ラピスラズリとスケルトンキング
六階層へと行く目処がたった俺はとりあえずの休憩に入ることにした。大量の骨屑をどけてから俺は地面へと座り込んだ。
「あ~疲れた」
(我が王よ、お疲れさまです)
「うん。まぁしばらく休憩だな」
ダンジョン内ってのはもう少し危ないものだと思っていたのだが魔物を駆逐すればそうでもないみたいだ。光の精霊が頭に乗っかる感覚を覚えて見上げてみるとぼんやりと輝いた姿がそこにはあった。
「どうしたんだ? 若干光が弱いけど」
(まぁ光が届かない所にいると力が弱まるんだよ)
「そうなのか。まぁもう次の階段で終わりそうだから大丈夫だろ」
(まぁねぇ。スケルトンばっかりだったからきっとスケルトンキングが奥にいるね。ジェムスケルトンがいるといいね)
「ジェムスケルトン?」
(宝石を落とすスケルトンのことをそう呼ぶらしいよ)
「へぇ。それってあんな感じの魔物か?」
(そうそう。あれ、いたんだ。君って運がいいのか悪いのか分からないね)
「俺でもそう思うけど、言うな。とりあえず倒せばいいんだろ?」
持っていた剣を投げつけてみれば足が粉砕した。ジェムスケルトンもスケルトンと変わらず耐久力が少ないらしい。立ち上がって近くまで来てみると額に宝石のような物があった。今度こそ体を粉砕させると宝石がぽろりと額から落ちた。それを拾いあげると俺はその宝石を翳し見た。
「これはなんの宝石だ?」
(ラピスラズリだね。人間は瑠璃色って呼んでる色の宝石だよ。ルルリールにぴったりの宝石だね)
「そうか? まぁあの蒼い髪にはあうけどさ」
宝玉のように蒼い石が輝いて見えたのはきっと俺の中にある考えが浮かんだからだろう。あまり積極的に動くつもりはなかったのだがこれも天の采配という奴だろう。
「これって加工できるか?」
(もちろん、土の精霊ならできるよ)
「そうか。なら、いい」
綺麗なラピスラズリをポケットへとしまった俺はその場で寝転がった。俺の考えではこの宝石をネックレスにしようと思っている。ルルリール様の胸元に輝く宝石を思い浮かべればとてもよく似合うと想像できる。
ご機嫌取りではないがこれでこの前のことを無かったことにしてもらおう。そうして少しだけ踏み出して確認してみよう。俺が精霊の王になるのは間違いないのだ。もはや、逃れられぬ運命であるし、定まった未来だ。彼女が共に歩んでもいいと言うならその時は。
「俺が望んでるってことなんだよな」
深く考えれば考える程に悩みが深くなる。そして、何度も思い出してしまう。ある意味泥沼にはまってしまったのだ。あの綺麗な瞳が今も鮮明に思い出せる。水色の瞳は俺の姿をしっかりと映し出していた。蒼い髪は風に靡き、華奢な体は綺麗な衣装に包まれてより一層栄えて見える。一言で言えば、一目惚れするのは当たり前、ということだ。
「運命ってそういうことなのか?」
(ふふ、ようやく自覚したかい?)
光の精霊の言葉に俺は己の思いを自覚する。それは近くにいれば当たり前のことであり、出会った時から決まっていた事だったのだ。時空の精霊には未来が見えていたのだろうか。俺がこうなる未来が。
「ちぇ、やられたやられた。お前らおぼえとけよ」
俺はそんな言葉を吐いてより深く思考することにした。少しくらいは格好付けてみたいという男の見栄を満たさせるために。
しばらく休んだあと、俺はスケルトンキングのいる七階層へと降りるのであった。
スケルトンキングとの戦いは苛烈を極めた。有り体に言えば、互角であった。どちらが勝ってもおかしくなく、どちらが死んでもおかしくなかった。それくらいに同じ力量であった。まるで己の影を相手しているような感覚だ。
「はぁ!」
ぎん、となる剣と剣の音がダンジョンに響く。スケルトンキングの片手剣と俺の持つラルが作った剣が拮抗し、鍔迫り合いになる。同じ力量、同じ力、同じ体格。嫌になるほどに同じなスケルトンキングに俺はうんざりしていた。
(なぁこれって本当にスケルトンキングなのか?)
(一応そうだよ。君と同じ力なのはたまたまさ)
光の精霊にそう言われてみたもののやはり納得がいかなかった。何度も剣をかち合い、そのたびに火花が散る。これをかれこれ三十分は繰り返しているのだ。うんざりしたくもなる。
剣で無理なら槍でも、と言いたくなるが骨であるスケルトンキングにそれが通用するならとっくにやっている。スケルトンはとにかく体を壊すしか倒す方法がないので仕方がないのだ。槍で正確に骨だけを狙って砕け、なんてのは俺でも無理だ。スケルトンキングが俺と同じ力量なら尚更だ。
「ぐっ、そういや俺は人間だったな」
俺は人間なので疲れる。対して相手はアンデッド。既に死んでいるので疲労も、精神の消耗もない。流石の俺もこのままではまずいので剣の数を増やすことにした。
「ラル、数を増やして一緒に攻撃してくれ」
(承知)
剣が生成され、ラルも攻撃に加わる。これで実質二体一の状況へと持ち込めた。俺の攻撃を裁きながらラルの攻撃を受ける技術はスケルトンキングにはない。これで俺の勝ちが確定したようなものだ。
「ほらほらほらほらぁ!」
剣劇を重さを重視するようにしてスケルトンキングへと負荷をかけていく。ラルの攻撃により少しずつ骨が削れていくスケルトンキングは尚も俺へと攻撃するために動き回る。だが、ラルが攻撃に入った時点でもう手遅れだ。ラルは剣の精霊、俺よりも剣の扱いはうまいのだ。俺の攻撃の合間を縫うようにラルが攻撃を仕掛け、スケルトンキングを追い詰めていく。
骨が崩れていくうちに徐々に動きが悪くなっていくスケルトンキングに俺の攻撃も当たり始めた頃にはもうスケルトンキングは動けなくなっていた。俺とラルの攻撃が同時にヒットし、スケルトンキングはただの骨へと成り下がった。感動が薄い勝利であった。
「はぁ勝てた勝てた。これで終わりか?」
(後はダンジョンコアを潰すだけだよ)
「ほう。あれのことか。デカいな」
俺がその場所までいくとそれなりにデカいダンジョンコアがあった。紫色のそれは俺を拒絶するかのように濃密な魔力を放っている。それを剣を振り下ろして真っ二つにした。膨大な量の魔力が弾け飛び、次の瞬間には俺は外にいた。
「これは……」
(ダンジョンコアを破壊すると転移するようにできているんだ。何故かは知らないけどね)
「そっか。もう夕方か。土の精霊と契約したら帰るか」
不思議現象とはこのことだろう。
ダンジョンの近くに広げてあった絨毯を浮かせて俺は精霊の聖域へと向かった。




