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魔力なし少年の転生譚  作者: 炎の人
ゴブリンエンペラー編
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ゴブリンの軍勢

 それはまさに軍勢と呼ぶに相応しい数であった。緑、緑、緑。棍棒や剣、槍などを持ったゴブリン達がずらりと並び整列している。まるで軍のようなそのゴブリンの集団の中央にそれがいるのが分かった。否が応でも目立つその姿はゴブリンの王であると分からせるには充分な覇気を纏っていた。

 伝令に来ていた兵士から渡された双眼鏡を手にして見た光景に唖然とし、こんな大群とどうやって戦うのかと思考が停止してしまった。俺にはどう考えても勝てる気がしないのだ。


「どうやって、戦うんだ? 勝てるのか?」


 つい、呟いてしまってから貴族の息子として相応しくない言動に失態を悟った。だが、伝令の兵士はそんな俺を微笑ましそうに見てから真剣な目で言ってきた。


「大丈夫ですよ、若様。我々辺境伯軍はそこらの魔物では相手になりませんよ。ゴブリンキングも閣下の統率の元に何度も倒してきてますからね。自分は伝令専門の兵なんで前線には出たことがありませんけど」


「そうなのか。だが、こんな所に来れるだけでも凄いよ。死に一番近い場所で命令や状況を伝えるんだから」


 俺は素直に伝令の兵士を賞賛した。記憶が戻る前の俺ならばきっと怖じ気付いて来れなかった事だろう。この現場に来てよく分かった。今の俺では足手まとい所かこの場に立つ資格すらない。きっとここにも新兵がいるのだろうが俺よりももっと戦えるはずだ。心から恐怖の感情が溢れ出している。これが戦場というものなのか。

 自分の愚かさに目を向けながらも目の前の光景に圧倒されていた。そこはまさに生死が漂う戦場であっからだ。


「若様、そろそろ行きましょう。ここにもたまに魔法が飛んできますからね」


「魔法が使えるゴブリンがいるのか?」


「ええ。ここは本当に地獄ですよ。高い給料がなけりゃ、一日で止めなくなりますからね。もっとも我々は閣下が最前線に立つからこそ着いて行っているだけなんですけどね。やはり、それがなかったらこんな所に来たくはありませんよ」


 ゴブリンキングが守られるように中央にいるのに対して父上は我が軍の前に出ていた。鎧を来た父上は剣を抜剣し、振り下ろした。最初に射掛けられた矢がゴブリン共に突き刺さる。ゴブリンキングは予想以上の射程に驚いたのか動揺している。その隙を逃さず、父上は剣を掲げて戦闘を走っていく。ゴブリンの軍勢に辿り着いたかと思うとあっという間にゴブリンの軍勢は縦に避けていった。そこからはもう圧倒的な蹂躙であった。数が減るゴブリンにゴブリンキングが咆哮を上げ、指揮官である父上を狙う。だが、簡単にやられる父上ではなかった。ゴブリンキングが持つ大剣をいなし、傷を付けていく。そうやっているうちにゴブリンキングの動きが鈍り、父上がゴブリンキングの首をその剣で捉えた。ゴブリンキングの首が飛び、父上が声を上げる。それと同時に我が軍からも声が挙がった。それから一時間もしないうちにゴブリンは全滅してしまった。



 父上が砦へと戻ってきてすぐに俺は父上の元へ向かった。血にまみれた姿はまさに戦場の人と呼ぶに相応しい貫禄がある。


「父上、お帰りなさい」


「うむ。どうだった?」


「自分の未熟さがよく分かりました。まだ戦場には出れそうにありませんね」


「そうだ。ここは戦場だ。我々は魔物から日夜この国を守っている。それだけが我々の誇りだ。武張った貴族などと揶揄されるがそれもこれも我らがここを守り抜いているからこそ言えるのだ。いいか、ライナス。お前がどうするかは分からんがこれだけは覚えておけ。この国に我々無くしては存亡はまかりならん、とな」


