見た夢を発展させてみた(笑)
3/31 伯爵が再起不能に陥る前に、文を大幅に付け足しました。
私が盛大にフリーズした言葉が登場します。
私は口の悪さと性格から良く男のようだと言われる。
れっきとした女なのだがな。
両親からは『一人しかいない娘なのに……』とたいそう嘆かれている。
さて。
どうでもよい話では退屈だ。
話を変えよう。
私はこのお屋敷・エルファーナ伯爵家に雇われている。
役割はお屋敷の使用人だ。
まぁ。
使用人とは言っても、主にフェルシアお嬢様のお世話係だけど……。
とか言って、遊び相手も兼ねている。
契約上は使用人となってはいるが、家族のように接して貰え。
仕事の内容も、人間関係も悪くない。
いや、むしろ良すぎる。
しかも。
生まれたころから世話をしてるお嬢様は、私を『お姉ちゃん』と呼び、慕ってくれている。
実に良い職場だ。
……いや待て。
二十を超えた奴が五つの少女にそう呼ばれても良いのか?
貴族だったら、行き遅れと言われる年だぞ?
―――――――――
――――――
雇われたての頃。
年が近いせいか奥様に『お話しましょ』とたおやかに微笑まれ。
使用人だからとやんわりと断ると、泣かれ……。
必死に慰めた。
『じゃぁ、一緒にお茶を――』。
と泣き止んだ奥様に寝言を言われたが、断固拒否した。
恐れ多い事だからな。
まぁ。
本音は―――
『嫉妬深いロリコン野郎の怒りは買わんぞ』
というわけだ。
でもさ、その日の夕方。
お帰りになられた、当時14の娘に手を出し、嫁にしたと聞く37のロリコン変態野郎こと。
この屋敷の旦那様サヴィリオ・ユグ・エルファーナに。
『私のシェリーの目が赤いのは、何故だ?』
と。
私は胸ぐらを掴まれ、翠の血走った瞳に凄まれつつ、低音で疑問を投げられた時は。
『何言ってんだこの野郎。頭の中に虫でも湧いたか?』と思ったさ。
何故なら。
『奥様の瞳が紅いのは生まれつきではありませんか』
何でも奥様の母方の血がが紅い瞳をもっているそうだ。
詳しくは知らん。
説明は適当に聞き流しておいたのでな。
まぁ。
そういうわけで、正論を述べた。
だがしかし。
ロリコン野郎は私の返答が気に入らなかったらしく、『ふざけるな』と激怒しやがった。
何が言いたいんだ、この変態野郎は。
と、若干蔑んだ目で見て居たのがいけなかったのだろう。
激怒したロリコンは仲間を呼びやがったんだ。
結果。
私はその場でロリコン野郎と家令、執事、使用人頭に叱られるという。
『なんだこれ。どういうことだ』状況に追い込まれ。
【可憐な奥様のお誘いを『使用人だから』ということを理由に断らない】事を約束させられた。
どうやら奥様は前々から年の近い私と、友のように会話がしたかったらしい。
酔狂なものだ。
私はこの日を堺に、『貴族とは分からんものだ』として処理することにした。
第一、私に関係ないしな。
平民でよかった。
―――――――
―――――
昔を想い。
ソファーに腰かけ優雅に茶を一口含み、それをテーブルの上のソーサーに置いた。
私の膝の上には茶色に金が混じる巻き毛に、赤い瞳のフェルシアお嬢様が横向きに座り。
嬉しげにぼりぼりと、両手に持ったクッキーをむさぼっている。
……食べかすが私の黒の仕事着の上にまき散らさているのだが…………。
まぁ。
可愛いから良しとする。
などと思い、ほっこりとしていると。
お嬢様が私に気づいたのか不思議そうな顔をして、両手の食べかけのクッキーから顔を上げて、食べかすまみれの顔を私に向けてへらりと歪めた。
……ふぅ。
まったく、一応。
伯爵家令嬢のはずなのだがな……。
「動くなよ」
一言声を掛け。
スカートのポケットからハンカチを取り出し、口の周りを拭った。
「きれいきれい?」
「あぁ。もう良いぞ」
きょとんとして聞いて来たお嬢様に許しをやると、再び両手のクッキーをむさぼり始めた。
…………食事のマナーは完璧だが、菓子の食べ方がな……。
だが、私がいないときは完璧だと聞く。
ならば気にせずとも良いか。
……別に私が責任を持つわけじゃないしな。
「ねぇ、ニルグ。今日のお茶はどうかしら?」
そう、控えめに問うのは正面のソファーに腰かけた奥様だ。
「そうだな。蒸らし好きでマズイ」
「……昨日は蒸らしが足りないって言ったじゃない? だから――」
「蒸らせばいいって訳じゃねぇっての」
『馬鹿か?』と意味を込めて、白けた顔で言うと、奥様は悲しげに顔を歪めた。
「……これじゃぁ、旦那様に呆れられてしまうわ…………」
いやいや、ありえねぇから。
あんたホント寝言言うの好きだよな。
ちゃんと寝てんのか?
「…………あの粘着質のロリコン野郎がどうした?」
「……………………この間の舞踏会で、旦那様が――」
視線を落とし、俯いた奥様。
そんな奥様に私は馬鹿かと問いそうになった。
そして。
奥様を不安にさせていることにすら気づいていないロリコン野郎が帰宅したら、まずは蹴り飛ばして再起不能にしてやろう。
しかし。
あのロリコン野郎、最近私の攻撃を必死の形相でよけるようになったからな……。
いつもの二撃目で完全に再起不能ではなく。
今回は思考を凝らして一撃目をフェイント、二撃目で誘導、三撃目で再起不能に持ち込むとしよう。
嗚呼。
実に楽しそうだ……。
「…………お姉ちゃん。どうしたの?」
クッキーを食べ終わったのか、食べかすが付きまくった手をぺろっと舐め。
小首をかしげるお嬢様。
唾液まみれの手を拭わせようとハンカチを出そうとした瞬間。
お嬢様は自分が着ているドレスになすりつけやがった……。
……おい。
お前はいつ、下町の娘になった?
