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魔力なし少年の転生譚  作者: 炎の人
ゴブリンエンペラー編
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無双する魔力なし少年1

 父上はもしかしたらこの事を想定して俺を連れてきたのかもしれないと俺は思った。もしも、自分が倒れたらその後を引き継ぐ為に俺を選んだのだ。自らの代わりに選んでくれた父上の為にもここは一つ、派手にやってみよう。これをやったらもう逃げられなくなる。記憶を取り戻してから五年、自由に生きようと考えたがどうしても父上やこの領民のことが気掛かりだったのだ。だから、惜しみなく力を使おう。いつの間にか近くにいた光の精霊に笑みを浮かべてから兵を集めるように兵士に伝令を出した。

 それからすぐに皆が集まった。父上が倒れ、動揺している兵士達を慰めるのが俺の役目だ。そして、ゴブリンを撃退するのも俺の役目である。今からそれやろうと思う。


「皆、集まったな。先程の魔法で父上は倒れられた。余程強力な魔法だったらしく、代償が必要であったそうだ」


 俺の言葉に兵士達の不安が駆り立てられていく。


「さて、そろそろ俺も我慢できなくなってな。そこで一つ問いたい。諸君等の中で俺と共にあの軍勢へ突っ込みたいという猛者はいるか?」


 俺の言葉に急速に声が小さくなっていく。誰も彼もが無理だと思っている。ゴブリンエンペラーはそれほどまでに強いということなのだろう。俺は周りを見て、誰もが意気消沈していくのを見ていた。そんな中、一つの意見が挙がった。


「さっきから聞いていれば何が我慢できなくなった、だ。魔力のないお前じゃすぐに死ぬのが落ちだ。やめとけやめとけ」


 それは明らかに俺を侮辱する言葉であった。俺は怒らなかった。見た目もあるし、魔力なしというのも本当だったからだ。何よりも自身の力を存分に振るわなかった自分を恥じているから。何より彼らは俺の兵ではなく、父上の兵士であったからだ。俺はそのことをちゃんと理解している。

 一人の男が放った言葉は周りへ波及していき、遂に一人で行ってこい、などという言葉に変わっていった。俺は一応嫡子のはずなのだがどうしてこんなにも辛辣になれるのやら。やはり、戦うなら俺だけの軍が欲しいな。切実にそう思った。


「分かった。そこまで言うなら俺一人で行くさ。お前らは大人しく指をくわえて待っていろ」

 

 兵士達のブーイングの中、門から外へと出ようと門へと向かう。その途中であの伝令の兵士と出くわした。彼は頼りない顔をしていたが今は戦場の男の顔をしている。何を思ってここに来たのだろうか。そう思っていると彼は胸に手を当て、敬礼をした。


「ご武運を、若様」


「はは、ああ。俺も流石に死にたくないからな。父上にいい土産を持ってこれるよう努力するさ」


 伝令の兵士の見送りの元、俺は門を出る。ゴブリンは徐々にこちらに迫っている。先程の魔法で些かびびり気味だがそれでもこちらへと迫ってくる限り、いつかは戦うことになる。そのことを兵士達は分かっていたのだろうか。

 近くにいた光の精霊が頭の上に乗るが分かった。最近、明確に意志疎通できるようになった光の精霊が話し掛けてくる。触っていれば意志疎通できるので便利だ。


(いいの? あれで)


(ああ。あんな腰抜けはいらない。それにあの軍は父上あってこそだ。俺の軍ではない)


 父上がいるからこそあそこにいるという兵士が大半だ。俺に着いてくる兵士は一人としていなかった。父上ありきの軍。俺が一人で歩いているのが何よりの証拠だ。彼らには俺への敬愛の心がまるでなかった。伝令の兵士の彼だけはちゃっかり俺を見送ってくれたがそれも彼だからこそだろう。

 俺は一人で無謀な戦いへと赴こうとしている。だが、不思議と負ける気はしない。俺には頼りになる仲間がいるのだから。門から拝借してきた閂を右手に持ち、こちらへとやってくる草の精霊に俺は言う。


「草の精霊よ。ゴブリンの足を止めてくれ。光の精霊よ。目眩ましをしてくれ」


(分かったよ)


 光の精霊が代表して答える。すぐさま草の精霊は行動に移った。ゴブリン達の足元から草蔓が生え、足を縛り付ける。草の精霊達は一生懸命に役目を果たしてくれる。そして、光の精霊が光をゴブリンの頭上に放った。光があるうちにと俺は剣を抜き、そして異能を発動させて剣と閂を宙に浮かべた。物を自在に動かす異能を存分に使う機会がきたのだ。実戦で叩き上げていこう。背負っていた槍を引き抜き、俺は全力でゴブリンを相手取ることにした。


「いっけぇぇぇえ!」


 俺の雄叫びと共に剣と閂がゴブリンを襲っていく。宙に浮いた剣や閂が頭を斬り飛ばし、頭を陥没させられたゴブリンが量産されていく。俺は異能で自在に剣と閂を操ってゴブリンを倒していく。途中から俺の意志を汲んだ草の精霊達がゴブリンを足元の蔓を伸ばして窒息死させていく。数は一、二、三……と増えていき、百になった辺りで数えるのをやめた。足を止めているゴブリンなどただの的でしかなかったからだ。

 時々、拘束を抜けてこちらへと迫って来るゴブリンもいたが槍で突き殺しながらゴブリンエンペラーを探していく。剣の切れ味も落ちてきて、閂が壊れる。俺は地面に落ちていた棍棒や錆びた剣を異能で操り、攻撃回数を増やしていった。異能が代償なしで使えるとはいえ、操るのにはそれなりの集中力がいる。剣や棍棒の数が百を越えた辺りでゴブリンの数もだいぶ減っていたがそれなりに息が切れていた。幸い、ゴブリンはそれほど強い魔物ではなかった。だからこそ、俺はまだ無傷で立っていられる。それも突如として破られることになった。


「グルガァァァァァァア!」


「何だ?」


 突如として森の奥から聞こえてきた咆哮が聞こえてきた。俺は自身の左腕が傷だらけになるのを感じてその痛みに声を上げることになった。


「ぐ、ぐぅぅぅぅ!」


 これはおそらく風の魔法だ。あんなに強力なものは聞いたことがない。森の奥からプレッシャーが放たれる。尋常ではないそのプレッシャーに冷や汗を流しながら待っているとそこには先のゴブリンキングなど小さいと言わんばかりに二メートルを遙かに越えて三メートルにも及ばんとするゴブリンの姿があった。武器すら持たず、不遜に立つその姿は覇王を思わせる何かがあった。


「グルゥゥゥガァ!」


「来いよ、へぼゴブリン」


 そして、ゴブリンエンペラーとの死闘が突如として始まったのだった。



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