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27話

 今日は名だたる竜がそろい踏みする大レースだった。


 覇王歴172年、第12回、陸竜走行競技大会。

 12回目は例年特別なレースとなる。

 新たに登録した竜だけが参加できる初顔合わせ同士の勝負。

 このレースにはオーナー達の面子や沽券が関わる。

 半端な竜を出せばオーナーの恥になってしまう。

 だから、ここに出るのはそれぞれの秘蔵っ子ばかり。

 誰ともなく、毎年の12回目のレースをこう呼んだ。


 昇竜記念。


「さーて、レースも盛り上がったな……」


 トラインがほくほくした顔で言った。

 だが、ボクとしては不満だ。


「あのねぇトライン。キミも計算を手伝ったらどうだい。

 この間なんて換金の数字間違えて怒られたんだからな」

「いやあ、細かい計算は苦手でな。すまんキトゥリス」

「ったく……」


 そういえばあの二人……テレサとアキラはどうしているのだろう。

 彼らが金額を間違ったという話は聞かない。

 加えて、どの馬券を買ってどの馬券を呑むかという判断を迷っている様子も無い。

 二人だけでこの膨大な量の計算と分配を済ませてるんだろうか。

 ボクらの方はトラインも頼りにならないし、弟達や妹達を引っ張り出してようやく間に合っている。地味だがけっこうな労働量だ。


「なーに、儲かってきたら数字に強い奴を雇えば良いじゃねえか」

「そういうわけにもいかないだろ。現金を扱うんだ、信用できない奴を雇えるか」

「あのアキラとか言うオッサン、いかにも数字に強そうだったなぁ」

「商人でもやってそうな風貌だったね。協力してもらえるなら助かるけど……」

「今は駄目だな、ライバルだ」


 ボク達は彼らの商売を真似た立場だ。

 怒られたり恨まれたりしても仕方が無い。

 だが来期の学費のためであり、ボクらの人生のためだ。

 四の五の言ってはいられない。

 だから今日も、魔法学校の教室を借りるために廊下を歩き……


「ん? ラッパ?」

「そうだな……って、この音楽は!?」


 思わず叫んだ。

 しまった、こう来たか……!

 思わず駆けだして、音が鳴っている部屋へと向かった。


「おい待てよキトゥリス!」

「お前も来い!」


 教室の扉をガラっと開ける。

 そこには案の定、彼らがいた。

 アキラとテレサ。

 そして見慣れない顔をした男女。


 男はラッパを吹いている。

 ボクは音楽のことは素人だが、上手いと感じた。

 競竜場のような野外で聞くより、遥かにのびやかで淀みがない。


「おや、いらっしゃい。

 ご覧になって行きますか?」


 アキラが微笑みながらボクらを席に座るよう促した。

 あ、これ、挑発だ。

 そして大きな自信を感じた。


「良いじゃねえか。お手並み拝見と行こうや」

「トライン、よせ。同じ時間にぶつけて客を逃さない方が……」

「馬鹿言うな。連中が挑戦してきたんだ。逃げるわけにゃいかんだろう。それに……」


 トラインは、ちらりと客の教員達を見る。

 ボク達から竜券を買ったはずの客達も、アキラとテレサが何をするのか興味津々のようだ。恐らく同じタイミングにぶつけるのは不満が噴出する。

 しまった、これでは止めようがない……向こうもそれを狙ったんだ。


「では、そろそろ始めましょうか」


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