伯爵令嬢じゃなかったか?
貴族の端くれだよな?
おい。
寝言娘。
ロリコン変態野郎に捨てられるなんて寝言言ってねぇで、テメーの娘注意しやがれ。
下町娘になってんぞ。
大人になってもドレスに拭う癖がついたらどうするんだ。
「何でもない」
だからもうドレスで拭うなよ。
そうつけたし、ハンカチを出して食べかすまみれの顔を拭う。
「……怖い顔だったよ?」
「元からさ」
「ふぅん」
お嬢様は納得していない顔で、横向きに座っていた体を捻って正面を向き、私に背を向けた。
そして今度はテーブルの上にあったショートケーキを一つ。
両手に持ってかぶりついた。
……誰か注意しろっての。
「あら? フェシー。ショートケーキは手づかみだなんて、はしたないわ」
「だって、おいしいんだもん」
「う~ん……。お外と、お客様の前ではしないでね?」
「はーい」
以上。
母親のほんわりとした説教終了。
普通の子供には絶対に、間違いなく意味はない。
しかしウチのお嬢様は普通の子供ではないのだろう。
この説教で二度としないのだからな……。
まぁ。
起きたまま寝言を言う馬鹿娘と、ロリコン趣味の変態から生まれたんだ。
まともな訳がないか。
「ところで、ニルグ? 良い人はいないの?」
若干、現実から逃げていたら奥様が上品に笑って問うてきた。
また始まったな。
「ふぅ……。その問いの答えは良い厭きた」
「もう、良いじゃない。もう一回教えてくださらない?」
何が『もう一回』だ。
そう言って何年と同じ質問繰り返しやがって。
だが、どうせ何度言っても繰り返し問うてくるのだ。
適当にあしらって泣かれれば私が非難される。
実に面倒だ。
「前も言っただろう? 『私の腕に収まるくらいの細身で同じくらいの身長、もしくは私より低く、年は同い年から2、3歳年上まで。唇は薄く、私の目から見て可愛いと愛でられる男だと」
「……そんな人、本当に居るのかしら?」
「居なければそれまでだな」
まぁ。
居ないだろうがな。
結婚なんぞ棺桶に片足ツッコむようなもんだろうが。
まぁ。
この馬鹿娘がロリコン野郎に目をつけられた年頃は、森を走り回っていたものだ。
あの頃が懐かしいな。
無駄に体力があった……。
「お姉ちゃんはレズだから、男の子は愛せないんだよ。ね、お姉ちゃん!」
くるりと首だけで振り返ったクリームまみれの、笑顔。
私を同性愛者だと信じて疑っていない、確信している赤い瞳。
お嬢様の顔の向こうにクリームで真っ白な小さな左手。
……………。
………………………。
…………………………………。
………………………はぁ?!
どういうことだ!!
何が何でどうなって私がレズになるッ?!
私は一般的な男のカッコイイから外れているだけで、可愛い女より可愛い男の方が断然良いに決まっている。
もちろん。
女のように可愛いのではなく、こぅ……何と言うんだろうな?
男臭くもなく、女のようではない。
美人……?
いや。
私はそう言うのより、唇の薄くて目がぎょろっとしていなくて……見ていてホッとするような…………って。
誰だ。
お嬢様に意味の解らんことを吹き込みやがった奴……。
「お嬢様。誰にそんな馬鹿なことを吹き込まれたんだ?」
「え? パパだよ!」
「そうか~。お嬢様は良い子だなぁ」
浮かび上がってきた笑みを浮かべ、無邪気なお嬢様の頭を優しく撫でる。
そうか。
そうか……。
あのロリコン野郎。
三度目で楽にしてやろうと思ったが、気が変わった。
すべて急所を避け、打ち込んでやろうじゃねぇか……。
――――――――
―――――
こうして。
再起不能にした翌日。
付きっきりで奥様はロリコン野郎の看病をし、誤解していたと理解したそうだ。
良かったな。
だが、おかげで私は翌日の休みが取り消されたがな……。
せっかく近くの伯爵領でとても殺りがいのある、豹の魔物が大量発生した情報を手に入れて、久しぶりの運動だと楽しみにしていたというのに。
数日後にはその魔物も数が減ったとかで、大量発生の情報は消えたしな。
本当に楽しみにしていたんだ。
だが、本日は待ちに待った休み。
テキトーに竜でも狩りに行くとするか……。
* * *
こうしてふらりと町を出て行き。
倒した竜の尾を掴み、門から冒険者ギルドまでの道を闊歩する彼女の名は――ニルグ・バーナー。
通称。
【バーサーカー】
彼女は陰でそう呼ばれていることは知っているが、『名前が似ているからか?』と気にも留めない。
そして。
『自身はその辺の人間と変わらない。一般人だ』
そう信じて疑うことはない……。
フェリシアの「お姉ちゃんはレズだから~」が、私の見た夢では『無理だよ。だってこの人レズだから』と、ソファーに座って私に背を向けた少年が紅茶を飲みつつ。冷めた感じでテーブルの向こうのソファーに座っている少年の母親に吐き捨ててました。
『?! そんな馬鹿なッ!!』と、飛び起きて一瞬フリーズしました。
そんな話から発展させまくりました笑