重なる想い
人知れず、アンデッドのダンジョンを攻略した次の日、俺は野菜を取りに精霊の聖域へと向かった。既に大量の野菜ができあがってきたので持ってきた箱へと詰めていく。かなりの量があるが異能があれば問題はない。野菜を詰め込んだ後は俺は土の精霊の元を訪れた。
「どうだ? できたか?」
(このようになりました)
ラピスが作ったネックレスは銀の細工であしらわれたラピスラズリが栄える装飾となっていた。何故かオリハルコンで作られた鎖が鈍い赤色を放っている。
「なんでまたオリハルコンなんだよ」
(偶々です。ここの地下には鉱石資源が多数ありますので)
「なるほどな。腐るほどあるから存分に使った訳か。まぁいい。これならきっと満足してくれるはずだ」
震える手でネックレスをポケットへとしまった俺はラピスにお礼を言ってから絨毯に乗って飛んだ。
王都へとたどり着くとセバスに野菜を任せてから王城へと向かう。道すがらどうのようにして声を掛けようかと迷う。もし嫌われていたら、もし無視されてしまったら、ネガティブな思考がとめどなく溢れ出して止まらなくなったので考えるのを止める。
王城の廊下には赤いカーペットが敷かれており、転々と装飾品が置かれている。今まで気付かなかったがかなりの額になる装飾品ばかりであった。そんな廊下を通り抜けて二階へと上がり、ルルリール様の部屋とむかう。ちょうどルルリール様の部屋へと辿り着いた所へ先客がいるのが見えた。この間のメイク家の嫡子だ。奴はこちらを認めると鋭い眼差しでこちらを見てきた。
「なんのようだい。ここは姫様の私室だ。君如きが来ていい場所ではない。帰りたまえ」
「おまえに言われる筋合いはない。その部屋に入れていないのが何よりの証拠だ。お前は迷惑と思われているんだからお前が帰ればいい」
「なんだと!? 貴様、私がメイク家の嫡子だと分かっての言葉だろうな」
「その言葉、そっくりそのまま返そう。メナード辺境伯の嫡子である私と知っての言葉か? 決闘ならいつでも受けてやる。その時、死ぬのはおまえだがな」
俺の言葉に顔を青くするメイク家の嫡子は慌ててこの場を去っていった。根性なしのヘタレ野郎に用はない。さっさと声を掛けようとしたところで光の精霊が声を掛けてきた。
(ここにはいないみたいだね)
「はぁ? 部屋にいないならどこにいるんだよ」
そこまで言ってから庭にいるかもしれないと思い立ったのでその場を後にして庭へと向かってみることにした。
庭へと来てみるとそこにはルルリール様の姿があった。光の精霊はそっと離れていくのが見えたがそれを無視して俺は歩いていく。俺の気配に気付いたのかルルリール様は顔を上げて俺を見ると驚いた顔をしてからにこりと笑った。唐突に笑みを浮かべられたので慌てそうになったがどうにか抑えて声を掛けた。
「ルルリール様、こちらにいましたか」
「……てっきりもう来ないものと思ってました」
そうやって呟いたルルリール様は隣に座るように促してきたので俺は隣へと座った。俺もそのつもりであったが有耶無耶にしたままにはしておけない。何よりこの機会を逃せば二度と俺の欲しいものは手に入らなくなる気がしたから。
「俺は、今日、答えを見つけてここに来ました」
「答え、ですか。あなたにも悩むことがあるのですね。私もたくさん悩みました。あなたのせいですよ、ライナス」
「申し訳ありません。私にはまだ経験が足りませんでしたから」
「それで許されるならもうとっくに許しています。どんな答えか聞かせてください」
ルルリール様はそう言って俺を見つめてきた。その水色の瞳が俺を捉えて離さない。俺だけがその瞳に映っていると思うと心臓の音が三割にも増して聞こえてくる気がした。
深呼吸をして息を整えた俺はその胸のうちをぶちまけた。いや、その先にある欲望を口に出してしまった。若気の至りという奴だ。
「俺はあなたが欲しい。だから、俺の物になってくれ」
「え?」
ルルリール様は驚いた顔をして固まっている。俺も言葉を口にしてから気付いたが少し素直に言い過ぎた気がした。本当は好きだとかそういう言葉を口にするつもりだったのだが思ったより想いは深かったようだ。
飽きられるかと思っていた俺だがルルリール様は突然笑い始めた。そんなにおかしな言葉だっただろうかと考えてみたがやはりおかしいという結論に達した。俺は馬鹿であった。
「ライナス、些か乱暴ではありませんか?」
「そうかもしれません。しかし、俺には他に言葉は見つかりませんでしたし、思えば何も遠慮する必要はなかったなぁと思っただけです」
「あなたには相手を想う気持ちが欠けています」
「そんなものがあったなら是非とも欲しいですね。あなたをもっと大切にできる」
「手に入れようとは思わないのですか?」
「必要ありません。俺があなたが好きで、そして手に入れたいと思った。ただそれを伝えただけですから。後はあなた次第ですよ」
俺の率直な言葉にルルリール様はまた笑う。驚いた顔も、笑った顔も全てが俺を魅了していく。一度好きになったらもう止まらない。泥沼のように想いが深くなっていく。いつからだろうか、いやきっと初めからだ。人の考えなど宛にならない。何故なら自分の思いすら気付くことなく、生きていけるのだから。
目の前にいるルルリール様は少し顔を赤くしてからこう言った。
「少し強引ですが合格です。あなたのものになってあげます。惚れた弱みですね」
そう言ってルルリール様はそっと唇を重ねてきた。想いが深まる度にその姿を見たいと思ったがこんな事一つでいっぱいいっぱいになってしまう自分が恨めしい。夢のようなひとときは一瞬で終わる。キスが終わった後、茹で蛸のように赤い顔をしたルルリール様は小さく呟いた。
「責任は取ってくださいね。私の初めてを奪ったのですから」
「分かってますよ。俺が、あなたを守る。そうだ、これを受け取ってください」
ポケットから取り出したネックレスをルルリール様へと付ける。ムードもへったくれもない唐突なプレゼントであったがルルリールは笑って受け入れてくれた。群青色に染まる宝石がルルリール様の胸元で光る。ルルリール様は嬉しそうにはにかみ、俺に笑みを見せてくれた。
「綺麗ですね」
「たまたま手に入ったものです。あなたには酷いことも言いましたがせめてもの償いです。まだ何もかもが足りないかもしれませんが着いてきてくださいますか? 俺をずっと好きでいて欲しい」
俺の言葉にルルリールはこう答えてくれた。
「あなたが望むなら。いいえ、あなたが望まなくとも私はあなたについて行きます。これもまた惚れた弱みですからね」
そう言って笑ったルルリール様はとても可憐で、今まで一番美しく見えた。
これにて終了です。中途半端に終わってしまいもうしわけありません。どうもうまく書けない癖は直らないようでしてこんな形で終わらせてもらいます。
意見などありましたらいただけると有り難いです。




