15話
物陰から現れたのは、いかにも「得意科目は暴力です」と言わんばかりの三人の男だった。
二人は軽装。袖の無い麻の服から伸びる腕は太く、手には短剣が握られている。
そして真ん中に居るリーダー格らしき一人は、似合いそうも無いマントを羽織っている。
おそらくマントの下は、二人の仲間と同じ麻の服だろう。
なんか、こう、凄く……
「不審者っぽい……」
「うるせえ!」
しかも律儀に私の独り言に反論してくる。
うーん、面倒だなぁ……もっと明るい道を選べば良かった。
この辺りは空き家も多く、大金を持ち歩くには不用心だったかもしれない。
「ご主人様。正直に申しまして私ではどうにも手が出ません。逃げることなら可能ですが」
「あ、大丈夫です。特に問題無いです」
私だって魔法使いの端くれだ。
自分に降りかかった火の粉は払わなければならない。
アキラさんも居ることだし。
「あなた達。私は魔法使いです。加減はできませんが良いんですね」
「へっ……お前みたいなひよっこならな。このマント、知ってるか?」
えーと、なんだっけ……。
ファーのついた獣皮のマント。
確かあれは……
「ファイアラットのマントですね」
「おうともよ。火の魔法は一切通さねえ」
ファイアラット、あるいは火鼠とも呼ばれる魔物の皮をなめしたものだ。
耐魔力に優れ、特に火属性は中級魔法くらいまでなら簡単に防げる。
冒険者だけじゃなくて火事の消化でも重宝されている魔道具だ。
「ほう、そういうものがあるんですか」
アキラさんが興味深そうに呟く。
「見たところ、魔法学園のひよっこだろう。
プロの傭兵ならともかく、お前みてえなガキなんて……」
「我が呼び声に応えよ、フラッドウッズモンスター!!!」
私は杖を振るう。
すると煌びやかな光と共に、黒々とした『何か』が現れた。
「なんだこれは……!?」
「ちっ、召喚魔法か!? 精霊か何か……あれ?」
そこに現れたのは。
三人の不審者よりも、もっと不審なものだった。
身の丈3メートルはあろうかという巨体。
フクロウのようにぎょろりとした目。
いかにも鋭そうなかぎ爪。
不思議な素材でできたフードとスカート。
「おや、テレサ……お久しぶり」
声は高く、女のようにも聞こえるし声変わりしていない少年にも聞こえる。
「すみませんフラッドウッズモンスターさん。この三人、強盗みたいで」
「ああ、承知したよ」
彼、あるいは彼女は私の頼れる召喚獣の一人だ。
姿形は少々ユニークだが、その魔力は絶大である。
「な、なんだこりゃ……」
「こんなトンチキな召喚獣見たことがねえ……」
「構うこたぁねえ! やっちまえ!」
などといきりたつ不審者達に、彼(?)の手が輝いた。
凄まじい魔力が放たれる。
「……え?」
不審者達の後ろにあった壁が、一瞬で蒸発した。
燃えたとか、爆発したとか、そういうものではない。
岩や石がドロドロに溶けて、まるで溶かした鉄を流す刀鍛冶や鋳物師の仕事場のような熱気があたりを漂っている。じゅわり、とか、ぐつぐつ、とか、台所で聞こえそうな音を何倍にも大きくしたような、そんな不思議な音が鳴り響いていた。
「ええと、その……ファイアラットのマントでしたっけ。防げるか試してみますか?」