキラさんを口説きたいんじゃないだろうか……などと懸念していたが、アキラさんは柔らかい物腰を崩さずに誘いをいなしている。

 だが、本題は切り出さない。

 今回はあまり口を出すつもりはないということだろう。

 それで構わない、私の仕事だもの。


「お姉さん、あのう……」

「あら、なあに?」

「競竜場のオーナーのことを……」

「せっかちねぇ……。ま、他人の執事にちょっかい出すのも悪いしこのくらいにしときましょうか」

「はぁ……そうしてください」


 ただ受付で券を買ったり世間話をするだけではわからなかったが、なかなかどうして困った性格をしているようだ。


「そろそろ来るわよ」

「来る?」

「この店のオーナーで……」


 と、お姉さんが言いかけたとき、店の入り口がばたん! と大きく開けられた。

 そして、なんとも豪奢な服に身を包んだ貴族が現れた。

 豪奢な装いではあるが、成金という佇まいではない。

 背は高く筋肉質、頑固そうな眉や鷲鼻、そしてやたら強そうな目線。

 まるで大将軍とでも言うような風格の男だった。

 何とも言えない風格というべきものが感じられた。

 誰もが現れた人間の姿を目で追っていた。


「これはこれは、ジャメール様。お呼び頂ければ出迎えにあがりましたのに」

「料理長の腰がそんなに軽くてどうする! 今日はレースに勝ったドラゴンライダーを連れてきた。滋養のあるものを頼むぞ!」

「ははぁ!」


 店の人間もひどく腰が低い。

 もしかして、あれは……。


「あれがこの店のオーナーでドラゴンオーナー、ジャメール公爵ですよ」


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