残命数80/99:1
「何?ブラッドベアーを倒したのか?」
そう言ってカレンはググイっと私に顔を近づけてきた。ちょっと待って近い近いっていうかうわぁこの人もいい匂い髪の毛サラサラまつ毛長っていうかすっごい美人。
うっはあ!危うく理性が飛んじゃうとこだった。まあ、ルーフェ程じゃないけどね!異世界ファンタジーヤバい。
「うん、かなりギリギリだったけど。ってか私一人じゃ無理だったっていうか殆どルーフェがやったしってだから近い!なんか恥ずかしいでしょうが!」
バッとカレンから離れてルーフェの後ろに隠れる。やだこの人恐ろしい。私の理性を根こそぎ奪う気だよ・・・・・・。助けてルーフェ。
一夜明け、旅館の一室。ここはルーフェが泊まってる部屋で、私は昨日の夜カレンと一緒に二人部屋に泊まった。お金はもちろんカレン持ち。私はクズだった。
でも疲れてたのもあって、シャワーを浴びてすぐに寝ちゃったんだよね。夜中にルーフェの部屋に忍び込もうと思ってたのに。いや、夜這いと違うよ?さすがにまだそこまでは・・・・・・まあ、考えてないこともないけど。単純に添い寝をしたいなーと。ルーフェあったかそうだし。
カレンは何やらぶつぶつと呟いてる。え、あの熊倒しちゃ駄目だったの?動物愛護団体に怒られる?
「あ、でもモモさんがとどめを刺したんですよ!」
ルーフェの口からとどめとか怖い言葉が聞こえてきた気がする。凄く可愛い。
「・・・・・・モモはレベル一だろう?」
「うん。これからもずっと」
赤背表紙の本を書いてる時のビルボみたいな口調になっちゃった。私ってちゃんとゆきて帰ってこれてるのかな?何回も死んでるけど。
「あ、モモさん」
「はい、モモさんだよー」
何々ルーフェ?ハネムーンの予定でも決める?それには一人邪魔じゃないかな?
「モモさんって魔法使えるんですよね?」
「ううん?使えませんよ?少なくとも今までは使えたためしがないかな」
使えたら楽なんだろうなー。あれ?ねぇなんでそんな顔してるの?あ、カレンまで。いったい何事?
「え、でもモモさん、どれだけ首がなくなっても生きてて、傷も治って・・・・・・」
あー、あれかー。生き返るっていうか、ステータスがリセットされるやつね。説明しても大丈夫かな?まあいっか。
「あれは魔法じゃないよ。多分」
ええっ?とルーフェが声を上げる。カレンが「何の話だ?」って言ってるけど、今から説明してあげるから心配ないよ!
「あれはね、死んだら生き返りますよーってやつ」
「「い、生き返る!?」」
うわぉびっくりしたぁ!私もルーフェとはもりたい。はもはも。
「まあ、生き返るっていうか、ステータスが初期状態に戻るだけなんだけど」
なんで戻るの?変身するたびに強くなったりとかしたい。
「つまり、『体力』が0になった瞬間にステータスをリセットして元に戻している、ということか?」
「日本語でおK」
「ニホンゴ?」
ここ日本じゃないじゃん。
「あーっと、私がリセットしてるわけじゃなくて。・・・・・・私はリセットとかしたくない」
レベル制でレベルアップほぼ不可能ってどう?あ、死ななければ強くなるよね。・・・・・・ぬくぬくの八畳部屋で育ってきたのにこの世界で死ぬなって無理じゃない?
「ま、まあ、とにかく死にまくって結局ルーフェに任せたーって感じだよ」
実際、ルーフェが爆弾と弓で体勢を崩してなかったらあと何回死んでたかわからない。
「そんなわけで、どれだけ死んでも平気な私は囮に向いてるね!」
「無限に生き返れるのか?」
「へ?」
「そんな魔法もスキルも聞いたことがない。魔法で生き返らせることもできるが、相当高位の者がやって、成功率は三割程度だ。それも、一度生き返った者は蘇生することができない」
え、そういうものなの?教会とか行けば生き返らせてくれるんじゃないの?有料でさ。
「本当に、無限に生き返れるのか?」
ぐっと言葉に詰まる。なんか、カレンが怖い顔してる。ってか、違うの?どれだけ死んでも生き返れるんじゃないの?
そういえば、赤いドラゴンに殺された時、頭の文字みたいなのが『一気に全部使い果たせばいいのに』って言ってたような覚えがある。
・・・・・・もしかして、制限があるの?
はっとして自分のステータスを表示する。
名前:モモ・スズシロ LV1/10
筋力:3/26
体力:2/10
知力:1/7
俊敏:25/73
器用:29/87
運勢:1/3
特殊スキル:
??:80/99:1
・・・・・・減ってる。
特殊スキルの数字が減ってる。これはあの、生き返るやつで間違いはないはず。
右が現在値で左が最高値なんだよね。最初に死んだ時に『残り98』って言われたし、元々は99あったってこと?
じゃあ、この右の数字が0になったら、私はどうなるんだろう?
もしかして、本当に死んじゃったりするのかな?
ドラゴンの時に十四回、熊で五回死んでる。
このままじゃ、戦う度にどんどんカウントが減っていって0になって、すぐに死んじゃうんじゃ・・・・・・。
「モモさん?」
「っ、はい?」
いきなり可愛い声で呼ばれたら驚いちゃうなーあははー。
「あの、・・・・・・大丈夫、ですか?」
ルーフェが私の顔を覗き込んでくる。・・・・・・そんなに心配されるような顔してたのかな。
「・・・・・・とにかく」
壁にもたれかかってるカレンが口を開く。なんか、さっきよりも声が低くなってる気がする。
「無限に生き返れるわけでないのなら、お前を死なせるわけにはいかない。仲間だというなら尚更だ」
こく、とルーフェが頷く。同時にさりげなく手を握ってくれるなんて、ルーフェは優しい。あと、ほぼ初対面なのに、私を案じるカレンも、相当馬鹿だと思う。
・・・・・・向こうで死んでなかったら、誰か私を見ててくれるようになってたかな。
「これからしばらくは地道に経験値を稼がないとな」
経験値、あるんだ・・・・・・。
「私たちが前衛に出るので、モモさんはとどめだけ刺せば問題ないですよ!」
死んでなかったら、二人にも会えなかったなぁ。・・・・・・死んでよかった、のかな。
本当、二人とも情が深いんだろうな。それは嬉しい。本当に嬉しいんだけど。
・・・・・・でもさ、そうじゃないんだよ。
なんか、なんていうか・・・・・・モヤモヤする。
・・・・・・気持ち、悪い。