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パーティーで貴女だけが死にました。  作者: 音無鳴無
1449463秒間
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とある地下で

 聞こえるのは呼吸の音。いや、鼓動の音──・・・・・・だろうか。まるで水中にいるみたいに全ての音がぼやけて、自分の呼吸に鼓膜が反応していることだけがまだ生きているということを教えてくれる。

 まだ、生きている。

 本当に、私は生きているんだろうか。

 この地下大迷宮に落ちてからどのくらいの時間が経ったのか、もうわからなくなってしまった。何日も歩いた気がするし、数時間程しか歩いていないようにも思える。

 暗い。壁や床や天井、柱、崩れた瓦礫。それらの僅かな光も、殆ど私には届いてくれない。

 食べる物も、水もない。目的地はあっても道がない。視界は段々と闇に侵されているし、体力も既に底を突いている。辛うじて残っている気力だけが体を動かしているのに、今はそれさえもなくなってしまいそうだ。

 私が歩く、意味が、わからない。

 ふらふらと覚束ない足取りで、それでもそうすることが義務であるかのように、私は足を動かす。

 もう空腹は感じなくなっていた。ただただ執拗に、渇きが喉に張り付いている。死ぬよりも辛い。そんな目には何度も遭っているはずなのに、今、この状況が、最も心を擦り減らす。

 痛みがない故の苦痛。

 腕が捥げるより、手足を切り落とされるより、お腹に穴を開けられるよりも苦しい。

 体に衝撃がくる。何事かと頭を巡らせると、私が地面に倒れたのだとわかった。精神論ではどうにもならない程疲弊してしまったらしい。四肢に力を入れ、立ち上がろうとしても叶わない。

 「──誰、か」

 いるわけがない。誰もいるわけがないのに、助けを求めずにはいられない。

 「イリス・・・・・・」

 魔法使いなんだから、何かを使って、ここに──

 「カレン・・・・・・」

 天然のくせに妙に頭が良くて、力のあるカレンなら──

 「・・・・・・ルーフェ」

 ルーフェがここにいてくれたら。ルーフェが、私の側にいてくれたら。そしたら──

 ──初めて逢った時のように、助けてもらえるのだろうか。

 優しいから、きっとそうしてくれるに違いない。

 そうやって、また足を引っ張る。

 いつの間にか、声を殺して泣いていた。まだそんな元気があったのかと自分でも驚いたが、それ以上何かをする気にもなれず、暫く泣き続けた。そうすれば楽になれると思ったのかもしれない。泣いて、全部忘れれば、傷つくことはない。

 痛いのは、嫌だ。

 「──お母、さん」

 返事はない。あるわけがない。それでも必死に、心の中で何度も呼ぶ。何度も、何度も、何度も何度も。それなのに何故か、顔も、声も、よく撫でてくれた手も、ぼやけていてよく思い出せない。

 ──そうか、ここで死ぬんだ。

 死んで生く(デッドライヴ)は、私が無意識下で致命傷を受けたと思わなければ発動しない。だから食べ物に毒を盛られたら、私は為す術なく死んでしまうだろう。であれば、当然飢えて死ぬこともあるはずだ。水分が枯渇し、それが原因で死ぬことだって。

 今がまさにそうではないのか。

 食料も水もない。この状況で生き抜くのは不可能だ。救助も見込めない。そもそもそれを始めに頭に入れていれば、落下地点から離れるなどという愚行は取らなかっただろう。もしルーフェ達が誰かの協力を得て戻ってきても、そこに私がいなくては助けようがない。

 望みは絶たれた。否、自ら絶ってしまった。

 これ以上、生きる必要も、理由もない。

 静かに目を閉じる。このままここで、誰にも見つからずに、ある意味安らかに眠る。

 私は十分よくやった。

 竜も倒したし、街を守ったし、魔女とも戦った。

 もう、休んでもいいはずだ。

 「──・・・・・・何て、思えるくらいなら、泣いたりしない・・・・・・っ!」

 この程度の苦境、乗り越えれずに何が冒険者か。

 生き抜くのは不可能?生きる必要も、理由もない?

 その通りだ(・・・・・)

 生き抜かなくていい。生きる必要はない、理由もない。

 私に唯一できるコト。いつだったか決めたはずだ。

 この世界で、死んで生くと。

 腰のベルトの鞘からナイフを引き抜く。特別な装飾も何もない、ただの鉄のナイフだ。

 「致命傷、致命傷・・・・・・っと。やっぱり首、かな」

 殆ど力が入らない。一度で決めなければ、本当に死んでしまうかもしれない。

 首筋にナイフを当て──しかしその手を止めた。確実に死なな(リセットしな)ければならない。なら、頸動脈を切る程度では駄目だ。

 呼吸を荒くしながら胸あてを外し仰向けになる。思えば今までよくもまあこんなに重い物を着けたままにしていたものだ。体力の消耗が激しいのはこれのせいもあるのではないか。

 左胸に手を当てる。心臓の鼓動が聞こえる。

 もし外せば──

 「すっごく痛いんだろうなぁ。ヤだなー、やりたくないなぁ」

 しかしやらなければならない。今のままでは事態は悪くなる一方なのだから。

 肌の上から心臓の位置をよく調べ、ナイフを胸に垂直に立てる。

 こういうことには思い切りの良さが最も重要だということを、何度も死んで学んだ。

 「よーし百。さあ、思い切り・・・・・・振り切るぜっ」


 ──98/99:2


 夢ならーたーくさん視たー。

 まあ実際には夢を視てる時間はなかったんですが。夢もキボーもありゃしない。

 きっとこういうのを死ん夜テンションと言うのだろうね。今が夜かは知らないけど。

 「よっし、気力体力魔力全快!新しい顔とか貰った気分!」

 魔力は元々ほぼありませんけどね!状況はあんこ程甘くないし。

 なんて言ってる暇があるなら出口を探さないと。入り口出口どっちでーす?私が知るか。知ってたらこんな苦労してない。 

 「・・・・・・ふぅ。よし、行こう」

 パシンと両手で頰を叩き、今一度地下大迷宮からの脱出を試みる。

 どれだけ時間がかかっても、必ず地上に戻る。

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