王都での商売とアンデッドの出現
時空の精霊クロノスとルルリール様が契約してから一ヶ月が経った。あれ以来俺はルルリール様と顔を合わせていない。気まずいのもあるが拒絶したような物言いをしてしまったのであわせる顔がないと思っている。そんなことを気にする人ではないとは分かってるがどうしても気後れしてしまう。
そうやって気持ちを引きずりながら、何となくだらだらと過ごしているうちに巣穴を塞ぐ作業も進み、後は現場レベルで行えるようになった段階に入ったので父上が領地へと帰る事になった。
「ライナス、本当に残るのか?」
「はい。半年ほど滞在してから帰ります」
「……お前がそう言うならそれでいい。だが、無理はするなよ。お前はまだ子供なのだからな」
「分かっております。セバスもいますから大丈夫ですよ」
父上は最後まで心配そうな顔をして領地へと帰っていった。俺がそんなに魔物と戦うような交戦好きに見えるのかと問いたくなったが親心故の心配だと思うと無碍にもできない。この半年はおとなしくできればいいのだがそうなるかは神のぞ知る、という奴だ。
屋敷へと戻った俺は早速商会を立ち上げるためにセバスに具体的な手続きを頼んでおいた。俺を商会主とした商会を建て、野菜を販売する予定なのだ。植物の精霊のウルに掛かれば野菜の促成栽培など軽々にできる。精霊の魔力で作る野菜はとても美味しいのでとても高く売れると見ている。実際に食べてみたが野菜だけで1日過ごせるくらいには美味しかったのだ。ウルには悪いがしばらくはお金儲けのために働いてもらうことにする。ある程度売れれば店を畳んでまた別の商品を出す予定だ。最も俺の気まぐれで動く商会なので何を売るかはまだ決まっていないのだが。
「ウル、調子はどうだ?」
(王よ、順調ですぞ。ただあまりこの方法で栽培するのはお勧めしませんな。土がすぐに枯れてしまう)
「そうだよな。魔力だけで育つ種子は生成できないのか?」
(今の私では無理ですな。精霊の王であるあなたであればあるいは可能かと)
「要するに現時点ではほぼ不可能と言う訳か。他に方法はないのか?」
(精霊の聖域ならば問題ないかと。あそこには仲間もおりますし、土の栄養を作れる土の精霊もおりますからな)
「ひとまずこれを売ってから聖域に向かうとするか。そうだ、光の精霊、俺が契約できそうな精霊っているか?」
話を切り替えて光の精霊に聞いてみる。契約できる精霊が多ければ、多いほどに俺も強くなれるのだから積極的にならざるを得ない。今後も俺が必ず有利である保証はない。俺一人でも大群を相手にできるように精霊の助力を得たいところだ。
(土の精霊は大丈夫そうだね。君がここに長いこといたから満足してるみたいだよ)
「そんな事で満足するのか? ただいただけだぞ?」
(王がいるだけで精霊が集まってくるからね。自然と精霊の魔力が集まって聖域になるんだよ)
「ラルの仲間もいるのか?」
(我が王よ、当然です。彼らも呼べば王の元へ馳せ参じることでしょう)
(剣の精霊は基本的に絶対服従だからね。契約しなくてもある程度は使えるよ。ほかの精霊には無理だけどね)
「なるほどな。とりあえず土の精霊と契約するか。向こうの聖域に着いたら呼んできてくれ」
(分かったよ。精霊使いが荒いよ全く)
愚痴る光の精霊をよそに俺は野菜の収穫を始めた。途中で使用人に見つかり、自分らでやっておくと言われたので渋々屋敷へと戻る羽目になったのはまた別の話だ。
