33話
話を整理しよう。
こいつらが私の家を襲った目的は二つ。
一つはノミ屋を派手にやっていることに対しての警告。
そしてもう一つは、貴族を詐称するモグリの詐欺師への制裁。
前者はともかく後者は明らかな勘違いだ。最初、エンライも不審者三人組も私が子爵家の令嬢だなどと信じなかったが、たまたま身分を記載している魔法学校の学生証があったためになんとか説得できた。そして、
「……その、すまん。なんというか貴族らしい雰囲気が無くて怪しくて……」
エンライは意外と素直に頭を下げた。
一言二言余計ではあるが、そこに突っかかっては話が進まない。
「ともかく! 責任取ってください!」
「責任か」
エンライが難しい表情で呟く。
だがそこに、アキラさんが淡々と言葉を続けた。
「ここの三人が家に魔法を撃って家が滅茶苦茶に壊されてしまいましたからね。修理代金などを頂きたいのですが」
「なんだと……お前らそこまでやったのか?」
「ちょ、ちょっと脅しつけただけでさぁ!」
「火球の杖は脅しに使うためだけに使えと言っただろう馬鹿者! ……ったく」
エンライは疲れた溜め息を吐く。
どうやらこの人、部下には恵まれていないようだ。
「どうする? こいつらなら奴隷にしても構わないが」
「ええっ!? エンライの兄貴、それは流石に……」
「ええっ、じゃない! おぬしらに弁償できるのか!」
「できるわけないじゃないですか!」
あー……これは、壊され損かなぁ……。
おっさん三人の奴隷をもらってもまったく嬉しくない。
エンライも弁償してくれる気配は無さそうだし。
「とりあえずこのマジックアイテムとやらは頂きましょうか」
「そうですね、幾らか足しになりますし」
「えっ、そ、それは貸しただけなんだが……」
「しかし出せるものが無いのであればせめて担保になるものを頂かなければ」
「そ、それもそうだが」
酒場の主が妙にショックを受けた顔をした。
マジックアイテムはなかなか高価で、そして貴重だ。職人も少ないので金を出せば簡単に手に入るというものではない。まあ私は火球の魔法なんて十発や二十発打ったところで平気だが、普通の冒険者ならばかなり重宝することだろう。
「厳しいですねファンタジー世界は。裁判に訴えられなくて暴力で解決するしかない場面がどうしても多い。少額訴訟でもできれば良いのに」
「お前はお前で発想が怖いんだが」
エレナさんがアキラさんにツッコミを入れる。
そういえばアキラさんの世界だとこういうことは少ないって聞いたなぁ。
「ええいまどろっこしい。こいつらがノミ屋をやってるならブン殴って売上を盗めばそれでお仕舞いだろう」
「それはそうなんでしょうが、同業者ですから加減は考えねば」
「殺さなければ良いだろう。こっちは殺されるところだったんだ」
「わかったわかった! ったく……ドラゴンスレイヤー・エレナめ、噂は本当だったか」
「その話はやめろ」
エンライがぼやくと、エレンさんがやたらと睨みつける。
「ドラゴンスレイヤーってなんですか?」
アキラさんが私に尋ねた。
「ああ、それは竜を倒した戦士の異名です」
「おお、それは凄い」
「ただ王都では、競竜場で場内に乱入して竜とケンカにして勝った人のことを指します。ちなみにドラゴンスレイヤーになると罰金取られて一ヶ月くらい牢屋にブチ込まれます」
「……二つ名というより前科では?」
「まあ、どっちもですね」
「それがなんで竜の絵描きに……?」
あ、それは確かに。
「昔の話だが……あるとき、財産のほとんどをかけた竜券が外れてな」
「いきなりひどい出だしですね」
「それで、つい熱くなって一着の竜に殴りかかってしまった」
「はぁ……」
「それで竜とケンカしてわかったんだよ。竜は惚れ惚れするほどに美しい。ケンカするよりも眺める方が楽しいってな。ウロコも翼も、人の手で傷つけて良いものじゃ無い。わかるだろう?」
エレンさんがなんだか遠い目をしている。
ごめんなさい、ちょっとわからない世界ですね。
とりあえず、絵描きよりも用心棒や喧嘩士としての方が有名な人だということだろう。スラム街のゴロツキが怯えるほどとは思ってなかったが。
「わかった、家の修理は何とかする。杖は貴重品だからなくすとマズいんだ。担保として預けるがこっちが金を払ったら返して欲しい」
「順当なところですね」
「だがなお前ら、一つ忠告しとくぞ」
アキラさんがホッと溜め息を着いたところで、エンライが妙なことを言い始めた。
「なんですか?」
「わしらが他のノミ屋に脅しつけてるのは何もナワバリ争いとか面子とかの問題じゃあない。これ以上ノミ屋が増えるのは本当にマズいのだ。何故ならば……」
と、酒場の主が話を切り出した瞬間。
酒場の入り口が突然爆発した。