 それはまさに武の頂点に立つと言われる父上の戦士としての言葉であった。普段ならばそんな傲慢なことは言わない父上も戦場に出て、血が高ぶっているらしい。だが、その言葉も尤もだと俺も思う。これだけの力を有しているのは魔物と戦い続けているからこそ、身に付いているのだから。


「ライナス、今日はここで」


 父上がそう言い掛けて、門から走り抜けてきた兵士が声を荒げて報告する。


「閣下、緊急報告! ゴブリンの軍勢更に左右から合計二千。推測ですがゴブリンエンペラーのいる可能性があります」


「分かった。砦に篭もる。ここを抜かれれば終わりだ」


「分かりました。直ちに篭城の準備をします」


 兵士が走り抜けていく。俺はその言葉に戦慄を抱いていた。二千というのは先程の四倍の数字であるからだ。


「父上、篭城していて良いのですか? あっという間に城が壊されるように思いますが」


「ん? ああ、ライナス一つ忘れているぞ。私も一応魔術師であることをな」


 そう言われて俺は思い出していた。父上がかつてから呼ばれている二つ名があることを。その二つ名は紅蓮の魔法剣士。圧倒的な火の魔法を使い、鍛え上げられた剣を振るう様から付けられたその名前は何ら誇張ではなく、本当のことであることを俺はこの後に見せ付けられる事となった。


「着いてこいライナス。魔力のないお前では魔力を感じれないだろうが見ておくといいだろう」


「分かりました、父上」


 篭城の準備が整い、二千のゴブリンが姿を表した。それは絶望的なまでに数だった。幸い弓を持っているものはいなかったがそれでもこの数は異常だ。その数に言葉も出なかった俺だったが父上は砦の上に詠唱を開始した。


「火の加護を受け賜りし我が魔力を捧げる」


 魔法には詠唱が必要なものといらないものがある。今使っているのは詠唱が必要なものだ。詠唱を必要とするものはその長い詠唱の代わりに絶大な効果を及ぼすと本に書いてあったのを覚えている。


「火よ、燃え盛り、燃え上がり、全てを灰にせよ」


 父上が使う魔法は大概が魔法剣と呼ばれる剣を魔法に包んで戦うものだ。だが、今使っているのは広域殲滅魔法イフリートだ。視界に入る諸々を爆発して吹き飛ばす豪快な魔法が遂に炸裂しようとしていた。


「イフリート」


 詠唱が終わった瞬間に目の前が赤に染まった。耳が痛くなるほどの爆発音と熱気と赤色に目眩がしかけた。それはたった一人が発動するには荷が重すぎる魔法であった。そう気付いてから俺は父上の元へと走り寄っていった。頭から血を流す父上が視界に入る。


「父上!」


「ぐふ、済まない。年々代償が大きくなっていってな」


 口から血を吐きながらそう言う父上の姿に忸怩たる思いに駆られる。俺が力を隠さなければこんな事にはならなかったのだ。もし、精霊を使っていれば何も問題はなかったのだ。俺が前線へ出て、ゴブリンを血祭りに上げられればこんな事にはならなかったはずなのだ。後悔ばかりが募る。そんな俺に父上は声を掛けてくれた。


「そんなに悲しそうにするな。これは私が決めて、望んだ場所だ。後悔はしていない。この国を守れる事は我が家の誉れだ」


「父上……」


「ぐふ、ぐふ。ライナス、後は任せる。少し休む」


 父上はそう言って眠りについた。俺は目の前まで黒こげになった千のゴブリンを見て覚悟を決めた。残りの千のゴブリンを屠るのだ。今の俺ならばできないことはない。先の爆発で植物の精霊が集まってきた。森の修復は植物の精霊の役目だ。その中でも下位の精霊である草の精霊は使い物になる。ゴブリンを足止めするにはちょうどいい。自らの力を解禁することを決めた俺は父上を戦従医師に任せ、兵士達の元へと歩き始めた。

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