野菜を収穫した後、早速売りに出した。美味さが半端ないのでとりあえず銀貨五枚と値段を付けて見たのだが全然売れる気配がなかった。平民には高すぎるし、貴族にも宣伝してなかったので当然だと途中で気付いた。その日は売れることなく、終わった。平民の月収が銀貨五十枚、五万コル。一日二百から三百が野菜の相場だ。食料生産率だけは高いのでそれよりも安い場合が多い。そうなると平民が買わないのも納得のいく話だ。
そして次の日、数量限定販売の看板と試食会を開いてみた。味を知ればこの価格にも納得するはずと思ってやってみたのだが瞬く間に口コミが広がり、客が殺到してきた。予想外の事にテンパりながらもどうにか在庫を全て裁ききった俺は店仕舞いをする羽目になってしまった。千個のきゅうりと六百個のトマト、合計千六百個の野菜を売り終えた俺は今日だけで銀貨八千枚の儲けを叩き出した。金貨に直すと八十枚になるが相当な金額を稼いでしまった。俺の金貨十枚の貯金など余裕で越えてしまったので唖然としている。
家に帰り、セバスに報告するとその金額に驚いて固まってしまった。
「それは、本当ですか?」
「ああ。貴族が大半だった気がするけどな。とりあえず五千個ずつ売ってから一旦店を閉めようと思ってる。俺がいつまでもここにいる訳じゃないし、俺にしか作れないからな」
「分かりました。お坊ちゃま、次からは人を雇いますので栽培に専念しては如何ですか?」
「そうだな。セバス、半額引いて後は商会で使ってくれ。野菜を全て売ったら店を閉めるから半額前払いで雇ってもいいぞ。それなら人材が集まるだろ」
「よろしいので? そこまでせずとも説明すれば充分な人材を雇えますが」
「いいんだ。いい人材がいたらこの屋敷で雇う。俺の力を使わずとも儲かる商売はあるからな。それを任せようと思うからいい奴を選んでくれ。できれば、この仕事の後も予定が無い奴がいい」
「かしこまりました。では、そのように手配します」
セバスが下がると同時に俺は自分の部屋と戻る。父上が王都に持っている別邸に俺は今住んでいる。いつまでも王城に厄介になる訳にはいかないと父上が買い上げたのを使わせてもらっているのだ。その日は疲れたのでヘッドに入ると共に眠りに落ちたのだった。
翌日、朝早くに起きた俺はセバスに家を出ることを伝えた後、絨毯を使って空を飛んだ。聖域に行くついでに土の精霊と契約しようと思ったからだ。土の精霊との契約で俺の望む力が手に入れば、更なる商売の種に繋がるので是非とも新しい権能に目覚めてほしいものだ。
風の精霊に頼んで風を排除し、異能で空を飛びながら下を見ていると突如大量の骨が見えた。見間違いかと思い、下に降りて確かめてみると間違いではなく、スケルトンという種類の魔物であることが判明した。百体以上いるものの太陽の下にいるからか、反応が薄いので剣の精霊に剣を生成させ、自分で斬り倒すと呆気なく骨の塊になって死んでしまった。量が量だけに剣の精霊にも手伝ってもらうことになったが難なく倒すことができた。
「何だってスケルトンが昼間に出てくるんだよ」
(さぁねぇ~と言いたいけど、おそらくダンジョンがあるね)
「ダンジョン? そんなのがあるのか?」
(うん。それが大森林ができた原因だからね。ダンジョンのボスだったエンシェント・イビルトレントってのが暴走した結果がこれだからね。)
「マジかよ。倒したら元に戻るのか?」
(多分ね。まぁ人の生きていけない人外魔境に入って生きてられるならできるよ)
「そんなことだろうと思ったよ。とにかく、そのダンジョンからスケルトンが湧いてるんだな?」
(そうだよ。稀にできることがあるんだけど、放置すると割と危ないんだよね。だから、格の高い精霊が定期的に見回りしてダンジョンを潰しているんだ)
大森林の原因と精霊の意外な事実に俺は頭を抱えたくなったが考えても仕方ないとアンデッドがいるダンジョンへと向かうことにした。